両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ (ウェンディ・スミス, マリアンヌ・ルイス)の書評

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両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ
ウェンディ・スミス, マリアンヌ・ルイス
日本能率協会マネジメントセンター

両立思考の要約

パラドックスは私たちに新たな挑戦を与え、成長を促してくれます。私たちは、パラドックスを受け入れ、クリエイティブな緊張関係を築きながら、自己の課題に取り組むことができるのです。二者択一の思考に囚われるのではなく、両立思考を活用することで、持続可能で包括的な解決策を見つけることが重要です。

両立思考が有効な理由

ますます複雑で不確かで曖昧になるこの世界で、一方を選ぶ択一(Either/Or)思考から、相反するものを成り立たせる両立(Both/And)思考に移行する機運はかつてないほど高まっている。(エイミー・C・エドモンソン)

本書では、矛盾しているように見えながらも実際には相互依存する状態(パラドックス)と、選択を迫られる際に生じる対立する選択肢(二項対立や二者択一的な対立=ジレンマ)を「緊張状態」(テンション)として定義します。

この緊張状態を適切に理解し、上手く扱うために、著者のウェンディ・スミスマリアンヌ・ルイスはパラドックスに焦点を当て、その解決法や取り組み方を深く探求しています。本書のアプローチは、困難な問題や複雑な状況に直面した際に新たな視点を提供し、読者に対して有益な洞察をもたらすことを目指しています。

緊張関係は私たちを相反する方向に引っ張る。そうすると、不快感と不安が生じる。私たちはこうした緊張関係を、二者択一的な選択肢のあいだのジレンマと考え、いずれかを選びたい衝動に駆られる。しかし、ジレンマの背後にあるパラドックスは、単に対立しているわけではなく、相互に依存してもいる。パラドックスの対立する力は、互いを定義し補強する。(ウェンディ・スミス, マリアンヌ・ルイス)

対立しながらも相互依存する関係、つまりパラドックスは永遠に持続します。例えば、自己と他者、過去と未来、安定と変化などの間の対立は何度も繰り返され、表面的なジレンマは変わってもその背後にあるパラドックスは変わらないのです。

著者は、仕事と家庭生活、自己と他者、与えることと受け取ることといったパラドックスが、日常生活のさまざまな状況に常に存在していると指摘します。また、人々はジレンマに直面すると、どちらかを選びたくなりますが、実際にはその背後にあるパラドックスは解決できないと述べています。

著者はパラドックスが顕著になる3つの条件を特定しています。
1、変化、リソースの不足、および多元性。
まず、「変化」に関しては、変化が速いほど、未来と現在の間の緊張関係が強まるとされています。特にテクノロジーの進歩がこの変化を加速しており、現在の体制や価値観がこれにどう対応すべきかという問題を生じさせています。この速い変化に適応するためには、柔軟な思考と対応力が求められます。

2、リソースの不足
資源の配分を巡る競争と協調の緊張関係が明らかになります。例えば、天然資源の減少は国家間や企業間の競争を激化させ、協調関係の維持を難しくします。自己と他者、競争と協調のバランスを取ることが重要になってきます。

3、多元性の増加
共通の問題への対応における異なるアプローチの対立を生じさせます。グローバル化により、様々な文化やバックグラウンドを持つ人々が意見を交換する機会が増え、共通の問題に対して多様なアプローチが提案されるようになりますが、これによってグローバルな視点とローカルな視点のバランスを取ることが難しくなります。この緊張関係を理解し、上手く扱うことが重要です。

パラドックスを乗り越えるABCDシステム

パラドックスとは、同時に存在し、長時間持続する、矛盾していながらも相互に依存する要素で、あらゆるところに存在する。

パラドックスは以下の4つに分類されます。
・パフォーマンス・パラドックス
行動する際に、なぜを問うたびにパラドックスが表面化します。

・学習パラドックス
私たちはいつ、いまの現実から新たな現実へと移行するのだろうか、いう問い。

・所属パラドックス
自分が何者なのだろうかという問い。

・組織化パラドックス
あることをどのように成し遂げるのかという問い。

「ABCDのパラドックス・マネジメント」とは、現代社会におけるパラドックスを管理するための効果的な手法です。この手法は、パラドックスの本質を理解し、それに効果的に取り組むための指針として提案されています。以下はその要素を簡潔に要約したものです。

A アサンプション(前提)
パラドックスを解決するためには、潜在的な前提を探り、両立化(Both/And)に転換します。これにより、何が問題であるかをより深く理解することができます。

B バウンダリー(境界)
パラドックスはしばしば異なる要素や価値観の衝突を引き起こします。境界を明確にし、関係者や要素の範囲を定義することで、問題解決の基盤を作ります。

C コンフォート(快適さ)
パラドックスに直面した際に生じる不安や不快の中に快適さを見つけることで、問題解決に向けた適切な状況を整えることができます。

D ダイナミクス(動態)
パラドックスは常に変化しているため、柔軟なアプローチが必要です。勇気、謙虚さ、好奇心を持つことで、変化を選択できます。この手法では、パラドックスの動態を理解し、適切な対策を講じます。

「ABCDのパラドックス・マネジメント」は、アサンプション、バウンダリー、コンフォート、ダイナミクスという4つの要素を組み合わせることで、パラドックスを理解し、管理する能力を高めることができます。この手法を活用することで、現代社会の複雑な問題に対しても柔軟な対応が可能となり、持続可能な発展を促進することができるでしょう。

パラドックスを無視しても、それがもっと強くなって戻ってくるだけである。それを効果的に活用するアプローチのほうが優れていると私たちは考える。クリエイティブな緊張関係を受け入れることで、自己の課題にうまく取り組めるようになるだけでなく、より強い意図を持って他者と協力し、地球規模の問題に対応できるようになる。そうすることで、成長と学習の旅が絶えず続く。

正しい答えを導きたければ、パラドックスを無視せずに活用するようにしましょう。二者択一に自分を追い込むのをやめ、両立をよしとするのです。

択一的な思考は、ある程度までは有用かもしれませんが、その限界は明白であり、最悪の場合は害を及ぼす可能性があります。この思考の危険性は、パラドックスの片方の側面を過大評価し、もう片方を無視することに起因します。

たとえば、現在の成功に固執し、イノベーションへの取り組みを怠ることは、新しい未来が到来したときに、過去にとらわれてしまうリスクを高めます。このような一面的な視点は、変化する状況に対応する柔軟性を損なわせ、組織や個人にとって長期的な成功を妨げる要因となり得ます。

パラドックスは私たちに新たな挑戦を与え、成長を促してくれます。私たちは、パラドックスを受け入れ、クリエイティブな緊張関係を築きながら、自己の課題に取り組むことができるのです。二者択一の思考に囚われるのではなく、創造力を活用して持続可能で包括的な解決策を見つけることが、ビジネスにおいても人生においても重要なのです。


 

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