「バカな」と「なるほど」
吉原英樹
PHP研究所
本書の要約
成功企業の経営は外部の者には「バカな」とみえても、じつはよく考えぬかれており、「なるほど」と納得できる合理性があります。新しい戦略を打ち出したとき、他社からバカよばわりされたり、軽蔑されたら、成功に近づいていると考えましょう。
バカげた戦略が企業に成功をもたらす理由
クリステンセンの破壊的技術の概念が日本でも大きなインパクトをあたえたが、そのエッセンスは、じつは「バカな」と「なるほど」である。 (吉原英樹)
世の中で成功した企業の多くは当初、他者からバカにされる傾向があります。著者の吉原英樹氏は「バカな経営」をすることが成功の秘訣だと言います。
クレイトン・クリステンセン教授は「イノベーションのジレンマ」 の中で破壊的イノベーションというモデルを提唱しました。技術革新や斬新なアイデアが既存の事業の安定した状況を打破することで、新たな価値が創造されます。
著者の吉原氏が成功している企業について研究した結果、戦略、組織、人事、マネジメント、マーケティングなどで「そんなバカな」と思わずいいたくなる非常識なアイデアが採用されていました。しかし、そのバカげたアイデアにはしっかりとした理屈があり、「なるほど」と納得できるロジックがあるのです。
著者はそこから、「バカな」と「なるほど」の2つの特徴を同時にもつことが、経営で成功するための秘訣だと考えるようになったのです。
成功企業の経営は外部の者には「バカな」とみえても、じつはよく考えぬかれており、「なるほど」と納得できる合理性を有している。
ありふれたアイデアが成功要因だとすると競合他社はあっという間にに真似します。新規参入が増えることで、競争が激しくなり、創業者利潤がなくなってしまいます。
これにたいして「バカな」戦略の場合、模倣が遅れます。競争会社は「バカな」「あんなことをしたらおしまいだ」などと思っているから、なかなか行動を起こせません。
その間、「バカな」戦略の企業は、足元をしっかりと固め、創業者利潤を享受できるのです。その後、バカな戦略の正しさが明らかになることで、ようやく他社のマネが始まります。しかし、最初にバカげた戦略を掲げた企業は大きく他社をリードし、圧倒的な優位性を獲得しています。後発で参入した競合には勝ち目がなく、その段階で勝負がついているのです。
新しい戦略を打ち出したとき、他社からバカよばわりされたり、軽蔑されたら、成功に近づいていると考えましょう。
チャレンジする文化が企業を成長させる!
経営者の一番重要な役割は、企業を長期にわたって維持し発展させることである。この役割を演じるためには、時代の流れを見通し、流れの変化をはやく察知し、時代の流れに合わせて経営を変えていかなければならない。経営者には、時代の流れを見通す先見力が要求される。
経営者にとって、先見力を強めることが重要な課題になります。先見力を強める一つの方法は、べき論ではなく、予測論に立って世の中の変化、時代の流れを読む努力をすることです。
自分に都合のよい情報にとらわれることで、既存の延長線上の考えを採用しがちです。自社のご都合主義で未来を考えるのをやめ、第三者的な冷静な目で常識的に時代の流れを読むことで、世の中の変化に敏感になれます。未来のあるべき姿から逆算し、現在とのギャプを見出すことで、非常識なアイデアが生まれてくるのです。
バカげた戦略を社員に伝えるためには以下の6つの方法があります。
①口頭
②文書
③人事
④予算
⑤組織
⑥日常の言動
戦略を社員に理解させ、浸透させるためには、これらの6つの戦略メッセージに一貫性が求められます。言うことと書いていることが異なれば、社員は混乱します。社長の経営方針とちがう人事や予算が行われるときにも、戦略は的確に伝わりません。
企業変身の最大の特徴は、変化ということである。既存事業を維持し、拡大することが「継続」を意味するのにたいして、企業変身は新しい事業分野への進出にしろ、既存の事業分野からの撤退にしろ、「変化」を意味する。それも、小さな変化でなく、大きな変化、基本的な変化である。人間は、そして人間の集団である組織は、しばしば変化をさけ、変化に抵抗する。
企業という組織のなかには、既存事業の維持・拡大をもとめる強い力が生まれがちです。逆に新規事業や既存事業からの撤退など変化に対しては抵抗します。
企業のなかには変化への抵抗、つまり組織慣性という強い力があり、そのために既存事業の維持・拡大を優先させ、企業変身にブレーキがかかります。競合に自社を破壊させないためには、この組織慣性に打ち勝ち、常に変化する組織を構築すべきです。
元パナソニックの山下俊彦社長は経営者の役割は、社内に存在する危機感を探し出すことだと指摘します。
社長の仕事は、皆が納得する危機感を探し出して、全員にそれを自覚させることだと思いますよ。それも、まだ第三者の目には順調にいっているように見える時に、みんなに危機感をもたせないと、何の効もない。(山下俊彦)
ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・A・サイモンは、グレシャムの法則を組織論に応用しています。日常業務(悪貨)は、イノベーションのための計画業務(良貨)を駆逐する傾向にあることを見つけたのです。
企業では往々にして日常業務が優先され、イノベーションのための計画業務は犠牲にされます。イノベーションを優先するためには、計画業務を納期・評価・注意の焦点の3つの点で工夫しなければなりません。
①締切期限ないし納期を明確にする。
②締切期限に間に合わなかったときの評価の明確化。
③注意の焦点もできるだけはっきりさせる。
長期的に成長を続ける3Mには、独特の失敗のマネジメントがあると言います。
■新製品開発の成功率を10パーセント程度に低くおさえている。
10のうち9つまでが失敗するから、失敗しても当たり前でと考えます。新製品開発に挑戦して失敗しても、恥ずかしくないという社内文化を形成することで、チャレン位が当たり前になります。
■身分の保証。
3Mにおいては、新製品開発に挑戦した人たちは、仮にその新製品開発で失敗しても少なくとも元の地位と同等のポストに戻れます。
■撤退の基準が明確になっている。
赤字額という明確な撤退基準があるため、企業としては、新製品に安心して資金を出すことができます。赤字がどんどん膨らんでいくという事態を防止できます。
3Mは新製品開発で 多くの失敗を重ねてきており、多くの失敗のなかから少数の成功を勝ちとり、その新製品開発の成功によって、今日まで高収益と高成長を続けています。
バカげたアイデアを実現するためには、3Mの失敗する文化形成がヒントになります。経営者は変化することを社員に求め、そのための仕掛けを準備すべきでです。
組織の中に危機感を生み出し、チャレンジすることを当たり前にしましょう。自社のコアコンピタンスを軸に多角化をはかる、成長するマーケットで新商品を生み出すことで、持続的な成長が可能になります。「バカげたアイデア」と「なるほど」を合言葉に社員とともにイノベーションを起こしましょう!
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