全力化(ベンジャミン・ハーディ)の書評

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全力化
ベンジャミン・ハーディ
サンマーク出版

全力化(ベンジャミン・ハーディ)の要約

人は行動によって自分のアイデンティティを再定義し、その行動は環境によって大きく左右されます。つまり、自分を変えたいのであれば、まず変えるべきは環境なのです。意志の力に頼って歯を食いしばるのではなく、自分の理想の未来にふさわしい環境を意図的に整えることが、人生を変えるための確かな第一歩になります。

意志力より環境が重要な理由

自分の周辺環境を作り直せば、人生の方向性を変えることができる。とはいえ、可能性は無限にあるわけではなく、自分がいる状況によって制約を受ける。(ベンジャミン・ハーディ)

意志力は筋肉のようなもので、使えば使うほど疲れてしまうため、永続的な変化のための信頼できる基盤にはなりません。私は長年このブログを執筆していますが、毎朝目が覚めると同時にパソコンを開き、記事を書くことを習慣にしています。

以前は夕方に執筆することもありましたが、意志力が消耗した時間帯に書くのはリスクが高く、継続が難しくなってしまいます。毎日書き続けるには、意志力に頼るのではなく、朝の行動を自動化することが重要だと気づきました。そこで私は、コーヒーを飲みながら執筆を始めるというルーティンを確立したのです。

組織心理学者、著作家の ベンジャミン・ハーディ全力化は、「意志力」に頼らず、「環境」を最適化することで最高のパフォーマンスを引き出す方法を教えてくれます。本書の原題は『Willpower Doesn’t Work』であり、このタイトルが象徴するように、従来の根性論や精神論とは一線を画しています。(ベンジャミン・ハーディの関連記事)

ハーディは、自己規律の欠如を個人の問題と捉えるのではなく、私たちの行動は意志力よりも環境によって大きく左右されると語ります。 自制心を使い続けようとすることは、エネルギーを消耗させるだけでなく、努力と挫折の悪循環を生み出します。

本書では、望ましい行動を自然に促す仕組みとして「強制機能」が紹介されています。たとえば、仕事の後に家族との時間を大切にしたいと考えるなら、携帯電話を車の中に置いて帰宅したり、機内モードにすることで、スマホに邪魔されずに時間を過ごすことができます。このように、内面の葛藤に頼るのではなく、行動を促す外部の仕組みを設計することが求められます。

あなたの人となりが、あなたの行動を決めているのではない。それどころか、あなたの行動があなたの人となりを決めているのだ。あなたはある行動を取ると、その行動をもとに、自分自身を判断する。つまり、単に行動を変えることで、自分のアイデンティティをすばやく変えることができる。

さらに、ハーディは「アイデンティティを変えること」の重要性にも触れています。私たちは、自分をどのように認識しているかによって、日々の選択や行動を無意識に決定しています。目標に沿った新しいアイデンティティを意識的に構築することで、努力に頼らなくても持続的な変化が可能になるのです。

本書のメッセージの核心は、「意志力をあてにするのではなく、望ましい行動を自然に取れるような環境を自ら設計せよ」というメッセージにあります。多くの人が目標を達成できないのは、意志が弱いからではなく、環境の設計が不適切であるからだと著者は指摘します。

なりたい自分になるための方法とは?

私は自分の環境に依存しており、様々な面でその環境によって定義されている。しかし良いこともある。環境は、あなたも私も、自分でかなりコントロールできるということだ。環境を変える能力がなければ、自分を変えることはできない。そしてひとつを変えれば他方も変わる。

ハーバード大学の心理学者、エレン・ランガー教授は、こう語っています。「社会心理学者は、ある時点の自分が何者であるかは、そのとき置かれた状況に大きく依存していると主張します。しかし、その“状況”は一体誰が作るのでしょうか。私たちは、周囲に意識を向ければ向けるほど、自ら状況を作り出す力を持ち、変化の可能性を信じることができるのです」

これは単なる哲学的な話ではありません。自由意志か決定論かといった二項対立が問題なのではなく、私たちが選択によって環境を作り、その環境がまた私たちの選択に影響を与える——つまり「選択であり、環境である」というサイクルの中に私たちは生きているのです。

ハーディもまた、気合で頑張ろうとする姿勢は、むしろ自分の能力を抑え込み、結果をただ祈るような無力な状態に陥ってしまうと警鐘を鳴らしています。

現代の私たちは、テクノロジー中毒や慢性的なストレス、そして睡眠不足に常にさらされています。こうした状況の中で、意志の力だけを頼りに毎日を乗り越えるのは、現実的ではありません。 人は、環境によって形成される存在です。だからこそ、自分の周囲を意図的に変えることが、真の変化と成長への第一歩になるのです。

私自身、何度も意志力に頼った変化に失敗してきました。しかし、生活環境を整えることで、自然と断酒に成功するなど、明らかな成果を実感しています。夜型から朝型へとライフスタイルを切り替え、飲み友達との関係も整理し、家中の酒を手放すことで、以前は不可能だったことが現実のものとなったのです。

こうした変化は、環境が行動を「強制」する仕組みによって実現されてきました。たとえば、家族との時間をもっと大切にしたいのであれば、生活空間から注意をそらすものを物理的にもデジタル的にも取り除くことが求められます。健康的な食生活を送りたいなら、自宅にあるジャンクフードを手放す勇気が必要です。 集中力を高めたいときは、仕事にだけ専念できる空間をつくることが効果的です。

そして、心からリラックスしたいときには、都市の喧騒から離れた場所に身を置くのも良い選択だと感じています。私自身、定期的に出張と旅行を組み合わせながら、意識的にリラックスする時間を確保しています。神社をゆっくりと散策したり、温泉に浸かって心と身体を解放したり、地域の名物を味わうことで、自分のマインドを静かに整えているのです。

変わりたいと願うのなら、意志力を振り絞るのではなく、自分を取り巻く環境をデザインし直すことが必要です。そして、その環境の中で自分が果たす役割を再定義するのです。私たちにできることは、意志の強さではなく、そのときの「状況」によって左右されているのだと認識することが大切です。すべての環境には、それぞれのルールや限界があります。その枠組みに自分をどう適応させるかによって、私たちは進化していくのです。

自分の求めるものを手に入れるにはまず、どんな状態でいるかが重要だ。そこから行動に移すのだ。「ある状態でいる(be)→「行動する(do)→「手に入れる(have)」。この逆はあり得ない。

私たちは、強く決意した瞬間の「至高の状態」から、一貫した行動を取り続けなければなりません。そして、その状態こそが「本当のあなた」になる必要があるのです。

なりたい自分、理想の役割やアイデンティティを実現するには、それを支える“聖なる環境”と、日々のルーティンが欠かせません。自分が目指す姿にふさわしい空間で、毎日を同じリズムで過ごすことで、努力せずとも自然に、あなたは「なるべき人物」へと変わっていくのです。

人間には、ストレスとリカバリーという2つの相反する環境が必要です。ストレスに満ちた場では、自分の限界に挑む集中状態に入ることができ、逆にリカバリー環境では完全にオフになり、回復が進みます。成長とは、こうした切り替えを繰り返す中で生まれるのです。

ハーディはこのサイクルを「強化された環境」と呼び、ストレスと休息をバランスよく取り入れることの重要性を強調しています。

ウェンディ・ウッド博士は、「私たちは環境から影響を受けているとは感じないが、実際には環境と一体化している」と述べています。依存症の行動を変える最も効果的な方法は、環境そのものを壊すことだとも言われています。

たとえば、夜中に何かを食べたくなった時、利き手ではない方の手で食べるなど、わずかな変化でも新たな行動へのきっかけになります。 私たちは、環境に適応しながら生きています。

だからこそ、意識的に環境を整え、「なりたい自分」を形作ってくれる空間を作り上げることが、変化への近道なのです。私たちが日々下す選択の多くは、意志の力ではなく、環境という舞台装置に大きく依存しています。

自分を変えたいのであれば、意志を奮い立たせるのではなく、まずは環境を変えること。これが、本当に人生を変えるための第一歩だと私は信じています。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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