スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法
ジェレミー・アトリー, ペリー・クレバーン他
KADOKAWA
本書の要約
好奇心は、顧客のペインを理解する旅の始まりにすぎません。問題の真の原因を見つけ、イノベーションの種を見つけるためには、忍耐強く時間をかけて状況を観察する必要があります。すぐに答えが得られなくても、落胆する必要はありません。問題を理解するには、時間と労力が必要です。好奇心、観察力、忍耐力を身に着けましょう。
イノベーションに好奇心が必要な理由
何かを「本当に見る」ところまで自分を追い込むには、献身的な努力が必要だ。私たちの知覚のほとんどは、「意識的に注意を払う」レベルに達しないところを漂っている。私たちはいつも、「見る」のではなく「眺めて」いる。過去に思いをめぐらせたり、将来を心配したりしながら、現在を無意識に過ごしているのだ。(ジェレミー・アトリー, ペリー・クレバーン)
スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法(ジェレミー・アトリーとペリー・クレバーン)の書評を続けます。
J.D.クランボルツの計画的偶発性理論では、好奇心が重要だとされいますが、イノベーションにおいても好奇心が欠かせません。この理論は、計画外の出来事や偶然から生じる未知の情報が創造的なアイデアや革新を促進する可能性を提唱しています。好奇心はこのプロセスを推進し、創造性を駆り立てる重要な要素となります。
好奇心は、新たな知識や経験の追求への欲求として定義されます。人々が新しいアイデアや情報を追求することで、計画的な目標や予定外の出来事を通じて予期せぬ発見が生じる可能性があります。好奇心は、既知の領域や既存のアイデアに挑戦し、新しい視点や洞察を得るための探求心を駆り立てます。
好奇心は、顧客のペインを理解する旅の始まりにすぎません。忍耐強く、時間をかけ、状況を観察することで、問題の真の原因を明らかにし、イノベーションの種を見つけることができます。 すぐに答えが得られなくても落胆しないでください。問題を理解するには、時間と労力が必要です。しかし、忍耐強く努力すれば、最終的には顧客の痛みを解決する革新的なソリューションを見つけることができます。
アイデアが尽きたと思うのはやめ、アイデア出しを続けましょう。以下の「3つのアイデアノルマ」を日課にすることで、創造性は高まります。
1.種まき(Seed)──問題を選んで、それについて研究する。
2.睡眠(Sleep)──潜在意識に問題を処理させる。
3.解決(Solve)──問題をアイデアで満たす。
このアイデアノルマを習慣にすると、新しいアイデアが「創造性の崖(クリエイティブクリフ)」をはるかに超えてきます。
イノベーションを起こすために、顧客をひたすら観察しよう!
顧客は問題を持っている。そして私たちの仕事は、彼らの問題を解決することである。それを達成するためには、彼らを観察し、彼らのニーズや痛みを理解しなければならない。(サム・ウォルトン)
入店した顧客やユーザーが新製品をいじるといったを観察するときは、事前にどれだけ長く観察するかを決めておきます。苦痛を感じるくらいに長く設定するといいと著者らは指摘します。観察に心地悪さを感じる場合は、タイマーを10分に設定してみることをおすすめします。
観察を続けると、脳はほぼ即座に「もう十分見た」と感じます。それが、すべての価値あるものが明確に見えていると主張する合図です。この合図を見逃さず、現在に集中することが大切です。 しかし、驚くことに、私たちの脳は次に急いで進むよう促すこともあります。「ここには見るべきものはない。次に進みましょう」と主張し、チャンスを遠ざけてしまうのです。
観察の魔法は、我慢強さと注意力を持つことで最大限に発揮されます。少しの辛抱と集中力が、新たな発見をもたらし、私たちの知識や洞察を豊かにしてくれるのです。
タイマーに従って観察を続けると、脳は徐々に疲弊していきます。しかし、その瞬間に自分自身を委ねると、新たな洞察が生まれます。認識が深まったら、自分の解釈を書き出すとよいでしょう。
「なぜ」という質問が顧客課題解決の鍵となります。なぜ顧客はその行動をしているのか?なぜ私は見たかったものを見ていないのか?アイデアやノルマのような観察に関する解釈を、できるだけ多く書き出します。これにより、アイデアの貴重な材料を生み出すだけでなく、観察プロセスにも関与し続けることができます。
スケッチは、深く没頭するための素晴らしい手段です。実際に絵を描けなくても構いません。紙に何かを書くことは、単に「眺める」だけではなく、しっかりと「見る」ことを促してくれます。それは原始的な方法かもしれませんが、観察の過程において重要な役割を果たします。
ピクサーでは、アーティスト以外のメンバーにも基本的なデッサンスキルを教えるという取り組みがあります。これは、観察眼という重要な能力を養うための基礎的なトレーニングと考えられています。ピクサーの社長で共同創業者のエド・キャットマルは、このアプローチを説明し、「訓練を積むことで、脳に先入観を排除して物事を明確に観察する方法を教えることができる」と述べています。
ハーバード大学の美術史と建築の教授であるジェニファー・L・ロバーツは、美術史の学生たちに対して興味深い課題を与えました。彼女は全ての学生に、芸術作品を一つ選んでそれについて研究論文を書くよう要求しました。そして、その研究のプロセスの中で、まず最初にその作品をじっくりと「見る」ことを指示しました。
実際には、驚くべきことに、彼らはその作品をフルで3時間も観察する必要がありました。 多くの学生はこの課題に最初は抵抗を示しました。彼らは1枚の絵や1つの彫刻には見るべきものがそんなに多くないと考えていたからです。しかし、実際に取り組んでみた学生たちは、自分たちの発見に驚くこととなります。
彼らは「何かがすぐに見えるからといって、それをすぐに理解できるわけではない」ということに気づいたのです。 ロバーツ教授は、この原理が美術品に限らず、他の領域にも当てはまると説明しました。私たちはしばしば物事を表面的に見る傾向がありますが、深く観察することで新たな洞察が得られるのです。このようなアプローチは、私たちが日常的に直面するさまざまな課題や問題にも適用されることを意味しています。
デザイン会社アイデオの創業者であるデヴィッド・ケリーは、かつて数時間を費やしてソーダの販売機を観察しました。最初に目にしたのは、予想通りの光景ばかりでした。人々がやってきてコインを入れ、缶を取り出すという光景が繰り返されていました。しかし、しばらくすると、ケリーに気づきが訪れました。彼がこれまで単に「眺めていた」ものを、ようやく「見る」ことができたのです。
実は、誰もがソーダを取り出す際に身をかがめていることにケリーが気づいたのです。なぜ身をかがめる必要があるのでしょうか?それは、販売機の出口が膝の高さに位置していたからです。ケリーは、最初は電力が十分でなかったために、重力を利用して缶を動かしていたのだろうと推測しました。
しかし、なぜ電力が進化しても販売機のデザインが進化しなかったのでしょうか?なぜ、ソーダを取り出しやすい高さの販売機が設計されなかったのでしょうか?これは重要な問いです。 世界中のオフィスビル、競技場、鉄道の駅、学術施設、ホテルには、大型で高価な販売機が設置されています。それにも関わらず、基本的な設計に重要な改善が加えられることはありませんでした。
この問題の解決には、ほんの少しの忍耐力が必要でした。技術の進歩には関係ありませんでした。問題は、人々、特に販売機メーカーの人々が、実際の機械を見ることをやめてしまっていたことです。彼らは、自分たちの脳が見たいものをただ漫然と眺めているだけでした。表示を変更したり、トラブルを減らすために些細な変更を加えることはあっても、本質的な改善は行われませんでした。 要するに、この問題を解決するためには、私たちがもっと好奇心を持って、注意深く観察する必要があるのです。
好奇心旺盛であればあるほど、イノベーションの可能性は高くなります。ですから、周りの世界に興味を持ち、それを理解しようとする努力をしましょう。私たちの好奇心は、私たちの生活をより良い方法で改善する新しい方法を見つけるのに役立つかもしれません。
私たちの多くは、通常、効率を最適化しようとする傾向があります。過去の経験から学んだことを再利用することは、私たちが得意とすることです。しかし、真のイノベーションを実現するためには、基本を見直す必要があります。そして、そのためには、それらを「見る」ことが必要です。
観察力の開発には、常に力ずくではなく、好奇心が大いに役立つことがあります。ただし、多くの人々は自分の好奇心を育てる習慣を持っていません。代わりに、好奇心が導くままに行動しています。もしもインターネットの底なしの世界に飲み込まれたことがあるなら、この目的のない無駄な好奇心がどれほど強力で混乱を引き起こすかを実感できるでしょう。
好奇心は、意図的かつ戦略的に管理されると、イノベーションのために非常に強力な力となり得ます。好奇心は、人々がより深く観察し、より深く考え、より創造的に行動する手段です。好奇心を刺激することが、イノベーションの起点になるのです。
好奇心は、イノベーションの原動力となるだけでなく、より充実した人生を送ることにも役立ちます。好奇心旺盛な人々は、世界をより深く理解し、新しい経験や冒険にオープンになります。また、学習意欲が高く、新しいスキルを身につける意欲も高くなります。 好奇心は、私たちの人生をより良くする贈り物です。イノベーションを起こすために、好奇心、観察力、忍耐力を身に着けましょう。
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