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コア・バリュー・リーダーシップ
石塚しのぶ
PHPエディターズ・グループ
本書の要約
会社の「中身」が、ほんとうの売り物である時代になった今、経営者は会社独自の目的意識(コア・パーパス)と価値観(コア・バリュー)を柱に経営を行うべきです。経営者は自らをコア・バリュー・リーダーと捉え、パーパスとバリューを明らかにし、現場が顧客と接しやすくすべきです。
コア・バリュー経営とは何か?
「コア・バリュー経営」とは、コア・パーパス(企業の社会的存在意義)やコア・バリュー(中核となる価値観)を定義し、会社のアイデンティティを明確にしたうえで、コア・パーパスとコア・バリューの日々の実践を通じて独自の企業文化を醸成し、「人間性」や「健全性」に富んだ「参加型」「自律型」の企業組織をつくる、経営・組織改革手法です。(石塚しのぶ)
時代が変化する中、企業に対する顧客の視線も厳しきなってきました。パーパスやバリューのない企業の社員は、何を目標に働いてよいのがわからず、戦略や戦術がブレてしまいます。これでは、強い組織は作れません。
経営者は今こそ、自分たちの目的であるコア・パーパスと何を大事にして生きていきたいのかというコア・バリュー、どこへ向かっているのかというビジョンを定め、それに忠実に会社を経営していくべきです。
テクノロジーの進歩によって、人の働き方が変わりつつあります。テクノロジーは、ビジネスから人間性を奪うものではなく、むしろそのプロセスに人間性を取り戻すものになってきました。
「企業」と「顧客」の関係性を、「人」と「人」との関係性に変換し、「愛」や「感情」「人間性」を、売り/買いのプロセスの中に注入する企業こそが、新しい時代の後継者となります。そこで、企業が着手すべきは、「私たちは何者か」をまず見極めることです。何のために存在しているのか。社会にどんな貢献をし、顧客と共に、どんな未来をつくりたいのか。どんなことを信じ、何を大切にしているのか。それを明らかにしたうえで、心からの共感者を集め、共通の目的を実現するコミュニティ(共同体)をつくることです。
これからの会社は「金儲けをするための組織」ではなく、私たち生活者が住みたい社会をつくるための仕組みであり、ムーブメントであるべきだと著者の石塚氏は指摘します。
会社の「中身」が、ほんとうの売り物である時代になった今、経営者は会社独自の目的意識(コア・パーパス)と価値観(コア・バリュー)を柱に経営を行うべきです。経営者は自らをコア・バリュー・リーダーと捉え、パーパスとバリューを明らかにし、現場が顧客と接しやすくすべきです。
変化のスピードがますます加速化していく中で、かつては、「上層部」や「中央」で決めていたことを、「現場」に委任していかざるを得なくなっています。
個々の働く人が判断力、創造力、感性など、各々が持つ様々な能力を最大限活用して、意思決定や企画や、イノベーションを素早く、次々に遂行していくことが要求されます。個々の力の集積が企業の力となるのです。企業の提供価値を理解した従業員が、個人の裁量で動けるような仕組みを築くことが必要になりますが、この「規律」として力を発揮するのが、「企業文化/コア・バリュー」になります。
自らのパーパスを語る組織が強い理由。
意思決定が現場に委任され分散化された組織体制であっても、会社は「ONE(ひとつ)」として団結する必要があります。このような「心の接着剤」になってくれるのが、「企業文化」であり、「コア・バリュー」なのです。
アメリカの消費者の68%が「自分と価値観の異なる会社からは買いたくない」と言います。また、同じ消費者が「現在市場に出回っているブランドの大半(74%)は存在意義のないブランドだ」と厳しい判決を下しています。
今自分が常用しているブランドは、他に選択肢がないから仕方なく買っているという現状を見れば、経営者は顧客視点に立って、新たな価値を提供しなければなりません。
今日、アメリカで最大の消費者層を形成する「ミレニアル世代」は、「パーパス・バイヤー(目的志向の購買者)」とも呼ばれ、自らの信条に合致しないブランドは「買わない/乗り換える/ボイコットする」と言われています。
ほとんどすべてのものが「コモディティ化」した市場で、企業が「目的意識(コア・パーパス)と価値観(コア・バリュー)の共有」をベースに顧客と感情的なつながりを築き、それを長期的に育んでいくことが、今までにも増して重要になっているのです。
経営者がパーパスを明確にし、従業員に「パーパス・ストーリー」を語ってもらうことで、従業員のエンゲージメントの向上ももたらしました。このイニシアチブを開始して半年足らずの間に、「KPMGは素晴らしい職場である」と答えた従業員の割合が82%から85%に、そしてさらに1年後には89%に向上したといいます。
「私の仕事には特別な意義がある(ただの仕事ではない)」と答えた従業員は全体の76%に達しました。会社のコア・パーパスに関して日常的に会話が交わされている部門や部署の場合、94%が「KPMGは素晴らしい職場である」と答え、同じく94%が「KPMGで働いていることを誇りに思う」と答えました。
反対にコア・パーパスに関しての会話がない部門や部署においては、「KPMGは素晴らしい職場である」と答えた人の割合は66%、「KPMGで働いていることを誇りに思う」と答えた人は68%に留まったといいます。
年間の離職率も、コア・パーパスについて話されない部門や部署では9.1%と、コア・パーパスが話される部門や部署の5.6%に比べてかなり高めであるという結果が出ました。会社のコア・パーパスを、日々の仕事に関連づけて話し合う機会を持つことが、働く人のエンゲージメントやロイヤルティや、モチベーションに大きな影響をもたらすことがわかります。
アメリカのジョワ・ド・ヴィーヴルという中堅ホテル・チェーンでは、「顧客体験」の要を握るのは、ハウスキーパー(客室清掃係)だと考え、彼らを対象に泊りがけの合宿を行いました。同社のコア・パーパスは「夢を大きく育む」ことで、このコア・パーパスを踏まえて、自分の仕事を再定義することにしたのです。
ハウスキーパーの仕事が「掃除」でも、「備品の補充」でも、「ベッドメイキング」でもないのなら、「何のために掃除/備品の補充/ベッドメイキングをするのか」という根本に立ち返って考えたのです。
■私の仕事は『旅先の母親役』になること
■静穏を提供すること
■心の安らぎを守ることです
「ただ、掃除しているだけ」ではなく、「お客様の心の安らぎを守っているのだ」と考えることによって、仕事への思い入れややりがい、また仕事に注ぐ創造性がまったく変わってきます。「コア・パーパス」を考えることで、日々の仕事が楽しくなります。
「コア・パーパス」は働く人の心を奮い立たせる焔です。それなのに、ほとんどの会社がそれを見過ごしています。これはほんとうに残念なことです。会社の生産性、従業員エンゲージメント、顧客満足度、欠勤率等あらゆる指標を見ても、働く人の大多数が、コア・パーパスを日々の業務の中核に据えて働く会社のほうが優れた結果を生んでいます。職務内容より、職務の「目的」や「意義」のほうがはるかに重要です。
出発点となるべきは「何をやるか」ではなく、「なぜ/何のためにやるか」なのです。だから会社の求人広告も、職務内容の記述ではなく、職務「目的」や「意義」の定義から始めるべきです。
「モリー・メイド(Mally maid)」という家事サービスのフランチャイズ会社の売上トップの加盟店オーナーは、「仕事の意義」について従業員に常にこう言って聞かせているといいます。
「ただ家の掃除をしているのではない。お客様に『余暇という贈り物』を差し上げているのだ」「私たちの仕事は、独りぼっちの寂しさを和らげることだ」と。彼らの顧客の中には、独り暮らしの高齢者も多くいます。家事サービスの人が家に来ることで、話し相手にもなり、そのひと時だけでもお年寄りは孤独の痛みを忘れることができるのです。
働く人たちの心に「コア・パーパス」の焔を点す最も効果的な方法は、リーダーが自らの「コア・パーパス」について自分の言葉で表現し、その実現に向けて日々行動することです。そうして初めて、働く人たちと本音の会話をできる場をつくることができます。
自分と会社との間に共通の「目的」や「情熱」や「価値観」を見出すことができれば、働く人は、ここが「自分の居場所」であると感じ、「自分らしさ」や「自分の持てる力」を100%発揮できると感じます。そして、会社に属する「個人と個人の間のつながり」が強くなればなるほど、会社全体の強度はますます強固なものとなります。
今日、顧客との関係性を「売り手と買い手」ではなく「人と人」へ、働く人との関係性を「雇用者と従業員」ではなく「人と人」へと転換できる企業こそが「強い」企業です。
コアパーパスとコアバリューを基軸にした経営が、人と人との関係を良くするコミュニティを作ります。現代の顧客はそういったコミュニティに参加し、その企業を応援したいと考えているのです。
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