そのビジネス経済学でスケールできます。
ジョン・A・リスト
東洋経済新報社
本書の要約
シカゴ大学経済学部教授のジョン・A・リストは、確実にスケールするための4つの解決策を明らかにしています。①スケールするインセンティブを使う。②「限界革命」を導入する。③やめるが勝ち。(機会費用は重要な検討項目)④スケーリングの文化に変える。企業をスケールさせるために、これらを実践しましょう。
スケールアップに必要な4つの戦略
大胆なアイデアのスケールアップを目指す人や組織にとって、機会費用は特に重要な検討項目だ。アイデアはスケールアップするほど、時間もカネも機会も失われる可能性があるからだ。(ジョン・A・リスト)
シカゴ大学経済学部教授のジョン・A・リストのそのビジネス経済学でスケールできます。の書評を続けます。彼はスケーラブルなアイデアに備わっている5つの特徴を明らかにしています。①偽陽性 ②人口の代表性 ③状況の代表性 ④スピルオーバー ⑤コスト この5つのバイタルサインをすべてクリアできれば、その事業はスケールできるのです。
著者は確実にスケールするための4つの解決策を明らかにしています。
①スケールするインセンティブを使う。
②「限界革命」を導入する。
③やめるが勝ち。(機会費用は重要な検討項目)
④スケーリングの文化に変える。
①スケールするインセンティブを使う。
人々のやる気を高めて、共通の目標を目指すうえで、大事なことは唯一つ。適切なインセンティブを導入できるかどうかにかかっている。適切なインセンティブは、「誰」にはたらくかよりも、「どのように」はたらくかが重要だ。適切なインセンティブさえを導入できれば、個々人の性格はほとんど関係なくなる。
適切なインセンティブを設計するとメンバーが積極的に動けるようになり、スケールアップの可能性を高めます。従業員の行動や結果にポジティブで大きなインパクトをもたらすことが可能になります。
セルフイメージや社会的規範を守ろうとするナッジを取り入れることで、顧客の行動も変えられます。金銭的な報酬だけでなく、人間の脳に備わった社会性と損失回避の傾向を活用して関係全員にメリットがもたらされるようにすべきです。
ボーナスに損失回避のメカニズムを取り入れることで、生産性が1%高まる工場のケーススタディはとても参考になります。(目標を達成したらお金がもらえると伝えるよりも、達成できなかったら予定していたお金が支払われないと伝えたほうが効果があるのです。)
②「限界革命」を導入する。
中小企業や伸びているスタートアップは、時間が経つにつれて費用が増えていくので、経営者や創業者が支出や予算について決める際、見るべきなのは、平均ではなく直近の費用だ。同様に、広告のリターンは、規模が拡大するにつれて逓減するため、マーケッターや起業家がどの戦略に投資すべきか決める際には、最後の1ドルのリターンを比較すべきだ。
スケールアップしたときにコストの罠に落ちないことが重要です。限界革命とは最後の1ドルから逆算し、最大のリターンを得られる投資を行うことです。
著者が働いていたリフトでは限界的な効果がグーグルの50分の1でしかないフェイスブックに過大に投資されていたと言います。この場合、限界便益が大きいグーグルへの投資を行うべきですが、広告全体の平均リターンで評価されていたため、正しい投資が行えていなかったのです。組織が大きくなるとこのような不適切な予算配分や投資が行われてしまうのです。多くのセクションで誤った予算配分が桁外れに行われることで、利益はすぐにふっとんっでしまうのです。
どの投資がスケーラブルかを判断するためにKPIを見直し、その上でデータ分析を行い、投資する分野や対象を明確にすべきです。過去の常識にとらわれるをやめ、広告費などの余計な出費を見直しましょう。リソースの再配分によって、コストが削減できることがあります。予算の使途の使い道を間違えるとコストがかかり、スケールが遠くなることを忘れないようにすべきです。
損切りをする。サンクコストは過去のものにしよう。過去の自分がしたことが間違いだと気づいたとき、頭のなかでは、追加のコストがかかってもこのまま進め、という声がするかもしれないが、それは損失を回避しているだけで、後の祭りだと気づこう。そうした声は無視する。
過去の投資の失敗もできるだけ早く損切りするようにしましょう。サンクコストの罠に陥らないことで、企業は成長できると考えるのです。
スケールに企業文化が重要な理由
③やめるが勝ち。
機会費用は、カネで買えるものばかりではない。機会費用を無視するとき、往々にして最も貴重なリソースを無駄にしている。それは時間である。
一つのものを買えば、他のものが買えないように、一つのことに時間を使えば、他のことに時間を使うことはできません。ある企業が、一つの製品のスケールアップにすべてのリソースを注ぎ込むと、他の製品をスケールアップすることはできません。本当にスケールアップさせる製品やサービスが何なのかを明らかにする必要があります。他の選択肢でスケールする可能性があるのなら、それにリーソスや時間を使うことも考えましょう。
サンクコストを無視すれば、何か他の成功の確率が高いことのスケールアップに取り組むことができるのです。やめなければいけないと思えば、さまざまな視点で事業を見直し、勇気を持って撤退しましょう。
間違ったアイデアに没頭する時間が長いほど、人生で最も貴重なリソースを無駄遣いしてしまう。
一つのアイデアをスケールアップしながら、同時に価値がありそうな他のアイデアを検討するほうが、よい結果を出せることもあります。積極的に代替案をつくること、代替案が数多くあるとでスケールする事業が見えてきます。
グーグルのムーンショット・ファクトリー、Xの従業員は、最もクリエイティブで大胆なアイデアを探究するよう鼓舞されています。さまざまなチャレンジを行うことで、グーグルを成長させています。しかし、彼らは成長のためにあえて撤退を選択します。テレポーションという事業では、研究の結果、物理の法則を克服する必要があることがわかり、事業を中止しています。宇宙エレベーターというアイデアでは、必要な材料が存在しないこととコスト効率が悪いという理由で撤退を選択しました。
スケールアップするには、最適な撤退を選択肢に入れておくことです。回収できないサンクコストで悩むのをやめ、撤退することで成長分野にリソースが割けると考えるのです。
④スケーリングの文化に変える
チームや組織は、多様な視点や観点を持ち寄ることで、中止すべきイニシアティブを見極める一方、自身のアイデアが撤退の対象になり、落ち込んでいる発案者を元気づけることができるようになる。つまり、最適な撤退は高ボルテージの成功のカギだが、これはピースの一つに過ぎない。スケールアップのために大きな組織が構築しなければならないパズルがある。それが企業文化だ。
スケールアップに伴って職場の文化が大きく花開く場合もあれば、内側から壊れていく場合もあります。自壊する場合が多いのは、いくつかの点で最初はうまくいっていた文化が、スケールアップとともに機能しなくなるからです。当初は競争的な文化で成長していたウーバーは、成長のステージを上がった段階でミスを犯します。
組織が大きくなることで、正しい評価がされなくなり、優秀ではないメンバーが昇格し、職場の文化を悪くしていくことが多々あります。部下が上司へや創業者への取り巻きに信頼を失うことで、組織のモチベーションは一気に下がってしまうのです。ウーバーでは、アイデア、効率、利益などのフレームだけで人が評価されていました。結果、実力主義で人を踏み台にすることがウーバーの企業文化になったのです。
情け容赦ない文化がウーバーに蔓延することで、まず内省的な優秀な社員がやめていき、職場がギスギスすることで退職者が増加するという悪循環に陥りました。その後、ウーバーではパワハラやセクハラなどさまざまな問題が起こり始めます。
組織をスケールアップするうえで、深い信頼が強力なファクターになることが研究で示されている。これは協力を促進し、チームワークを機能させることが成長に不可欠なためだが、他にも理由がある。ウーバーで信頼が欠けていたのは、組織の本質が、実力主義とは名ばかりで魂が入っていなかったことが大きい。従業員は、時間やアイデア、努力といった自分の貢献が客観的に評価されると信じていなかった。尊重されているとは思っていなかったわけだ。
ウーバーのシステムを理解しない新参者が増加したことでウーバーのスケールアップが難しくなります。評価されていないと感じた従業員やドライバーの離職が重なります。やがてドライバーの質が下がり、顧客をも大切にしなくなり、ウーバーの成長は完全に止まってしまったのです。インドではドライバーによるレイプ事件まで起こってしまったのです。
「コーペティション(協調と競争を合わせた造語)」に関する新たな研究では、部門内でも部門間でも、協力と競争を適度に取り入れた「コーペティション」が、財務実績から顧客満足度まであらゆることの改善を加速させることが明らかになっています。競争と協力のバランスをとることで、組織内で「知識の移転」が促進されます。プラスになる貴重な専門知識が広く共有されることで、企業の成長が加速するのです。
スケールアップしても、従業員が協力し合い、尚かつ高いパフォーマンスを発揮できる職場をつくるには、組織のなかにチームワークを組み込む必要がある。たとえば、一つの方法として、各従業員を最低二つのチーム、できれば異なる部門のチームに所属させる方法がある。これによってチームで取り組む機会が増え、垣根を越えたアイデアの交換が促進される。
スケールアップに伴い育んだ文化が共有され、同じ価値観に基づき思考・行動することで、組織は成長できるようになります。企業文化が社会に浸透することで、この会社で働きたいという優秀な人たち集まり、さらなる成長が期待できます。
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