書籍:RADICAL LISTENING 「聞く」ということのすべて
著者: クリスチャン・ヴァン・ニューワーバーグ , ロバート・ビスワス=ディーナー
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
30秒でわかる本書のポイント
【結論】: 「アイコンタクトをする」「相手の言葉を繰り返す」といった、ありきたりな傾聴テクニックだけでは、相手の心の深いところには届きません。本書が提唱する「ラディカル・リスニング」は、そうした基本を土台にしながらも、単なる会話の作法を超えて、相手との真のつながりを生み出すための実践知です。
【原因】: 私たちの会話がすれ違いやすいのは、リスニングを単なる情報の受け取り(ヒアリング)として扱い、相手を一人の人間として深く理解しようとする「意図」が抜け落ちているからです。相手に「見える、価値がある、聞いてもらえている」と感じてもらえないままでは、会話は成立しても、信頼や安心までは育ちません。
【対策】: 著者たちは、優れた聞き手が無意識に行っているプロセスを、「内面」と「外面」の両面から体系化しています。まず内面的スキルとして、自分の内なる声を静め、相手に意識を集中させる「気づく」「黙る」「受け入れる」を鍛えること。さらに外面的スキルとして、「認める」「質問する」、そして意外にも効果的な「口を挟む」ことで、相手に「この人は私をわかろうとしている」と実感させることが重要です。
本書の要約
ポジティブ心理学とコーチングの第一人者であるクリスチャン・ファン・ニューウェルバーグとロバート・ビスワス=ディーナーによる本書は、私たちが日々無意識に行っている「聞く」という行為を、全く新しい次元へと引き上げる一冊です。著者たちが提唱する「ラディカル・リスニング」は、単なるビジネス上のコミュニケーションテクニックにとどまらず、人間関係を根本から変容させる「芸術(Art)」と呼ぶにふさわしいものです。
こんな人におすすめ
・部下やチームメンバーとの対話に限界を感じているリーダーやマネージャー
・家族や友人とのすれ違いを減らし、より豊かな関係を築きたい方
・表面的なコミュニケーションテクニックに物足りなさを感じているビジネスパーソン
本書から得られるメリット
・相手の本当のニーズを理解し、適切な対応ができるようになる
・「アドバイスしたがり」の悪癖を手放し、相手の自律性を支援できる
・対立や意見の相違がある場面でも、建設的な対話を持続できる
・聴くこと自体が自分自身の幸福感や自己成長につながることを実感できる

Screenshot
コミュニケーションを劇的に改善するラディカル・リスニングとは?
私たちはみな、ラディカル・リスニングに取り組むことで、プライベートと仕事の両方のコンテクストに変化をもたらすことができるのです。(クリスチャン・ヴァン・ニューワーバーグ , ロバート・ビスワス=ディーナー)
「良かれと思って伝えたアドバイスが、なぜか相手に響かない」——。多くのコンサルタントやリーダーが、現場でこうした「すれ違い」の痛みを経験しています。相手のことをわかったふりをし、性急に解決策を提示しても、そこに深い傾聴が伴わなければ、言葉が相手の心に刺さることはありません。
特に、クライアントの変革を支援する立場にあるコンサルタントにとって、この「聴く」という行為の質は、プロジェクトの成否を分ける決定的な要因となります。私たちが提供する知見や戦略がどれほど洗練されていても、クライアントとの間に「真の繋がり」がなければ、それは単なる外部からの押し付けに終わってしまいます。
管理職専門のコーチのクリスチャン・ファン・ニューウェルバーグとポジティブ心理学コーチのロバート・ビスワス=ディーナーによるRADICAL LISTENING 「聞く」ということのすべて (Radical Listening: The Art of True Connection)は、こうしたコミュニケーションの断絶を乗り越えるための新しい視点を提供してくれます。
本書の最も革新的なポイントは、リスニングをただ聞くという行為としてではなく、「意図(Intention)」から始まるものと再定義していることです。ラディカル(徹底的)に話を聞くことで、相手との関係が劇的に改善されます。
私たちは、相手の言葉を自分自身の経験や都合というフィルターにかけてしまいがちですが、ラディカル・リスニングの真骨頂は単なる情報の処理ではありません。
その究極の目的は、対話を通じて相手の中に「存在の承認」という確かな手応えを残すことにあります。相手が「自分という一人の人間が正しく視界に入れられ、かけがえのない価値を認められ、心の奥底にある声が真摯に受け止められた」と、実感できる関係性を築き上げることこそが、リスニングの真の到達点なのです。
この深い共感の土台があって初めて、コンサルタントの言葉はクライアントの心に深く刺さり、行動を促す力を持つのです。
あなたに話を聞いてもらった人は、いい考えが浮かんだり、評価されている、認められていると感じたり、さまざまな人とつながっていることを実感したりできるでしょう。ラディカル・リスニングの最も素晴らしい特徴は、相互にとって有益であるという点です。
ラディカル・リスニングのプロセスを通じて起こるのが、相互にとって有益になるという現象です。質の高いリスニングが行われた後には、話し手だけでなく聞き手自身も「人間としてより良い状態になった」と感じる、深い相互作用と癒しが生まれます。
傾聴を妨げる6つのパターン
私たちの内面の世界は、騒がしくなることがあります。時には感情や考え、意思がノイズとなって鳴り響き、他人にあまり注意を向けられなくなってしまいます。
私たちは会話の最中に、無意識のうちに相手の話を自分流に処理し、傾聴を妨げる反応へ流されがちです。ここで押さえておきたいのが、対話の質を下げる代表的な6つの障壁です。
①比較: 相手の話を聞きながら、自分の経験と比べ始めてしまう状態です。和らげるには、自分の体験を語るよりもまず相手の経験に関心を向け、状況をより深く知るための情報を求めることが大切です。
②対抗: 相手の話を受け止めるより先に、「自分のほうが大変だった」「それなら自分も」と張り合ってしまう反応です。会話の意図を忘れず、まずは相手の経験を認め、自分の話は次の機会のために取っておく姿勢が求められます。
③マインド・リーディング: 相手が何を言いたいのかを先回りして決めつける状態です。相手がこれから何を言うかを完全に知ることはできないと認め、先入観を持たずに相手の言葉そのものを信じて受け止める必要があります。
④求められていないアドバイス: 相手がまだ気持ちを話している段階なのに、すぐ提案や解決策を差し出してしまうことです。まずは相手が本当に助言を求めているかを確かめ、聞くことと共感することに意識を向けるべきです。
⑤プライオリティ・ステータス: 会話の中で自分の立場や経験を優先し、無意識に主導権を握ろうとする反応です。相手の経験に耳を傾けることで会話に参加し、そのうえで必要なら自分の経験を話してもよいかを丁寧に申し出ることが有効です。
⑥時間貧困: 時間に追われている感覚が強く、相手の話を十分に受け止める余裕を失っている状態です。相手に敬意を払うことの重要性を意識し、必要に応じて「今は何分ほど話せる」とあらかじめ伝えることで、誠実な対話の土台を保てます。
重要なのは、これら6つの障壁を「自分にはない」と考えることではなく、誰の中にも起こりうる反応だと認めることです。自分の癖に気づき、少しずつ和らげていくことが、ラディカル・リスニングを実践へ移す第一歩になります。相手に興味を持ち、敬意をしっかりと払うことができれば、障壁を乗り越えられます。
ラディカル・リスニングのフレームワーク
私たちは傾聴の動機を社会的動機(人間関係に関連する目的)と認知的動機(思考プロセスの補助に関連する目的)に分けています。
①社会的動機
・つながりを持つ
・評価する
・影響を与える
②認知的動機
・学ぶ
・理解する
・解決する
ラディカル・リスニングは心の中の認知プロセスである「内面的スキル」と会話に欠かせない「外面的スキル」に分類されます。

ラディカル・リスニングは傾聴の意図をきわめて重視しています。傾聴をーつの会話スキルとして扱つのではなく、やり取りの方向性を決めるものとして捉えています。つまり、優れた聞き手は、傾聴の意図に応じて聞き方を調整しているということです。会話の中で、通じ合いたい、説得したい、学びたい、楽しませたいなどと思いながら、さまざまな事柄に注目し、さまざまなメッセージを相手に伝えているのです。
コンサルタントとして、あるいはリーダーとして現場に立つとき、私たちは「何か価値のあることを言わなければならない」という強迫観念に駆られがちです。しかし、真の変革を導くのは、雄弁なアドバイスではなく、相手の心の深淵にまで届く「聴く力」です。この芸術的なリスニングを支えるのは、内面と外面の絶妙なバランスの上に成り立つ6つのスキルです。
1. 内面:心と意識の準備
リスニングは、相手が口を開く前から始まっています。それは自分自身の内側を整える、一種の精神的な準備です。
・気づく : 相手の発する微細なサイン——声のトーンの揺らぎ、一瞬の視線の迷い、言葉の端々に漂うためらい——を敏感に察知することから始まります。同時に、それを受けた自分自身の内面にも意識を向けます。怒り、焦り、あるいは「こう教えたい」という功名心といった感情の揺れを客観的に観察し、自分が今どのようなフィルターで相手を見ているかを自覚することが不可欠です。
・黙る: 物理的なノイズを排除するのは容易ですが、真に難しいのは脳内の雑音を消し去ることです。相手が話している最中、私たちは無意識に「その意見には反対だ」「それはこう解決すべきだ」といった反論や判断(ジャッジ)を組み立ててしまいます。この内なる声を意識的に静め、純粋な余白を作ることで初めて、相手の言葉がそのままの形で自分の中に入ってくる余地が生まれます。
・受け入れる: これは「同意する」ことではありません。相手が語る内容が自分の信念と異なっていたとしても、相手がそのように考え、感じる権利があることを無条件に尊重する姿勢です。相手を「変えよう」とするのではなく、まずは「そこに存在していること」を承認する。この受容のプロセスが、相手に究極の安全地帯を提供します。
傾聴スキルの中で最も意外に思えるのは「質問する」と「ロを挟む」でしょう。どちらの場合も、聞き手は会話の流れを遮ることになり、そうした行為は、本当に聞いているのだろうかと疑われる可能性があります。しかしながらこれらのスキルは、会話に誰よりも熱心に参加している姿勢を示し、会話の質の向上につながる可能性があると私たちは考えます。
2.外面:実際の行動と表現
内面の準備が整って初めて、具体的な行動としてのリスニングが力を持ちます。
・認める: 深い頷きや、相手が使った印象的な言葉の反復を通じ、全身全霊で「私はあなたの話を聴いている」というメッセージを届けます。これにより、相手は自分の存在が肯定されているという安心感を得て、より本質的な思いを語り始めます。
・質問する: ここでの質問は、自分の仮説を証明するための誘導尋問ではありません。純粋な好奇心に基づき、相手の思考の深淵を共に探求するための問いです。「それは具体的にどういう感覚ですか?」といった開かれた質問が、相手自身も気づいていなかった新たな視点を引き出します。
・口を挟む: 沈黙を守ることだけがリスニングではありません。会話の流れを止めない絶妙なタイミングで、「なるほど」「確かに」といった共鳴を示す短い言葉を添えます。これは、対話という共同作業を共に進めているという連帯感を生み出し、つながりをより強固なものにします。
重要なのは、「今、相手にとってどの聴き方が最も助けになるか?」を問い続けることです。相手のニーズと自分の聴く意図を合わせる「最適な支援のマッチング」を図ることが、すれ違いを防ぎ、つながりを強める最大の鍵となります。
デジタル化と効率化が加速し、AIが瞬時に最適解を出す2026年の今だからこそ、人間本来の「聴く力=ラジカル・リスニング」が私たちに求められています。AIにはできない相手と真につながり、協働するという体験は、ビジネスにおける最も強力な武器となります。
コンサルタント徳本昌大のView
ビジネスの最前線でコンサルタントやリーダーとして活動する私にとって、ソリューション(解決策)の提示は一見すると最も重要な価値に見えます。しかし、30年以上のキャリアを経て確信しているのは、どれほど精緻な提案も、相手との信頼関係が整っていなければ、ただのノイズに過ぎないということです。
コンサルタントは、問題を解決したいという強い「解決の意図」を常に持っています。しかし、相手が求めているのが「共感」や「存在の承認」である瞬間に、良かれと思って解決策という武器を振り回せば、相手は心を閉ざし、アドバイスは激しい拒絶の対象となります。
今、相手が必要としているのは「解決」なのか、それとも「関係の構築」なのか。これを見極め、自らの聴く意図を合わせる「最適な支援のマッチング」こそが、プロフェッショナルに欠かせぬスキルになっています。
著者のクリスチャン・ファン・ニューウェルバーグは、内戦下のベイルートという、人間が最も激しく分断された極限状態を生き抜きました。その壮絶な背景が裏付ける「異なる世界観を持つ相手への好奇心」は、決して綺麗事ではありません。
自分と全く異なる意見を持つ相手を「敵」や「無知な者」と決めつけるのではなく、「なぜこの人はそう考えるに至ったのか」という背景に耳を傾けること。この「ラディカル(徹底的)」な姿勢こそが、複雑な利害関係が絡み合うビジネスの現場や、現代社会のあらゆる分断を溶かす唯一の希望となります。
















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