The World(ザ・ワールド) 世界のしくみ (リチャード・ハース) の書評

blue and brown globe on persons hand

The World(ザ・ワールド) 世界のしくみ
リチャード・ハース
日経BP

本書の要約

新しい世界秩序をアメリカが主導し、構築すべきです。中国が主導するとしたら、世界秩序は非自由主義的なものとななり、権威主義的な国内政治システムと、国内の安定維持を何より優先とする国家統制主義的経済に陥ります。秩序を維持するためには互いの差異を乗り越えようという意思を持つことです。

ロシアがウクライナを侵略した理由

今、リベラルな世界秩序は、ほころびが生じている。アメリカの相対的なパワーが低下し、世界において従来の役割を果たすことに対するアメリカの積極性が薄れ、中国が台頭し発言力を強め、ロシアが意図的に秩序の転覆を企てているせいだ。(リチャード・ハース)

第二次世界大戦後、覇権を握ってきたアメリカのパワーが低下しています。中国やロシアは西側との対決姿勢を強めています。遂にロシアはウクライナを侵略し、中国は台湾を虎視眈々と狙っています。

このような状況下で、危機に陥ったときにアメリカに頼ることができるのかどうか、日本も含めた同盟諸国が不安をつのらせています。今回のウクライナ危機でも明らかになりましたが、国連安保理は、世界で起きている紛争の大半に関与できずにいます。

核拡散防止条約で核保有が認められているのは世界で5力国だけですが、実際にはそのほかに非批准国を含め9力国が核兵器を保有しています。ウクライナがNATOに参加できていなかったこと、核に守られていなかったことが、ロシアの侵略を許した一つの原因になっています。

また、今回の戦争で無人飛行機やドローンなど新しいテクノロジーが戦争に利用され、多くの命が奪われています。このようなテクノロジーの利用規制が行えずにいるため、戦争や紛争による死者が増加しています。

最近のアメリカは政治的な影響力を失っています。政治的に分断され、イラクとアフガニスタンにおける戦争長期化によって軍事力も疲弊し、リベラルな世界秩序の推進に対する意欲が薄れています。自民族中心主義的で排他的なナショナリズムの再燃も、世界秩序の足を引っ張っています。

ロシアは、近隣諸国におけるロシア系少数民族のために、まさにそうした行動に出ています。著者は以前からウクライナ危機を指摘していましたが、昨年ロシアはクリミアに続き、ウクライナを攻撃しました。

こうした過激で暴力的なナショナリズムが育まれたのは、ロシアの冷戦での敗北とNATO拡大が起きていたからです。同胞であり、自国に隣接するウクライナが、NATOに加盟することだけは、ロシアは許せなかったのです。

世界秩序を維持するために必要なこと

今日の世界秩序は、中国の台頭や、秩序の重要な側面を拒絶する複数の中堅国(特にイランと北朝鮮)の存在、そして国内と国家間の秩序に深刻な脅威となりかねない非国家主体(麻薬カルテルからテロリストネットワークまで)の登場など、多様なパワーの変化に対応しきれずにいる。

アメリカのパワーが低下し、中国が台頭する中で、現代は歴史上のいかなる時期よりもパワーが分散しています。過去にない規模でテクノロジーが普及して、秩序を乱す意図をもった集団や個人がその恩恵を受け、秩序を見出しています。今回もイランのドローンがロシアに供与され、ウクライナ国民の命を奪っています。

格差の拡大、2008年の世界金融危機がもたらした混乱、貿易と技術革新に起因する雇用消失、増大する移民と難民の流入、ヘイトを拡散するソーシャルメディアの威力のせいで、ナショナリズムとポピュリズムも高まっています。

気候変動からサイバー攻撃に至るまで、グローバル化がもたらすさまざまな課題に対処する有効なフレームワークを作る試みも、十分には進んでいません。

アメリカはイラクやアフガニスタンでの失敗からか、世界秩序の維持に対して消極的になっています。ヨーロッパとアジアのパワーバランスに影響する重大な問題には対応しているものの、シリアにおける衝突など、アメリカがコストをかぶる価値はないとみなした地域に関しては、何もしないという選択を重ねています。

アメリカは中東で手を組んできた国家とも距離を置き、北朝鮮とイランへの対応も言動不一致であるせいで、アメリカへの信頼性は低下しています。そろそろ私たちは変化するパワーダイナミクスと新しいグローバルな問題への対策を考えるべきだと著者は主張します。

中国とロシアを既存の世界秩序に統合することにおおむね失敗したのは明白だが、だからといって、世界秩序の適応と維持の作業に二国を参加させる努力を拒否する言い訳にしてはならない。そうした努力が21世紀の成り行きを少なからず形成していくこととなるからだ。

新しい世界秩序をアメリカが主導し、構築すべきです。それを中国が主導するとしたら、世界秩序は非自由主義的なものとなり、権威主義的な国内政治システムと、国内の安定維持を何より優先とする国家統制主義的経済に陥ります。中国がアジア支配を試みることで国家間の紛争が激しくなり、インドや日本やベトナムとの衝突が生じます。

中国が主導した場合、保護貿易主義、ナショナリズム、ポピュリズムが拡大し、民主主義は衰退していきます。結果、国内と国家間の紛争が今よりも頻発し、大国間の対立も増えていきます。

秩序を維持するためには互いの差異を乗り越えようという意思を持つことです。積極的な対話と協調的な努力をアメリカを中心に行うことをやめてはいけないのです。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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