ジェレミー・ハイマンズとヘンリー・ティムズのNEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろの書評

ニューパワー・モデルは、大勢の人の活動によって成り立っている。人びとの活動がなければ、これは空っぽの容器にすぎない。いっぽう、「オールドパワー・モデル」は、人びとや組織が独占的に所有あるいは制御している物や知識によって成り立っている。その独占状態が崩れたとき、オールドパワー・モデルは競争力を失う。(ジェレミー・ハイマンズとヘンリー・ティムズ)


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NEW POWERという新しい力を手に入れよう!

ジェレミー・ハイマンズヘンリー・ティムズNEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろは、サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデルと並ぶ読み応えのある作品で、私にとっての今年のベスト翻訳書でした。(サブスクリプションの書評

ジェレミーハイマンズは、「パーパス」の共同創設者兼CEOであり、オーストラリアの政治組織「ゲットアップ」の共同創設者としても活躍しました。オーストラリアの政治を参加型に変えた立役者としても有名です。ヘンリー・ティムズは「92ストリートY」のCEOであり、1億ドル超の募金集めに成功した「ギビング・チューズデー」の共同創始者です。彼らは新しい時代にインパクトを与えるニューパーワーについて、本書で詳しく説明してくれます。

いつの時代も、人びとは世の中に参加したいと思っていました。どの時代にも変革のための運動が起こり、人びとは団結して、行動を起こしていたのです。共同体は協力体制を築き、文化を創造し、交易を行いました。しかし、悲しいことにそこにはつねに「上位下達(トップダウン)か、下位上達(ボトムアップ)か」「縦の階層(ヒエラルキー)か、横のつながり(ネットワーク)か」といった意見の対立があったのです。

人びとが社会に参加したり大勢の人を動かしたりする方法は、つい最近まではかなり限られていました。ところがテクノロジーとソーシャルメディアがこの状況を打破したのです。今や私たちは地理的な境界線も関係なく、かつてない速度と広範さで組織を結成できるようになりました。そのような密接につながった状態から、新たな思考やアイデアが生まれてくるようになったのです。

ニューパワーの時代であった20世紀は、大手企業や政府などが権力を持つ「オールドパワー」の時代でしたが、テクノロジーの発展の結果、今や彼らだけが勝てるわけではなくなりました。このオールドパワー・モデルが我々に求めているのは、規則に従うこと(税金を納める、宿題をするなど)や、消費することでした。それに対し、ニューパワー・モデルが我々に求めている、あるいは可能にしている活動は、とても多様で幅がとても広くなっています。アイデアの共有や新しいコンテンツの制作(ユーチューブなど)、ハンドメイド作品のオンライン販売(エッツィなど)だけでなく、コミュニティの形成も可能です。参加型の体験(ニューパワー)の増加がオールドパワーのやり方をつまらなくしているのです。

世の中の変化を象徴した動きが、2016年のアメリカ大統領選でした。トランプというオールドパワーの象徴が、有権者に参加を促すことで大統領の地位を手に入れました。トランプは熱烈な支持者たちの投稿をリツイートすることで、支持者を巻き込んだのです。トランプは自らの主張を押し付けるのでなく、自分を盛り立てる人びとの言動をソーシャルメディアで活性化させることで、熱狂的な支持を獲得しました。独裁的な目的を達成するために、ニューパワーのテクニックを習得したトランプは、まさに「プラットフォームの強者」だと著者たちは述べています。

20世紀はトップダウン式で構築されていました。社会はひとつの巨大な機械と考えられ、強力な官僚システムと大企業による複雑な仕組みで動いていたのです。この巨大な機械を順調に稼働させるため、一般の人が担ったのは、重要だが標準化された小さな役割でしかありませんでした。

しかし、ここ最近のニューパワーの高まりによって、世の中の仕組みや自分たちが果たすべき役割に関する基準や常識に変化が表れてきました。ニューパワー方式による取り組みが増えるにつれ、とくに30歳未満の人たち(現在の世界人口の半数以上)に顕著なのは、自分たちは「参加する権利」を持っていると感覚の変化です。

私もソーシャルメディアやブログで情報発信することで、新たな力を得ることができたので、この考え方には共感を覚えました。ニューパワーを使いこなすことで、自分の価値を今まで以上に高めることができ、世の中に貢献できるようになります。

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NEW POWERを手に入れるための3つのアイデア

オールドパワーの働きは「貨幣(カレンシー)」に似ています。権力者は強大なパワーを蓄えており、いつでもそれを行使できます。閉鎖的で近づきがたく、リーダー主導型で、一般の人たちはなかなかここに参加できません。
一方のニューパワーは「潮流(カレント)」のように広まっていきます。オープンで参加型が基本となり、対等な仲間(ピア)によって運営されているのが特徴です。ニューパワーを手にする者たちの目的は、溜め込むことでなく仲間のために提供し、世の中をよくすることなのです。

ニューパワーとオールドパワーをわかりやすく表現したのが、ニューパワー・マトリックスです。ビジネスモデルと価値観の2軸で、その組織のポジショニングがわかります。自分の組織がどのようなポジションにいるかを確認し、新たな時代に乗り遅れないようにしましょう。

チップ兄弟のアイデアを記憶に焼き付けるための「SUCCESsの法則」が本書に紹介されていました。
(1)単純明快である(Simple) シンプルなものが記憶に残る
(2)意外性がある(Unexpected) 人は誰しも予想外のことが起こると驚き、それを記憶に焼き付ける
(3)具体的である(Concrete) 具体的であることは、人に当事者意識を持たせる
(4)信頼性がある(Credible) 人は信頼できる情報を信じます。
(5)感情に訴える(Emotional) 感情に訴えられると、大きく心を動かされる特性が人にはある
(6)物語性(Story) 独自のストーリーが人に共感を与える

アイデアを拡散させるためには、このSUCCESsの法則に以下の3つを追加すると良いと著者たちは述べています。
拡散されるアイデアの条件
■Actionable 「行動」をうながす
■Connected「つながり」を生む
■Extensible「拡張性」がある

バスフィードは行動、人からシェアされるメディアを目指し、行動を起こさせたから成功したのです。参加型の新しいメディアはオールドメディアを短期間で駆逐しました。

仲間たちが価値のあるアイデアだと認めた場合、人は行動を変え始めるが、そうでない場合は行動の変化は起こりにくい。(アレックス・ペントランド)

ニューパワーを得るためには、「つながり」を生むアイデアを生み出すことが重要なのです。

バズフィードの元社長ジョン・スタインバーグとジャック・クラヴィツィックの以下の言葉はとても参考になります。驚くことに、セレブなどのインフルエンサーよりも、仲間の力を集め、活用したほうが影響力が強いというのです。

大規模なケースを含め、情報が拡散するときは、数人のインフルエンサーの投稿やツイートよりも、無数の小さなグループが情報をシェアするほうが効果が大きいことを、我々のデータは示している。影響力のある人物が発信する情報は広範囲の人に届くが、そのインパクトは短命である。コンテンツが急速に拡散するのは、ソーシャルウェブの仲間同士のシェアにより、特定の影響範囲を超えてどんどん拡散するときだ。(ジョン・スタインバーグとジャック・クラヴィツィック)

ヘンリー・ティムズの92Yは小売業が大幅な売上を記録するブラックフライデーやサイバマンデーにちなんで、慈善事業への寄付を呼びかける「#ギビング・チューズデー」を立ち上げました。消費をただ楽しむだけでなく利他主義の日を設けて、他人の幸福や利益を考えるきっかけをつくることが目的でした。

ヘンリー・ティムズとチームの仲間たちは、世の中にアイデアの種をまき、専用のウェブサイトを開設して、各組織で「ギビング・チューズデー」運動を行うためのツールやアドバイスを提供し、人びとが自分たちで運営できるようにしたのです。その後5年間で、この運動によって献血や古着の寄付、ボランティア活動、地域の再開発運動などが始まったほか、非営利団体への寄付金が数億ドルも集まりました。2015年のイベントでは、ペイパルオンラインによる募金で24時間以内に集まった寄付金として、ギネス最高記録を達成したのです。

オールドパワー式のやり方であれば、このような取り組みをするなら統制を強めたはずです。しかし、ヘンリー・ティムズはニューパワーのアイデアである拡張性を優先し、この成功を手に入れたのです。ニューパワーという新しい考え方が、世の中を確実に変えているのです。

まとめ

テクノロジーやSNSの急速な発展によって、人や組織、経済、政治が境界線がなくなった世界で、コミュニケーションや社会構造が変化し、新たな動き(ニューパワー)が加速しています。今の時代を理解するためのニューパワーとオールドパワーのフレームワークを活用し、変化に適応できるようにしましょう。ニューパワーを得るためには、Actionable 「行動」をうながす、Connected「つながり」を生む、Extensible「拡張性」があるの3つのアイデアを生み出す必要があるという著者たちのアドバイスが響きました。

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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