運動によって、自分の限界を超える方法


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スタンフォード式人生を変える運動の科学
著者:ケリー・マクゴニガル
出版社:大和書房

本書の要約

体を動かすことで、自分が設定した限界を超えられます。自分自身についての頑固な思い込みも運動で払拭可能です。明確な目標を作り、実現するための方法を考え、着実にそれを行うことで、難しい目標も達成できます。自分を信じ、運動を続けることで奇跡が起きるのです。

運動のよって、自分の限界を超えられる!

もし頭のなかで、「どうせ私なんて歳だから、不器用だから、太っているから、調子が悪いから、体力がないからら」などという声が聞こえても、体を動かすときの感覚には、それを覆すだけの説得力がある。自分自身についての頑固な思い込みでさえ、実際に体で経験することによって払拭される場合も多い。新しい感覚の強烈さは、古い記憶やストーリーをしのぐからだ。(ケリー・マクゴニガル)

ケリー・マクゴニガルスタンフォード式人生を変える運動の科学書評を続けます。私たちは自分の中に限界を設けることで、いつの間にか自分を変えることは難しいと考えるようになります。しかし、運動をすることで、私たちは自分の限界を超えられるようになります。筋力トレーナーのローラ・コウダリーは、自分を小さな存在だと思い込んでいた女性たちが体を鍛えることで、重いウェイトをもち上げる様子を何度も見てきたと言います。

ユニテリアン・ユニバーサリスト協会の牧師で、「クロスフィット」ジムでコーチを務めるケイティ・ノリスも、「パートナー・キャリー」というエクササイズをとおして、思いがけない発見をしました。パートナーを肩にかつぐか背負うかして走るという過酷な競技ですが、彼女は自分には不可能だと言い訳を長年してきました。

パートナー・キャリーがエクササイズのメニューに入っている日には、彼女は別のトレーニングを選んでいました。彼女は自分の体の小ささやスタイルの悪さ、汗っかきなどのネガティブな自分にフォーカスしていたのです。

日々トレーニングを続けるうちに、ノリスは体力がつ き、新しいスキルも身に着け、不得意なことにもチャレンジできるようになっていました。夫と息子もその後、ジムに入会し、家族でトレーニングをするるようになったのです。しかし、7年経っても、彼女はまだパートナー・キャリーには挑戦していませんでした。この競技だけは、自分には無理、自分の限界を超えていると考えていたのです。

ノリスについにチャンスが訪れます。夏の大会に50メートルのパートナー・キャリーが含まれていたので、ノリスは思い切って、夫と組んで参加することにしたのです。 彼女はどうせこんな体だからとか、あれはできるけどこれは無理とか、そういう思い込みにとらわれるのはもうやめようと決めました。

夫が背に乗ると、ノリスは深呼吸をし、体幹の筋肉に力を入れて前傾姿勢を取りました。夫の腕をしっかりと巻きつかせ、彼の体を両腕でぐっと自分に引き寄せると、ノリスは夫を背負ったまま砂浜を歩けたのです。50メートルの表示にたどりついた瞬間、彼女は自分の変化を確信しました。 その後、ノリスは知らない人と組んでパートナー・キャリーに参加できるようにりました。

私にとって牧師の務めとは、人びとが本当の自分を見つけることで、その人らしい生き方を見出す手助けをすることです。私たちは体を動かすことによって、精神的にも、感情的にも、肉体的にも、宇宙との関係についても、深い気づきを得ることができます新たな自分を見出すのです。(ケイティ・ノリス)

意識が大きく変わった彼女は、やがてクロスフィットのコーチになり、自分を弱い存在だと捉えている人たちにアドバイスしています。

困難を乗り越えるために必要な3つの条件

ポジティブ心理学者のチャールズ・R・スナイダーは、人生において困難を粘り強く乗り越えるためにきわめて重要な心理状態には、3つの必要条件があると指摘します。
1、明確な目標
希望が長続きするためには明確な目標が欠かせません。
2、目標に到達するための道筋や方法
目標を達成する方法を見つけ、確実にそれを実践する。
3、自分にはそれをやりとげる力があると固く信じること
自分には能力があり、必要なサポートを得ながら一歩ずつ進んでいけると信じること。

DPIアダプティブ・フィットネスでは、脳卒中や脊髄損傷、手足の切断などを経験している体に問題を抱えている人たちがトレーニングをしています。ここは彼らの希望を育む場所で、目標を達成するために日々トレーニングを続けています。DPIではすべての会員が、「運転できるようになる」「歩けるようになる」など、自分にとって重要な目標を設定します。つぎに、トレーナーたちは具体的な運動目標を設定し、目標を達成するための道筋を示します。

このジムの「ウォール・オブ・グレイトネス」には、「信じればきっと達成できる」「最初に脱落するな」などやる気が出る言葉がずらりと並んでいます。会員たちは元の生活を取り戻すためにハードなトレーニングを続けます。伴走するトレーナーたちは、会員の目標達成の瞬間を記録して、みんなで喜びを分かち合い、ともに祝えるようにしています。

DPIでは、会員の友人や家族にも、一緒にトレーニングをするように勧めています。共に運動することで、トレーニングの効果が上がり、より有意義になるからです。家族がそばにいるだけで、会員たちのトレーニングへの向き合い方や自信のもち方が変わってきます。

ある研究では、同じ斜面を見ても、友人が同伴している場合はひとりのときとくらべて、斜面の勾配がゆるやかに感じられることがわかりました。 また、2007年のある医学雑誌では、パーキンソン病の65歳の男性の症例が報告されています。この患者は歩行困難で、ほんの数歩でも体のバランスを失ってしまいます。彼の住む北イスラエルのある地方は、何度もカチューシャ・ロケットやモルタル・ロケットによる爆撃に遭っていますが、空襲警報のサイレンが鳴っても、その男性は避難所へ走っていくことができませんでした。

ところがある日、爆撃が始まって妻が彼の腕をぐっとつかんだとき、彼は椅子から立ち上がったのです。つぎの瞬間、気がつけば彼は歩き出し、やがて走り出していました。神経科学者たちは、彼の運動能力が目覚めたのは緊急事態のせいではなく、無我夢中で妻について行こうとしたためだと結論づけました。 家族や友人が参加することによって、成功の瞬間を、大切な人たちに見守ってもらえることで、会員は希望を持てるようになります。

ある実験では、参加者たちの心に希望を呼び起こすため、重要な目標を達成したときのことを思い出し、将来の目標に向かって努力するなかで、その経験がどのように役立つと思うかを考えてくださいと指示しました。つぎに、各参加者は氷水のなかに片手を入れ、できるだけ長く我慢しました。参加者が希望を呼び起こしてから氷水に手を入れた場合は、そうしなかった場合にくらべて、1分間長く耐えることができたのです。このように希望を持つことで、人々の思考と行動が変わります。懸垂や片足立ちをしているときは、1秒長くもちこたえるごとに、明日はもっとできるようになる可能性が開けます。

さらに、つらいトレーニングは目標の達成に役立つと考えると、その人の脳では、運動による高揚感を引き起こすエンドルフィンや、内因性力ンナビノイドの血中濃度が上昇します。自分が何のために努力しているのかをしっかりと認識し、いまやっていることはとても重要だと信じていれば、脳内化学物質の作用をうまく利用して、痛みや疲労を乗り越えることができるのです。

希望が重要だからこそ、DPIのジムにやってきた会員たちは、まずウォール・オブ・グレイトネスを目にします。ウォールに名を載せた人たちにとっては、目標を達成した証拠であり、新しい会員たちにとっては、自分はどんな目標を達成できるだろう、と考えるきっかけになるのです。

ジョアンナ・ボニーラは元々はアスリートでしたが、病気が原因で下半身が麻痺します。人生の絶頂から、突然絶望に突き落とされたのです。12週間のリハビリによって、車椅子を使えるようになった後で、彼女はDPIのジムの通い始めます。

彼女は3か月後に車を運転できるようになることを目標に設定しました。車椅子から車の運転席へ自力で移動できるように、上体を鍛える必要がありましたが、この目標を設定すること、トレーナーが伴走し、励ますことで、辛いトレーニングを乗り切ったのです。ジムで自分との闘いを続けた結果、本当に3か月後に彼女は車に乗れるようになっていました。彼女のトレーニングメニューには、ボクシングが取り入れられ、さらに、ウォール・オブ・グレイトネスに名前を載せるため、トレーナーとのスパーリングで30秒間に100回のパンチを繰り出すという目標を達成しました。

ボニーラは、その後、ひょっとしたら脚にギプスを装着して歩けるようになるかもしれない、と思い始めていました。長いあいだ可能性が低いように思われていましたが、トレーニングの成果が出始め、もう少しで達成できそうなところまできていたのです。

彼女は車椅子で通常のトレーニングをこなしたあと、特注の脚ギプスをふたつ取り出しました。太ももからすねを固定するためのストラップを片方ずつはめると、白いプラスチックの長下肢装具に足を入れ、黒いスニーカーの紐を結びました。やがて立ち上がった彼女は、歩行器の手すりにつかまって、ジムのフロアを歩き回ることに成功します。下半身付随だった彼女が、目標設定し、トレーニングを重ねることで、歩く幸せを取り戻したのです。

明確な目標を作り、実現するための方法を考え、着実にそれを行うことで、難しい目標も達成できるようになります。自分にはそれが実現できるという強い気持ちを持ち、運動を続けることで、奇跡が起きることをDPIの会員たちから学べます。

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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