店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる――倉本長治の商人学
笹井清範, 柳井正
プレジデント社
倉本長治の商人学の要約
商人は、顧客の幸福を最優先に考え、社員の成長をサポートする必要があります。さらに、経営者としての柔軟性と学び続ける姿勢が求められます。現代のビジネスシーンにおいても、倉本の哲学は非常に価値があります。短期的な利益を追求するだけでなく、長期的なビジョンを持ち、持続的な価値を提供することが重要です。
店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる。(倉本長治)
19世紀末、和菓子の家系に生まれた倉本長治は、戦前から商業の発展と商人の教育に努めました。当時の人々は「彼の話には希望があった」と言います。後に、出版社「商業界」で筆を取り、「商業界ゼミナール」を開催。多くの商人に道を示し、助言しました。彼の指導のもと、一部の経営者は大きなチェーンストアを築き、一部は地域の商店を守り続けています。
倉本は、商人としての在り方や商いの本質についての深い洞察を持っていました。彼のメッセージは、商業活動を通じてどのように社会や人々の幸福を追求すべきか、そして商人としての道徳や倫理をどのように保ち続けるべきかというテーマに焦点を当てています。
彼の言葉には、商人が直面するさまざまな課題や困難に対する答えやヒントが詰まっています。商いを続ける中で迷ったとき、彼のメッセージはまるでコンパスのように、正しい方向へと導いてくれるのです。 倉本の考えは、単に利益を追求するだけの商業活動ではなく、商人としての社会的な役割や責任を深く理解し、それを実践することの大切さを伝えています。
倉本の教えは、今日のビジネスパーソンにとっても、商いの真髄を再確認し、より良い商業活動を目指すための指針となっています。実際、倉本は、その先見の明と商業に対する深い洞察力で多くの商売人に影響を与えました。特に、ユニクロの創業者である柳井正氏は、彼の考え方やビジネス哲学から大きな影響を受けたと本書で述べています。柳井氏は倉本の教えを基に、ユニクロを国際的なアパレルブランドにすることに成功します。
お客様は厳しい存在です。お客様は一度あるものを手にしたり、体験したりしたら、それが基準となります。そして次からは、その基準以上のものを求められます。 その繰り返しに応えていくのが商売です。商売は、毎日お客様から投票いただいているようなものですから、お客様のためを思って活動していない企業にお客様が投票してくれるはずがありません。(柳井正)
商売人の心得とは、自らの行動や提供するサービスが、真にお客様のためになっているかを絶えず検証することです。この継続的な自問自答がなければ、本質的な価値を持つアイデアは生まれません。
「お客様第一主義」は単なるスローガンではありません。それは、お客様に対する深い愛情と敬意を持ち、彼らの笑顔を最優先に考える姿勢を指します。そして、その実現のためには、常にお客様の期待を超えるサービスや価値を提供する努力が求められます。
真の商売人は、お客様の利益を最前線に置き、そのための革新的なアイデアやサービスを生み出すことに全力を尽くします。それが、長期的な信頼関係を築き、持続的な成功へと導く鍵となるのです。
倉本長治の商売十訓
倉本長治の「商売十訓」は、商業活動を行う上での心得や原則を伝えるものです。この十訓には、商人としての正しい考え方や行動の指針が詰まっています。 「商売十訓」は、単なる言葉の羅列ではなく、その背後には深い哲学やビジネスの本質が込められています。それぞれの訓には、商人としての道徳や倫理、そして成功へのヒントが隠されているのです。
1.損得より先きに善悪を考えよう
商売は損得を離れることは出来ないが、これからは善悪をこれに優先せしめよう。
2.創意を尊びつつ良い事は真似ろ
商売に創意工夫を尊重し、なお善いことは研究のうえ大いに真似る進取性も持とう。
3.お客に有利な商いを毎日続けよなりわい
お客に喜びや利益を与える営みが商人の正業と知って、これを素直に実践しよう。
4.愛と真実で適正利潤を確保せよ
博い愛情、隠すところのない真実と懸命な精進とで必要な最低利潤を確保しよう。
5.欠損は社会の為にも不善と悟れ
欠損は社会に対する悲しむべき罪と悟り、利益はお客とともに分ち合う喜びと知ろう。
6.お互いに知恵と力を合せて働け
商売の革新と繁栄のために、同友は互いに力を合せ、知恵や知識を借り合おう。
7.店の発展を社会の幸福と信ぜよ
人間の幸福を果しなく追求して、商売の発展に永遠の希望を抱き続けよう。
8.公正で公平な社会的活動を行え
社会に貢献する仕事の担い手として、いつも公正で公平な商売をしよう。
9.文化のために経営を合理化せよ
商売が文化を促進するという信念の下に常に経営合理化の責任を自覚しよう。
10.正しく生きる商人に誇りを持て
真商道とは、人間の正しさに尽きることと深く認識し、われらは誇り高く生きよう。
これらの訓えを日常のビジネスに取り入れることで、商いの質を高めるだけでなく、顧客との信頼関係を築く手助けとなります。また、困難な状況や選択のときに、これらの訓えを思い返すことで、正しい判断や行動を導き出すことができるでしょう。
商売は今日のものではない。永遠のもの、未来のものと考えていい。それでこそ、本当の商人なのである。人は今日よりもより良き未来に生きねばいけない。
商売とは、単なる今日の取引や利益を追求するものではありません。倉本は、商売を「永遠のもの、未来のもの」と捉えていました。彼のこの考えは、商人としての深い哲学やビジョンを示しています。 商売の本質は、今日だけの成功や利益を追求するのではなく、未来に向けての持続的な価値創造にあると考えていたのです。
商人の真の目的は、顧客や社会に対して持続的な価値を提供することにあります。倉本長治は、この考えを「人は今日よりもより良き未来に生きねばいけない」という言葉で表現しています。これは、商業活動だけでなく、人としての生き様や価値観にも通じる深いメッセージです。
また、倉本は「店主とともに滅びる」という言葉を通じて、経営者の成長の重要性を強調しています。商業は絶えず変化する競争の舞台。その中で生き残るためには、経営者自身が学び続け、進化し続けることが不可欠です。
倉本の教えは、商人の道しるべとしての役割を果たしています。商人は、顧客の幸福を最優先に考え、社員の成長をサポートする必要があります。さらに、経営者としての柔軟性と学び続ける姿勢が求められます。
現代のビジネスシーンにおいても、倉本の哲学は非常に価値があります。短期的な利益を追求するだけでなく、長期的なビジョンを持ち、持続的な価値を提供することが、真の成功への鍵となります。
倉本長治の考え方は、私たちが直面するビジネスの課題や困難に対する貴重な指南書となるでしょう。そして、著者の笹井清範氏が様々なケースを付加し、解説することで、さらに深く、分かりやすく、倉本の教えを理解できます。あとは実践あるのみです。
コメント