「価値」こそがすべて!: ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義
フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー
東洋経済新報社
本書の要約
競争の中で、より高いマージン(利益率)を維持するためには、優れた顧客サービス、従業員の満足度を高め、サプライヤーにも適切な利益を提供することが重要です。利益を生み出すためには、単に利益を得ることよりも、顧客や従業員、サプライヤーに対して価値を提供することを目指しましょう。
企業が価値を優先すべき理由
価値を優先すれば、利益は後からついてくるのです。(フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー)
ハーバード・ビジネス・スクールの教授のフェリックス・オーバーホルツァー・ジーは、バリューベース戦略の概念と、企業がこれを用いて優れた業績を達成する方法について探求しています。 著者は、企業が低価格競争ではなく、顧客に優れた価値を提供することで、長期的な成功を創造することができると主張しています。
持続的に高いパフォーマンスをあげている企業は、顧客、従業員、あるいはサプライヤーに対して確固たる価値を日々、創造・提供しているのです。
バリューマップは、顧客が求める価値と商品・サービスの提供プロセスを可視化することで、顧客のニーズや要望を的確に把握し、商品やサービスの改善点を明確化することができます。 バリューマップを用いることで、企業は顧客満足度の向上や商品・サービスの改善を実現し、競争力を強化することができます。そのため、企業にとって重要なマーケティング戦略の一つとして位置付けられています。
顧客のニーズを把握し、競合他社を評価し、独自の付加価値提案を作り上げることで、バリューベース戦略を展開できます。
WTPとWTSの差、つまりバリュースティックの長さが、企業の生み出す価値になります。
WTP(Willingness to pay、支払意思額)
バリュースティックの上限に位置します。これは、顧客の視点を表しています。具体的には、顧客が製品やサービスに対して支払うであろう上限額のことです。企業が製品を改善すれば、WTPは上昇します。
WTS(Willingness to sell、売却意思額)
バリュースティックの下限に位置し、従業員とサプライヤーに言及したものです。従業員にとって、WTSはジョブオファーを受け入れるために必要な最低限の報酬のことです。企業が仕事をより魅力的なものにすることができれば、WTSは下がります。逆に、仕事が特に危険な場合は、WTSは上昇し、従業員はより多くの報酬を必要とします。
サプライヤーの場合は製品やサービスを供給することのできる最低限の価格のことを意味します。サプライヤーにとって製品の生産と出荷が容易になれば、そのWTSは低下します。
アップル(Apple)は、デバイスの美しさ、使いやすさ、社会的なプレステテージによって、顧客の支払意思額(WTP)を高めることで、バリュースティックの最上位で競争しています。また、非常に魅力的な仕事を提供することで、売却意思額(WTS)を低くすることに成功し、価値を生み出しているのです。
WTPと価格の差は、顧客にとっての価値です。アップルの製品は高価かもしれませんが、そのデバイスに対する顧客の評価はそれよりも高いから圧倒的なポジションを獲得しているのです。アップルストアでの顧客の嬉しそうな顔は、WTPが価格を上回っていることを反映しています。アップルは顧客歓喜(Custmor delight)を実現しています。
バリュースティックは、特定の製品、顧客、従業員、サプライヤーに対して描かれます。アップルのデバイスのWTPは、洗練されたデザインを好み、使いやすさを重視する顧客に対して高くなる傾向があります。アップルは、このような顧客層に対して明確な優位性を持っています。それは、高い価格を設定し、同時に大きな顧客歓喜(Custmor delight)を生み出すことができるということです。
バリューベース戦略においては、価格だけでなく、顧客や従業員、サプライヤーの満足度向上や企業のコスト管理にも重点を置くことが重要です。つまり、顧客や従業員、サプライヤーが満足する商品やサービスを提供しつつ、同時にコストを抑えることが求められます。
価値創造とはWTPを高め、WTSを低くすること!
優れた財務パフォーマンス(企業の資本コストを超えるリターン)は、より大きな価値を創造することができるかどうかに依存していることが示されています。そして、付加価値を創出する方法は、WTPを高めるか、WTSを低くするかの2つしかないのです。
瀕死の重傷を負ったベスト・バイは、ユベール・ジョリーの指揮のもと、WTPの向上と知覚価値の改善に成功し、より多くの顧客価値を創造することに成功します。
ベスト・バイは、インターネットを既存の店舗事業を置き換えるものではなく、補完するものとして考えるようになりました。多くの消費者がオンラインで買い物を始めるものの、商品を実際に手に取って確認することも重要だと認識しました。同社は、オンラインとオフラインの価格を一致させ、店舗での購買体験を強化することで、来店客を購買客に転換することに成功しました。
同時に、ベスト・バイは、オンラインプレゼンスの重要性を認識し、ベスト・バイ・ドット・コムへの投資を加速しました。結果として、同社は大手eコマースサイトに匹敵するオンライン販売を達成し、収益の5分の1をeコマースから得るようになったのです。
成功する企業は、重要な取り組みを計画する際に、消費者が支払いたいと思う価値(WTP)を高めるか、企業の従業員が働きやすい環境(WTS)を提供することで、仕事の魅力を高める方向にデザインします。
一方、WTPを高めたりWTSを改善することができない施策は、意味を成しません。 WTPを高めることは、製品やサービスの付加価値を向上させることで、顧客が支払いたくなる金額を増やすことを意味します。
企業は、製品やサービスを改善し、顧客にとってより魅力的にすることで、市場シェアを拡大し、競合他社よりも優位に立つことができます。 一方、WTSを改善することは、従業員やベンダーが企業にロイヤリティを持ち、良いパフォーマンスを発揮するための環境を整えることを意味します。企業は、福利厚生や労働条件、キャリアプランなどを改善し、従業員のモチベーションを高めることで、人材の獲得と定着を促進することができます。
競合他社に優位に立つ企業は、自社のWTPを向上させるために独自の方法を採用し、同時にWTSを低下させることができるような独自性の高いアプローチを取ります。
ホームセンターのロウズとホーム・デポは、本質的に同じようなビジネスモデルを持っていますが、なぜホーム・デポの収益性がロウズよりもはるかに高いのでしょうか。その答えは、企業が顧客、従業員、サプライヤーにどのように価値を提供しているかに大きく関係していることがわかりました。
ホーム・デポは、より良い方法で他者のために価値を提供し、利益を考えるのではなく、価値を考えます。その結果、利益は自然とついてくるのです。
優良な企業は、最大限の価値を提供するために、3つのレバーを活用しています。
①より魅力的な製品
製品の品質やデザイン、機能性を向上させることで、顧客にとって不可欠な価値を創造します。
②補完製品
自社の製品に付加価値を与えるサービスやアクセサリーを提供することは、競合他社との差別化を図り、顧客が自社の製品を魅力的に感じて購入しやすくなる方法です。ミシュランは、ガイドブックを提供することで自動車と旅行を結びつけ、自動車をより便利なものに変えることによって、タイヤの販売促進に成功しました。
③ネットワーク効果
マルチサイドでネットワークを拡大することで、ビジネスは拡大します。アリペイはレストランと利用者の両方を増やすことで、圧倒的なポジションを獲得します。
最初は、サービスを利用する顧客がほとんどいないため、レストランにモバイル決済を導入させうことは難しいです。同様に、アリペイを利用できる店舗が少ないため、顧客は自分の端末になかなかアリペイをインストールしてくれません。
しかし、サービスの採用が進むにつれて、店舗やレストランのWTPは上昇します。また、モバイル決済を導入する店舗が増えれば、これらのアプリケーションを利用する顧客の数は急速に増加します。ネットワーク効果とは、正のフィードバックループのことです。より多くの小売業者がより多くの顧客を引き寄せると、さらに多くの小売業者が引き込まれていくのです。
競争の中で、より高い利益率を維持するためには、顧客サービスの向上や従業員の満足度向上、そしてサプライヤーに対しても適正な利益を提供することが不可欠です。しかしながら、単に利益を得ることよりも、顧客や従業員、サプライヤーに対して価値を提供することが重要です。つまり、自社の競争力を高めるために、常に価値創造を最優先に考えましょう。
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