耳を貸さないリーダーに聞く耳を持たせる方法
アダム・グラント
ダイヤモンド社
本書の要約
リーダーに再考を求める社員が多くいる企業は成長します。自信過剰や強情、独善主義、反論好きになりがちな上司や同僚に物申すコツをつかんでいる人たちを活用できるリーダーが、組織を強くします。激動の時代に成功するには、認知的な駆動力だけでなく、認知的な柔軟性も求められると著者は指摘します。
リーダーに必要な「if-then」メソッドとは?
アップルを率いたスティーブ・ジョブズがそうであったように、組織を成功に導くには先見性に優れた強いリーダーが必要である。ただし、実際に成功を収めるには、非凡なリーダーに再考を促すことができる部下の存在も欠かせない。(アダム・グラント)
卓越したリーダーになるためには、いくつかの資質が必要になります。先見性、主体性、カリスマ性、パーパスは当然のこと、組織を動かす力も欠かせません。
ペンシルベニア大学ウォートン校教授のアダム・グラントは、リーダーの資質として、周囲に耳を貸し、間違った考えを改める能力を高めるべきだと述べています。そのために、「if-then」というスキルを身につけることが効果的だと言うのです。
スティーブ・ジョブズは、部下からのアドバイスで自分のアイデアを考え直すことで、成功を手に入れました。再考を促すコツを心得ている人材を周囲に置かなければ、ジョブズは世界を変えられなかったかもしれません。
ジョブズは当初、数年間に渡って、携帯電話など絶対につくらないと言い張っていました。部下たちが何度も説得してようやく考えを変えたものの、次には外部アプリの搭載を禁じました。その方針を撤回させて、アプリ配信サービスのアップストアを開設するまでに、さらに1年かかりました。
結果、9カ月も経たないうちにアップストアのダウンロード件数は10億回を記録し、その後10年余りでiPhoneはアップルの稼ぎ頭となり、収益は1兆ドルを突破しました。
しかし、多くのリーダーはジョブズとは異なり、他者の意見をなかなか聞かないことがわかっています。
残念なのは、自分の考えが正しいと頑なに信じて、他者の貴重な意見やアイデアに耳を貸さず、自分の間違った考えを改めようとしないリーダーがあまりにも多いことだ。反対に幸いなことは、ひときわ自信過剰で頑固、独善的な天の邪鬼でも、素直に耳を傾けてもらえるということである。
どのようなリーダーにも「if-then」(その場合)とでも言うべき性向があります。特定の状況になった場合、人は決まった反応を示す傾向があるのです。威圧的なマネジャーが上司を目の前にすると、上司の言いなりになったり、負けず嫌いの同僚が、重要な顧客に接する時は協力的になります。期限にルーズな人でも重要な仕事の期日が迫れば、しっかり仕事に取り組んで締め切りを守ります。
自分の方が部下より知識があると言う認識が、チームの空気を悪化させます。知ったかぶりをする上司には、認識不足を上手に指摘する必要があります。彼らにはモノの仕組みを説明し、自分の知識が足りないことを認めてもらうことで、相手は自分の話を聞いてくれるようになります。
正しいリーダーになるために必要なこと
融通の利かない人は、一貫性や確実性を重視する。一度決めたら石のように頑なになる人たちかもしれないが、ノミを渡して主導権さえ握らせれば、みずから石を切り崩すように柔軟に考えるようになる。
心理学の代表的な研究によると、頑固な人は内的要因の力が大きいと見なす傾向があり、自分の意志次第で結果をコントロールできると考えています。彼らはよいアドバイスを受けても、頑なに自分の意見を貫こうとします。
逆に、他者の意見を聞き、自分の思考や行動を変えることが成功の秘訣であることがわかっています。ハリウッドの脚本家を対象とした研究によると、脚本家が映画会社の経営幹部に売り込みをかける時、最初から完成度の高い脚本を持ち込んでも、なかなか採用されません。
実は、売り込みに成功する脚本家は、映画会社の経営幹部もストーリーづくりが好きだということを理解し、キャッチボールをする環境を整えながら、自分の作品を売り込んでいたのです。つまり、アイデア段階の企画を投げかけることで、相手がストーリーを膨らませて投げ返してもらうように仕向けていたのだです。
アップルの当時の社員の話をまとめると、ジョブズは人から何らかのアイデアを持ちかけられると、主導権を握るためにはね付けることが多かったそうです。しかし、自分がアイデアを思い付いた場合には、自分とは異なる意見も柔軟に検討しました。
相手の警戒心を和らげるには、答えを示すよりも問いを投げるほうが効果的だということが、さまざまな調査で明らかになっています。上司にどう考え、どう行動すべきかを提示するのではなく、会話の主導権をある程度、上司に渡し、相手の意見を聞く姿勢を見せることで、よいキャッチボールができるようになります。
「仮にこうだとしたら、どうでしょうか」「私たちでこれをやってみるのは、いかがでしょうか」といった質問は、相手の可能性に対する好奇心をかき立てて、リーダーと部下の関係をよくし、創造性を高めてくれるのです。
独善的なリーダーは自分が人より優れている特別な存在だと考え、間違いを指摘されるのを嫌う。しかし、細心の注意を払えば、自分にも欠点や間違いがあると認めてもらうことができる。
独善的な人は自己肯定感が高いのですが、それが揺らぎやすいという特徴があることが研究からわかっています。彼らはステータスや承認を追い求めているため、侮辱や拒絶に遭ったり、面目を潰されたりすることで、不安定なエゴが脅かされると、敵対心をむき出しにします。
自分とは違う意見が示されると、条件反射的に自分への批判と見なし、拒絶する傾向があるのです。彼らの承認欲求に働きかければ、それを和らげることができるようになります。
実際、米国の調査でも中国の調査でも、独善的なリーダーは謙虚さを示すことができることが明らかになっています。彼らは自分は才能には恵まれているが、完璧ではないと認められる能力があるのです。独善的な上司と良好な関係を作るためには、相手に対する敬意をはっきりと示す必要があります。
称賛を織り交ぜれば、独善的な人の不安を和らげる特効薬になる。ただし、ほめることが常に有効とは限らない。 大事なのは、変えてほしいと思っている点以外をほめることだ。独善的なリーダーが下した見当違いの判断を再検討してもらいたい場合、意思決定スキルが素晴らしいと言うのは間違いで、創造性を称えるほうがよい。人間は誰しも多面的な存在であり、得意なこと一つに自信を持てば、他の欠点を受け入れやすくなる。
アップルの開発者会議に出席していた人たちは、特定の状況でジョブズが独善的な態度を示す「if-then」の傾向があることを直感的に理解していました。メンバーたちはよい製品をつくるためにジョブズの知性と影響力を称賛し、ジョブズが自分の知識不足を認めやすくしました。
CEOが他社の取締役に推薦する経営幹部について調査したところ、最終的には上司に同意するとしても、まずは議論を戦わせることの多い人材が選ばれやすいことがわかっています。経営者が求めているのは、自分の意見を掲げて、議論を戦わせる意志があり、意見を変えることもいとわない人材なのです。
1985年に、ジョブズは自身が立ち上げたアップルから追放されました。いかに強力なビジョンがあったとしても、自分の信念について考え直さなければならない時もあることを学んだジョブズは、ピクサーとのメンバーと関わる中で、自分の経営のやり方を徐々に変えていきます。
再び、アップルのCEOに復帰した時、ジョブズは柔軟さを身につけていただけでなく、すすんで自分に意見し、議論をしてくれるメンバーを重用しました。自分の悪い習慣を改善してくれるメンバーと共に仕事をすることで、アップルはイノベーションを起こし、成長を続けます。
組織にはジョブズのように先見性に優れた強いリーダーが必要ですが、リーダーの独善性を変えるメンバーも必要です。
自信過剰や強情、独善主義、反論好きになりがちな上司や同僚に物申すコツをつかんでいる人たちを活用できるリーダーが、組織を強くします。激動の時代に成功するには、認知的な駆動力だけでなく、認知的な柔軟性も求められると著者は指摘します。
もしリーダーが自身の信念を見直す分別を持っていなければ、部下は気概を持ってリーダーに考え直しを迫らなければなりません。
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