どうすれば日本人の賃金は上がるのか(野口悠紀雄)の書評

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どうすれば日本人の賃金は上がるのか 

野口悠紀雄
日経BP

本書の要約

日本人の賃金が上がらない理由は企業の付加価値にその理由があります。就業者一人あたりの付加価値生産を増加させるそのために重要なことは、技術革新を進めることです。新しいビジネスモデルを確立し、新しい産業を興すことで、結果、企業の生産性が高まり、従業員の給与がアップするのです。

日本人の賃金が上がらない理由

日本人の賃金は、この20年以上の期間にわたって、ほとんど上昇していない。これは先進国では例外的な現象だ。多くの国で賃金が上昇しているので、日本人は相対的に貧しくなっている。この傾向には、なんとか歯止めをかけなければならない。(野口悠紀雄)

若い世代だけでなく、ミドル世代の賃金が上がらず、日本人はどんどん貧しくなっています。最近は円安も加速し、物価が上がる中で、日本人の生活が苦しくなっています。

一方、GAFAMなどのアメリカ先端企業の給与は日本人の常識を超えたものになっています。例えば、グーグルのトップクラスのエンジニアの年収は、1億円を超えています。韓国や台湾の賃金も、高い伸び率で成長を続けています。悲しいことに韓国の賃金水準は、すでに日本を追い抜いています。一体この違いはどこから生まれるのでしょうか?

野口悠紀雄氏は、賃金や給与を考える場合には、付加価値=「稼ぐ力」が最も重要な指標だと指摘します。欧米の企業に比べ、日本は付加価値を高める経営をしていないというのです。

就業者一人あたりの付加価値は、「生産性」と呼ばれますが、この生産性が低いために日本人の賃金は低いままなのです。「賃金は生産性によって決まる」いう常識を経営者や政治家や官僚が持たない限り、日本の賃金の上昇は望めません。

統計を見ると、付加価値中の賃金の比率は、時系列的にあまり大きく変化していません。日本の賃金が20年間上がらない基本的な原因は、労働組合の力が弱まったことではなく、企業の稼ぐ力が停滞しているからなのです。

賃金を高めるためには、企業の稼ぐ力を高めなければならない。そして、その障害となっている条件を取り除き、稼ぐ力を高める環境を整備しなければならない。これが、賃金の問題を考える際の最も基本的な視点だ。

では、日本人の賃金を高めるためには、何をすればよいのでしょうか?答えは明確で、「就業者一人あたりの付加価値(生産性)」を引き上げることが必要になります。企業が新しい技術を開発し、新しいビジネスモデルを見いだす必要があるのです

日本人の賃金を上げるために必要なこと

日本社会の構造を新しいものに改革するには、古い体制から利益を受けている既得権を打破することが必要だ。そのためにとくに重要なのは、既得権を保護している規制を緩和、あるいは撤廃することだ。ただし、公正な分配と成長とは、相反する課題ではない。既得権打破や規制緩和は、成長のために必要とされるだけでなく、公正な分配を実現するためにも必要なことだ。

この数十年で、アメリカの企業はDXを進め生産性を高めてきました。多くのベンチャー企業が大企業をディスラプトし、ITやバイオという分野で多くのイノベーションを起こしてきました。アメリカの政治家や官僚は規制緩和や撤廃を行う一方で、起業家は世の中の課題を発見し、イノベーションを起こし続けています。ベンチャー・スタートアップが既存業界を破壊することで、アメリカの成長が加速してきたのです。

就業者一人あたりの付加価値生産を増加させるそのために重要なことは、技術革新を進めることです。新しいビジネスモデルを確立し、新しい産業を興すことで、結果、生産性が高まり、従業員の給与がアップします。

この過程で、デジタル化の促進は重要な意味を持ちます。業務フローを見直し、DXにより、無駄を無くすだけで仕事の効率は著しく向上します。 それに加え、「ビッグデータ」の活用を図るべきです。データドリブン経営を実現することで、海外の企業との戦いの土俵にようやく乗れるようになります。

日本型賃金体系(年功序列的な報酬体系)も機能不全を起こし、DXを推進できる若手のやる気を奪っています。

日本企業は古い技術体系にしがみつこうとする。そして、変化する技術体系に適切に対応することができない。ましてや、新しい変化を世界に先駆けて実現することなど、ほとんど不可能だ。  

今こそ、若い人材が持つ専門知識を適切に評価し、彼らの賃金をアップさせる評価制度の導入が望まれます。 

日本の賃金は、長期にわたって停滞しています。これを放置すれば、日本の賃金が国際水準から見て低くなり、グローバル競争が激しくなる中、優秀な人材の獲得が難しくなります。日本の優秀な頭脳が海外に流出することも予想されます。実際、一部のベンチャー企業は日本の規制を嫌い、ビジネスのやりやすい海外にシフトしています。

日本企業の付加価値を高めるためには、新しいタイプの産業や企業が登場することが必要になります。20年前にアメリカで起こったことを今度は日本でも行うべきです。変わらない大企業に見切りをつけた若者が、日本の課題を解決するために、続々と起業しています。彼らの背中を押し、サポートすることが政治家、官僚、大企業の経営者に求められます。

これまでの産業では、生産性の向上には限度があるのですから、日本人の賃金を引き上げるためにも、ベンチャー企業を応援する仕組みをつくる必要があります。大企業は「両利きの経営」を実践し、優秀な若者にチャンスを与えるべきです。

昨今の円安は大企業を利するだけで、多くの国民のためにはなりません。金融緩和を続けたり、既得の産業を保護する政策を続けると、やがて経常収支赤字が膨らみ、円安が長期化します。

古いゾンビ企業に対して優しい政策を取るのではなく、新たなビジネスを産まなければ、日本の企業は価値を創造できず、日本人の賃金は低いままで、優秀な若者はやがて日本をスルーします。

人事評価を変更し、年功序列制や退職金を制度改革し、労働市場を流動化させることも欠かせません。高等教育の充実やリスキリングの推進、転職や起業を推進する政策を今こそ行うべきです。旧来型の産業構造を変換し、新たなイノベーションを起こす必要があります。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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