劉邦(宮城谷昌光著)の書評

書評

そうではないか。長男として生まれたわけでもないわれの両手には、なにもなかった。が、項羽はそうではなかった。名門意識をにぎったまま成長した 。いまもかれの片手にはそれがにぎられているであろう。ほかの手になにがあるのか、あるいは、なにもないのか、それはわからない。とにかくにぎっているものを棄てないかぎり、あらたにものはつかめない。さいわいなことに、われは両手が空いている。(劉邦)

スクリーンショット 2015-07-28 11.25.20
人生の中で好きな小説を一冊選べと言われたら
以前であれば、司馬遼太郎の名作項羽と劉邦を選んでいました。
次々に現れる英雄、奸雄たちの司馬氏の世界観は素晴らしく
私は本書から人生とは何か?を学んだ気がします。
また、読むたびに、年を重ねるとともに多くの発見をしています。
立場が変われば、見える景色が変わり、人物への評価も変わります。
視点を鍛えるという意味でも、項羽と劉邦は私にとって最高の一冊でした。

そして、その項羽と劉邦の世界に
我らが宮城谷昌光が新たな解釈を行い、劉邦の新しい世界観を提示してくれました。
晏子重耳など数々の名作を生み出してきた宮城谷氏が
ようやく私の大好きな劉邦を主人公に選んでくれたのですが
本作は宮城谷作品の中のベストだと思えるほどの仕上がりです。
劉邦というタイトルが示す通り、劉邦が主人公の物語なので
ライバル項羽も脇役として描かれ、対比の対象として位置付けられています。

宮城谷氏は、項羽を血筋だけの男と厳しく評価し
乱世では通用しない理由を明らかにしていきます。
苦労こそが人を成長させ、血筋やプライドは成長の邪魔をするのです。
劉邦の冒頭の言葉は、今の日本の二世三世の政治家をで揶揄しているようにも読めます。

また、本書を読みながら、手放すことの重要性を何度も自問しました。
新しいモノを手にいれるためには
私たちは今持っているモノ捨て、収まるスペースを作らねばなりません。
名門意識やプライドを捨て去らねば、私たちは次のステージに上がれないのです。

項羽は結局、自分の器の小ささに潰され
人を信じられないことで、墓穴を掘っていきます。
敵を赦せず、殺戮を繰り返す項羽と人を赦す劉邦
人を信じられない項羽と人を活用する劉邦との対比によって
人の大きさとは何かがわかります。

成長するためには、私たちは過去の知識や体験を捨てて
絶えず、新しいモノを自分の中に、インプットしなければなりません。
知識だけでなく人との出会いが変化のキッカケになります。
軍師張良との出会いが、その後の劉邦を大きくするなど
人との出会いによって、劉邦はどんどん力をつけていきます。

劉邦に次々と人が集まってくる理由を楽しむことも
本作の魅力の一つです。
劉邦は、宮城谷昌光氏のデビュー25周年記念作品にふさわしい名作で
人間について考察できる良書だと思います。
今回、Kindle版もリーリスされています。
宮城谷作品をいつでもKindleで読めるのも、ファンとしてはうれしいですね!

今日もお読みいただき、ありがとうございました。

   

Loading Facebook Comments ...

コメント