HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキルの書評

さまざまな産業において、AIシステム(物理的な体を持つロボットからソフトウエア・ロボットまで)が人間の仕事を奪うという誤解が蔓延している。確かにロボットカーなどは、タクシーや配達、運輸などの分野で、人間のドライバーを置き換えていくだろう。特定の職業ではそうした現象が起きると考えられる。しかし私たちの研究によって、Alが特定の機能を自動化するために導入されたとしても、その真価は人間の能力を補完・拡張する点にあることが明らかになっている。 (ポール・R・ドーアティ&H・ジェームズ・ウィルソン)

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AIやロボティックス時代の第3の波とは何か?

AIとロボットの普及で、私たちの働き方は今後どう変わるのでしょうか?一部メディアでは、私たちの仕事はテクノロジーによって脅かされ、失業リスクが高まると指摘していますが、それは正しくないとポール・R・ドーアティ(アクセンチュア最高技術責任者(CTO))とH・ジェームズ・ウィルソン(アクセンチュア・リサーチ マネジング・ディレクター)は述べています。その理由を2人が書いた書籍HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキルから明らかにしたいと思います。

AIが普及している保険金請求業務の事例では、Alと人間が協業しています。保険業務では、Alは、退屈な単純作業やデータの収集、初歩的な分析といったタスクを担っています。その結果、Alは、人間がより複雑な案件に労力を割くことを可能にしています。

マシンは、彼らが得意とする作業を担当しているのだ。それは繰り返しの作業や大量データの処理、定型化された作業などである。そして人間も、自らが得意とする分野を任されている。あいまいな情報の処理や、難しい場面における意思決定、怒り心頭に発している顧客への対応などだ。こうした人間とマシンの「共存関係」は、私たちが「ビジネス変革の第3の波」と呼ぶものへの扉を開いている。

ヘンリー・フォードの自動車組立工場に代表される製造工程の標準化が第1の波となります。すなわち「プロセスの標準化」です。第2の波は「プロセスの自動化」で、コンピューターを活用したバックオフィス業務などを自動化するIT技術の発展となります。そして今回の第3の波は「プロセスの適応化」です。標準化、パターンを越えた新しい領域へ自社の製品やサービスをカスタマイズ化していく動きになります。

第3の波の時代は、これまでの2つの波を土台として築かれています。そこでは組立ラインやデジタルコンピューターによって実現された初期の変革よりも、ずっとエキサイティングな変化が生まれるだろうと著者たちは予測します。単純な仕事は24時間働くマシンに任せ、人はよりクリエイティブな仕事を担えるようになったのです。

テクノロジーの進化によって人とマシンの協業が実現し、人はより便利に、より創造的になれるのです。

この適応力を実現するのは、仮説に基づいて定義された一連のステップではなく、リアルタイムのデータだ。そこから生み出される業務プロセスは、標準化されているわけでもパターン化されているわけでもないにもかかわらず、以前よりも良い結果を繰り返し実現できる。

「Waze」(モバイル地図アプリ)は、リアルタイムのユーザーデータ(ドライバーの位置や走行速度、ユーザーからの報告による渋滞情報や事故情報など)を活用します。こうしたデー夕は「完壁な地図」をリアルタイムで生み出し、ナビゲーションシステムが必要に応じて、到着時間の遅延を回避するためのルート再設定を行うことを可能にしています。GPSを使った従来のサービスが単に紙の地図をデジタル化したものに比べ、「Waze」は、AIアルゴリズムとリアルタイムデー夕を融合し、動的で常に最適化される地図を実現しています。これにより、人々が目的地へ最短時間で着くことを可能にしています。

「Waze」のような、人間とマシンがコラボレーションするという新しいアプローチでは、従来のプロセスが根本的に見直され、新しい第3の波となり、私たちの働き方をより良い方向に変えてくれます。人間とマシンが協力して、ビジネスにおけるパフォーマンスを桁違いに改善します。著者たちはこの世界を、「ミッシング・ミドル(失われた中間領域)」と呼んでいいます。あえて彼らが「失われた」という言葉を使っているのは、今まで誰もそれについて語ってこなかったからなのです。

ミッシング・ミドルの恩恵を受けられるのは、デジタル企業だけではありません。グローバルな鉱業コングロマリットのRio Tinto(リオ・ティント)はAlを使い、中央管理施設から膨大な数のマシン(自動で動くドリルや掘削機、ブルドーザーなど)を管理しています。これにより、鉱山の危険な環境で働く人を減らせました。またデータ分析チームは、センサーから得られた情報を分析して、機械をより効率的で安全に運用することができるようになったのです。

 

AI時代の人の新しい役割とは?

Alが持つ力をフル活用するためには、企業は従業員の新しい役割を検討したり、人間とマシンの新しい共生関係を確立したり、経営に関する従来の概念を変えたり、仕事そのものの概念を一変させたりするなどして、このミッシング・ミドルを埋めなければならない。人間とマシンのコラボレーションがますます普及するにつれ、企業は8つの新しい「融合スキル」を持つ人材を雇ったり、育成したりしなければならなくなるだろう。

著者たちが提示する8つの融合スキルは以下になります。
・人間性回復スキル
人間にしかできない作業や、学習に費やす時間を増やすために、業務プロセスを再検討すること
・定着化遂行スキル
個人や企業、社会のあり方に沿ったものになるように、人間とマシンのコラボレーションの目的と認識をつくること
・判断プロセス統合スキル
マシンが持つ不確実性の中で、行動を選択していくこと
・合理的質問スキル
必要な知見を得るために、Alにどう質問を投げかければ良いのかを理解していること
・ボットを利用した能力拡張スキル
AIエージェントとコラボレーションして、自分の能力を超えたパフォーマンスを発揮すること
・身体的かつ精神的融合スキル
コラボレーションによる成果をさらに向上させることや、Alエージェントのメンタルモデルを構築すること
・相互学習スキル
Alエージェントに新しいスキルを教える一方で、Al支援型プロセスの中で上手く働けるようになるやり方を、実地で身に付けること
・継続的再設計スキル
指数関数型の飛躍的なパフォーマンス改善を実現するために、作業やプロセス、ビジネスモデルを再構築する新しい方法を検討すること

また、AIの導入で成功している企業を研究した結果、「5つの重要な原則(MELDS)」が重要であることがわかりました。
●組織のマインドセット
●実験(エクスペリメンテーション)
●リーダーシップ
●データ
●スキル

●マインドセット
ミッシング・ミドル(人間がAIを改良し、スマートなマシンが人間にスーパーパワーを与える領域)における仕事を再検討することで、ビジネスに対して従来とは根本的に異なるアブローチを考えなければなりません。最初にルーチンワークを自動化し、従業員のポテンシャルを最大限に引き出しながら、人間とマシンのコラボレーションに移行するようにすべきです。

●実験(エクスペリメンテーション) 
AIをテストし、ミッシング・ミドルの観点から再検討されたプロセスを検討し、その規模を拡大していくために、業務プロセス内のさまざまな部分を積極的に観察します。どの仕事が人間とマシンのコラボレーション(ミッシング・ミドル)によって最も適切に行われるか、を見極め、導入を成功させましょう!

●リーダーシップ  
経営者は最初の段階から、AIの責任ある使用にコミットし、自分たちが導入するAl技術の倫理的、道徳的、法的な影響を常に検討しなければなりません。社員への教育投資はとても重要で、どんな企業でもAl戦略の中核となります。

●データ
インテリジェント・システムを動かすための「データ・サプライチェーン」を構築すべきです。Alには膨大で、多種多様なデータが必要となり、それらがミッシング・ミドルにおいて、Alや人間のパフォーマンスを促進・維持・改善するのに役立ちます。

●スキル
ミッシング・ミドルにおいてプロセスを再構築するために必要な、8つの「融合スキル」を積極的に開発する必要があります。Alの力はますます拡大しており、人間とマシンの関係を根本的に変えつつあることを理解しましょう。第3の波においては、これまで以上に人間が必要とされるのです。現在の業務プロセス改革の時代には、人間が中心的な役割を果たします。適応力のあるプロセスの時代には、AIシステムを設計、開発、訓練する存在としてだけでなく、ミッシング・ミドルを埋め、Alとコラボレーションして大幅なパフォーマンス向上を達成する存在としても、人間が必要とされます。

この「MELDSフレームワーク」を活用することで、テクノロジーと人との協業が実施され、パフォーマンスがアップするのです。成功企業の事例を研究し、AIとのコラボを実現し、人の能力を最大限引き出すようにすべきです。企業の経営者がAIを導入することで、組織を強くできるのです。

Al技術はサプライチェーンや、消費財・産業用機械の製造に大きな影響を及ぼすだけでなく、食糧生産においても重要な役割を果たすようになっていいます。現状、世界で7億9500万人が十分な食糧を手にできておらず、また人口増加に対応するには、今後50年間で過去1万年間に生産された量よりも多くの食糧が必要になることが明らかになっています。Alと作物に関するデータを活用する精密農業によって、収穫量を大幅に増やし、水や肥料といった資源の無駄遣いを減らし、全体の効率性を高められるのです。

インドの非営利団体であるアクシャヤ・パトラは、「飢えを理由に教育の機会が奪われる子供がいてはならない」とのビジョンを掲げ、Alとブロックチエーン、そしてloTを組み合わせ、インドの子供たちを救っています。このプログラムは2000年に、1500人の子供たちに食事を提供するところから始まり、2017年には年間160万人の子供たちを対象にするまでに拡大しました。Alは需要を正確に予測するために使用され、loTセンサーは調理プロセスを管理し、廃棄物の最少化と食事の品質の安定化を支援しているのです。人とマシンの協業により、多くの子供たちに食事が提供され、彼らが教育を受けられるようになっています。テクノロジーと人の力が、社会貢献にもつながっています。

まとめ

AI革命によって、業務プロセスが変わる第3の波の時代が始まっています。この流れが、人間の能力を拡張し、私たちの働き方を変えていきます。新しいテクノロジーは脅威ではなく、私たちをクリエイティブな存在に変えてくれるのです。企業のリーダーは、AIと人とのコラボを実現し、社員の能力を最大限引き出すことを目指すべきです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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