田中道昭氏のGAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略の書評

模倣からスタートした中国メガテック企業が、今や独自でイノベーションを起こし、新たな価値を創造しています。後発者利益を獲得し、先駆者利益を創造するようになってきた中国勢の一連の流れには大いに注目する必要があります。(田中道昭)


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GAFAだけがプラットフォーマーではない!中国のBATHをおさえておこう。

日本ではGAFAが話題になっていますが、今年のCESで存在感を示していたのは、中国IT企業でした。実際、JD.comやアリババが開発したテクノロジーに触れ、そのすごさに驚いた日本人も多いのではないでしょうか?私も期間中何度も2社のブースを訪問し、彼らが考えていることを自分の脳にインプットしました。

行動的な著者の田中氏はCESに飽き足らず、中国現地を訪問し、本書GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略の中で余すところなく、彼らの最新情報を紹介しています。今話題になっているGAFAと中国のBATHを詳細に分析し、彼らの強み、弱みを明らかにしてくれたのです。
■GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)
■BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)

今日はこのかからアマゾンとアリババをピックアップし、本書から学んでいこうと思います。

アマゾンは北米からヨーロッパ、日本を攻略して、アジアで勝利できるかがその未来のカギを握っています。中国で圧倒的な地位にあるアリババにとっては、アジア展開のあと、日本とヨーロッパを攻略できるかどうかがアマゾンに打ち勝つためのカギといえるでしょう。

先日、私はベトナムホーチミンを訪問してきましたが、現地ではアマゾンの存在感はほとんどありませんでした。シンガポールのLazadaがシェアを高め、東南アジアのECを牛耳っています。このLazadaに出資しているのがアリババで、東南アジアにおいては、アマゾンよりはるかに先行しています。日米ヨーロッパのアマゾンに対して、アリババは中国、アジアで確実にシェアを伸ばしているのです。では、アマゾンとアリババの詳細を見ていきましょう。

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GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略 [ 田中 道昭 ]
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アマゾンの強みは何か?

アマゾンは今やただの小売企業ではありません。オンライン書店から創業したアマゾンは、家電やアパレル、生鮮食品などに取扱品目を拡大し、電子書籍や動画配信などのデジタルコンテンツも手がけ、「エブリシングストア」となりました。そして今では物流やクラウドコンピューティング、金融サービスなどへと事業領域を拡大して「エブリシングカンパニー」へと変貌を遂げているのです。

アマゾンは絶えずイノベーションを起こしてきましたが、ベゾスは成長をやめようとしません。破壊的イノベーションを自ら起こす企業であり続けようとし、努力を重ねています。このようなことが可能なのは、ベゾスが既存ビジネスとの力ニバリゼーションに躊躇しないことがあげられます。

アマゾンは早期にオープンイノベーションの考え方を取り入れ、プラットフォームの構築に成功しました。ストア事業だけでなく、自社の高度なシステムAWSを開放し、多くの利益を稼ぐことに成功しました。

ユーザーが増えるほどその周辺で商品やサービスを提供する企業などが増え、さらに利便性が増していくことは「ネットワーク外部性が働く」と説明されたりします。プラットフォームビジネスには、WTA(Winner takes all 1人勝ち)の状況をつくりやすいという特徴があります。

一旦、プラットフォームを握ってしまえばその影響力はどんどん増していきやすく、独占状態や寡占状態が生まれます。だからこそGAFAやBATHはプラットフォームビジネスでしのぎを削っているのです。

詳細は本書をお読み頂いたいのですが、著者独自のフレームワークの「5ファクターメソッド」を使うと各社の戦略が一目瞭然になります。アマゾンの 「道(戦略目標)/天(タイミング)/地(市場・業界構造)/ 将(リーダーシップ)/法(マネジメント・収益構造)/」 を見ると、アマゾンが目指している世界や強みをわかりやすく学べます。アマゾンは ①顧客第一主義 、 ②高度化するニーズへの対応 、 ③大胆なビジョン ×高速PDCAによって、その存在感を増してきたのです。

アマゾンではオンライン経験とオフライン経験を継ぎ目なく消費者に提供しながら、同時にビッグデータを収集し、それらをAIで解析し、カスタマーエクスペリエンスを高めています。小売EC企業、テクノロジー企業、物流企業といった多面性を持つアマゾンは、「商品やサービスを検討する」「商品やサービスを購入する」というそれぞれの場面でオンラインとオフラインの両方の選択肢を提示でき、さらに「商品やサービスを受け取る」場面では店頭受取、自宅受取、コンビニ等での受け取り、アマゾンロッカーでの受け取りといった選択肢を設け、それを拡充しようとしています。私も1月にシアトルでアマゾンゴーやホールフーズ・マーケットをチェックしてきましたが、ストレスない買い物を実現、顧客満足度を高めていたのが印象的でした。

「マーケティング4.0」時代の顧客対応は「検討・購入・受け取り」というそれぞれの場面において多様な選択肢を提示でき、それらをいかにストレスなくつなぐかがカギになるといえそうです。

アマゾンはいち早くマーケティング4.0を実現し、顧客を満足させようとしています。それに立ち向かおうとしているのが、中国の巨人アリババです。

アリババの強みは何か?

アリババの事業の柱となっているのがECサイトであることは間違いなく、企業間取引(BtoB)の「アリババドットコム」、CtoC取引プラットフォームの「淘宝網市場(タオバオマーケットプレイス)」、中国国内のBtoC取引プラットフォーム「天猫(Tモール)」とその国際版「天猫国際(Tモールグローバル)」など複数の事業を展開しています。しかしアリババはこれだけにとどまらず、物流事業やリアル店舗、クラウドコンピューティング、金融事業などにも手を広げています。

アリババもアマゾン同様、エブリシングストアへ進化し、今ではエブリシングカンパニーへと巨大化しました。アマゾンは「自分で仕入れて自分で売る」直販型が主体ですが、アリババはマーケットプレイス型が主体です。今話題の通販ライブ動画もアリババがタオバオで開始したものです。

2018年度のタオバオとTモールの累計流通額(GMV)は4兆8200億人民元(約7110億米ドル、約78兆円)に達しており、これは世界のEコマース企業の中でも突出した数字で、アマゾンの脅威になっています。また、「フーマー」というスーパーマーケットはオンラインとオフラインの融合(OMO、Online Merges Offline)を進めています。著者によればこのサービスはもはやアマゾンゴーを越え、リアル店舗の展開、OMOの推進という点ではアリババのほうが質量共に先行していると言います。

アリババが展開するスーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」はアリババの財務諸表の中ではEC事業として位置づけられています。フーマーは会員制のスーパーで、利用するにはスマホアプリでの会員登録が必要で、支払いはアリペイで行います。アプリを通じて来店履歴や商品の購入履歴などのデータを取得し、データの蓄積と解析により、フーマーは仕入れを最適化することができます。このため、常に新鮮な生鮮食品を扱うことが可能になっています。

また、商品につけられたQRコードをスマホで読み取れば商品の流通経路などをすべて確認することもできます。テクノロジーを活用し徹底したトレーサビリティーに注力することで、消費者から高い支持を得ています。こちらのサービスは宅配にも対応し、店舗から3キロメートルまでの圏内なら、店頭にある商品は無料で30分以内に届けてもらえます。現状このサービスは赤字ですが、アリババはデータの価値が企業資産であると捉え、気にしていません。店頭で買った魚介類をその場で料理人に 調理してもらい、店内で食べることができる「グローサラント」も人気になっています。アリババはカスタマーエクスペリエンスを高めることを徹底的に意識し多くの中国人をファンにしています。

モバイル決済「アリペイ」金融事業においては、アリババがアマゾンを完全に凌駕しています。アリババはECサイト事業や物流事業と金融事業を三位一体で伸ばしてきました。グループ企業であるアント・フィナンシャルが提供するモバイル決済サービス「アリペイ」がプラットフォームになっています。もはや、アリペイがなければビジネスが成り立たないほどです。これはアリババが中国の巨大テック企業から、中国13億人の生活を支える社会インフラのジャイアントへと脱皮を果たしたことを意味します。アリババは、実質的な資金量もメガバンク並みになり、中国経済になくてはならない存在になっているのです。

アリペイのスマホアプリは直接的にアリババグループの銀行、証券、保険、投資信託などの金融サービスが使えるようにもなっていますし、アリババグループのEC事業のサービスもアリペイのアプリから利用可能です。そのほか、公共サービスもアリペイのアプリから使えるようになっています。このように、人々の生活になくてはならない決済手段となったアリペイのアプリが、アリババグループのサービスなどへの入りロになっているところは見逃せません。ここは、アリババの非常に大きな強みになっており、またアマゾンとの決定的な違いでもあります。

なお、アリババはアリペイを介して蓄積した大量の購買データや決済データ、グループ内のビッグデータを活用し、個人の信用力を定量化・可視化する「芝麻信用(ジーマクレジット)」というサービスも生み出しています。また、アリババはAWSを目標に 「アリババクラウド」を展開し、中国市場ではシェアナンバーワンになっています。「アリババクラウド」が成長することで、多くの企業がアリババに取り込まれていくはずです。著者田中氏の「5ファクターメソッド」を見るとアリババがもはや国家のような存在になっていることが理解できます。

 

アリババのミッションは「社会問題の解決」にあると田中氏は指摘します。創業者のジャック・マーはこれまで「中国のために」「世界をよりよい場所にするために」といった発言繰り返し、そのほとんどを実行に移し、実現させてきました。つまりアリババはECや金融、物流サービスで社会問題を解決しているのです。

アマゾンは多くの企業を消滅させ、アメリカの地域経済を破壊しています。デス・バイ・アマゾンという言葉が有名になるほど、アマゾンの独り勝ちが続いています。一方のアリババは中国を豊かにすることを意識しています。アマゾンに対して評価が分かれているのに対し、中国人はアリババのジャック・マーを神にたとえ、称えます。ジャック・マーが共産党員であることを明らかにしたことで、直近アメリカへの展開は難しくなりましたが、アリババのビジョンやミッションを実現するスピードを考えると、アリババから今後も目を離せません。本書はアリババの動きを詳細にレポートしたはじめての和書であり、読むべき価値のある一冊です。今後、このブログで数回に分けて8強(GAFAとBATH)の強さについて書いていきたいと思います。

まとめ

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)とBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)という最強のプラットフォーマーの事業形態と戦略を最新の情報を元に、田中道昭氏が独自の「5ファクターメソッド」で分析する良書です。特に現地取材に基づいたBATHの分析から多くの学びを得られます。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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