超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解 (カル・ニューポート)の書評

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超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解
カル・ニューポート
早川書房

超没入 (カル・ニューポート)の要約

メールやSlackは情報共有に便利ですが、深い思考を妨げる面もあります。著者のカル・ニューポートは、テクノロジーを排除するのではなく、戦略的な活用を提案しています。デジタルツールを適切に使いつつ、中断を減らし集中力を維持する環境づくりが重要です。本質的で専門的な業務に注力できる工夫が求められています。

メールが私たちを不幸にする理由

休みなく続く散発的なメッセージのやりとりを土台とするワークフローに縛られているかぎり、旧石器時代から変わらない私たちの脳は、軽度の不安につねにつきまとわれている状態から解放されないだろう。(カル・ニューポート)

ジョージタウン大学・コンピュータ科学の准教授カル・ニューポートは、テクノロジーを適度に使いながら、人間の認知能力を最大限に活かすことで、生産性を高められると述べています。 ニューポートは、極度にメールに依存するのをやめ、「大事なこと」に焦点を当てるべきだと言います。この提案は現代の働き方に変革をもたらす可能性を秘めています。

このコンセプトは、単に忙しく見せることよりも、真に価値ある成果を生み出すことに重点を置いています。 著者は「注意散漫な集合精神(ハイパー・アクティブ・ハイブ・マインド)」というコンセプトを通じて、絶え間ない通知や中断が知的生産性にもたらす悪影響を指摘しています。

2005年から2019年にかけて、ビジネスパーソンが1日に送受信するメールの数が大幅に増加しました。この変化を時系列で見てみましょう。
2005年・・・1日平均50通
2006年・・・1日平均69通
2011年・・・1日平均92通
2019年・・・1日平均126通

この数字の推移から、ビジネスコミュニケーションにおけるメールの重要性が年々高まっていることがわかります。2005年から2019年の間に、1日あたりのメール数は2.5倍以上に増加しました。 この増加傾向は、著者が「注意散漫な集合精神ワークフロー」と呼ぶ現象の広がりを示しています。

つまり、絶え間なく入ってくるメッセージに対応することが、仕事の中心になってきているのです。 この変化は、ナレッジワーカー全体に大きな影響を与えています。常にメールをチェックし、すぐに返信することが求められる環境は、集中力を分散させ、深い思考や創造的な作業を難しくする可能性があります。

メールやSlackなどのツールは、確かに情報共有を容易にしましたが、同時に深い思考や創造的な作業を阻害する要因にもなっています。

現代のナレッジワーカーにとって、受信箱は常に溢れんばかりの状態にあります。新しいメールが届くたびに、その通知に反応しなければならないという圧力がかかり、それが脳に軽度の不安感を引き起こします。メールを読み、返事をするというタスクは一見簡単に思えるかもしれませんが、仕事の合間に次々と新しいメッセージが積み上がっていくと、時間とエネルギーを奪われていくのは避けられません。

メールを処理するスピードが、新しいメールの到着ペースに追いつかないと、未処理のメールが増えていくことに対して不安を感じ始めます。この「終わりの見えないタスク」によるストレスは、私たちの集中力を損ない、結果として他の重要な作業に対する注意力も削がれてしまいます。このように、受信箱の溢れかえりが生産性の低下だけでなく、精神的な負担を引き起こす大きな原因となっているのです。

私たちは電子メールやSlackを日常的に利用して仕事を進めていますが、この形式は意思疎通の手段としての限界が多いことを忘れてはなりません。顔の表情や声のトーン、ジェスチャーといった非言語的な要素が欠如しているため、相手の意図を正確に読み取ることが難しく、誤解が生じやすくなります。

特に、重要なプロジェクトや複雑な問題に関しては、文字だけでのやり取りでは不十分なことが多いです。ニュアンスや感情が伝わりにくい結果、コミュニケーションに齟齬が生じ、何度もやり取りを重ねる必要が出てきます。このようなやり取りの繰り返しは、時間とエネルギーを消耗させるだけでなく、ストレスを感じる要因にもなります。 

職場での連絡手段が効率化された結果として生じる問題も無視できません。メールやSlackによって、私たちはどこにいても仕事の依頼を受けることができるようになりました。かつては会議や面談が必要だった内容が、今では一瞬でメッセージとして送信され、即座に返答を求められる時代です。

しかし、こうした効率化の代償として、仕事量が際限なく増加する問題が発生しています。簡単に連絡が取れるからこそ、他者からの仕事の依頼や質問が次々と積み重なり、自分の作業に集中する時間が削られてしまうのです。これにより、仕事の量は増える一方で、質を高めるための時間や集中するための余裕が奪われていきます。

結果として、ナレッジワーカーは過労感を抱えながらも、いつまでも終わらないタスクに追われることになってしまいます。

注意散漫な集合精神ワークフローは、生産性を低下させるだけではない。私たちを不幸せにするのだ。

人間の脳は、進化の過程で生存に関わる課題に対処するために、外部からの刺激に敏感に反応するようにできています。旧石器時代には、外部からの突然の刺激は危険を意味しており、即座に反応することが求められていました。しかし、現代においてもこの脳の仕組みは基本的に変わっておらず、仕事中に届く通知やメッセージも、潜在的な「危険」として脳に認識され、反応しなければならないというプレッシャーを生み出します。

こうした小さな不安の連続は、蓄積されることで私たちの精神的な負荷を増大させます。注意が断片化されると、脳はリラックスする時間がなくなり、常にストレスを感じる状態に置かれることになります。結果として、仕事に対する満足感やモチベーションが低下し、ひいては長期的な幸福感にも悪影響を及ぼすことになります。

ナレッジワーカーのために没入環境を整えよう!

利益を引き出せるような業務のアプローチを開発するに当たって、次のような設計原則を提案する。①タスク途中での作業文脈の切り替えを最小限にし、かつ②コミュニケーションの過負荷を最小限にするようなワークフローを構築することだ。

カル・ニューポートが指摘するように、作業文脈の切り替え=タスクスイッチングは私たちの脳に多大な負荷をかけます。この負荷は、単に時間を奪うだけでなく、生産性の低下や仕事に対する満足感の低下にもつながります。私たちが重要なタスクに集中しているときに、突然緊急の電話対応やメッセージへの即時対応を求められることは少なくありません。

たとえば、報告書作成に没頭している最中にメールに返答し、その後再び報告書に戻ろうとした際、再び集中を取り戻すまでには意外に長い時間がかかります。脳は、再度そのタスクの文脈を理解し、集中を取り戻すのに多くのエネルギーを消費しているのです。

頻繁な文脈の切り替えは、累積的に大きな時間の損失を引き起こします。これは、一日を通じて繰り返されることでますます大きな問題となり、全体的な作業効率が著しく低下してしまいます。

タスクスイッチングによる文脈の切り替えが続くと、各タスクに充てるべき時間が減り、その結果、質の高い仕事をする時間が限られてしまうのです。こうした無駄な負荷を減らすためには、集中できる環境を意図的に作り出すことが重要です。 

テクノロジーの進化により、私たちはいつでも、どこからでも、さまざまな方法でコミュニケーションを取ることが可能になりました。しかし、こうした便利さが逆に仕事の妨げになっているという事実があります。電子メール、チャットツール、ビデオ会議など、これらの手段が常に連絡を取れる環境を作り出し、従業員に絶えず対応を強いる結果となっています。

特に問題となるのは、リアルタイムでの即時対応を求めるコミュニケーションです。チャットツールでの頻繁なやり取りや、突然の会議設定は、従業員の作業の流れを中断させ、タスクスイッチングを強制します。その結果、重要な業務に充てるべき時間が奪われ、成果を出すことがますます困難になります。

コミュニケーションツールの過度な使用が、かえって生産性を低下させ、精神的なストレスを増加させる原因となっているのです。 こうした問題を克服するためには、効率的なワークフローの設計が不可欠です。まず、タスクスイッチングを減らすためには、従業員が一定の時間、集中して作業できる環境を整えることが大切です。

たとえば、「深い作業」に専念できる時間帯を確保し、その間は一切の中断を避けるようにすることで、複雑な問題解決や創造的な作業に集中できるようになります。また、タスクを一つ一つ個別に処理するのではなく、似た性質のタスクをまとめて処理することにより、文脈の切り替えを減らし、効率を向上させることも効果的です。

仕事に関する周囲の期待値を変える最善の戦略は、自分の仕事のしかたをわかってもらおうと毎度くどくど説明することではなく、約束したとおりに仕事を仕上げることだ。自分の生産性ばかりを優先する人だと思われるのではなく、あの人は絶対にミスをしないと思われることだ。

このワークフローを周りに認めてもらうためには、パーフォマンスを高め、相手との信頼関係を築く必要があります。信頼関係を築くためには、依頼された仕事をきちんと完成させることが最も重要です。相手があなたに何かを依頼するということは、その仕事を適切に処理できると期待しているからです。一度信頼を得られれば、多少メールの返信が遅れたとしても、大きな問題にはなりません。

人は、信用できる相手に対して多少の遅れやミスに対して寛容になる傾向があります。そのため、依頼された仕事を確実にやり遂げることが、長期的な信頼関係の構築において非常に大切なのです。

また、会議の効率化も不可欠です。必要最小限の参加者で、明確な目的を持って会議を行い、不要なやり取りを減らすことが、結果的に全体の生産性向上に寄与します。

組織全体で「集中時間」を尊重する文化を醸成することも大切です。従業員が集中して作業できる時間帯には、緊急でない限り連絡を控えるなど、チーム全体で協力して効率的なワークフローを支える仕組みを導入することが求められます。

共通のゴールを目指して働くチームに属していて、しかも集中を邪魔するメールや無意味な会議が多すぎると感じているなら、効率的な進捗ミーティングのプロトコルを導入することによって生産性が格段に向上するかもしれない。

これにより、各メンバーが最も重要なタスクに集中し、最大限の成果を上げることができるようになるのです。 こうしたアプローチを取り入れることで、現代の業務環境におけるタスクスイッチングとコミュニケーションの過負荷という二つの大きな障壁を乗り越え、生産性と仕事の質を同時に高めることが可能となります。

作業文脈の切り替え(タスクスイッチング)の最小化とコミュニケーションの最適化を中心とした効率的なワークフロー設計は、個々の社員の生産性向上だけでなく、組織全体のパフォーマンス改善にも大きく寄与します。このアプローチは、短期的な成果だけでなく、社員の長期的な健康と満足度にも良い影響を与え、持続可能な形で組織の成長を支える基盤となります。

ニューポートの提案する解決策は、テクノロジーを完全に排除することではありません。むしろ、デジタルツールを意識的かつ戦略的に活用し、本質的な業務に集中できる環境を整えることを推奨しています。

これは、頻繁な中断を最小限に抑え、集中力を維持するための工夫を取り入れることを意味します。 著者の主張によれば、「大事なこと」に焦点を当てることで、個人や組織は競争優位性を獲得できます。これは、単に効率を上げるだけでなく、より質の高い成果を生み出すことにもつながります。

ナレッジワークとは、知識や専門性を活用して問題解決や価値創造を行う仕事を指します。これは単純作業とは異なり、深い思考と創造性を必要とします。そのため、多くのタスクを同時進行させることは、かえって効率を下げる原因となります。 一つの仕事に集中することで得られる利点は多岐にわたります。

ディープ・ワークとシャロー・ワーク

難しいプロジェクトの仕事に一時間専念し、次の一時間はサポート業務だけに専念すれば、二つの仕事を同時進行して注意を細切れにした二時間よりも、トータルで生み出せる成果は多くなる。

著者は仕事を「ディープ・ワーク」と「シャロー・ワーク」に分類しています。
・ディープ・ワーク・・・高度な集中力を要する深い思考の作業を指します。新しいアイデアの創出や複雑な問題解決など、本質的な価値を生み出す活動がこれに該当します。

・シャロー・ワーク・・・メールの確認や定型的な事務作業など、比較的簡単で中断されても支障の少ない作業を指します。

ディープ・ワークを実践するためには、意識的な努力が必要です。集中のための時間を確保し、環境を整え、定期的にデジタル・デトックスを行うことが重要です。

ディープ・ワークを重視することで個人の生産性と創造性が飛躍的に向上し、キャリアの成功につながります。組織レベルでも、ディープ・ワークを促進する文化を醸成することで、イノベーションと競争力の強化が期待できます。

ただし、シャロー・ワークを完全に排除することは現実的ではありません。重要なのは、ディープ・ワークとシャロー・ワークのバランスを適切に取ることです。シャロー・ワークの効率を上げつつ、ディープ・ワークにより多くの時間と労力を割り当てることが、総合的な生産性向上につながります。

テクノロジーの発展は、私たちの働き方に大きな変革をもたらしました。しかし、その変化は必ずしも良い方向ばかりではありませんでした。パソコンの普及により、専門スタッフが自らサポート業務を処理することが容易になり、結果として一人が抱える仕事量が増大しました。

この状況が、現代の「忙しさ」を標準化してしまったのです。 こうした環境下で生まれたのが、「注意散漫な集合精神ワークフロー」です。これは、絶え間なく入ってくる情報や要求に常に対応し続ける働き方を指します。一見効率的に見えるこの方法は、実は深い集中を阻害し、本質的な価値創造を難しくしています。

この問題を解決するには、仕事の概念を根本から見直す必要があります。その鍵となるのが「専門化」です。ナレッジワーカーは、自身の専門スキルを活かせる業務に集中すべきです。このアプローチは、「より少ないが、より良い」仕事を目指すものです。専門業務とサポート業務のバランスを適切に取ることで、職場全体の効率と生産性を向上させることができます。

質の高いナレッジワークを実現するためには、深い集中と持続的な思考を可能にする環境づくりが不可欠です。経営者やマネージャーには、この点を十分に理解し、自社の業務プロセスを見直すことが求められています。 効果的なワークフロー設計により、ナレッジワーカーは本来の能力を最大限に発揮できるようになります。その結果、革新的なアイデアや高品質な成果が生まれ、組織全体の競争力強化につながります。

変化の激しい現代のビジネス環境において、効率的なワークフロー設計は、企業の持続的な成長と成功に欠かせない要素となっています。タスクスイッチングとコミュニケーションの負担という二つの課題に真摯に向き合い、それらを克服するための施策を積極的に導入することが、今後の企業の発展に大きな影響を与えることは間違いありません。

最強Appleフレームワーク

 

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