この国の同調圧力 (山崎雅弘)の書評

man sitting on chair holding newspaper on fire

この国の同調圧力
山崎雅弘
SBクリエイティブ

本書の要約

同調圧力とは、集団の規範や価値観に従わせるために、個人に圧力をかけることです。戦前の日本社会は同調圧力に屈し、戦争の道を突き進んでいきました。私たち一人一人が、自分の考えを大切にし、同調圧力に屈せずに意見を述べる勇気を持つことで、より健全なコミュニティや組織を築けるようになります。

同調圧力のメカニズムとは?

社会の中で、同調圧力による思考と行動の支配が際限なく増大していけば、やがては「家族の死を喜ぶことを強いられる」という、地獄のような社会へと再び変質していく可能性も、ないとは言えないのです。(山崎雅弘)

日本人は同調圧力に弱いとされており、息苦しい世界を生きています。戦史・現代史研究家の山崎雅弘氏は、日本人がなぜこの同調圧力に弱いのか、その理由について本書で深く考察しています。

日本には他の人との調和を重んじる文化が根付いているため、このような同調圧力に屈しやすいと著者は指摘します。日本では個人主義よりも集団主義が重視され、他者との一致や調和を重要視する傾向があります。そのため、自分と異なる意見や行動を示すことは、周囲との調和を乱す行為と捉えられることがあるのです。

また、日本社会では上下関係が強く、上位者や上級者の意見や指示に従うことが求められます。これは、同調圧力を増大させる要因となっています。上司や先輩の意見に反対することは、相手を否定する行為と受け取られることがあり、それによって人間関係や信頼関係が損なわれることを恐れる人が多いのです。

さらに、日本社会では他者への気遣いや配慮が重要視されます。自分の行動が他者に迷惑をかける可能性があると感じると、同調圧力によって自分の意見や行動を抑えることがあります。これは、個人の利益よりも集団の利益を優先するという文化的な価値観が影響していると言えるでしょう。

同調圧力は大きく2種に分類できます。
・個人レベルで直面する「小さな同調圧力」
・社会全体が特定方向の同調圧力に支配される「大きな同調圧力」

個人レベルの「小さな同調圧力」は、日常生活の中でよく経験することです。例えば、友人や同僚との意見の相違や、周囲の期待に応えるために自分の意見を抑える場面などが該当します。これは、他者との関係性を維持するために自己表現を抑制することによって生じるものです。しかし、このような「小さな同調圧力」は、個人の自由や発想の多様性を制限する可能性があります。

一方、社会全体が特定方向の同調圧力に支配された時に生じる「大きな同調圧力」は、より深刻な問題を引き起こす可能性があります。国家や集団が特定の意見や行動を強制し、異なる意見や多様性を排除することで、国民は自己表現や自由を奪われることになります。これによって、個人の意欲や創造性が損なわれ、社会全体の発展や進歩が阻害される恐れがあります。

このような「大きな同調圧力」が国を支配する場合、問題の構造も変化します。例えば、独裁政権が形成され、国民の自由や人権が侵害される可能性があります。また、偏った情報や思想が広まり、客観的な判断や議論ができなくなることも懸念されます。さらに、社会の多様性や個々の尊厳が脅かされ、社会的な不公正や差別が生じることも考えられます。

戦前の日本はこの同調圧力の中で、戦争への反対意見や平和を求める声は抑圧され、戦争推進の潮流が強まっていきました。同調圧力は個人の自由や意思決定に影響を及ぼし、戦争の推進に繋がったのです。新聞や雑誌というメディアも同調圧力に加担していたことを忘れないよいうにしましょう。

同調圧力に従うのは、それがラクであることが理由のひとつになっています。子供の頃から周りの空気に流されることが多い日本人は、意味や理由を考えることなく、多数派の意見に従おうとします。

しかし、ラクに屈してしまうと同調圧力をかけたい人たちの思う壺になります。

本人には「悪気」がなくても、なんとなく同調圧力に従う人は、結果として、その行動によって「積極的に同調圧力をかける人間」の力を強めています。「積極的に同調圧力をかける人間」の影響力は、「その同調圧力に従う人間の数」によって大きく変動するからです。みんなで同じ行動をとることが悪いわけではありませんが、多数派がそれをしているからという理由で、それを望まない少数派にも同調を強要するような「空気」が存在する場面では、安易な同調は「同調しない人」への圧力になり得ます。

たとえ「悪気」がなくとも、無意識に同調圧力に流される行動をとることで、積極的に圧力をかけている人たちの影響力を増大させてしまうことがあります。同調圧力は、周囲の人々の行動や考えに合わせるような圧力として私たちの周りに常に存在します。これは特にグループの中で感じられるもので、その結果、個人の独自の意見や考え方が背景に隠れてしまうことが多いです。

このような状況は、新しいアイデアや多様な視点が求められる場面で特に問題となります。同調圧力に流されることなく、自分の考えや意見を持つことは非常に重要です。それは、個人の成長やグループ全体の発展のためにもなるからです。私たち一人一人が、自分の考えを大切にし、同調圧力に屈せずに意見を述べる勇気を持つことで、より健全なコミュニティや組織を築くことができるでしょう。

同調圧力が世の中をダメにする理由

みんな、つまり「多数派」がそうしているから、自分もそうする、という同調行為は、視点を変えて見れば、思考や行動の「自由」を自ら手放す行為でもあります。

歴史を振り返れば、指導者や軍部が誤った判断をすることは珍しくありません。しかし、「権威主義社会」では、指導者や軍の決定は絶対的に正しいとされ、この思考が国民に強制されます。このような社会では、国民は指導者の意向を自動的に受け入れ、周囲にもそれを求めます。これによって強力な同調圧力が生まれ、個人の抵抗は困難になります。

「挙国一致」という言葉は、国民の判断の自由を奪う恐ろしい同調圧力の口実となることがあります。多くの人々は、周囲と一致することが最も安全だと感じ、その圧力に従うことを選びます。しかし、第二次世界大戦中の日本のように、それが結果的に多くの悲劇をもたらすこともある。

指導者が必要な能力を欠いている場面で、彼らの判断に盲目的に従うと、集団や国の危機を引き起こすことがあります。我々は、過去の教訓を忘れず、常に批判的な視点を持つことの重要性を再認識する必要があります。

みんな、つまり「多数派」がそうしているから、自分もそうする、という同調行為は、視点を変えて見れば、思考や行動の「自由」を自ら手放す行為でもあります。

一人一人の子どもが批判的思考を持たず、先生の言うことに従順である方が、先生にとってもラクで仕事がやりやすい、という「統治上のメリット」もあります。 日本の教育において、先生の指示に従うことが重視される傾向があります。

これは、日本の教育システムが、集団の一員としての役割を強調しているためです。先生が一人一人の子どもに対して個別に対応することは難しく、効率的な統治を行うためには、子どもたちが先生の指示に従順であることが求められます。 こうした「批判的思考力の弱さ」は、日本人はなぜ、諸外国と比べて同調圧力に弱いのか、という問題を考える上でも、大きなヒントになるように思います。

批判的思考力が貧弱なら、身の回りにある同調圧力に自分が従うべきかどうかを疑う力も当然弱くなり、ほとんど自動的に「従う」という選択肢をとってしまうからです。 日本の社会では、同調圧力が強いと言われています。集団の一員としての役割を果たすことが重視され、個人の意見や批判的思考は抑制される傾向があります。

このような環境で育った人々は、他者の意見や価値観に合わせることが求められるため、同調圧力に弱くなるのです。 教師や企業の上司、政府トップなどの「統治者」から見れば、批判的思考力が貧弱で、同調圧力に対する抵抗力も弱い人間ばかりになれば、統治をしやすくなります。統治者にとっては、自身の指示や政策を容易に実現させることができ、統制を維持しやすくなるでしょう。

しかし、批判的思考力の弱さがもたらす問題もあります。個人の意見やアイデアが抑制されることで、新しい発想や革新的なアイデアが生まれにくくなる可能性があります。また、同調圧力が強い社会では、個人の意見が抑えられることで、意見の多様性や議論の場が制約されることも考えられます。

日本がこれからの社会の変化に対応していくためには、批判的思考力を養い、同調圧力に対する抵抗力を高める必要があります。教育の現場での取り組みや、個人の意識の変化が求められるでしょう。批判的思考力を持つことで、個人が自らの意見を持ち、社会に対して積極的に関与することができるようになるのです。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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