MONEY BIAS(マネーバイアス) 30のお金の嘘を明らかにし、人生・仕事の思い込みから自由になる新たな習慣(ピーター・カーニック)の書評

three round gold-colored coins on 100 US dollar banknotes

MONEY BIAS(マネーバイアス) 30のお金の嘘を明らかにし、人生・仕事の思い込みから自由になる新たな習慣ピーター・カーニック
日本能率協会マネジメントセンター

MONEY BIAS(マネーバイアス) (ピーター・カーニック)の要約

ピーター・カーニックの『MONEY BIAS』は、「お金にまつわる30の嘘」を手がかりに、現代人の無意識な思い込みを問い直す一冊です。借金や富に対する社会的常識の再解釈を通じて、真の自由や豊かさとは何かを探ります。制度や経済では測れない幸福や安心は、つながりや自己の納得感にこそ宿ると語られます。お金を通じて人生の意味や幸福とな何かを再考できる一冊です。

お金の常識を信じるのをやめよう!

私たちは、お金があれば、人生をうまくやっていけると思い込んでいます。 皮肉なことに、お金を手に入れようと頑張っている人のほうが、すでに手にしている人よりもパワーを持っていたりもします。彼らは、目標達成に向けて集中しており、希望に満ち溢れています。 一方で、たとえば宝くじの当選者のように、お金を手に入れたとたんに「お金はパワーだ」という信念がまったくの幻想に過ぎなかったという虚しさを味わうこともあります。 (ピーター・カーニック)

私たち日本人は、学校教育の中でお金について学ぶ機会に恵まれてきたとは言いがたい現状があります。「お金の話は品がない」「お金に執着するのは見苦しい」といった価値観が、長らく文化的常識として定着してきました。その影響もあってか、多くの人が自分のお金観を見つめ直す機会を持たずにきたのかもしれません。

お金や起業にまつわる心理的および組織的な研究を行なっているピーター・カーニックMONEY BIAS(マネーバイアス) は、こうした固定観念に鋭く切り込む一冊です。本書は「お金にまつわる30の嘘」という切り口から、私たちが無意識に信じているお金への思い込みを一つひとつ丁寧にほどいていきます。

「お金は力である」「幸せには一定以上の収入が必要だ」「借金は悪だ」──こうした前提は、私たちの行動や判断に深く影響を与えてきました。しかし、これらはあくまでも社会的に内面化された価値観であり、普遍的な真理ではありません。カーニックは、これらの”常識”に疑問を投げかけ、思い込みの構造を明らかにすることで、読者に新たな視点を提供しています。

特に印象的なのは、借金に対する再定義の試みです。日本において借金はタブー視されがちですが、本書ではそれを信頼に基づく契約関係と捉え直します。借金は破綻を生むものではなく、誠実な対話と責任に支えられれば、むしろ人と人との健全なつながりを生み出すことができるのです。

また、「バーの法則」と呼ばれる心理的傾向も紹介されています。これは、人が一度目標とする金額を達成しても、次はその2倍が必要だと感じてしまうというものです。この終わりなきスパイラルに陥ることで、人はいつまでも”足りなさ”を感じ、自由や安心を得たつもりで実はお金に縛られていくという構図が描かれています。 

現実的には、いくらあれば大丈夫という金額を設定することはできません。お金をどれだけ持っていても、いつも心のどこかに不安がつきまといます。快適に暮らしていくために、あと少し、もうちょっとの貯金が必要だと。

現実に、私たちは「いくらあれば大丈夫か」と問いながらも、満足の基準を見出せないまま日々を過ごしています。ある程度の資産があっても、「もう少し欲しい」と思う気持ちは消えません。その結果、お金に主導権を握られる生き方が常態化し、いつしか本来の夢や価値観が後回しになってしまうのです。 

お金を得ること自体に問題はありません。しかし、それが目的化してしまうと、自由や創造性といった本質的な豊かさが失われていきます。お金を手に入れたときの一時的な高揚感は否定しませんが、持続的な幸福感や安心感は、そうした刺激とは異なる文脈に存在しています。それは人とのつながりや自己の納得感から生まれる、静かで深い満足です。 

お金の多寡にとらわれるのではなく、「そのお金を何に使い、どのように活かすのか」という視点こそが重要です。社会の期待や常識に基づく成功を追いかけるのではなく、自分自身の価値観と照らし合わせながら、日々の選択を積み重ねていくことが、真の豊かさをもたらします。

本当の幸福はお金で手に入るのか?

「ライフソース・プリンシプル」では、『ライフソース』としての私たちが、人生のあらゆる活動を湧き上がる「人生のビジョン(ラィフビジョン)」と他者とのつながりを大切に、協同することに焦点をあてています。

著者は「ライフソース・プリンシプル」という概念を紹介します。人が人生のある活動を始めるとき、その内側から湧き上がるビジョンと、他者とのつながりを尊重することが強調されています。

活動の源となる人を“○○のソース”と呼び、その想いや熱量が仲間やリソースを引き寄せ、協同の原動力となっていきます。人生を豊かに生きるうえでは、自らのビジョンに根ざした行動と、信頼に基づくつながりが不可欠です。お金だけではビジョンは実現できません。そこには人とのよりようつながりが求められます。

「お金よりも大切なものがある」という本書に登場する象徴的な逸話に、私は深く共感を覚えました。 インド準備銀行の元専務理事であるY.S.R.ソーラット氏は、制度設計の専門家として長年政策に携わってきた人物です。そんな彼がサバティカル期間を利用して、農村地域の貧困実態を自らの目で確かめようと、バイクで最も困窮する地域を巡りました。 ある日、彼は人口わずか18人の小さな村にたどり着きます。そこで彼を迎えたのは、何も持たない一人の女性でした。

彼女は、「ナチナバクリ」と呼ばれる粗末なパンと塩漬けの魚を差し出し、「どうぞ食べていってください」と、温かく声をかけたのです。 その振る舞いに深く胸を打たれた彼は、「何かお返しできることはないか」と尋ねました。すると、彼女は静かにこう語ったのです── 「友よ、あなたに何ができるというのですか…。ここは、恐ろしい果ての世界なのですよ。」

この一言は、彼の信念を根底から揺さぶるものでした。どれほど制度を整え、外部から支援を届けたとしても、人が自らの尊厳と主体性を保てなければ、貧困は本質的に解決されないという現実に、彼は気づかされたのです。 支援のあり方は、対象を「助けるべき存在」として見るのではなく、対等な関係性として互いに尊重し合えるかどうかにかかっています。

制度的な枠組みだけでは届かない領域が、確かに存在する──彼は、この出会いを通じて、その事実を実感することになりました。 私たちが何かを「与える」とき、その背景にある想いや関係性まで問われているのかもしれません。本当の支援とは、相手の尊厳を認め、信頼のもとに築かれるものなのです。

また、イタリアの子どもたちの幸福度の高さに関する調査も印象的です。教育水準が欧州の中で低いとされる一方で、幸福度が高い要因として「ノンニコッコラティ(抱きしめてくれる祖父母)」の存在が挙げられています。

ここからも明らかなように、人の幸福は制度や経済だけでは決まらず、信頼や愛情といった“目に見えない価値”がいかに大きな影響を持つかが示唆されます。 

あなたが何かを手に入れようとお金を追い求めているうちに、お金で手に入れたかったものさえも失います。「つなぎめ」の役割をお金に求めた結果、あなたは「つなぎめ」としての役割を失うのです。

お金との距離の取り方を見直すことは、今を生きる私たちにとって、とても大切なテーマの一つです。お金は生活の土台であり、安心や選択肢を広げてくれる重要な存在です。しかし、その一方で、お金が人生の主役になってしまうと、どこかで自分らしさを見失ってしまいます。

将来の自由や安心を得たいという気持ちは、ごく自然なことです。そのために収入を増やそうと努力する姿勢は、間違っているわけではありません。ただし、その努力の先にある自由が、本当に「自由」なのかどうか、一度立ち止まって考えてみるべきです。自由は、将来どこかで手に入れるものではなく、実は今この瞬間でも味わえます。

経済的にゆとりがあることで、選択肢が増えるという側面はあります。しかし、満ち足りた感覚や安心感は、必ずしも資産の量に比例するわけではありません。お金がたくさんあっても不安が消えないこともあれば、限られた中でも、自分らしく穏やかに暮らしている人もいます。心の豊かさは、数字では測れないところにあるのです。

また、お金に意識が向きすぎると、本来の自分とのつながりが少しずつ薄れていくこともあります。安心を求めて働き続けたはずなのに、不安ばかりが膨らんでいく。自由を目指したつもりが、むしろ縛られてしまっている。そうした矛盾に気づく場面は、決して珍しいことではないように思います。

だからこそ、「もっと稼ぐ」ことだけに目を向けるのではなく、「どう生きたいか」「何を大切にしたいか」という視点を持ち直すことが大切です。

その視点が、自分らしさや日々の充実感を取り戻すきっかけになるように感じます。 今、私たちが意識的に取り戻していきたいものがあります。自然とのつながり。人とのつながり。そして、自分自身とのつながりです。そうした関係があることで、人は安心し、自分を信じることができるようになります。

お金の意味を見直すことは、自分の人生の軸を見直すことでもあります。数字では見えない「本当の豊かさ」に目を向けてみる。そこから、よりしなやかに、より自分らしく生きる道が見えてきます。

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