スティッチフィックスのデータサイエンスを駆使した新しいショツピング体験!

誰であれ間違えることがある。アルゴリズムも例外ではない。大事なのは、過ちから学び続けることなのだ。(カトリーナ・レイク)


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スティッチフィックスのデータサイエンスを駆使した新しいショツピング体験

ハーバード・ビジネス・レビュー テクノロジー経営論文ベスト11 テクノロジー経営の教科書の中に、私が注目しているスティッチフィックス(STITCH FIX)のケーススタディが掲載されていたので、今日は同社の取り組みについて紹介したいと思います。

スティッチフィックスの創業者兼CEOのカトリーナ・レイク(Katrina Lake)は、ハーバード・ビジネス・スクール在学中の2011年、パーソナルスタイリングサービスを手がける同社を起業しました。その後、短期間のうちに市場を席巻し、2017年にはアメリカのナスダック市場に株式を公開し、今も順調に成長を続けています。

スティッチフィックスのビジネスモデルはショッピング体験の新しさにあります。顧客の買い物時間を短縮し、欲しいものだけを購入できるサービスを提供しています。自分にぴったりとフィットする洋服を見つけられれば、毎日着る服を決めるのが楽になり、顧客は毎朝のストレスを減らせます。

スティッチフィックスのビジネスモデルは至ってシンプルだ。利用者が好みそうな衣料品とアクセサリーを選んで自宅まで届け、利用者は気に入った商品だけを購入し、それ以外は返品する。データサイエンスを駆使して大規模に展開する当社のパーソナライゼーションは、伝統的な実店舗やeコマースが提供するショッピング体験の先を行っている。利用者はプロのスタイリストに買い物を代行してもらえると喜んでおり、当社サービスの利便性とシンプルさを高く評価している。

スティッチフィックスはパーソナライゼーションで独自性を打ち出しています。利用者一人ひとりに合わせて衣料品やアクセサリーを5点選んで箱詰めしたもの(フィックス)を届けることで、顧客の洋服選択の悩みを解消しています。数百万人もの利用者から寄せられる情報を分析することで、顧客にフィットする商品を届けられるようになったのです。

スティッチフィックスは会員登録時に85の項目を質問することで、顧客の趣味や予算、体型に応じた洋服を提案します。スティッチフィックスの会員になることで、顧客は気に入った洋服のみを購入できます。

スティッチフィックスの売り上げは、2016年に7億3000万ドル、2017年に9億7700万ドル、2018年12億2270万ドルになっています。米国のアクティブユーザーは2019年の第2クオーターが終わった時点で、310万人超え、順調に推移しています。

同社の強みはデータや機械学習にプロのスタイリストという人間の判断を融合し、独自のパーソナルなスタイリングを提供している点です。

データサイエンスは当社の企業文化に織り込まれているのではない。企業文化そのものなのだ。当社は従来型の組織体系にデータサイエンスを取り入れたのではなく、創業当初からビジネスの中核にデータサイエンスを据え、顧客と顧客ニーズを軸に自社でアルゴリズムを構築している。

同社は80人以上のデータサイエンティストを雇用していましますが、その大半が数学、神経科学、統計学、宇宙物理学など定量分析の分野で博士号を取得しています。彼らはCEO直属の社員であり、データサイエンティストの力が競合への優位性になっています。

カトリーナ・レイクはベンチャーキャピタルのリーダー・ベンチャーズ在籍していた2007年に、ネットフリックス台頭期におけるブロックバスターの業績について研究していました。ある地域でネットフリックスの市場シェアが約30%に達すると、ブロックバスターの域内店舗は閉店する事実に気づきました。その結果、残りの70%の顧客はネットフリックスを試すか、あるいは少し遠方まで足を延ばして映画をレンタルするかの選択を迫られます。ネットフリックスを選ぶ人のほうが多くなるにつれ、ブロックバスターはますます窮地に追い込まれます。この負のスパイラルに陥ることで、ブロックバスターは衰退していったのです。

他の小売企業も戦略を見直さなければ、ブロックバスターと同じ運命をたどると考えたカトリーナ・レイクは、データサイエンスを活用し、アパレル業界で顧客経験の向上を目指しました。

結局のところフィット感も好みも、たくさんある属性にすぎない。腰回り、股下、素材、色、重さ、耐久性、柄など、これらはすべてデータなのだ。データを十分に集めれば、どんな洋服が求められているかを、かなり正確に把握できるだろう。その一方で私は洋服も好きで、買い物の人間らしい側面(思いがけない何かを見つけた時の気持ちや、サイズがぴったりで価格も予算内だった時の喜び)も知っていた。だからこそ、データと人間らしい体験を融合して、服の新しい購入モデルを構築する機会を見出したのだ。

カトリーナ・レイクは、リスクを回避しつつ起業する方法を探るべくハーバード・ビジネス・スクール(HBS)に入学し、プランニングと起業に2年の時間を費やしました。2011年4月にアパートの自室から「フィックス」第1号を発送、5月にはHBSを卒業しました。当初、彼女の事業戦略を有望視する人は少なく、ある教授には「在庫に悩まされるだろう」と指摘されました。

しかし、データサイエンスがこの在庫問題を解決します。データを駆使して消費者の好みに対する理解を深めたおかげで、同社は従来型小売企業の多くを凌駕するペースで、在庫を回転させられるようになったのです。適切な商品を仕入れ、適切な消費者の元に届けることで、短期間に資金回収できるビジネスモデルを作り上げたのです。スティッチフィックスのビジネスモデルは、資本効率が極めて高く、好スタートを切りました。

 

人とアルゴリズムの融合が顧客満足を高める!

カトリーナ・レイクは起業時を振り返り、当初は「データサイエンス」の初心者だったと述べています。データの重要性を理解していた彼女はビジネスのスケールアップのために、データサイエンス主導型オペレーションを構築します。スティッチフィックスのレコメンド情報が的確なのは、アルゴリズムが優れているからです。そのために、同社は以下の3つの取り組みを行っています。
①データサイエンス部門をCEO直轄とする。
②イノベーションの源泉はデータサイエンス。
③人間の活用を忘れるべからず。

一つ一つ同社の強みを見ていきましょう!
①データサイエンス部門をCEO直轄とする
多くの企業は、データサイエンス部門をエンジニアリングチームの一部門として、CTOの管轄下に置いています。しかし、スティッチフィックスはデータサイエンス部門をCEOの直轄とし、ネットフリックス出身のエリック・コルソンがこの部門を任されています。データサイエンスは極めて重要であり、マーケティングやエンジニアリングといった他の部門と緊密に連携することで、顧客満足を高められると同社は考えているのです。

②イノベーションの源泉はデータサイエンス
データサイエンスを活用することで、スティッチフィックスは様々なイノベーションを起こしています。在庫の動きをより迅速かつ正確に察知できるアルゴリズムを開発した結果、同社は在庫の補充を効率化し、需要の急増に備えられるようになりました。倉庫での社員の動きを追跡するアルゴリズムを開発することで、倉庫のレイアウト変更時に高額の費用をかけてマッピングをやり直さなくても、ルートを最適化できるようになったのです。

多種多様なアルゴリズムを使用し、さらに開発を進めることが、同社の強みになっています。顧客一人ひとりに応じた衣類のレコメンド情報は、機械学習で生成されています。フルフィルメント(受注から代金回収に至るまでの業務)と在庫管理では、アルゴリズムを駆使して資本コストの抑制、在庫回転率の改善、配送の効率化を図っています。製品開発では遺伝的アルゴリズムを一部採り入れ、ヒットする衣類の「形質」を割り出そうとしています。最近では、衣類のデザインにも機械学習を活用しています。

同社の人気ブランド「ハイブリッド・デザインズ」が誕生したのは、数人のデータサイエンティストが市場の製品ギャップをどう埋めるべきかを検討していた時でした。たとえば、40代半ばの女性会員の多くはフレンチスリーブのブラウスをほしがっていましたが、当時の在庫にはその種のアイテムが不足していました。しかし、翌年にはコンピュータでデザインした商品が婦人用とラージサイズ用で29点揃い、それまで対応できなかった特定の顧客ニーズを満たせるようになりました。

サイズデータを徹底的に活用することで、同社は顧客からの支持を得ています。例えば、胸囲が広い男性向けにはシャツの襟から第1ボタンまでの距離を微調整することで、より値段の高い商品を買ってもらえるようになりました。また、股下27インチ(約69センチ)の人の比率を知ることで、的確な在庫コントロールが可能になったのです。

同社では、事業への投資資金があり、投資先をマーケティング、製品、データサイエンスの中から選べる場合には、データサイエンスの投資を優先してきました。スティッチフィックスはテクノロジーを進化させることで、競合への優位性を発揮してきたのです。このスタイルを貫くことができれば、今後も同社は成長を続けるはずです。

③人間の活用を忘れるべからず
ショッピングとは本来パーソナルで人間らしい行為であることを忘れてはいけません。彼らは豊富なデータと人間のスタイリストを組み合わせることで、顧客満足を高めています。アルゴリズムで選び出した商品セットを、スタイリストが見直したり修正することで、人間らしさを忘れないようにしています。

スタイリストはデザインや販売面で幅広い経験があるが、皆データの価値を認め、利用者に愛情と共感を抱いている人材ばかりだ。人間はある面では機械を大きくしのいでおり、今後も長い間そうあり続けるだろう。

「7月に野外で行われる結婚式に参列する際のドレスがほしい」と言う顧客からのリクエストに対し、同社のスタイリストはその場にふさわしいドレスにはどんなものがあるかを即座に察知します。妊娠やダイエットの成功、キャリア上の新しいチャンスなど、利用者がプライベートを細々と打ち明けることも増えていますが、いずれの場合も、アルゴリズムはその意味を完全に理解できないため、スタイリストがサポートします。

その場にふさわしいスタイリングによって、スティッチフィックスは予想以上の成果を上げ、利用者と絆を結び、必要に応じて臨機応変に対処することで、驚異的なブランドロイヤルティを生み出しています。

確かなのは、優れた人材と優れたアルゴリズムの組み合わせは、最高の人材だけ、または最高のアルゴリズムだけを集めた場合よりも、はるかに大きな効果を上げられるということだ。当社では、人間とデータを互いに競わせていない。両者に力を合わせてもらう必要があるからだ。機械に人間のように振る舞うことを教えておらず、当然ながら人間には機械のように振る舞うことを指導していない。

人とアルゴリズムの融合によって、同社は顧客満足度を高めています。同社は間違いを許容していますが、それぞれの組織で失敗を糧にし、次の成功を目指しています。データサイエンティストとスタイリストのハイブリッド企業が、顧客を喜ばすことでファッション業界に革命を起こしています。

まとめ

スティッチフィックスの強みは、データや機械学習にプロのスタイリストという人間の判断を融合し、独自のパーソナルなスタイリングを提供している点です。顧客は自分の趣味や体型にあった洋服を購入することで、服選びのストレスから解放され、自分のファッションをエンジョイできるようになったのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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