エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済 (リチャード・デイヴィス)の書評

エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済
リチャード・デイヴィス
出版社 ハーパーコリンズ・ ジャパン

本書の要約

所得と富を人間寄りの視点から見ることは数値化しづらく、今日の経済指標や将来計画にほとんど組み込まれていません。それらが組み込まれることで、高齢社会に広がる圧迫感や、テクノロジーの進歩がもたらす格差や、急成長の裏で顕在化する格差を発見し易くなります。厳しい現実に対しても人々は知恵を絞り、それを乗り越える力を養っています。

エストニアはなぜ短期間でGDPを10倍にできたのか?

極限の状況から重要な教訓が得られるという考えは、科学者のあいだで広く共有されている。(リチャード・デイヴィス)

ロンドンを拠点に活動する経済学者のリチャード・デイヴィスが、エストニア(超IT社会)、日本(超高齢社会)、チリ(超格差社会)など世界9カ国の〝極限(エクストリーム)市場”を徹底取材し、執筆したのが本書エクストリーム・エコノミー になります。

著者はIT化社会(エストニア)、超高齢化社会(秋田)、超格差社会(サンティアゴ)など、様変わりする世界経済の行方を9つのエリアから予測しています。

○インドネシア・アチェ(災害復興経済)
○ザータリ難民キャンプ(急成長する非公式市場)
○ルイジアナ州立刑務所(通貨なき地下経済)
○中南米ダリエン地峡(無法地帯の経済)
○コンゴ・キンシャサ(賄賂に支配された経済)
○グラスゴー(産業なき経済)
○秋田(超高齢社会)
○エストニア・タリン(超IT化社会)
○チリ・サンティアゴ(超格差社会)

やがて、世界中がこれらの都市が抱える問題が交差する極限(エクストリーム)市場になる可能性が高まっていますが、私たちは本書からその処方箋となる「立ち直る力(レジリエンス)」を学べます。

秋田は世界中で最も高齢化が進んでおり、働く人の多くが高齢者というエリアです。秋田は高齢化のトップランナーであり、秋田の課題を見ることで未来の世界を予測できます。高齢化は実は戦争や災害と同じく、社会全体に降りかかり、社会全体で共有していく課題なのです。高齢化は「数字で測れない経済」、すなわち足りないところの代わりになるものを考え出し工夫できるタイプの課題なのです。

老人が年金を補うために「道の駅」で野菜を売ったり、子供の世話をするシェアハウスでお金を稼ぐことは、政府の経済統計には反映されません。

高齢者は自分が楽しく生きるために、さまざまな工夫を行っています。また、若者も高齢者の課題を解決するために、ロボットやAIなどテクノロジーの開発を行い、人口減少社会の中での新たなビジネスの可能性を探っています。

多くの国や地域にとって未来の経済とは人口が縮小することを前提として、上手に縮小をマネージするものになると著者は指摘します。

エストニアは小さな国だ。人口は世界で155番目の130万人で、モーリシャスやキプロスといった小さな島国とたいして変わらない。ところがデジタル技術やイノベーションの話になると、政府が中心となって牽引し、世界でもきわだって高い存在感を放つ。課税制度はほぼペーパーレスであり、書類の94パーセントはオンラインで作成する。

コロナ前に私はエストニアを何度か訪問し、IT先進国の実力を体感してきました。選挙は世界のどこにいても、パソコンから投票できます。政治もペーパーレスで、2000年以降、内閣の文書も電子化されています。オンラインでできない作業は結婚、離婚、住宅購入だけです。実際、現地でインタビューした弁護士の主な仕事は、起業家へのコンサル業務で、申請業務などはほとんど行っていないと言います。エストニアはソ連から独立を果たした際に、一気に国のあり方を変えてしまったのです。

1939年には、エストニアと隣国フィンランドの生活水準はほぼ同等でしたが、1987年には、ひとりあたりの国民所得がフィンランドの1万4000ドルに対して、エストニアはわずか2000ドルとその差は大きく広がっていました。

1991年にエストニアがソ連からの独立を獲得した際に、エストニアは府の遺産をソ連から引き継ぎました。1992年にはインフレ率が1000パーセントを超え、経済は壊滅的打撃を受けました。

その後、新生エストニアは、大胆な政策に舵を切りました。過激とも見える新しい発想が、比較的スムーズに受け入れられたのは、ソ連の支配という過去を忘れたいという強い願望があったからです。実際、現地で知り合いになったエストニアはロシアを嫌悪していました。昨年のウクライナへの侵略により、それはますます加速しているはずです。

大胆な発想の転換ができたのは、新生エストニアの舵取りを若い世代が担ったからでもある。

エストニアの若い30代のリーダーたちは、テクノロジーに〝全賭け〟し、そこに資金と人材を集中させました。1990年代後半にはすでに、エストニアは97パーセントの学校をインターネットに接続し、小学校でコンピューターのプログラミングを教え、デジタルのインフラに巨額を投資し、テクノロジー関連企業への多様な支援策を打ち出しました。

エストニアは、ソ連崩壊時に独立した国々のなかで唯一、最初の10年間で経済成長を遂げた(14パーセント)国になり、その後も上昇気流を維持し、IT先進国として世界中の起業家を引き寄せています。エストニアのデジタル市民が増えることで、次々とイノベーションが起こるようになっています。

そんな成長を続けるIT国家にも課題があります。エストニアには高齢者のデジタル・ディバイド問題があり、若い世代との格差が拡大しています。AIやロボティクスなどのテクノロジーは今後、人の仕事を奪う可能性があります。しかし、その一方で新たな仕事も次々生まれています。

テクノロジーは日々進化しながら、今後も多くの課題を解決していくことは間違いありません。ロボットは高齢化社会や地球環境の悪化、各国の予算不足などの難題をやわらげる解決策になりうることをIT先進国のエストニアが明らかにしています。

 

レジリエンスな経済が課題解決の鍵

急成長と不平等の急拡大というサンティアゴがたどってきた道は、これから発展する国々にとっても歩く可能性の高い道であり、チリレベルの不平等が世界標準になるかもしれない。両国合わせて世界人口の3分の1以上を占めるインドと中国も、これまでの30年間で経済を拡大させたが、不平等はより強まっている。

チリの首都サンティアゴは、強い経済の中心地であり、国民の3分の1にあたる520万人が暮らしています。サンティアゴは今やチリの経済生産のほぼ半分を担っています。1970年代、貧困国だったチリのひとりあたりの国民所得はアルゼンチンの半分でしたが、今日では、中南米で最も高い1万4000ドルに上昇し、ギリシャやポルトガルにも引けをとらない水準になっています。

このような成長を遂げたチリは、2010年に経済協力開発機構(OECD)への加盟が認められ、南アメリカで「新興国」から「先進国」への階段を正式にのぼった最初の国になりました。

しかし、チリのサクセスストーリーにはネガティブな面があります。チリでは国民の格差がきわめて大きく、世界の経済大国のなかでは、格差が最も不平等な国になっているのです。

チリでの労働者の所得上位層1割の所得が総所得に占める割合は、1970年代初期の30パーセントから1900年代の後半には50パーセント近くまで上昇しています。その後もこの数字は悪化し、今ではチリの9割の人たちで、国民所得の約半分を分け合っている状況です。 

現代のサンティアゴでは、経済は確かに成長はしていますが、市場はゆがんだかたちの競争を繰り広げています。多くの国民は食べることには困らなくなりましたが、一部の富裕層に富が集中し、格差が固定しています。教育の格差が階層を歪なものにしてしまい、貧困層は教育の不平等からスタート時からハンディを負っているのです。サンティアゴはエクストリーム経済の真っ只中で混乱しています。その解決策は次の若い世代に委ねられています。

2050年には都市化が進み、世界人口の70%の人が都市に住むようになると予測されています。秋田の高齢化、タリンのテクノロジー、サンティアゴの不平等は、今後の世界に共通する課題になると著者は指摘します。

2030年には、日本、イタリア、スペイン、ポルトガルの4か国で、50歳以上の人口がそれ未満を上回り、今日の秋田のようになる。タリンの取り組みを真似て予算の節約を図ろうとする政府が増え、ロボットや自動化ソフトウェアなどのテクノロジーが職場や雇用への影響をますます強め、国家レベルでのデジタル化が進んでいく。サンティアゴに見る都市の不平等は、他の新興経済国において、高所得者の上位10パーセントの合計が全体の所得の50パーセントに近づくにつれて、ありふれたものになる。

2030年には、地球上の大半の人たちにとって、社会は、秋田、タリン、サンティアゴの3つの街をミックスしたようなものになるのです。

高齢化が進み、テクノロジーが多くを担い、経済的に不平等な都市社会が増える中、レジリエンスな経済の力が重要になっていきます。社会的弱者はさまざまな方法で生き抜く力を鍛えています。しかし、現代の経済学はこの非公式な部分を無視することで、発展途上国の経済力の評価を下げています。

レジリエンスの経済学では、多くの人にとって、そして多くの国にとっても、所得を生む発端は非公式経済にあると考えます。社会の富は人的資本と社会資本の上に築かれ、金融資本と物理資本はその次に来るととらえるのです。

所得と富を人間寄りの視点から見ることは数値化しづらく、今日の経済指標や将来計画にほとんど組み込まれていません。それらが組み込まれることで、高齢社会に広がる圧迫感や、テクノロジーの進歩がもたらす格差や、急成長の裏で顕在化する格差を発見し易くなります。厳しい現実に対しても人々は知恵を絞り、それを乗り越える力を養っています。

テクノロジーの進化で世界中がつながるようになりました。ネットワークがつながることで、会ったこともない人たちとのサプライチェーンが構築されています。隠れた非公式経済が私たちの強さとレジリエンスの源であるのと同時に、COVID-19などのウイルスが新たなリスクになっています。



この記事を書いた人

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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