CONFLICTED(コンフリクテッド) 衝突を成果に変える方法(イアン・レズリー)の書評

people seated on table in room

CONFLICTED(コンフリクテッド) 衝突を成果に変える方法
イアン・レズリー
光文社

本書の要約

対立は悪いものではありません。意見が異なる人とのコミュニケーションを避けることは良くないことなのです。衝突や対立に対するマインドセットを変え、自分を成長させるトリガーにしましょう。著者が明らかにした10の原理を活用することによって、「衝突/対立」状態を解消し、そこから大きく前進できるようになります。

私たちが「衝突/対立」を避けてはいけない理由

誤解のないように言えば、建設的に意見を戦わせることは至難の業である。人間の進化の過程で身につくものではないし、普段から訓練を受けているわけでもない。実際、そういうことはとても苦手という人がほとんどだろう。だが、現状は変えていかなければならない。さもなければ、ますます激しくなる意見の対立は、光の見えない熱を生み出すか、あるいはそもそも議論を拒否してしまい何も生まれなくなってしまうかのどちらかだ。何よりも悪いのは、険悪な議論を交わすことではない。議論自体がまったく交わされないことなのだ。(イアン・レズリー)

人生や社会において不可避な「衝突/対立」が起こることは多々あります。ノンフィクション作家のイアン・レズリーは、その解決策を見つけるために、歴史や哲学を紐解き、本格的な調査を行い、本書にその対処法をまとめました。

人間が純粋に合理的な生き物なら、反対意見にしっかりと耳を傾け、じっくりと考えたうえで回答を述べるはずです。しかし、実際には、人は意見の対立が起こると脳内に化学信号が氾濫し、目の前の問題に集中できなくなります。信号は意見の対立が自分への攻撃だと警告し、自分を守ることに意識が向かい、相手の意見に心を開けなくなってしまうのです。このような意見の対立への嫌悪感は、進化の歴史のなかで培われたものです。

人は意見が対立した時に、身の危険を感じたときに活性化するのと同じ領域が反応することがわりました。対立が比較的穏やかなものであっても、対話相手はこちらに危害を加える危険人物だと認識してしまうのです。

私たちは異なる意見の人に出会うとカッとなり、相手を非難するか、あるいは対立を避け、言いたいことを伝えるのをやめてしまいます。

自由に意見を言えるネット空間では、お互いを罵倒することが当たり前になり、人々の対立を煽っています。自分の好きな意見の人とのコミュニケーションが行われるようになり、他の視点からものを考えられなくなっています。エコーチェンバー現象によって、自分に近い考えの人たちの投稿を見ることが当たり前になり、自分の世界を狭めているのです。

対立は悪いものではありません。意見が異なる人とのコミュニケーションを避けることは良くないことなのです。衝突や対立に対するマインドセットを変え、自分を成長させるトリガーにしましょう。

2007年にマイアミのティーンエイジャーを対象に行った調査によると、家庭内での衝突が多い子どもほど学校の成績が良いことが明らかになっています。家族関係が温かく協力的な家庭では、衝突が良い結果を生み出しています。健全な意見の対立は、子供だけでなく人を成長させてくれるのです。

「戦うか、逃げるか」という考え方に慣れた私たちは、上手に対立できずにいます。ベンチャー企業などはその成長のステップで対立を避けることを選びますが、それが敗因の原因になります。

組織ではそれぞれが緊張感を持つべきであり、従業員は自分の優先事項を黙々と追求するのではなく、グループ内の緊張についてオープンに話し合うべきである。意見の対立を暗に禁じる文化のもとでは、組織はつまらない社内抗争や判断ミス、権力の乱用に陥りやすくなる。会議の席で何か、あるいはだれかが間違っていると思ったら、参加者は発言していいかどうかを気にするだけでなく、自分が声を上げなくてはと思わなければならない。

対立を避けることによって人は、不快にならないという利益を得られますが、成長という長期的な利益を失います。

生産的な議論を行うための10の原則

私たちは、敵意のない対立を表す適切な言葉を持ち合わせていない。人々を新しい発見や賢明な判断、斬新なアイデアに導いてくれる言葉が存在しないのだ。「ディベート(debate)」は勝ち負けをともなう競争を意味する。「論争(argument)」ではとげとげしさを帯びてしまうし、「対話(dialogue)」では穏やかすぎる。「弁証(dialectic)」はあまりに抽象的だ。この言語的な空白は、私たちが建設的な対立を実践していないことを示している。

無意味な対立は意味がありませんが、自分や企業を成長させる健全な対立を避けるのはやめましょう。対立ではなく、優雅に議論することを選択するのです。ストレスや不快さではなく、刺激や楽しさが感じられるような議論を楽しむのです。

夫婦も組織も健全な衝突によって、関係をよくできるのです。オークランド大学の心理学の教授のニコラ・オーバーオールの研究によるとオープンに議論をした夫婦の結婚生活の満足度が高いことがわかりました。彼らは衝突することで、相手の考えを知り、幸福度を高めていたのです。

あえて衝突をもたらすことを考えるのも有りかもしれません。白熱した議論の際に、人は相手の本心や心からの望みを聞けることがあります。相手の本当の姿を知理たければ、衝突することから逃げない方がよいのです。

衝突した人の反応を見ることで、その人が協力的か、信頼できるか、何を大切にしているかなどがよくわかります。(ニコラ・オーバーオール)

相手の言葉だけでなく、声の高さ、表情、仕草などを意識し、相手のメッセージをできるだけ正確に理解するようにします。

家庭だけでなく、職場での衝突もプラスに作用することが明らかになっています。縄張り争いが起こる前に、衝突の原因を洗い出し、先手先手で解決策を考えることで、サウスウエスト航空は良いチームを作り、顧客体験をアップしています。結果、46年連続で黒字を達成しています。

衝突は状況次第で私たちをひとつにしてくれます。タスクの衝突と人間関係の衝突を区別し、ビジネスを改善する努力を重ねましょう。物事を別の視点から検討し、自分が達成しようとしているものを熟考することで、新たなアイデアが生まれます。タスクの衝突は私たちをより賢く、創造性豊かにしてくれます。

疑問をぶつけることで、新たな理論、情報、知見が洗い出される。みなの頭のなかに閉じ込められたままだったものが、外の世界へ解放される。近年では、多様なチームの構築は当然と考えられているが、それは社会的平等のためだけではない。さまざまな意見を持った人が集まることで、より独創的で洞察力に富んだ議論を交わせるようになるのである。だがそうした独創性や洞察力は、チームの人々が公然と反論を述べることができて初めて実現する。意見の対立が、多様性の利点を引き出すのだ。

私たちは他者と意見を戦わせることによって洞察やアイデアを得ているのです。適切な判断をしたければ、一人で考えるのではなく、多様性の中で議論を重ねた方がよいのです。

争いのないロックバンドは創造性が枯渇し、解散を早めるといいます。昨年亡くなったチャーリー・ワッツはミック・ジャガーを殴ることがあったといいますが、対立や衝突があるからこそ、良い音楽を彼らは提供できたのです。初期のビートルズは衝突を回避するために、ジョンがポールをからかっていることが、過去のライブ音源から明らかになっています。

メンバーそれぞれが意見を持ち寄り、自分の主張を明確にし議論することで、意見の対立から新たなアイデアが生まれます。対立するグループが積極的に議論することで、質が高まり、組織に良い結果をもたらしてくれます。信頼が深いほど、またそのプロジェクトが参加するメンバーにとって重要であればあるほど、質の高い意見交換を行えます。

著者は「生産的な議論を行うための10の原則」を明らかにしています。
①つながりを築く
②感情の綱引きから手を離す
③相手の”顔”を立てる
④自分の”変わっている”ところに気づく
⑤好奇心を持つ
⑥間違いを利用する
⑦台本なんていらない
⑧制約を共有する
⑨怒るときはわざと
⑩本音で語る

信頼を築き、相手の文化を理解し、対立相手が満足するように議論を進めましょう。自分が間違えた場合には、すぐに丁寧な謝罪を行うべきです。相手が予測できない意外な意見を述べることで、よいアイデアが生まれることがあります。誠実な人間関係によって、相手の話を傾聴し、好奇心を持つことがとても大切なことなのです。ホモサピエンスは集団で考えることで生き残ってきたのだという著者のメッセージが響きました。引用されたエピソードからも多くの学びが得られる良書です。



 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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