アマゾンは小売業?それともテクノロジー企業なのか?

顧客の買い物スタイルの理解や、顧客に合わせた提案の努力を怠る小売は、現状に満足するあまり、変化をもたらすテクノロジーの影響にも対応することができない。インターネット、モバイル、そしてクリック&コレクトや買い物コンテンツなどのテクノロジーがもたらしたサービスイノベーションが、小売の世界を永久に変えようとしていることすら認識できないのだ。(ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツ)


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テクノロジーが変える小売の未来

ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツamazon「帝国」との共存書評を続けます。アマゾンはテクノロジーを進化さえることで、顧客満足を図っています。顧客満足と言う視点を社員全員が持つことで、他の IT企業と一線を画しているのです。

小売関連のテクノロジーが広範囲に普及することで、顧客は購入プロセスの条件をコントロールできるようになりますが、その結果、顧客はアマゾンを無視できなくなります。

小売業者から消費者へのパワーバランスの移行は、テクノロジーの発展と密接な関係にあるだけでなく、アマゾンがその変化を自らの成長と進化に利用してきたことを示しています。ジェフ・ベゾスの次の言葉を読めば、アマゾンが広範囲のテクノロジーを抑えながら、顧客満足というビジョンを実現するために、社員が全力で仕事をしていることを理解できます。

ソフトウェアアーキテクチャの教科書をのぞいてみれば、アマゾンに当てはまらないパターンがほとんどないことに気づくだろう。私たちは高性能のトランザクションシステム、複雑なレンダリングやオブジエクトのキャッシング、ワークフローと待ち行列システム、ビジネスインテリジエンスとデー夕分析、機械学習およびパターン認識、ニューラルネットワークと確率論的判断など、多種多様な技術を使用している。また、私たちのシステムのほとんどは最新のコンピュータ科学に基づいているが、それだけではカバーしきれないことも多く、アマゾンの設計者や技術者は学問の範疇を超え、さらにその先へと研究の領域を広げなければならなかった。アマゾンが直面する問題には、教科書的な解決策で太刀打ちできないものも多い。そのため、私たちは「喜んで」新しいアプローチを生み出すのだ……。(ジェフ・ベゾス)

アマゾンは2002年、小売を運営するための複雑なナンバークランチング(演算処理)能力と、標準的な自動コンピューティングのインフラの必要性から、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を生み出しました。その後、ネットワーキング、ストレージ、計算能力、そして仮想化の進歩に乗じて、2006年には自社のクラウドコンピューティング機能を対外的に提供することにしました。

2014年頃アマゾンの株価はしばらく低迷しましたが、その舞台裏で、高まるクラウドコンピューティングサービスへの需要を満たすことを目指していたのです。2015年、このAWSがアマゾンの利益の屋台骨を支える存在となり、スターバックスに匹敵する利益を挙げ、投資家の信頼を取り戻しました。アマゾンの株価は上昇し、時価総額も今ではマイクロソフトに次ぐ存在になっています。

現在、AWSの顧客にはNetflixやNASAのほか、ノードストローム、オカド、アンダーアーマーなどの小売業者も含まれています。転換点となったその年、AWSは2015年の営業利益の3分の2を担い、2017年にはその100%相当にまで成長しました。

アマゾンは小売業者である前に、巨大なテクノロジー企業なのだ。 AWSは潜在能力を十分に発揮し、アマゾンを今日の巨大企業へと成長させたが、独自の事業を創造し、簡略化への探求を恐れなかったことは特筆に値する。AWSはやがて、事業向けと個人向けの事業に分化して再販されるようになった。

AWSによって、グローバルeコマース、サプライチェーン、フルフィルメント、そして小売の次なるデジタル・フロンティアとして、自動化・音声ビジネスと、それを実現させる最新式AIシステムへの道が開かれました。AWSはテクノロジーの優位性と利益で、アマゾンを類稀な存在に変えたのです。

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フリクションレスによって、アマゾンは顧客との関係をより強化した。

アマゾンがはじめてプライムデーを開催したのは、創業20周年の節目を迎える2015年のことで、その頃にはプライム会員プログラムも誕生から10年が経過していました。プライムデーの開催で、アマゾンの売上はアメリカでは93%、欧州でも53%上昇しました。2回目の開催となったプライムデーでは、24時間以内の注文が1回目の開催時から60%増加したのです。これが実店舗型小売に大きな打撃を与え、今では年に1回開催されるディスカウントデーに対抗しようと、それぞれが必死の対策を練っているほどです。 2017年にはプライムデーの開催が12力国にまで拡大され、アレクサでも注文ができるようになりました

2017年には、プライムデーが24億ドル(約2400億円)という驚異的な数字を稼いだのです。2015年はAWSが利益をもたらし、プライムデーがはじめて開催された年でした。それと同時に、アマゾンの売上は1000億ドル(約10兆円)を突破したのです。

顧客は買い物体験のフリクションを減らしたいと考えています。消費者が買い物の際に経験する負荷(フリクション)を解消するためには、顧客が目当ての商品をオンラインで注文し、それを自宅まで配送できるようにする、あるいは顧客が商品を見つけるや、レビューやお買い得情報を提供し、あっという間にモバイル決済やエキスプレス・フルフィルメントで会計を済ませられるようにしなければなりません。

会計待ちや配送の問題、粗悪なサービスなど、顧客体験にフリクションを呼び込むあらゆる要素は、自分のスタイルで買い物をする消費者とは共生することができないのだ。顧客が求めるものをより多く与えるため、フリクションレスな小売の「あり方」はデジタルを駆使した顧客体験の改善によってもたらされ、その「手段」はテクノロジーによって与えられる。

アマゾンは伝統的な小売業者であり、小売テクノロジー企業として、顧客のフリクションを減らすことに注力しています。 テクノロジーは消費者の小売との関わり方を変えるだけではなく、フィジカルとデジタルの境界をあいまいにしています。

ベゾスは従業員に対して、たとえ顧客が気づかなくても、より良い何かを提供するためのアイデアを積極的に出すよう奨励し、アマゾンもまた、その探求の道中で失敗することを恐れなかった。アマゾンの賭けはとてつもなく大きく、実を結んだときには失敗を補って余りあ る大成功となるのだ。

2014年6月にアマゾンが「ファイアフォン」を発表すると、「記憶に残らない」、あるいは「可もなく不可もない」など、否定的なレビューが殺到しました。発売からわずか1ヶ月で、ファイアフォンを199ドル(32GBモデル)から99セントにまで大幅値下げしました。その後、1億7000万ドル(約170億円)もの損失を出したことを明らかにした上で、アマゾンはスマホ事業から撤退します。

しかし、アマゾンは幸運で、翌年AWSが叩き出した記録的な数字によって、ファイアフォンの失敗から世間の目を逸らすことができたのです。 アマゾンはこの失敗から多くの学びを得ます。アップルとグーグルの 2つのモバイルOSが主流となった市場では、価格と品質のいずれかはっきりとした差別化を打ち出す必要がありましたが、アマゾンはそのどちらも実現することができませんでした。

ただ、ここからフリクションレスの技術を進化させることができました。ファイアフォンに導入されたファイアフライというモバイルアプリは、テキスト、音声、オブジェクト認識ツールとして、1億点以上の商品の中から自分の買いたいものを特定し、それをオンラインでフリクションレスに買えるよう設計されていました。彼らはこの失敗を糧に、ユビキタスな接続性とインターフェースの浸透性を高めるテクノロジーの発展を活用したのです。その後、アマゾンはファイアタブレットで成功を収め、ハードウェア開発で面目を保ちました。

プライムサービスにおいては、配送コストは厚い障壁になります。2017年、ECサイト調査機関のベイマード・インスティテユートが、アメリカの消費者を対象に行った調査から、配送、税金、手数料などの高い追加料金が、「かご落ち」の理由の上位に挙がっていることがわかりました。

アマゾンは、プライム・サービスによって、オンラインショッピングにおける2つのフリクションを解決しました。スピード発送の月額または年額の一律化により、それまでは決済にいたるまで隠されていた追加配送料を排除したのです。また、オンラインは実店舗より時間がかかるという認識を変えることにも成功しました。

都市部で1時間以内の配送を約束するプライム・ナウは、そのサービスを極限まで突き詰めました。実店舗で直接商品を買うことでしか得られなかった迅速性と即時的満足感をオンラインでも実現させたのです。また、音楽、TV番組、映画、音楽など、オンデマンドのメディア配信もプライム・サービスの一部を担い、現在のプライム会員数は、Spotify(7100万人)、Hulu(1700万人)、Tinder(300万人)など、人気のオンライン・サブスクリプション・サービスをしのぎ、1億人規模にまで成長しています。

プライム・モデルとフリクションレス化によって、アマゾンは圧倒的な存在になりました。プライムは「ラストワンマイル」のフルフィルメントにおいても、アマゾンがeコマースの競合を打ち負かす武器となったのです。

今やアメリカの消費者の半数以上が、商品検索のスタート地点をアマゾンにしています。これが広告の王者グーグルを苦しめています。アマゾンはこれだけ強者になったにも関わらず、開発の動きを止めません。今後も刷新と構築を繰り返し、私たちの生き方、働き方、買い物の仕方を変えていくはずです。自律型コンピューティングの可能性に頼りつつ、買い物のプロセスをより速く、そして直感的なものにするため、アマゾンは今後も進化するはずです。アマゾンはただの小売業ではなく、買い物体験のストレスを減らすアイデアとテクノロジーによって、顧客との関係を強化しています。アマゾンは小売の顔を持ったテクノロジー企業なのです。

まとめ

アマゾンは顧客の買い物体験からフリクションを減らすために、アイデアを生み出し、テクノロジーを絶えず進化させています。テクノロジーの開発では多くの失敗を繰り返してきましたが、それを乗り越え、顧客との関係を強化してきました。その結果、時価総額はマイクロソフトに次ぐ存在になったのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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