書籍:地域でいちばんピカピカなホテルのすごい仕組みーーどんなピンチも乗り越え、成長を続ける
著者:宝田圭一
出版社:あさ出版
ISBN-10 : 4866678313
30秒でわかる本書のポイント
【結論】ホテル再生の本質は、派手な投資でも、規模の拡大でもありません。人と仕組みの好循環をつくり、「挨拶・掃除・電話」という基本を再現可能な経営モデルに変えることです。
【原因】業績不振の現場では、立地や設備や人材不足といった外部要因に目が向きがちです。ですが本書が示すのは、顧客体験を最終的に決めるのは、日々の所作、教育、環境整備、財務、そして運営の仕組みであるという事実です。
【対策】まず従業員満足度を高め、基本教育を徹底し、利益を福利厚生や環境整備に再投資する。同時に、物的環境整備、仕事の環境整備、DXを循環させ、利益が積み上がる構造をつくる。これが川六モデルの骨格です。
本書の要約
宝田圭一氏は、旅館からビジネスホテルへの業態転換を進め、慢性赤字の企業を高収益体質へ転じさせてきたホテルグループ「川六」の経営者です。本書は、その再生力を支える思考と運営の仕組みを、現場の解像度を落とさずに整理しています。「挨拶・掃除・電話」という基本の徹底だけでなく、AI導入などDXを推進しつつ成長を続ける川六の現状にも踏み込んでいます。現場改善の指南書にとどまらず、再生を持続成長へ接続する経営書として読むべき一冊です。
こんな人におすすめ
・サービス業の現場を立て直したい経営者
・ホテル、旅館、店舗ビジネスの運営責任者
・人手不足のなかで顧客満足を高めたいマネジャー
・DXを入れても現場が変わらない理由を知りたい人
・成熟市場での新しい成長戦略を探している人
本書から得られるメリット
・「挨拶・掃除・電話」は、最小コストで最大効果を生む
・人を替えずに仕組みを替えると、現場は再生する
・規模ではなく“再生力”で勝つ戦い方がある
・高稼働率は、立地や設備よりも運営品質が決める
・DXは、現場の基本を磨いた会社でこそ成果を生む

ホテル事業を再生させた川六モデルとは?
ビジネスホテルの業界では、大手ホテルチェーンによる全国展開の動きが加速しています。その中で、川六は規模の拡大を競うのではなく、「ホテルの再生」という独自の戦略に舵を切り、堅調な成長を続けています。(宝田圭一)
インバウンド需要を取り込める東京や京都などでは、ホテルチェーンが潤っています。しかし地方のビジネスホテルは、需要の戻りの鈍さに加えて、人手不足・コスト増・コロナ禍融資の返済開始といった負担が同時にのしかかり、「次の一手」を打ちにくい状況にあります。
現場は疲弊し、バックヤードは回らず、サービス品質を上げたくても時間が残らない。結果として、改善の必要性は分かっているのに着手できない――これが地方の宿泊業が抱える典型的なペインになっています。
ビジネスホテル業界はいま、二極化が進む局面に入っています。大手チェーンはスケールメリットを活かし、インバウンド需要を見据えた出店を加速させています。その一方で、地域に根ざしてきた中小規模のホテルや旅館の中には、後継者不足や資金負担の重さから、次の一手を打てずにいる施設も少なくありません。
今日取り上げるのは、その解決策が書かれている地域でいちばんピカピカなホテルのすごい仕組みーーどんなピンチも乗り越え、成長を続けるです。地方の宿泊業が「人が足りない」「資金が重い」「改善に手が回らない」といった袋小路に入りやすいなかで、現場の基本を徹底しながらDXも積み上げ、再生を成長へつなげていく。そのための考え方と仕組みが、具体的な手触りで語られています。
著者の宝田圭一氏は、旅館からビジネスホテルへの業態転換を進め、慢性赤字の企業を高収益企業へと変えてきた経営者です。特徴は、精神論に寄りかからず、「挨拶・掃除・電話」といった基本を利益に変える仕組みとして実装してきた点にあります。現場改善と経営の接続を、理屈ではなく運用の仕組みとして示しているところに、本書の強みがあります。
本書は単なる現場改善本ではなく、再生を持続的な成長につなげる経営書として読むべき一冊です。 川六では2011年から、ホテルの再生事業に本格的に取り組んできました。特徴的なのは、自社で物件を保有して拡大するのではなく、経営に課題を抱えるホテルの所有者に賃料を支払い、自社ブランドのビジネスホテルとして再生していく点です。「持たざる経営」を軸に投資負担を抑えながら、再生ノウハウそのものを競争力に変えてきたのです。
本書を読むと、川六が目指しているのは単にホテル数を増やすことではないとわかります。課題を抱えたホテルに入り込み、現場を磨き、収益構造を立て直し、そのホテルが本来持っている価値をもう一度引き出していく。その積み重ねによって事業を成長させてきました。資産を重く持たないからこそ環境変化に機動的に対応できる。そして再生の成功体験を次の案件に横展開できる。この「持たざる経営」と「再生力」の掛け合わせこそが、川六の強さの本質なのだと私は感じました。
事業再生の現場で実装してきたこの仕組みを、私たちは「川六モデル」と呼んでいます。この「川六モデル」には、2つの軸があります。ひとつが「人の好循環」を回すこと。もうひとつが「仕組みの好循環」を回すことです。
ホテルの再生を可能にした「川六モデル」には2つの軸があります。ひとつが「人の好循環」をつくること。もうひとつが「仕組みの好循環」をつくることです。
まず「人の好循環」とは、お客様満足度を追求するチームをつくることです。川六では、いきなりお客様満足度を高めようとはしません。まず重視するのは従業員満足度を高めることです。働く人が前向きになり、安心して力を発揮できる状態をつくったうえで、「挨拶」「掃除」「電話」といった基本教育を徹底する。すると現場のサービス品質が上がり、お客様満足度が高まっていきます。
さらに、その結果として生まれた利益を福利厚生の充実や職場環境の改善に再投資する。そうすることで従業員満足度はさらに高まり、教育の質も上がり、結果としてお客様満足度ももう一段引き上がっていきます。
一方で「仕組みの好循環」とは、利益が積み上がる構造をつくることです。その出発点にあるのが物的環境の整備です。設備や備品、空間の使い方を整え、現場がきちんと機能する土台をつくる。次に、仕事の環境整備を進めることで業務のムダを減らし、改善と効率化を実現していく。
さらにそこにDXを重ねることで、業務の標準化や生産性向上を加速させていきます。重要なのは、これで終わりではないという点です。物的環境を整え、仕事の環境整備を進め、DXを実装し、その成果を踏まえて再び物的環境を見直す。このサイクルを何度も回していくことで、現場は少しずつ強くなり、利益が積み上がる体質へと変わっていきます。
川六モデルの優れているところは、「人」と「仕組み」を別々に扱わないことです。人の好循環だけでは、頑張る人に負担が集中してしまう。仕組みの好循環だけでは、現場に魂が入らない。だからこそ、社員が前向きに働ける状態をつくり、その力を再現可能な仕組みで支える。この両輪が回ることで、ホテルは一時的によみがえるのではなく、持続的に成長できるようになるのです。
「人がやらなくていい作業」を減らすと、現場は強くなる!
川六では、現場で当たり前になっていた業務を一つひとつ見直し、「人がやらなくていい作業」と「人がやるべき仕事」を丁寧に切り分けてきました。その結果、業務の流れが変わり、現場の空気が変わり、お客様への向き合い方にも変化が生まれたと言います。
この思想がよく表れているのが、経理業務のDXです。人が足りないのではなく、「人がやらなくていい作業」が多すぎる。これが、経理現場の実情です。川六では、通帳の入出金、小口現金、日次・月次売上、法人カード管理、給与管理、未払い費用の計上、振込データの作成、請求書管理、口座振替まで、経理に関わる業務をシステムで一元化しています。データは自動で連携されるため、転記や入力といった作業そのものが不要になりました。
その結果、売上30億円規模でありながら、経理担当はパート社員1名です。しかも働き方は「週3日・完全在宅勤務」です。宿泊業のバックヤード業務では珍しい、柔軟な体制が実現しています。属人的で複雑だった経理処理を仕組みとして整理し直したことで、少人数・短時間でも回る体制を構築できました。
経理にかかる人件費を抑えられた分、その原資を現場スタッフの待遇改善や次の設備投資に回せます。経理のDXは、「人を減らすため」ではなく、「人を活かすための仕組みづくり」でもあるのです。
さらにKAWARAGという独自AIには、「社長AI」や「支配人AI」といった機能があります。これにより、ビジョンやパーパスを日々の業務のなかで繰り返し共有でき、現場の判断基準も明確になります。その結果、判断のブレが減り、業務を正しく、かつスピーディーに進められるようになっています。
危機の時間を、耐えるだけの時間にしない。組織を強くする時間へと転換する。その積み重ねが、コロナ禍明けのV字回復を支える土台になったと、私は考えています。
本書の説得力をさらに強めているのが、川六がコロナ禍をどう乗り越えたかという点です。同社は、危機をただしのぐのではなく、次の成長のための時間に変えました。危機のとき、企業を追い詰めるのは売上減少だけではありません。需要構造、コスト構造、財務体質、人材の質、そして変化への対応力です。
川六は、こうした複数の要素を平時から整えていました。だからこそ危機に耐えるだけでなく、危機の最中に組織を鍛え直すことができたのだと思います。 この一冊が教えてくれるのは、ホテル再生のテクニックだけではありません。成熟市場でどこに成長機会を見いだすのか。人手不足の時代に、どうすれば現場を疲弊させずに強くできるのか。DXを単なる効率化で終わらせず、顧客満足と従業員満足の向上へどうつなげるのか。
これらの問いに対して、川六は「人の好循環」と「仕組みの好循環」という答えを提示しています。私はこの考え方は、ホテル業界にとどまらず、「現場」で価値が決まるあらゆるサービス産業に応用可能だと感じました。
コンサルタント 徳本昌大のView
生成AIやDXが進む時代だからこそ、本書の従業員満足と顧客満足を高める経営の価値はむしろ増していると感じます。なぜなら、テクノロジーが進化すればするほど、顧客が最後に評価するのは「この会社は気持ちがいいか」「安心して任せられるか」という身体感覚だからです。
その土台をつくるのが、挨拶であり、掃除であり、電話なのです。ここが整っていない企業がDXだけを入れても、仕組みは空回りします。 川六の強さは、基本を大切にする精神論にありません。基本を利益に変える仕組みをつくり、その利益を人と現場に再投資し、さらにDXで加速するところにあります。
規模では勝てなくても、再生力では勝てる。成熟市場では、この発想こそが本当の競争優位になるのではないでしょうか。私は本書を、ホテル経営者だけでなく、「現場」で価値が決まるすべての人におすすめしたいと思います。
🖋 書評:徳本昌大 書評ブロガー・ビジネスプロデューサー
















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