プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」 (野口悠紀雄)の書評

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プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」
野口悠紀雄
朝日新聞出版

本書の要約

日本国民の経済状況は年々厳しくなっていますが、これは日本社会の旧態依然の産業構造によるものです。これを変えるためには、様々な改革が必要です。補助金や為替相場変動、低賃金だけでは経済の再生はできず、日本は衰退を続けています。今こそ構造改革を行い、イノベーションを起こせる企業を増やすことが求められています。

日本は旧来の構造を守ることで貧乏になった?

日本の貧しさが、さまざまなところで目につくようになった。アベノミクスと大規模金融緩和が行なわれたこの10年間の日本の凋落ぶりは、目を覆わんばかりだ。 (野口悠紀雄)

日本の経済状況は、近年ますます悪化していることが目につくようになりました。アベノミクスと大規模金融緩和政策が導入された10年間で、日本の経済は深刻な衰退を経験しています。この現状は、私たちを驚かせるほどのものです。

1人当たりGDPでみると、2012年には日本はアメリカとほぼ同水準でした。しかし、現在では約3分の1になっています。2000年には1人当たりGDPがG7諸国中で最上位だったのに、いまは最下位を争っています。 日本の1人当たりGDPは、2012年にはアメリカとほぼ同水準であったことが分かります。しかし、現在では約3分の1まで低下してしまいました。

2000年までは、日本はG7諸国の中で1人当たりGDPが最も高い国でしたが、現在では最下位を争っている状況です。 このような経済的な凋落は、日本の将来に深刻な懸念を抱かせます。経済の低迷は、雇用機会の減少や所得格差の拡大など、様々な社会問題を引き起こしています。また、日本の国際競争力の低下も懸念されます。

いま必要なのは、補助ではなく、産業構造と社会構造を改革することだ。

日本の経済・社会の衰退は、固定化された旧来の構造に起因していると著者は指摘します。高度経済成長期の際の成功体験が、ある意味で新しい変化や挑戦に対する意識を持たせにくくしてきたとも言われます。経済の変化や国際社会との競争、新しい技術の進化に柔軟に対応するためには、社会の構造そのものを見直すことが必要でしょう。

岸田文雄政権下での補助政策は、短期的な経済刺激や特定の分野への支援を意図している部分もあります。一時的な支援は、確かに一部の層や業界からの支持を受けることが期待できるかもしれません。しかし、日本が長期的に持続的な成長や国際競争力を維持するためには、単なる補助金の投入だけでは不十分で、より根本的な社会構造の見直しや制度改革が求められます。

また、適正な為替レートに比べ円安にすることで、製造業にはメリットがあるかもしれませんが、企業の生産性が下がっています。円安による利益増加の誘惑に取り憑かれることで、企業が新規事業の開始や研究開発への投資を怠ったことで、企業の競争力を損ない、イノベーションの停滞を招いてしまったのです。

一方、輸入物価が上がることで、庶民の生活は苦しくなっています。日本の低価格の背景には、「安い」だけでなく、「賃金が低い」という要因が大きく影響しています。国内の商品やサービスが低価格で提供される一因として、この低賃金が挙げられます。

ビッグマック指数を見ると、アメリカのハンバーガーの価格は日本の約2倍という結果が出ており、これは日本の物価の低さを明確に示しています。低い賃金や物価の影響で、日本ではビッグマックのような商品が手ごろな価格で提供されています。

しかし、それとは対照的に、iPhoneのような外国製の高度な技術を要する製品は、日本の消費者から見ると高価に映ることが多くなっています。この背景には、iPhoneのような先進的な製品が日本国内での生産が難しいため、価格が上昇するという事情があります。

今後、インフレや原材料価格の上昇が進むと、低賃金の日本人にとって、ビッグマックさえも手が届かなくなる恐れが出てきます。このような経済的な変動に備える必要があります。

もし、日本が必要なすべての財やサービスを国内だけで賄えるのならば、「賃金が低い代わりに物価も安い」という状態を保つ閉鎖経済モデルも一考に値するでしょう。しかし、現実にはそうはなりません。国際的な取引や技術の交流が進む今の時代、各国は相互に依存して経済を展開しており、完全な自給自足は難しいのが実情です。

したがって、賃金の低さと物価の安さだけを追求する経済モデルは、中長期での持続可能性や国際競争力の観点から見ると、必ずしも最適ではないのです。

日本の国際的な地位の低下は低い成長率と円安に原因があるのです。現代の経済環境では、産業構造の変革や新しいビジネスモデルの導入、そしてデジタル化の推進は不可欠です。これらの要素は、単に新しい時代のトレンドであるだけでなく、日本の賃金上昇のための具体的な手段となるのです。

今こそ、構造変化を断行するタイミングです。新しい技術やビジネスモデルの導入、教育の改革、労働市場の柔軟性の確保など、多岐にわたる対策が求められています。また、民間の活力やイノベーションを促進するための環境整備も重要となります。

日本の持つ伝統や文化を尊重しつつ、新しい時代の変化に柔軟に対応できる社会を目指すことが、今後の課題として位置づけられるでしょう。今こそ日本企業は付加価値経営にシフトし、価格を高め、従業員の賃金をアップすべきです。

デジタル化が進まない理由

重要なのは、高度の専門的技術を身につけた人材が相応に報われる社会構造を作り上げていくことだ。

日本の低賃金問題は、一見「生産性が低いから」と解釈されることが多いですが、実際のところはもっと複雑です。日本の労働市場には、十分な能力や才能を持つ人材が豊富にいます。だが、問題は彼らの能力が十分に活かされていない点にあります。

一因として、現代の日本の労働環境や企業文化が挙げられます。例えば、長時間労働が常態化している企業や、伝統的な上下関係が強い職場では、新しいアイディアや取り組みが封じ込められてしまうことがあります。 結果として、多くの才能ある労働者たちが、自分の真のポテンシャルを発揮することなく、低賃金での労働を余儀なくされています。

結果、日本の高度な技術者や専門家の海外への転出が増加しています。特に、若手の才能ある日本人技術者が基礎を身につけた後、GAFAなどの海外のIT大手に引き抜かれるケースが増えています。技術者や専門職の給与がダントツに低い日本を見限る動きが出ているのです。この現象により、日本でどれだけデジタル人材の育成に努めても、彼らが海外の魅力的なオファー(高額な賃金やインセンティブ)に応じて転職する可能性が高まります。

Googleのエンジニアの年収の最高額が1億円を起こす中で、日本のIT企業の年数は高くても1000万程度と10倍の開きが生まれています。この賃金格差により、優秀な技術者や金融人材が海外流出する可能性が高まっています。言語というハードルも最近では、AIが解決しつつあります。

日本がデジタル化を推進しようとするときに、必要な人材を確保するのが難しくなるという懸念が生まれます。これは、日本の経済の持続的な成長や国際的な競争力を損なう重大な問題となるのです。この流れを食い止め、日本国内でのキャリアパスや待遇を再考することが、今後の重要な課題になります。

1990年代の中頃から急速に普及したインターネットは、組織と組織、あるいは人と人を直接につなぐという意味で、重要な変化をもたらした。その際、組織と組織が共通のルールに従ってデータを処理していないと、うまくつながらない。縦割り構造の日本社会は、このような仕組みの情報手段には、うまく対応できなかったのである。それが最も明確に表れているのが官庁だ。官庁ごとに異なるベンダーが構築した仕組みなので、隣の官庁であっても、データ通信回線で結ばなければテレビ会議ができないというような事態が起きてしまう。

日本がデジタル化に遅れているのは、単に技術的な要因だけではなく、日本の社会構造や組織文化とも深く関わっています。インターネットにアクセスする技術や設備が不足しているわけではないのです。日本の組織文化や取り組み方に根ざした問題が、デジタル化の障壁となっているのです。

まず、日本の組織文化は従来の体制や手続きに固執する傾向があります。新しい技術や手法への取り組みを進めるためには、既存の組織文化を変革する必要があります。しかし、組織の中での情報共有や意思決定のプロセスが煩雑であったり、上下関係が厳しいため、意見が届かずに新しいアイデアや取り組みが生まれにくくなっています。

また、日本の組織は縦割りの傾向があります。各部門や部署が独立して業務を進めるため、情報やデータの共有が十分に行われていないことがあります。これにより、組織全体でのデジタル化の取り組みが難しくなっています。

デジタル化を実現するための大きな要因として、専門的なスキルや知識を持った人材の不足が挙げられます。この人材不足は、デジタル変革のスピードを鈍化させています。 さらに、ビッグデータの効果的な活用が進んでいない点も遅れの要因として考えられます。

データの分析や活用を通じて、新しい価値を生み出す取り組みが必要です。 加えて、多くの日本企業が攻めの投資を控える傾向にあるのも無視できません。デジタル化に向けた投資はリスクを伴うものの、変革のためには避けては通れない道です。

金融緩和による低金利や円安の政策、さらに政府の補助金といった取り組みだけでは、経済の課題を根本から解決することはできません。実際、これらの政策がもたらす環境は、企業が無為に時を過ごす「ぬるま湯」のようなものとも言えます。安易に利益を上げられることで、企業はイノベーションを起こさなくなっているのです。

企業の成長やイノベーションを促進するためには、この「ぬるま湯」から飛び出し、自らが新しいビジネスや技術開発を主導する姿勢が求められます。 一時的な政府の介入や金融政策だけでは、経済の実態を向上させることは難しいというのが本書の主張です。企業が真に持続的な成長を追求するためには、若い力を活用し、新しい事業展開や技術革新に本腰を入れることが必要不可欠です。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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