自分で選んでいるつもり―行動科学に学ぶ驚異の心理バイアス (リチャード・ショットン)の書評

two male and female mannequin wearing clothes

自分で選んでいるつもり―行動科学に学ぶ驚異の心理バイアス
リチャード・ショットン
東洋経済新報社

自分で選んでいるつもり (リチャード・ショットン)の要約

リチャード・ショットンによれば、私たちの選択や行動は心理バイアスに大きく影響されています。この「心の癖」を理解し、意識的に対策を講じることで、より正確で合理的な判断が可能となり、間違った選択を避けることができます。心の癖を知ることは、私たちの生活やビジネスにおいて大きなメリットをもたらします。

行動科学で自分を変える方法

レリヴァンス、ロバストネス、レンジ。この3つが、ビジネスに行動科学を取り入れるべき強固な理由だ。(リチャード・ショットン)

行動科学をマーケティングに応用する専門家のリチャード・ショットンは、私たちが自分で選んでいるつもりでも、実は心理バイアスに影響されていると述べています。この「心の癖」を知れば、私たちの行動を正しく変えられ、間違った選択をせずにすみます。逆に、マーケターは、心理バイアスを活用することで、自社製品の認知・理解を高めたり、購入を後押しできるようになります。

著者はマーケティングや広告業界での実践的な事例を交えながら、心理バイアスのメカニズムをわかりやすく解説しています。単なる心理学の理論だけでなく、実際のビジネスシーンでどのように応用できるかを具体的に示しており、日常生活や仕事における意思決定に役立つ知識を提供しています。

行動科学や心理学に着目すべき理由は、レリヴァンス(関連性)、ロバストネス(堅牢性)、レンジ(幅広さ)の3つのRに集約されます。これらの要素は、消費者の行動変化を促し、ビジネスにおける意思決定を支えるために不可欠です。

1. レリヴァンス(Relevance)
レリヴァンスは関連性を意味します。企業が消費者を競合ブランドから乗り換えさせたり、より高価な商品を選ばせたりするのは、消費者の行動を変えることです。ビジネスの本質は、行動変化を促す活動であり、行動科学や心理学の知識はその関連性を高めます。

2. ロバストネス(Robustness)
ロバストネスは堅牢性や確実性を意味します。マーケティングの理論には根拠があやふやなものもありますが、行動科学は異なります。行動科学の発見は、実験によって証明され、ピアレビュー(査読)を経て発表された研究に基づいています。したがって、信頼性の高い確固たる基盤があります。

3. レンジ(Range)
レンジは幅広さを意味します。心理学者は長年にわたり、人間の行動を促す隠れた要因を何千種類も特定してきました。これだけの幅広さがあるため、マーケティングの課題が何であれ、関連するバイアスを見つけて利用することが可能です。

ショットンは、心理バイアスがどのように私たちの行動や選択に影響を与えるかを詳述しています。たとえば、「ベースバリューネグレクト効果」や「極端効果の法則 「分母無視の法則」、などのバイアスが、どのようにして私たちの意思決定を歪めるかを具体的な事例と共に紹介しています。これにより、読者は自らの行動を客観的に分析し、より良い意思決定を行うための手がかりを得ることができます。

・ベースバリューネグレクト効果 割引よりも増量の方が効果的
ベースバリューネグレクト効果とは、消費者が商品の割引よりも増量をより魅力的に感じる心理現象です。たとえば、価格を20%割引するよりも、商品を20%増量するほうが、消費者にとってお得に感じられることが多いです。これは、消費者が割引による価格の減少よりも、増量による利益の方を直感的に大きく感じるためです。

スーパーでのセールで、「500mlのジュースを20%割引で売る」のと「600mlに増量して売る」のでは、後者の方が購買意欲を高めてくれるのです。

・極端回避性(極端効果の法則)3つの価格を提示されたら真ん中を選ぶ傾向
極端効果の法則とは、消費者が複数の選択肢を提示された際に、最も安価な選択肢や最も高価な選択肢を避け、中間の選択肢を選ぶ傾向があることを指します。これは、人々が極端な選択肢を避け、安全策として中間を選ぶ心理に基づいています。

レストランでメニューに「1000円のランチ」「1500円のランチ」「2000円のランチ」の3つがあれば、多くの人が真ん中の「1500円のランチ」を選ぶという現象です。

・分母無視の法則 確率を判断する際に分母を無視する傾向
分母無視の法則とは、確率を判断する際に、分母の大きさを無視してしまう心理現象です。人々は分子(成功や当たりの数)に注目しがちで、全体の母数を考慮しないため、実際の確率を過大評価したり過小評価したりすることがあります。 

宝くじの購入時に、「1等が当たる確率は100万分の1」と「1等が100本ある」という情報を提示された場合、後者の情報に強く引かれる人が多いです。これは、分母である「100万」を無視し、分子の「100本」にだけ注目してしまうからです。

習慣を変える6つのステップ

消費者になんらかの新しい行動をさせたいなら、新しい時期がスタートするタイミングを狙ってマーケティングのメッセージを送り込めばいい。

1. 既存の習慣を崩すタイミングを見計らう
既存の習慣を崩すには、適切なタイミングを狙うことが重要です。変化の時期や環境の変化など、タイミングを見計らって行動することで効果的に習慣を変えることができます。新年や新学期など新しい習慣をスタートさせたい時が、マーケティングの適切なタイミングになります。

2. モチベーションだけに頼らない
新しい習慣を埋め込むためには、モチベーションに加えて「キュー(きっかけ)」を組み合わせることが必要です。例えば、時間、場所、気分など、行動の呼び水になるものをキューに設定します。 キューの重要性を示す実験 バース大学の心理学者サラ・ミルンの実験では、以下のような結果が示されています。
・第1グループ 運動回数を記録させた結果、20分の運動を週に1回以上したのは35%。
・第2グループ 運動のメリットを説明したパンフレットを読ませた結果、運動したのは38%。
・第3グループ パンフレットに加え、「いつ」「どこで」「誰と」運動するかを想定させた結果、運動したのは91%。具体的なキューを作ることは圧倒的な効果を生み出します。

3. 既存の行動をキューにする(ハビットスタッキング)
既存の習慣に新しい習慣を結びつけることで、習慣形成を容易にします。例えば、歯磨きの後にフロスを使うなど、既存の行動をキューとして新しい行動を取り入れる方法です。

4. 行動を簡単にする
新しい習慣を定着させるためには、その行動を可能な限り簡単にすることが重要です。行動を小さな部品に分解する「チャンキング」という方法を使い、実行しやすくします。

5. 不確実な報酬を活用する
不確実な報酬は習慣形成において強力です。例えば、イギリスのコーヒーチェーン「プレタ・マンジェ」では、店員がランダムにコーヒーをサービスすることで、顧客に大きな喜びを与え、リピーターを増やしています。

6. 反復する
習慣は一夜にして身につくものではありません。新しい習慣を定着させるためには、とにかく繰り返すことが重要です。何度も反復することで、習慣が身についていきます。 

習慣形成の6つのステップは、既存の習慣を崩すタイミングを見計らい、モチベーションにキューを組み合わせ、既存の行動をキューにし、行動を簡単にし、不確実な報酬を活用し、最後に反復することです。これらのステップを実践することで、新しい習慣を効果的に身につけることができます。

消費者に何かの行動を促す場合、ささいな摩擦もできるだけ取り除くことが重要です。例えば、フォームに入力させる際には、候補となりそうな文章をあらかじめ表示しておくと効果的です。また、購入に際しては消費者にできるだけ労力をかけさせないよう工夫する必要があります。具体的には、商品をその都度購入する手間を省くために定期購入を促すといった方法です。

このような工夫の効果は、いくつかの実例からも明らかです。例えば、ネットフリックスでは映画を一本見終わった後に次の一本が自動再生される仕組みがあります。また、アマゾンがワンクリック注文機能を導入したのも、消費者に手間をかけさせないための工夫です。 

手間なく利用できるようにすれば、驚くほど大きな反応が得られます。もし「うちの商品やサービスは、最大限にプロセスを簡素化している」と思っているなら、もう一度じっくり考えてみてください。かなりシンプルに購入に至るようにしてあっても、まだ何かしらの摩擦が隠れていることがあるからです。

フット・イン・ザ・ドアとドア・イン・ザ・フェイスは、一見矛盾するように見えても、どちらも消費者の行動を引き出すための効果的なテクニックです。状況や目的に応じて、プロセスを簡単にするか面倒にするかを選ぶことで、ブランドの認知度や評価を高めることができます。 

 フット・イン・ザ・ドアのテクニックでは、先に小さな要求を受け入れさせることで、その後の大きな要求を受け入れやすくします。小さな行動を実践することで、次の大きな行動に踏み出しやすくなるのです。 

ドア・イン・ザ・フェイスのテクニックは、最初に大きな要求を提示し、それを拒否させた後に、より小さな、本来の要求を提示する方法です。最初の大きな要求を拒否させることで、本来の要求がささやかで受け入れやすく見えるようにするのです。

矛盾するようで同じ目的を持つ 一見矛盾するこれらのテクニックですが、どちらも同じ目的を持っています。どちらも2段階式のアプローチを用い、消費者が最初の一歩を踏み出しやすくするための方法です。

「簡単にする」と「面倒にする」 これらのテクニックは、「簡単にする」と「面倒にする」という正反対の作戦ですが、どちらもブランドを売り込む際に役立ちます。
・簡単にする: 消費者の行動を促したい場合、プロセスを簡単にすることが効果的です。例えば、ネットフリックスの自動再生機能やアマゾンのワンクリック注文などがあります。

・面倒にする
品質に対する評価を高めたい場合、プロセスを少し面倒にすることが効果的です。例えば、iPhoneの開封体験やワインのコルク開けなどです。

・読みやすいフォント
ミールキットのパッケージに使えば、手軽に作れそうだと思ってもらえます。

・読みにくいフォント
高級レストランのメニューに使えば、手間をかけて丁寧に作られた料理だと感じてもらえます。

心理バイアスの理解を通じて、私たちはより良い意思決定を行い、ビジネスや個人生活において成功を収めることができるでしょう。

本書は、行動科学を通じて、私たちの行動や選択に対する客観的な視点を提供しています。行動科学は、心理学、経済学、社会学などの学問分野を融合させ、人間の行動を理解し予測するための方法論です。ショットンの解説により、読者は自らの意思決定プロセスを深く理解し、より効果的な行動を取るための具体的な手段を学ぶことができます。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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