孤独の本質 つながりの力――見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす
ヴィヴェック・H・マーシー
英治出版
孤独の本質 つながりの力(ヴィヴェック・H・マーシー)の要約
孤独は喫煙と同じくらい健康に悪影響を及ぼし、その影響は広範囲にわたります。このため、強い人間関係は私たちにとって不可欠であり、それは健康の向上、パフォーマンスの向上、意見や主義の違いを乗り越えた共同作業、そして社会全体の大きな課題への対処においても重要です。
なぜ、孤独が問題なのか?
ここ数十年あちこちで目にしてきた社会的孤立によって、肉体的・精神的な苦痛が増してきているからだ。(ヴィヴェック・H・マーシー)
第19・21代アメリカ公衆衛生局長官のヴィヴェック・H・マーシーは、現代社会における「孤独」という問題に注目しています。彼の考察は、世界中で拡大している孤独の理由と、それが健康にどのような影響を与えるかに焦点を当てています。
著者は、現代社会で孤独が最も深刻な問題の一つであると指摘しています。喫煙、肥満、依存症などの身体的健康課題と比較しても、孤独はそれらを上回る重大な問題として捉えられています。喫煙に匹敵する健康への悪影響があり、その影響範囲はさらに広がっているとされています。
実際、ジュリアン・ホルト・ランスタッド博士の研究によれば、社会的つながりが弱い人は、つながりが強い人に比べて早死にするリスクが50%も高いことが分かっています。驚くべきことに、社会とのつながりがないことは、1日にタバコを15本吸うことと同等の健康リスクを持ち、肥満やアルコールの過剰摂取、運動不足よりも大きなリスクであることが示されています。
現代社会では、人々はますます孤独を感じる傾向にあります。社会の変化やテクノロジーの進歩により、人々はつながりを失い、孤立感を抱くことが増えています。孤独の原因は、実は帰属する場所がないことにあります。このような状況は、私たちの精神状態に悪影響を与えるだけでなく、生産性の低下や欠勤などの問題を引き起こす可能性もあります。
著者は孤独が現代社会における深刻な伝染病のような存在であることを強調しています。これにより、負のスパイラルが生じ、個人が抜け出しにくい状況に陥ることがあります。
孤独感は深い悲しみやさらなる孤立を生む一方で、人とつながり合うことは気持ちを前向きにし、創造性を高める。
本書は単なる問題提起だけで終わりません。著者は、世界各地で実践されている「社会的処方」と呼ばれる取り組みを紹介し、それが生み出す癒やしの力についても探求しています。
著者は社会的課題である孤独に対する具体的な対処法を明らかにしています。その中で、具体的な対処法として以下の4つが挙げられています。
①愛する人たちと毎日少なくとも15分でも一緒に過ごすこと。
時間をとって会話をするだけでなく、一緒に散歩したり、一緒に食事をするなど、リアルな交流を持つことが重要です。このような時間を共有することで、お互いの存在を感じることができ、孤独感を減らすことができます。
②目の前の相手に集中すること
スマートフォンやSNSなどによって、私たちは常に他の人と繋がっているような錯覚をしていることがあります。しかし、実際には目の前にいる相手とのコミュニケーションが欠如していることがあります。目の前の相手に集中し、積極的にコミュニケーションを取ることで、孤独感を減らすことができます。
③ひとりの状態を受け入れ、自身とのつながりを強めること
他者とのつながりをつくる第一歩は、自分自身とのつながりを強めることです。自己肯定感を高め、自分自身とのつながりを深めることで、孤独感を解消することができます。
④助け、助けられる(相互扶助)
他人を助けることや他人からの支援を受けることで、お互いにつながりを感じることができます。地域のボランティア活動やコミュニティのイベントに参加することで、他人との交流を深め、孤独感を軽減することができます。
4つの対処法は、孤独感を減らし、健康を守るために役立つものです。孤独に対して何かをすることは可能であり、日常生活の中で実践することが重要です。愛する人たちとの交流、目の前の相手に集中すること、ひとりの状態を受け入れ、自己とのつながりを強めること、そして相互扶助による交流など、これらの方法を取り入れることで、より豊かな人間関係と健康な心を築けるようになります。
孤独を防ぐために、3つのサークルが重要な理由
人間同士のつながりが強まると、私たちはより健康になり、レジリエンスが高まり、生産性が向上し、より活き活きとした創造が可能になり、充実感も高まっていく。
孤独に関する研究では、「3つの領域」が存在することが明らかにされています。これらは、孤独を感じるさまざまな状況を理解する上で重要です。
①親密圏の孤独(感情的孤独)
これは、愛情や信頼に基づく深い絆を持つ親友やパートナーを切望する状態を指します。この種の孤独は、親密な関係の欠如によって生じます。
②関係圏の孤独(社会的孤独)
良好な友人関係や社会的なつながり、サポートを求める状態を意味します。ここでは、社会的な交流や支えが不足していることが孤独の原因となります。
③集団圏の孤独
目的意識や共通の関心を共有する人的ネットワークやコミュニティに対する渇望を指します。これは、より広いコミュニティやグループ内での所属感の欠如に関連しています。
これら3つの領域が満たされることで、充実した社会的つながりと活き活きとした生活が促進されます。一方で、これらのいずれかが欠けている場合、孤独を感じる可能性があります。例えば、結婚生活には満足していても、友人関係やコミュニティの欠如によって孤独を感じることがあるのです。
人間関係を築くことは、孤独感を軽減し、心身の健康と幸福感を向上させる重要な要素です。親密な関係を持つことは、精神的なサポートを提供し、ストレスを軽減することが科学的に証明されています。また、強い社会的ネットワークは、自信の向上や、人生の満足度を高める効果があります。さらに、健康な人間関係は、心理的な幸福感だけでなく、身体的健康にも良い影響を及ぼし、長寿に寄与することが研究で示されています。
互いに支え合う人たちは健全な友情関係を築く傾向にあるということだ。こうした相互に利益のある関係は、一人ひとりに安心感を抱かせ、孤独から守ることに役立つ。質の高い社会的なつながりが機能していると、こうしたサイクルが生まれる。
ロビン・ダンバーは、人間の交友関係を「インナーサークル(内円)」「ミドルサークル(中間円)」「アウターサークル(外円)」の3つのレベルに分類しています。これらはそれぞれ孤独の異なるレベルに対応しています。
・インナーサークルは、親しい友人や相談相手で構成され、親密な関係の基盤となります。ここには愛と信頼が根付いており、このサークルは人間関係の中心となります。
・ミドルサークルは、時々会う人々であり、最大で約150人まで拡大する可能性があります。これらの人々は深い秘密を共有するほどの親密さはなくても、人生を楽しく共有することができる存在です。ミドルサークルは、関係圏における孤独を防ぐクッションの役割を果たします。
・アウターサークルは、職場の仲間や知人など、もっと広範な社会的ネットワークを含みます。このサークルの人々は、500人以上にも及ぶことがあり、共通の体験やアイデンティティを共有することで、集団圏における孤独を回避する助けとなります。
ダンバーは、これらのサークルが相互に関連し合い、バランスを保つことが重要であると指摘しています。インナーサークルの親密さが外側のサークルの協力的な交友関係によって強化され、逆に外側のサークルの人々にもインナーサークルの強さが好影響を及ぼすと述べています。このように、人間関係の各層が互いに補完し合い、より充実した社会的生活を築くのに寄与しています。
孤独を乗り越え、よりつながりのある未来を築くことは、私たちがともに取り組むことができ、ともに取り組まねばならない喫緊の任務である。
人間の交友関係は、自分にとって重要な人々だけでなく、赤の他人も含めた多様な人々との関わりから成り立っています。これらの関係は同心円状のサークルを形成し、私たちの社会生活において重要な役割を果たします。友人や知人だけでなく、日常で出会う見知らぬ人々との簡単なコミュニケーションや互いの助け合いも、孤独感を和らげ、社会的なつながりを感じるのに役立ちます。
たとえ表面的な交流であっても、これらの関係は私たちをよりつながりのあるコミュニティの一員として感じさせ、人間の社会的健康にとって重要です。このような交友関係によって、私たちはより良い人生を送ることができるようになります。
強い人間関係が私たちの生活において最も重要な要素であるということは、健康の向上、パフォーマンスの高まり、意見や主義の相違を超えた協力、そして社会全体としての大きな課題への取り組みを可能にすることからも明らかです。
人とのつながりは、私たちの生活の基礎を成し、すべての成功や成果はこの基盤の上に築かれています。人間関係の強さは、個人的な幸福だけでなく、社会全体の進歩にも不可欠な要素となっています。
つながりのある充実した生活は、日常生活の中での小さな選択や行動から生まれます。これらの選択は、私たちの思考や行動に変化をもたらし、より強い社会的つながりを築くための基盤となります。
そのため、つながりを重視した生活を実現するためには、自分の考え方や選択、そして行動を意識的に変えていくことが重要です。日々の生活の中で他者との関わりを大切にし、積極的にコミュニケーションを取ることで、私たちはよりつながりの深い、満足感の高い生活を送ることができるようになります。
最後に著者の質問を紹介して、本日のブログを終わりにします。
・人のための時間を作ろうとしているか?
・本当の自分を見せているか?
・人をつなぐ奉仕の力を認識し、思いやりを持って人と接しようとしているだろうか?
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