目に見えない企業文化を測る方法(マシュー・コリトー , アミル・ゴールドバーグ , サミア B・スリバスタバ)の書評

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目に見えない企業文化を測る方法
マシュー・コリトー , アミル・ゴールドバーグ , サミア B・スリバスタバ
ダイヤモンド社

本書の要約

企業文化は効率性を重視する同質な文化と、イノベーションを重視する多様性のある文化の2つに大別されます。イノベーションを起こすことが欠かせぬ時代には、効率性だけでなく、多様性も含めバランスを取る必要性があります。経営者には従業員の多様な視点やアイデアの尊重と共通の規範や信条を共有することが求められます。

組織文化をよくする4つのテーマ

企業文化は、成功を促す触媒になることもあれば、成功を蝕むこともある。(マシュー・コリトー , アミル・ゴールドバーグ , サミア B・スリバスタバ)

近年、コミュニケーションのオンライン化とデータ処理技術の進化は、企業に新しい機会をもたらしています。特に、従業員のオンラインでの発言データを用いて企業文化を分析する取り組みが注目を集めています。

現代のデータ技術の進歩は、この古いジレンマを乗り越える新しい道を示しています。 メールやSlackなどの従業員の発言データ(デジタルの足跡)を分析することで、企業文化の実態や従業員の実際の価値観、悩み、希望などを具体的に把握することが可能になりました。この深い洞察により、効率性とイノベーションを両立させるための具体的な手段や方針を見出すことができるようになります。

例えば、従業員のコミュニケーションデータから、新しいアイディアや提案が生まれやすい環境や、効率的な作業が行われる背景を明らかにすることができます。これにより、企業はその両方を実現するための施策を練ることができるようになります。 最終的に、データ技術を活用することで、企業は「効率性」と「イノベーション」のバランスをより良く取る方法を見つけ出すことができ、持続的な成長を実現する可能性が高まります。

ただし、時に文化が組織を阻害する場合もあるので、著者らのアドバイスを参考にするとよいと思います。

著者らは4つのテーマで企業文化を研究しています。
①文化への適合性と順応性
著者らは従業員やチームメンバーが既存の企業文化やチーム文化にどれだけうまく適合・順応できるかについて考察しています。実際、文化への適合の度合いが高い従業員は、昇進や仕事が高評価され、高額の賞与に結び付きやすく、自己都合以外の退職も少なかったと言います。

また、時間とともに変わる文化的規範に素早く順応した従業員のほうが、採用時に文化への適合性が高水準だった従業員よりも成果が高かったことが明らかになったのです。

組織に定着し献身的に働く従業員を育てたい企業は、現在の従業員と類似の価値観を持つ人材を中心に採用すべきことがわかる。すぐに職場に溶け込んで成果を上げる従業員を必要とする企業は、新しい文化への順応力を示す人材に注目すべきだ。

価値観が企業文化と整合性が取れている従業員の退職率が低いこともわかっています。

②文化への適合のメリットとデメリット
すべての従業員が文化に適合することは果たして良いことなのか、あるいは逆にリスクがあるのでしょうか?著者らは、文化への適合がもたらすメリットと同時に、それに伴う潜在的なデメリットにも目を向けています。

組織内でのパフォーマンスと組織文化への適合性の関係は、近年の研究でさらに明らかにされています。組織文化に順応することの利益は、異なる部門やチーム間でのコミュニケーションの橋渡しを担う従業員にとって特に顕著です。

例えば、エンジニアリング部門と営業部門の間をつなぐ役割を果たす従業員にとって、両方の部門の文化や言語を理解し、使いこなす能力は非常に価値があります。彼らはエンジニアたちの技術的なジョークや用語を理解し、一方で営業のチームとの顧客中心のコミュニケーションにも適応できるという強みを持っています。

しかし、組織文化に適切に適合できないで橋渡しの役割を試みる従業員は、困難な状況に直面することが多いと言います。彼らはしばしばどの文化やグループにも完全には属していないと感じ、結果として組織内での位置づけが不確定であるか、または異端者と見なされるリスクが高まります。

一方で、組織文化に完全には馴染まない従業員も、一定の利点を享受している例が見受けられます。これは、異なる社内グループをつなぐ橋渡し役ではなく、特定の社会的グループ内で深い関係性を築いている人たちの場合です。彼らは、強固な社内の信頼関係を基盤に、自らのユニークな立場や異質さを持つデメリットを補完し、それを強みとして活用しています。

このことから、組織においては順応能力の高い従業員だけでなく、独自の文化や価値観を持つ「異質な」人材も含めた多様な採用が効果的であるという考え方が浮かび上がってきます。順応者と異分子のバランスを取ることで、企業全体のイノベーションや活性化に寄与すると考えられます。

③認識の多様性
著者たちの調査は多様性について、興味深い結論を導いています。認識の多様性が業績に与える影響は、プロジェクトの進行段階によって変動することが示されたのです。具体的には、プロジェクトの初期段階、特に問題の特定フェーズにおいて、多様性は目標達成の障壁となる可能性が高まります。

しかし、プロジェクトの中盤、新しいアイディアが必要な段階での多様性は、成功率を向上させる要因として機能するのです。一方、プロジェクトの最終段階、実際の実行フェーズに入ると、多様性は再度、達成の妨げとなることが考えられます。このように、多様性の効果はプロジェクトのフェーズに応じて変わることが確認されています。

④業績に対する多様性の効果
企業の文化に関する一般的な考え方は、効率性を重視する同質な文化と、イノベーションを重視する多様性のある文化の2つに大別されます。同質な文化を持つ企業では、共通の規範や信条を持つことで、効率的な連携が可能となりますが、新しいアイデアが出にくいという弱点が指摘されています。

一方、多様な文化を持つ企業では、さまざまな意見や考え方が存在することから、イノベーションが生まれやすいとされる一方、組織全体としてのコンセンサスを得るのが難しいとも言われます。

筆者らは採用ブランディングの口コミサイトのグラスドアの企業レビューをもとに、実際の企業の文化についての従業員の意見を分析しました。その結果、組織全体としての文化の多様性が高いと連携が難しくなることがわかりました。また、企業の総資産利益率(ROA)の低下といった課題が浮き彫りになったのです。

さらに興味深い発見として、従業員の「内なる文化的多様性」が高い企業は、高い時価総額や多くの特許を持つなど、イノベーションの観点で優れた成果を上げていることがわかりました。これは、従業員それぞれが多様な視点やアイデアを持ち、それを活かして仕事をしているからです。

このような事実を踏まえると、企業は効率性とイノベーションのバランスをうまく取るために、従業員の多様な視点やアイデアを尊重し、同時に共通の規範や信条を共有することが求められます。

ネットフリックスのケースを見れば、多様性を活かしつつも、透明性や説明責任といった共通の信条に基づいて連携して仕事を進めている様子が伺えます。

多様性の導入と組織文化のバランスを取ろう!

多くの企業が最高のパフォーマンスを追求する中で直面するのが、多様性の導入と組織文化の保持のバランスです。最後に改めて著者のメッセージを3つ紹介します。

第1に、採用時に重要なのは、組織の文化との適合性を持つ人材を選ぶことです。これにより、従業員の離職率を低下させる効果が期待できます。しかし、文化の適合性だけを重視すると、新しい視点やアイディアを持つ人材を逃してしまう恐れもあります。

このため、変化を受け入れ、組織の進化に柔軟に適応できる「順応性」を持つ人材の採用が鍵となります。そして、新しい視点を持ち込む”文化的異分子”も、組織の革新を推進する重要な役割を果たします。彼らが組織内で十分な支援と信頼を受けることで、その真価を発揮できるようになります。

第2に、リーダーには「チーム内の多様な視点の管理」が求められます。複雑な課題への革新的な解決策の発見には、多様な意見や知識が必要不可欠です。しかし、プロジェクトの実行段階や期限が迫る中で多様な意見が交差すると、進行を妨げる場合も。そのため、リーダーは、チームが結束して効率よく動くタイミングと、多様な意見を歓迎するタイミングを見極め、柔軟に対応する必要があります。

“多様性”という言葉は、従業員の属性や背景に焦点を当てることが多いです。しかし、著者らの研究で示されている「文化的多様性」とは、それだけではなく、従業員の考え方や価値観の多様性も含んでいます。この文化的多様性を理解し、組織内で有効に活用することで、企業はさらなる成長と革新を実現できるでしょう。

第3に多様性と共通の文化をうまく融合させることが重要です。これは、企業がイノベーションを追求しつつ、効率的に運営するための鍵となります。 多様な背景を持つ従業員が一堂に会すことで、新しい視点やアイデアが生まれやすくなります。

その多様性は、企業が複雑な課題を乗り越え、革新的な提案を生み出す際に、非常に大きな力を持つものです。例えば、マネジャーは、従業員に対して、様々なアプローチで仕事に取り組むことを推奨することができます。一つのプロジェクトでは強固な連携を、もう一つのプロジェクトでは競争心を刺激することで、最適な結果を引き出すことが可能です。

しかし、その一方で、企業内には共通の文化や価値観を持つことが必要です。従業員が共有する文化的規範は、団結力や連携を高め、結果として生産性を向上させます。リーダーは、日常のコミュニケーションや研修を通じて、その重要性を従業員に伝える責任があります。

イノベーションと効率性は相反するものではありません。両者の適切なバランスと方向性を持つことで、企業の成長とともに、従業員の満足度も向上させることができます。 この視点は、企業が競争力を持続的に維持し、新しい挑戦にも対応するための一つの方法論となり得るでしょう。


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