イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法
アン・ウーキョン
ダイヤモンド社
本書の要約
確証バイアスとは、「自分が信じているものの裏付けを得ようとする」傾向のことを指します。特定の商品やサービスに関する好意的な評価や口コミを積極的に探し求め、それを根拠として自らの決定や選択を正当化しがちです。これを避けるためには、情報を収集・評価する際のオープンマインドを持ち、様々な視点や情報源からの意見を取り入れることが重要です。
確証バイアスとは何か?
確証バイアスとは、人が「自分が信じているものの裏付けを得ようとする」傾向のことを指す。(アン・ウーキョン)
確証バイアスとは、人が「自分が信じているものの裏付けを得ようとする」傾向のことを指します。この心理現象は、自分の信念や仮説を支持する情報を集める一方で、反対意見や情報を無視したり軽視したりする傾向があります。つまり、自分が信じたいものを信じるということです。
確証バイアスは、日常生活やビジネスシーンでもよく見られます。例えば、ある商品やサービスについての良い口コミを探し、その情報を信じることで自分の選択を正当化することがあります。逆に、その商品やサービスについての批判的な意見や情報は無視してしまう傾向があります。
このような確証バイアスの影響を受けることは、私たちの意思決定に大きな影響を及ぼす可能性があります。確証バイアスによって、自分の持つ信念や意見が偏ってしまい、客観的な判断が難しくなることがあります。
ピーター・C・ウェイソンは、英国の著名な認知心理学者として知られています。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンでの彼の研究は、我々が情報をどのように解釈し、理解するかについての深い洞察をもたらしました。彼の最も有名な業績の一つとして、「2―4―6課題」が挙げられます。
この課題では、参加者に3つの数字、すなわち「2, 4, 6」が示され、その背後に隠されたルールを推測するよう求められました。
2―4―6課題の流れ
・ルールの説明
実験者は参加者に、ある特定のルールに従って数の三つ組を生成すると説明します。しかし、このルールは明らかにされません。参加者には最初の例として「2, 4, 6」という数の組み合わせが示されます。
・仮説の提案
参加者は、隠されたルールに基づいて自らの仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを確認するための新しい数の組み合わせを実験者に提案します。
・フィードバック
実験者は、提案された数の三つ組がルールに従っているか(「正しい」)または従っていないか(「間違い」)を回答します。
・ルールの特定
参加者は実験者のフィードバックを基に仮説を修正し、隠されたルールを特定しようと試みます。
多くの参加者は初めに、ルールが「次の数は前の数よりも2大きい」というものだと推測します。そして、この仮説をテストするために、例えば「8, 10, 12」というような三つ組を提案します。実際のルールは「数は昇順」であり、提案された組み合わせはこのルールに従っているので、実験者は「正しい」と回答します。 この時点で、多くの参加者は自らの仮説が正しいと確信することが多い。
しかし、実際には「3, 5, 7」や「1, 2, 3」もルールに従っています。参加者の多くは、自分の仮説を間違っている可能性があることを考えようとしないのです。ただただ、自分の仮説を支持する組み合わせばかりを提案する傾向があります。これは「確証バイアス」の一例として示されるもので、人々が自らの信念や仮説を支持する情報を探求する傾向があることを示しています。
この実験を通して、ウェイソンは人々が自らの仮説を検証するとき、なぜ自分の信じる答えや期待に合致する情報を優先して探求し、それに基づいて確認する傾向があるのか、という現象を明らかにしました。彼はこの現象を「確証バイアス」と命名し、我々の判断や意思決定における一般的な偏見の存在を科学的に示しました。
ウェイソンの研究は、我々が日常的に持つ信念や仮説がどれほど強力で、それがどのようにして情報の収集や解釈に影響を与えるかを示すものであり、今日の認知科学や心理学の分野においても非常に重要な位置を占めています。
広告に騙されない方法
2004年に英国で公開されたエビアンの広告は、多くの人々の目に留まりました。そのメッセージは、「エビアンのピュアナチュラルミネラルウォーターを毎日1リットル摂取することで、79パーセントの人々が肌の滑らかさや若返りを実感している」というものでした。
このような強力な主張には、多くの消費者が心惹かれるでしょう。しかし、これを鵜呑みにしてよいのでしょうか?
確かに、十分な水分摂取は肌の健康に良い影響をもたらすことが一般的に認知されています。ただ、それが特定のブランドの水でなければならないという明確な証拠は提供されていません。
言い換えれば、エビアンだけでなく、適切な水分量を含んだ任意の水を摂取すれば、同じ効果が得られる可能性が考えられます。 私たちが広告のメッセージに出会ったとき、既存の信念や期待に沿った情報のみを受け入れやすい確証バイアスが働くことがあるのです。
しかしそのようなバイアスにとらわれず、客観的な視点で情報を吟味することが必要です。 また、エビアンの広告の主張のような肌の効果は、人によって感じ方が異なる可能性があります。水分摂取が必要不可欠であることは間違いないものの、個人の体質や生活習慣によって、具体的な効果の度合いは変わってくるかもしれません。
消費者としては、エビアンや他のブランドの水の実際の効果や特徴を正確に理解し、自分のニーズや生活状況に合った選択を行うことが求められます。エビアンの広告は魅力的に映るかもしれませんが、情報を鵜呑みにせず、広告を疑い、自ら判断するようにすべきです。
なぜ確証バイアスは生じるのでしょうか? その理由をいくつか考えてみたいと思います。
・自己肯定感の維持
人々は自分の信念や価値観を正しいと信じたいという欲求があり、それを維持するために確証バイアスが働くことがあります。
・情報過多
現代社会では情報があふれているため、すべての情報を同等に評価することが難しく、自分の信念に合致する情報を優先的に受け入れることが効率的に感じることがあります。
・認知的なエネルギーの節約
すべての情報を中立的に評価することは認知的に負担がかかります。そのため、人々は無意識のうちに簡略化するためのショートカットとして確証バイアスに頼ることがあります。
広告はこの確証バイアスを利用して、私たちに製品やサービスを購入させようとすることがあります。広告に騙されず、確証バイアスの影響を受けずに情報を評価するための方法を以下に挙げます。
・多角的な情報源を利用する
一つの情報源だけに頼らず、さまざまな情報源からの意見や評価を取り入れることで、一方的な情報の影響を避けることができます。
・情報の背後にある意図を考える
広告やプロモーションの情報は、特定の製品やサービスを購入させることを目的としていることが多いです。情報の背後にある意図や目的を考慮することで、客観的な判断ができるようになります。
・自分の前提をチェックする
自分が持っている前提や信念について定期的に反省することで、無意識のうちに確証バイアスの影響を受けていないかを確認することができます。
・仮説を立てて検証する
新しい情報を受け入れる前に、それが本当に正しいのか、他の情報とどのように整合性が取れるのかを検証することで、情報の真偽を確かめることができます。
・第三者の意見を取り入れる
信頼できる友人や専門家の意見を聞くことで、自分の見落としている点やバイアスの影響を受けている可能性を警戒することができます。
・感情と論理を分けて考える
広告は感情に訴えることが多いです。感情的な反応と論理的な判断を分けて考えることで、冷静な判断ができるようになります。
広告が私たちの感情に訴えることは、マーケティングの一環として古くから行われてきました。感情は私たちの行動に大きな影響を与えるものです。そのため、広告制作においては、私たちの感情を理解し、心に響く要素を取り入れることが重要です。感情的な反応と論理的な判断をバランス良く考えることで、私たちはより良い広告を見極めることができます。
・定期的に学び直す
世の中の情報や状況は常に変わっています。定期的に新しい情報を学び、既存の知識や信念をアップデートすることで、時代遅れの情報やバイアスの影響を受けるリスクを低減することができます。
確証バイアスを認識し、その影響を最小限にするためには、情報を収集・評価する際のオープンマインドを持ち、様々な視点や情報源からの意見を取り入れることが重要です。
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