タイパの経済学 (廣瀬涼)の書評

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タイパの経済学
廣瀬涼
幻冬舎

タイパの経済学(廣瀬涼)の要約

自分が大切にする価値や欲望は、他人ではなく、自分自身が一番よく知っています。そういった自分らしい消費を大切にしながら、一方で流行や一時的な消費に対してはタイパやコスパを追求すし、使い分けることが重要です。これこそが、現代の消費社会で賢く生き抜く方法なのです。

タイパ消費がZ世代のトレンドになっている理由

Z世代の市場環境は、それ以前の世代と比較すると、ネットの普及やなによりSNSがインフラ化したことで、得られる情報量が圧倒的に増加し、それに伴って消費したいと思うモノやコトと接触する機会も増えたことです。 (廣瀬涼)  

Z世代を中心として、「タイパ」(時間対効果)という新しい価値観が浸透してきました。これは単に「時短」を求めるのではなく、「限られた時間の中で最大限の効果を得たい」という意識が強くなっていることを示しています。

従来の消費者は、物やコンテンツを単なる消費品として捉えていましたが、Z世代はそれを超えて、「コミュニケーションの“きっかけ”や“手段”」として捉えています。彼らは、時間をムダにせず、効率的に使いたいという思いが強いのです。

これは、サブスクリプションサービスの普及や動画コンテンツのショート化といった環境の変化が関与していると考えられます。 例えば、サブスクリプションサービスは、定額制で多くのコンテンツが利用できるため、時間と費用の両面で効率的です。

また、動画コンテンツのショート化は、手軽に視聴できるため、忙しい日常の中でも時間を有効に活用することができます。 さらに、Z世代は「すぐに詳しくなりたい」という意識の転換も起きています。インターネットの普及により、情報にアクセスするスピードが格段に速くなりました。

彼らは、時間をムダにせず、効率的に情報を得ることを重視しています。インターネット上の検索エンジンやSNSを活用し、必要な情報を素早く収集することができます。 このような背景から、「タイパ至上主義」という言葉が登場するほど、Z世代は時間効率を重視しています。彼らは限られた時間の中で最大限の効果を得ることを大切にし、それに合わせた消費行動をとっています。

SNSに溢れているということは再現性が高く、言い換えれば誰がやっても同じような結果しか出ないのである。さまざまな消費の疑似体験がSNSに溢れていて、その現象、その商品、そのエンタメなど一つ一つの消費結果はおもしろそうに見えるからこそ、「わざわざ」自分が消費する必要があるのか探究し、他人の投稿結果の閲覧で満足できてしまえば、消費行動に「わざわざ」移す必要がないのである。  

サブスクリプション市場は多様化しており、映像コンテンツだけでなく、車や焼肉、さらには切り花まで、さまざまな商品やサービスが定期的に手に入る時代になりました。メルカリなどのフリマアプリの普及も手伝い、物を所有することの必要性を問い直す動きが強まっています。

これは、フリーミアムの価値観とも似ており、自分がどう消費すべきか、そして失敗しないようにという意識が背景にあると言えます。 現代の状況は、お金に余裕はないが、時間と情報は豊富で、これにより、お金を使わずに楽しむための受動的な行動、例えばフリーミアムのコンテンツを楽しむ時間が増えています。

わずかなスキマ時間も、動画視聴やSNSで過ごすことができる現代。その結果、スキマ時間内で一つのコンテンツを完結させる短い動画が多くの人に支持されています。この背景には「インスタントに娯楽への欲求を満たすコンテンツの消費文化」と筆者は捉えています。

実際、YouTube動画やSNSは特に手軽に利用できるツールとして多くの人に重宝されています。 このような生活の中で、短い時間でも十分に楽しめる、5分や10分程度の動画が特に注目を浴びています。通勤や休憩時間にさっと楽しめるこのような短編動画は、多様なジャンルで提供され、多くの人々からの支持を受けているのです。

最近ではタイパを意識した動画の倍速視聴や書籍の要約サイトが、Z世代だけでなく、ビジネスパーソンにも人気になっています。

タイパ消費だけでは人生は味気ないものになる?

ラーメンをコスパよく食べたいという目的は、ラーメンを食べること以外では達成できない。しかし、例えば動画視聴におけるタイパの追求は「観た状態」=「そのコンテンツを媒介にコミュニケーションができる状態」になればいいだけなので、必ずしもその動画を観なくてもいいのであり、その目的を達成しうる手段の効率や費用対効果を比較することがタイムパフォーマンスの本質といえるだろう。

「タイパ」という言葉は現代の消費文化において重要なキーワードとなっていますが、その性質を考察すると3つの大きなカテゴリーに分けることができます。
①時間効率の最適化
これは、日常の仕事や家事など、時間と労力を要するタスクを効率的にこなすことを指します。

②消費結果の時間評価
こちらは、何かを消費した後、その効果が投資した時間に見合っているかどうかの評価です。例として、一年間の英会話教室で実際に英語を話せるようになれば、その教室の「タイパ」は良好だと判断される。

③短時間での認知・理解
これは、少ない時間で最大の効果や知識を得ることを目指すもので、特に若者の中で見られる現象です。倍速視聴や短時間でのコンテンツ消費は、他人とのコミュニケーションのための知識や経験の獲得を目的としています。

結論として、一つの言葉「タイパ」には、さまざまな側面や背景が存在しており、単に「時間対効果」という狭い範囲で捉えることは適切ではないと言えるでしょう。

タイパには、以下の4つの核心的要素があります。
・効率性
より少ない労力や時間で、最大の成果や効果を得ること。

・計算可能性
タイパを数値化し、具体的に評価することができる性質。

・予測可能性
未来の成果や効果を事前に見越して行動を選択すること。

・統制
状況や条件をコントロールして、タイパを最適化する能力。

“タイパ”という言葉が一般的に知られるようになった背景には、特に「手間をかけずに〇〇の状態になる」、例えば、若者が映画を視聴する際の効率性を求める行動などが挙げられます。この「手間をかけずに〇〇の状態になる」がZ世代のタイパの定義になるのです。

しかし、この新しい定義とは別に、昔からの「作業の効率性」が、大人たちのタイパの常識になっており、若者世代とのギャップを生んでいます。

情報に溢れ、消費したいと思う興味対象も総じて増加しているからこそ、私たちの消費へのあくなき探求心は、興味の一貫性より、興味の流動性を求めており、タイパ志向(手間をかけずに○○の状態になる)の消費は、興味から興味への移り変わりに対する心理的コストの削減や、新たに生まれた興味への熱量の維持につながるのだ。

ドリンクバーでの仲間との交流や映画鑑賞といった行為において、目的は単に使用価値やその効用を求めることではなく、その消費を通じて他者との良好な関係を築くことになります。

もし、その消費が自分自身の心の充実に直結するならば、カフェでのドリンクや映画自体に、消費者はフォーカスします。しかし、実際の消費の背景には、他者との交流を円滑にするという副次的な効用が求められているのです。そのため、コミュニケーション型の消費行為では「いかに効率よく」「いかにコストを抑えるか」というタイパやコスパの観点が強く意識されてしまうのです。

社会的に充足していると感じるためには、世間から取り残されていないと実感することが重要です。私たちが特定の商品やサービスに対して明確な興味がなくても、それが「流行っている」と聞けば、気になることが多いのです。なぜなら、その商品やサービスが社会的な話題となっているということ自体が、私たちにそのものに興味を持つ理由となるからです。

流行るものを消費することは、自分が世の中の動きと繋がっていると感じられる接点となります。 このため、多くの人が流行を追いかけるのです。流行を追いかける背景には、商品そのものの使用価値を求めるのではなく、その商品を通じて得られる社会的な交流や価値を期待しているからです。

しかし、流行は移り変わりが早く、SNS上では簡単にその情報が再現・共有されます。このため、実際に自分が消費しなくても、他人の投稿を見ることで「流行に触れたつもり」になることが可能となります。また、最小のコストで流行に乗る方法を追求する、つまりコスパを意識する動きも見られます。これらの行動は、現代の消費文化とSNSの影響を色濃く反映していると言えるでしょう。

若者は「オタ活」というフレーズで、自分の趣味や関心に対する熱意を示しています。これは特定の興味対象に対する情熱や関心をもち、関連するものを消費する特有の行動パターンです。現代の消費の中にはこの「モーメント消費」という考え方が浮上してきており、これは消費するものや体験そのものを深く価値あるものとして捉え、そのプロセス自体を楽しむ消費です。

この「モーメント消費」と効率やコストパフォーマンスを重視する「タイパ」志向の消費は、まるで水と油のように相反する性質を持っています。タイパを追い求める消費は、最小の労力や時間で最大の利益を求めますが、「モーメント消費」は消費の過程自体を大切にします。 ただ、時間や資金は限られています。そのため、現代の消費者はどのようにこれらの資源を使うかを慎重に考える傾向にあります。

そして、消費の結果として「損」を感じた場合、次の消費に対して躊躇することが増えます。 彼らは失敗を避けるために、まずは、答えの書かれているコンテンツを参考にしているのです。

なんでもかんでもタイパやコスパが追求されてしまうのは合理的ではあるが、味気ない。

私たちの消費は「必要不可欠ではない消費」が中心で、交流的価値の創造を目的とした①「外部刺激を受けて必要に駆られる消費」と②「消費した使用価値によって精神的充足につながる消費」が追求されています。

精神的充足に直接つながらない、外部刺激を受けて必要に駆られる「じゃないモノ消費」ではタイパが追求され、ファスト映画や動画倍速視聴などでコンテンツが消化される傾向があります。

他人のSNS投稿や流行りの「じゃないモノ消費」に左右されると、本来の自分を満たす消費や、大切な人との共有の瞬間、価値あるライフイベントまでが、単なる効率やコスパを求める消費になりがちです。確かに消費は私たちの生活を豊かにする要素を持っています。そして、交流を増やすための消費も心の豊かさにつながることがあります。

しかし、ただのコミュニケーションの材料として消費すると、期待は必ずしも報われるわけではありません。 本当に心を満たすものは、一時的な流行や他人の影響を受けた「じゃないモノ」ではなく、自分自身が本当に求めているものです。

自分が大切にする価値や欲望は、他人ではなく、自分自身が一番よく知っています。そういった自分らしい消費を大切にしながら、一方で流行や一時的な消費に対してはタイパやコスパを追求すし、使い分けることが重要です。これこそが、現代の消費社会で賢く生き抜く方法だと著者は指摘します。

「消費は楽しむためのもの」という本来の意味を忘れ、過度にタイパやコスパを追求すると、その楽しみは薄れてしまいます。他人の基準にとらわれず、自分が心から喜ぶものにお金と時間を投資することで、人生の満足度が高まることを忘れないようにしたいものです。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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