魏徴に学ぶ、君子の諌め方。

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座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」
著者:出口治明
出版社:KADOKAWA

本書の要約

「社稜の安危、国家の理乱は、一人に在るのみ」と考えた部下の魏徴は、君主の李世民を必死に諌めます。その言葉を聞いた李世民は初心を思い出し、国の安寧を目指しました。トップの責任を果たした李世民のおかげで、唐は長期にわたり、国民を幸せにすることができたのです。

有終の美を飾れる人はどこが違うのか?

今、国の内外が安らかに治っているのは、私ひとりの力ではなく、あなたたちと協力し合ったからだ。しかし、安らかでも危険が潜んでいることを忘れず、国が治まっているときでも乱れる可能性があることを忘れてはいけない。こういう考えを持って、終始一貫することが大事である。(李世民)

唐の李世民と部下の魏徴は、国家がうまく治っている時にも、その後乱れる可能性があると考え、努力を続けます。この言葉を発した翌年の貞観6年にも、自分の気を引き締めるような発言をしています。皇帝の地位というものは、永久に安全なものだと思わず、いつ滅びてもおかしくないと思って、自分を戒めていたのです。

貞観9年にも、再び、臣下の協力に感謝をし、部下の働きに感謝しています。そして、「有終の美をまっとうして、数百年後、わが唐の国史を読む者にとって、この唐の偉大な功績と盛大な事業が輝いて見えるようにしたい」と言ったのです。

貞観12年には、「自分も努力を続けているし、才能のある臣下たちがみな頑張っているのに、三皇五帝の世と比較すると、この国はまだもの足りない」とし、その理由を臣下に問いかけています。魏徴は、その際、「君主も臣下も初心を忘れているからだ」と言い、さらなる努力を君主と官吏に求めました。

国が安泰になったとたん、君主が勝手気ままになったり、贅沢をしはじめたら、有終の美を飾ることはできません。臣下もまた、昇進して地位や富を得るようになると、その地位を守ることだけを考えるようになって、君主に忠誠を尽くさなくなります。各自が初心を忘れず、良い世の中をつくることに尽力すれば、天下が治まらないわけはありません。治まらないとしたら、それは初心を忘れているからです。(魏徴)

国家が安泰になったとしても、リーダーは気を緩めてはいけません。臣下もその地位を守ることを考えるのではなく、建国の意志を胸に刻み、国をしっかりと治めることを考えるべきです。

魏徴に学ぶ、君子の諌め方

太宗・李世民は、贅沢を慎み、人徳を磨き、直言することを恐れない臣下をそばに置き、国家の行く末を抑止しようとしました。しかし、その太宗でさえ、初心を忘れ、終始一貫ができず、少しずつ、道を外すようになっていきました。

貞観13年、魏徴はついに、上表文(君主に送る文書)を書いて、太宗を諌めました。その上表文には、太宗が、有終の美を飾れなくなる理由が10個書かれてありました。以下がその要約になります。
①良馬や宝石を買い集め、異民族から軽蔑されている
②「人民が気ままな行動をするのは仕事がないから」という理由で、軽々しく人民を肉体労働に徴用している
③大宮殿をつくりたがっている
④器量の小さい人や人徳のない人とばかり交流して、徳行の備わった人を遠ざけている
⑤商工業のみに力を入れて、農業をおろそかにしている
⑥自分の好き嫌いで人材を登用している
⑦節操なく、狩猟などの娯楽に興じている
⑧臣下への礼節をなくし、臣下に接するときの態度がいい加減になっている
⑨威張ったり、傲慢になっている。自分の欲望を自制できなくなっている
⑩天災・謀反への備えがおろそかになっている

魏徴は、太宗の過失を列挙し、太宗・李世民を諌めたのは、「社稜の安危、国家の理乱は、一人に在るのみ」と考えていたからです。つまり、世の中が治まるのも乱れるのも、皇帝ひとりにかかっているという信念を持っていたからです。魏徴の覚悟は凄まじく、自分の命を賭けて、進言したのです。

現在の太平の基礎は、すでに天よりも高く築かれています。しかし、せっかく築いてきた太平の基礎も、途中でやめてしまったらすべて水の泡になっ てしまいます。今は、1000年に一度しかあらわれない聖天子(太宗・李世民)がいる立派な時期であり、こんなときは2度とありません。陛下には能力があるのだから、その能力を十分に発揮すべきでいやす。けれど、あなたが実行しないから、私乙とき卑しい臣下が、ため息をついているのです。私は愚かな臣下です。けれど、私の考えの中にもひとつくらいは陛下のお役に立てることがあるはずです。陛下が私の間違いだらけの直言を採用してくださることを願っています。もし私の意見を参考にしてくださるのなら、陛下の怒りに触れて処刑されることになっても満足でございます。

この言葉を聞いた李世民は自分の過ちを認め、有終の美を目指しました。天下が治まるか乱れるかは、君主ひとりにかかっています。それは組織も、チームも同じです。

組織は、トップ(リーダー)の器以上のことはできません。だからこそ、トップの責任は誰よりも重いのです。今、コロナウイルスの影響で日本は大変な危機に直面しています。私たちが不幸なのは、この国には李世民も魏徴もいないことです。国民の利益ではなく、自分たちの利益ばかりを追求するリーダーによって、この国が今まさに破壊されようとしています。戦後、築いてきた日本という素晴らしい国家が、二流国、三流国に成り下がろうとしている現状をなんとか打破したいと思います。

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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