野口悠紀雄氏のリープフロッグ 逆転勝ちの経済学の書評

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リープフロッグ 逆転勝ちの経済学
著者:野口悠紀雄
出版社:文藝春秋

本書の要約

それまで遅れていた国が、ある時、急激に発展し、先を行く国を飛び越えて、世界の先頭に躍り出る現象をリープフロッグと言います。中国やアイルランドは、新たなテクノロジーやビジネスモデルを活用し、一気に先進国を逆転しました。日本は組織というレガシーを壊せなかったために、取り残されてしまったのです。

リープフロッグとは何か?

「リープフロッグ」とは、蛙跳びのことです。蛙が跳躍して何かを飛び越えるように、それまで遅れていた国が、ある時、急激に発展し、先を行く国を飛び越えて、世界の先頭に躍り出る。そして世界を牽引するのです。中国の躍進ぶりが注目を集めています。(野口悠紀雄)

経済大国だった日本は、なぜ中国に追い抜かれてしまったのでしょうか?著者の野口悠紀雄氏はその理由を「リープフロッグ現象」で説明します。 中国では、eコマース(電子商取引)が成長し、電子マネーによるキャッシュレス化が進んでいます。AIによる顔認証機能を利用した決済も導入され、無人店舗が広がっています。また、電子マネーの利用履歴から得られるデータを利用した信用スコアリングの「芝麻信用」などの新しいサービスも始まっています。

中国では、フィンテックやIoTなどの最先端分野において、著しい成長が続いています。固定電話が普及していなかったために、新しい通信手段であるインターネットやスマートフォンに一足飛びにジャンプする「リープフロッグ」によって、中国は一気に技術大国の道を歩み始めたのです。

リープフロッグ現象は、これまでも歴史のさまざまな場面で見られました。しかし、これほど大規模に起きたのは初めてのことです。

ヨーロッパで最貧国の1つで、かつては「ヨーロッパの病人」とまで言われていたアイルランドもこのリープフロッグ現象によって蘇ります。インターネットの普及で、アメリカのIT企業がアイルランドにコールセンターを設置したことがきっかけになり、アイルランドはテクノロジーを進化させたのです。

現在のアイルランドの一人当たりGDPや労働生産性は、世界のトップ水準になり、日本の2倍程度になっています。アイルランドは、工業社会を経験しなかったために、美しい自然や街並みが残され、人々は人間らしい暮らしをしながら、テクノロジーの恩恵を得ています。中国やアイルランドといったかつて遅れていたはずの国が、一気に先進国を追い抜いてしまうのです。

日本がリープフロッグできない理由

日本はリープフロッグではなく、キャッチアップ。 後発国は、新技術の発明と開発に必要な多大のコストを負担することなしに新しい技術を用いることができます。したがって、先進国より簡単に経済成長を実現することができるのです。明治維新後の日本の工業化が急速だったのは、それがキャッチアップ過程だったからです。 明治の急速なキャッチアップは成功でした。世界でも稀に見る成功です。日本の歴史の中でも特異な時期です。全国民が高揚感をもった時代だと思います。

成功というお手本のある時代は日本は強く、成長を持続できましたが、時代が変化する中で、キャチアップでは、イノベーションを起こせなくなっています。成長しない国、リープフロッグを起こせない日本はその活力を失っています。

かつての日本を成長させてきた集団教育や政府主導の産業政策・資本調達に頼っていては、変化の時代を生き残れなくなっています。今は、新しいアイディアを生み出す環境のほうが重要になってきて、個々のメンバーの力を引き出すことが、リーダーの役割になっています。

1980年代以降に、大きな変化が生じ、日本は成長できなくなっています。その理由は以下の2つです。  
1、先進国の中心産業が製造業から情報通信産業へと転換したこと。中国をはじめとする新興国が工業化に成功し、安い労働力で生産が可能になったことによります。
2、情報通信の技術に生じた変化です。それまでの大型コンピュータを中心とする集中型の仕組みから、PC(パーソナルコンピュータ)とインターネットを用いる分散型の仕組みに移行。  

AIとビッグデータの時代になって、この傾向がさらに加速されています。 大型コンピュータのシステムからインターネットに移行できない  日本の大企業は、大型コンピュータの時代に、自社独自の情報システムを構築しました。それは、自社内で閉じたシステムです。

日本の多くの企業(とくに大企業)は、いまだに閉鎖的な仕組みに閉じこもったままです。 キャッシュレス化が進まず 、スマホ決済が利用できるようになったときにも、利用はなかなか促進されませんでした。「これまでの仕組みで不便がないのだから、新しいものを導入する必要はない」という考えから、新たなチャレンジを怠ったのです。「世界最先端の仕組みを持っていたから、キャッシュレスへの転換ができなかった」のです。

一方、中国でキャッシュレス化が進んだのは、銀行システムが未発達だったからです。日本と中国は、対照的な条件下にあったため、異なる道を歩みました。レガシーの仕組みがあることで、それを破壊できずにいます。結果、日本ではイノベーションが生まれづらくなっています。

企業が変われなかったのは、社内に保守勢力がいるからです。過去の成功事業を推進した人々は、その後昇進し、経営方針に強い影響力を及ぼす地位についています。ところが、ビジネスモデルの転換のためには、過去の成功事業からの転換が必要です。しかし、そうすれば、過去のビジネスモデルを推進した人々の存在意義を否定することになります。彼らが新しい事業に反対し、抵抗勢力になるのは、当然のことです。

大部分の日本企業は、環境の大変化に直面しても、それに対応しようとせず、変化を拒んできました。過去のビジネスモデルを継続することで、時代に取り残されてしまったのです。新しい経済活動においては、ルーチンワークを効率的にこなすことではなく、独創性が求められます。

「リープフロッグとは、更地に建物を建てるようなものだ」と著者は言います。コンピュータシステムにおいても、「古いシステムが残って稼働し続けているために、新しいシステムに移行できない」というレガシー問題が日本には存在します。

日本の多くの経営者はデジタルを理解していないため、レガシーシステムを取り壊せずに改修で対処しようとしています。システムだけでなく、閉鎖的かつ前例踏襲などの日本型組織の問題が、多くの企業の成長を疎外しています。日本型組織自体が深刻なレガシーとなり、これが変化の最大の障壁になっているのです。

日本のシェアリングエコノミーの市場規模は2016年で4700億~5250億円程度です。中国は日本の150倍以上になっていますが、中国でシェアリングエコノミーが普及した最大の理由は、スマートフォンと電子マネー決済が普及していたことです。

日本のような固定電話が広く使われている社会では、シェアリングエコノミーはなかなか進展しませんでした。中国は古い情報通信手段に束縛された社会構造ではなかったこと、SNSを積極活用したことで、新しいサービスが発展しました。中国でのシェアリングサービスの急速な進展は、リープフロッグ現象で説明可能です。新技術の導入を阻害する抵抗勢力の反対と規制がなかったことも、シェアリングエコノミーの成長を後押ししました。

では、先進国の座すら失いそうな日本に未来はあるのでしょうか?その答えもリープフロッグにあり、著者はその条件を以下のように整理しています。
■技術とビジネスモデル
■DXがわかる経営者と人材、とくにリーダーと専門家

リープフロッグするためには、新しい技術が登場し、それを用いる新しいビジネスモデルが開発されることが必要です。この場合のビジネスモデルは、その国に合ったものでなければならず、それが新しく創出されなければなりません。キャッチアップ型の経済成長においては、先進国というモデルが存在するために、ビジネスモデルはすでに存在しています。そのため、政府がリードしてそれを実現するのが効率的な方法なのですが、リープフロッグの場合には、そういうわけにはいきません。政府は、新しいビジネスモデルの開発は不得手です。

新しい技術の開発は民間が行い、政府がそれをサポートするべきです。改革をリードするのは政府ではなく、民間だと言う風にマインドセットを変えなけれな、リープフロッグは起こりません。変化に積極的に対応できる企業と人々が、これからの社会において成長し、対応できなかった古い組織が衰退してきます。そのためには、世界に向かって開いた社会を作ることが必要です。

歴史上のリープフロッグ現象も、細かく見れば、必ず個人や企業のリープフロッグを伴っていました。私たちは企業や個人がリープフロッグできる社会を作り上げなければなりません。

豊かになり過ぎ、目標や活力を失っている日本人は、今こそマインドセットを変え、行動するべきです。逆転が可能であると信じ、一人一人が実力を蓄え、逆転を目指すことで社会を変えられます。勉強し、新しい技能を身につけ、常に自分の能力を高めようと努力することが、日本を復活させる力になるのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
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