なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか(ポール・レインワンド, チェザレ・メイナルディ)の書評

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なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか
ポール・レインワンド, チェザレ・メイナルディ
ダイヤモンド社

本書の要約

企業を成長させるためには、自社の特徴あるケイパビリティに一貫性を持たせ、戦略策定と実行をダイナミックに結び付けることが求められます。強い企業は少数のケイパビリティを経営の中心に置き、それらを融合させ、コヒーレンス(一貫性)の状態を作り出し、メンバー全員で企業を成長させています。

企業の成長に欠かせないコヒーレンス(一貫性)とは何か?

戦略と実行を結び付けるもの、それがケイパビリティである。企業が真に自社を差別化でき、実務が執り行われる領域にあるのがケイパビリティである。しかし優れたケイパビリティを持つだけでは不十分である。すべての企業は優れたケイパビリティを持っており、そうでなければ競争に参加できない。本当の勝ち組企業は、自社を差別化する少数のケイパビリティを経営の中心に置き、それらを巧みに融合させている。これを実現した企業のことを、我々はコヒーレンス(一貫性)を有する企業と呼ぶ。(ポール・レインワンド, チェザレ・メイナルディ)

戦略を策定しても、それを実行に移せず悩んでいる経営者が多いことがわかっています。競合との差別化にはケイパビリティが欠かせませんが、それだけでは不十分だと著者たちは指摘します。

強い企業は少数のケイパビリティを経営の中心に置き、それらを融合させていると言います。アップルやイケア、スターバックスなどは、コヒーレンスを有する企業の代表格で、ケイパビリティに一貫性を持たせています。

以下の3つの戦略要素がうまく整合した状態がコヒーレンスだと著者たちは定義します。
・その企業と他社との違いを際立たせるバリュープロポジション
・特徴あるケイパビリティが相互に強め合い、企業が価値提供を実行できるようにする体系
・こうしたケイパビリティを活かすように選択された商品・サービスのポートフォリオ

これらの要素は企業の独自性、業務運営、組織文化、経営資源の管理手法、自社の果たす役割を規定するものであり、戦略と実行のギャップを埋める能力を形成します。

自社の商品・サービスはすべて自社固有の特徴あるケイパビリティに支えられていて、同じ価値提供を実現する。つまり、もともと戦略に実行可能性が備わっているのだ。その企業の成長はすでに獲得済みのケイパビリティに支えられ、獲得方法が分かっているケイパビリティによってさらに強化される。戦略(What どの事業を追求するか)と実行(How どう追求し維持するか)の密接な結び付きが、社内で行われる意思決定のあらゆる部分に浸透している。

コヒーレンスがあることによって、組織がベクトルを合わせて、力を発揮できるようになります。一方、コヒーレンスが欠けていると、企業の成長力が奪われます。コヒーレンスがない企業では、一つ一つの商品やサービスを成功に導くために、それぞれ異なるケイパビリティが必要になります。一貫性がないために効率が悪くなり、強みのアピールも分散し、差別化ができなくなります。

企業を成長させるためには、自社の特徴あるケイパビリティに一貫性を持たせ、戦略策定と実行をダイナミックに結び付けることが求められます。

コヒーレンスのある企業の5つの行動様式

コヒーレンスのある企業には、以下の5つの行動様式があり、それを融合させていると言います。
①自社の独自性を貫く(成長へのフォーカス)
自社の独自性を貫く。得意な分野を明確化し、差別化により成長を達成する。

②戦略を日常業務に落とし込む(機能面でのエクセレンスの追求)
複数の機能にまたがってケイパビリティを連携させ、戦略的意図を実現させる。

③自社の組織文化を活用する(組織再編の変革による推進)
組織文化の強みを強調し、活用する。

④成長力を捻出する為にコストを削減する(リーン化)
重要性の低い分野は「間引き」して、重要分野への投資資金を増やす。

⑤将来像自ら作り出す(機敏さと危機対応能力の強化)
自社のケイパビリティを再定義し、需要を創出し、自社に有利な形で業界構造を再編する。

自社がどのような会社かという選択を行うことで、企業はコヒーレンスを獲得できる。コヒーレンスを有する企業は自社を際立たせるような価値提供を定義して発展させ、どの企業よりも効果的に戦うために必要な少数のケイパビリティを特定する。そして、常にこの特徴的なケイパビリティに沿った形で商品・サービスのボートフォリオを構築・拡張していく。

コヒーレンスのある企業は、アイデンティティとケイパビリティが強みになると確信できる競争市場にしか参加しません。

アップルは、自社製のコンピューター、モバイル端末、小売店舗、オンラインサービス、ウエアラブル端末(アップルウォッチ)に対して、優れたデザイン、消費者への洞察、技術統合化というケイパビリティを適用しています。同社のアイデンティティは提供するすべての商品・サービスに共通し、競合への優位性を発揮しています。

イケア、スターバックス、レゴ、ザラはすべて、個別の商品ではなく企業全体で作り出す強力なアイデンティティやユニークな経営方法で知られています。その企業ならではの価値創出の方法を実践することにおいて全社が一致していれば、簡単に軸がぶれることはありません。

コヒーレンスが強くなってきたら、それにフィットしない商品・サービスや事業全体を処分して、自社の特徴あるケイパビリティを最も適用できる市場や事業だけに手を広げていきます。

強力なコヒーレンスを有する企業は、文化を最大の資産だと考える。文化の中身は企業ごとにかなり異なるにせよ、その企業の際立った強みをさらに強めているという点は共通だ。こうした企業では、従業員が情緒面でも仕事に献身し、互いに結果に対する最終責任があると感じ、集団としての熟練度を高めている。これを他社が模倣することは難しい。

経営者は企業文化の価値をよく理解し、戦略と実行を一体化させる方策の強化手段として活用します。自社らしい企業文化があると、社内の組織の壁を越えることができ、チーム一丸になり、目標の達成を目指します。従業員たちがいっそう顧客に貢献し、能力を伸ばし、仕事に打ち込むようになります。

ケイパビリティと文化の相互作用が、その企業の特徴となり、顧客やパートナーから支持される理由になります。彼らは顧客の最も根源的なニーズや要望に応え、最終的には業界をリードする存在になることを自ら目指します。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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