異能の掛け算 新規事業のサイエンス (井上一鷹)の書評

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異能の掛け算 新規事業のサイエンス
井上一鷹
ニューズピックス

本書の要約

新規事業を成功させるために必要なことが明らかになっています。リーダーはビジョンやミッション、コンセプトを共有し、Biz/Tech/Creativeのメンバーの異能な掛け算を行うこと、バリューデザイン・シンタックスのフレームワークを活用することで、新規事業の立ち上げをスムーズに行えるようになります。

異能の掛け算が重要な理由

新規事業で科学すべきは〝異能の掛け算〟である 。(井上一鷹)

新規事業、「0→1」を成功させるためには、Biz(ビジネス)/Tech(テクノロジー)/Creative(クリエイティブ)の異能なチームを集めることが重要になります。この3つの領域の異能なメンバーを集め、掛け算を行うことで、ビジネスがスピーディに立ち上がるようになります。

Biz人材:事業起点で、価値を最大化する持続可能な仕組みを作る能力者
Tech人材:技術起点で、理想的な価値へのアイデアを実現する能力者
Creative人材:顧客起点で、理想的な体験価値を見いだす能力者

私がベンチャーやスタートアップのCEOにアドバイスをする際、COO、CTO、CFO、CMOを揃えることを求めます。多様なスキルを持ったメンバーを集め、異なる視点で経営に参加することで、レバレッジが効き、新たな価値創造を起こせるようになるからです。実際、異能の掛け算が行われているチームは、成長のスピードが速く、上場までの時間も短くなっています。

新たな価値は、1人の天才ではなく、チームで創る時代です。そのチームとは、大事にするモノサシも違えば、プロフェッショナルなスキルも違う、Biz(ビジネス)/Tech(テクノロジー)/Creative(クリエイティブ)の〝異能〟の集まりであるべきです。

「異能の人材が、〝子供の自由さ〟と〝大人の教養〟をもって、サービスコンセプト・競争戦略・利益構造のデザイン(企画・設計)とプロトタイピング(試作・検証)を繰り返せば、最速で新しい価値を創れる」と著者の井上一鷹氏は指摘します。

新規事業の不確実性を下げるためには、以下の3つの流れが欠かせません。
①始動する
②無知の知に至る
③確信と確証を得る

子供の自由さを持つ人だけが初めに動き、大人の教養を持つことで無知の知に至り、そのチームが異能の掛け算を経て、事業価値の確信と確証を得ていく、という流れになります。

失敗しても大丈夫な投資規模で創れる小さな価値を定義し、デザイン⇄プロトタイピングを繰り返していく前提で踏み切る機会を持つことが、リーダーの必須のスタンスになります。子供の自由さを持つ人だけが始動でき、そんなチームだけが異能の掛け算を経て、 大人の教養を持つことで無知の知に至り、新規事業への確信と確証を得ていけるのです。

1の定義:「顧客課題への最小価値」を検証できた状態
不確実性が支配する世界で、最も大事なチームの意思決定の指針は「どうやって不確実性(見えていないこと)を減らしていくか」になります。

10の定義:事業が成立し、拡大の見込みが立った状
誰かが一度正解を導いている10→100の世界では、その正解に対して、他の人や企業よりも確実に効率的にたどり着けるか? がイシューになり、既存の方程式を参考に、リソース分配を最適にしていくゲームになります。

100の定義:事業拡大を続けている状態
新規事業の不確実性を下げるためには、デザインとプロトタイピングを繰り返すことと〝無知の知〟のスタンスを持つことです。

新規事業において、知っていると思うのは思い込みでしかりません。新規事業においては経験豊富な人も新参者であり、知らないことだらけです。経営者はまだわかっていない背景や前提があると考え、仮説と検証の旅を続けるべきです。「わかっていると思っていることを忘れる(アンラーン)」の姿勢を持つことで、自社のビジネスモデルを発見できます。

「バリューデザイン・シンタックス」というフレームワークを活用しよう!

新規事業をデザインしているときは、スキル・経験・環境のバイアスに陥りがちです。既存事業の10→100のフェーズで、大きな成功体験がある人は、当然ながらすぐにその経験を当てはめます。特に類似の成功体験を持ったチームになると、その危険性が増します。異能がチームに入ることや、お互いに違和感を口にできるチームを作ることで、経験のバイアスに陥ることを防げます。

価値創造に成功している企業の多くは、個人に裁量を持たせたうえで、以下の3つの要素を満たしてます。
■明確な危機感
経営陣を中心に「新規事業がなければ企業の存続がない」といった明確な危機感を共有しています。

■経済的独立性
投資額と投資余力のバランスを見て、取りうるリスクを経営陣全員で合意しています。

■心理的安全性
自分の考えや気持ちを、誰に対してでも安心して発言できる組織を作れています。

この3つのうちーつでも足りないと、内向きの仕事が始まります。 目指す方向を明らかにし、チームを一丸にするためには、ビジョンやミッション、コンセプトを共有することが欠かせません。似たスキルの人だけで集まっていると視野狭窄になり、スピードも落ち、事業開発力が弱くなります。

・Biz人材がいないチーム・・・「顧客はほしがるものになったが、続かない、儲からない、規模が大きくならない」パターンに陥りやすくなります。

・Tech人材がいないチーム・・・「創ってしまったほうが早いことなのに、無駄に考察を続けてしまう」「技術的に不可能な仮説に時間を掛けてしまう」パターンに陥りやすくなります。

・Creative人材がいないチーム・・・「理屈上収益性が高い事業になりそうに見えるが、具体的に使うイメージやシーンが浮かばず、顧客が手に取らないサービスになる」パターンに陥りやすくなります。

新しい価値を創り顧客に有用な形で持続的に届ける」ためには、「新しい価値を”創り”(T)、”顧客に有用”(C)な形で、”持続的”(B)に届ける」必要があります。 

BTCの関係がよいチームを形成し、お互いが信頼し、異能の掛け算を起こすことで、新規事業がうまくいくようになります。そのために経営者は以下の3つのことを目指さなければなりません。
①専門性を持ったBTCがいること
②相互に尊重し合う心理的安全性の高い状態
③各自のミッションのつながりが見える化され、 付度なく意見を言えること、全員が迷いなく全力を尽くせること

著者は「バリューデザイン・シンタックス」というフレームワークが、異能のチームを作る際に効果を発揮すると言います。ビジネスモデルを構成する要素を分解し、ひとつの構文として表現することで、専門性が異なるメンバー間で、共通認識の構築ができます。

著者のフレームワークに沿って事業構想を文章化することで、全体像が可視化され、構成要素の整合性や弱点を簡単に把握できるようになります。


このフレームを活用することで、定義の曖昧さを排除できます。仮説・検証の行き来を繰り返すことで、サービスコンセプト・競争戦略・利益構造の確度と精度を上げられます。

異能のチームの掛け算を行い、バリューデザイン・シンタックスのフレームワークを活用することで、新規事業の立ち上げをスムーズに行えるようになります。成功を目指すベンチャー・スタートアップ経営者にぜひ、読んでもらいたい一冊です。


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