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スタンフォード式人生を変える運動の科学
著者:ケリー・マクゴニガル
出版社:大和書房
本書の要約
コロナ時代、外出禁止の影響で人は運動不足に陥り、活動量が落ちていますが、これが私たちの心身に悪影響を及ぼします。運動で脳内化学物質の活性化され、幸福感が高まることがわかっています。運動がうつ病、不安症、孤独を防ぎ、幸福ホルモンが人との絆を深めてくれるのですから、日々の運動を習慣にしましょう。
スタンフォードの心理学者が明らかにした運動の効能
私は長年のあいだに、体を動かすことで気分まで明るくなった人をたくさん見てきた。希望を見出し、新たな気持ちで世のなかと向き合えるようになった人もいる。運動をすることで自分自身の強さを実感したり、自分を解き放てるようになったりした人たちの姿を、私は目の当たりにしてきた。(ケリー・マクゴニガル)
このコロナ禍のなか、多くの人は先が見えないために、ストレスや不安を感じていると思います。私も外出が減り、運動不足が続いたために、気持ちが落ち込むことが多かったのですが、最近は自宅の近所の散歩を習慣化し、心の平静を取り戻せました。
私が好きなスタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニガルの新刊スタンフォード式人生を変える運動の科学が手元に届きましたが、今回彼女がテーマにしたのが「運動」です。実は、運動することで、私たちの心は様々な影響を受けているのです。体をよく動かす人たちのほうが、幸福感や人生に対する満足度が高いと著者は言います。
ウォーキング、ランニング、水泳、ダンス、サイクリング、競技スポーツ、ウエイトリフティング、ヨガなど、どんな運動をしている人にもこの幸福のルールは当てはまります。また、定期的に運動している人たちは、目的意識が強く、日常生活において感謝や愛情や希望を実感することが多いそうです。
仲間との深いつながりを感じるため、孤独や気分の落ち込みを感じにくいこともわかっています。このような効果は、年齢や、社会経済的な地位や、文化のちがいにかかわらず、共通して見られます。狩猟時代の昔から、人は走り回る事を続け、それが脳によい刺激を与え、幸福感を生み出していたのです。
狩猟時代に近い生活を続けるハヅァ族の人びとは、1日の大半を狩猟と採集に費やします。男性たちは手製の弓と毒矢をもって早朝から狩りに繰り出し、小鳥からヒヒまで種類を問わずに獲物を仕留めます。女性たちは朝からベリー類やバオバブの実を摘んだり、夕ロイモを掘り、食事を探し回っています。
ハーマン・ポンツァーらはハヅァ族の男性19名と女性27名に活動量計と心拍数モニターを装着してもらい、彼らの1日の活動を記録しました。ハヅァ族の典型的な1日の生活では、ランニングなどの中強度から高強度の運動を2時間、さらにウォーキングなどの低強度の運動を数時間おこなって いることがわかりました。彼らの活動レベルには年齢や性別による差がないどころか、むしろ年齢とともに活動量が増えていたのです。
これとは対照的に、アメリ力人の場合、平均的な成人の中~高強度の運動時間は1日10分未満であり、活動量のピークはわずか6歳でした。ハヅァ族の生活のしかたこそ人体に適しているとすれば、私たち現代人の生活は、本来あるべき姿からひどく離れてしまったことになります。
驚く事に先進国で蔓延している心臓病が、ハヅァ族にはまったく見られませんでした。同年代のアメリ力人と比較した場合、ハヅァ族のほうが血圧やコレステロールやトリグリセリドの数値が低く、心臓発作をまねく血液の炎たんぱく症反応の指標である「C反応性蛋白」の数値も低かったのです。また、二大現代病とも呼ぶべき不安症とうつ病が、ハヅァ族には見られませんでした。
加速度計を用いたアメリカの研究では、日常生活の身体活動レベルは、人生の目的意識と相関関係にあることがわかりました。また、実時間追跡では、人びとは座りっぱなしでいるよりも、活発に動いているほうが気分がよくなることや、ふだんよりも活動的に過ごした日のほうが、人生の満足度が高くなります。
アメリカとイギリスの研究では、中強度の運動をしている成人たちに、一定の期間、座っている時間の多い生活をしてもらい、健康状態が悪化するかどうかを観察しました。ふだん運動している人たちが、2週間ほとんど座りっぱなしの生活をしたところ、不安や疲労感や敵憶心が強まりました。また無作為に選んだ成人を対象に、1日の歩数を減らしたところ、88パーセントの人たちに気分の落ち込みが見られました。座りっぱなしの生活では、1週間もしないうちに、人生の満足度は31パーセントも低下したのです。
毎日の平均歩数が5649歩を切ると、不安や気分の落ち込みなどの症状が現れ、人生の満足度が低下してしまいます。典型的なアメリ力人の1日の歩数は4774歩、世界の平均は4961歩という状況で、これが幸福度を下げている可能性があります。幸せになりたければ、座るのをやめ、今すぐ動き回ったほうがよさそうです。
運動は孤独を防ぎ、うつすら改善できる?
運動がもたらす心理的・社会的な効果は、身体能力や健康状態とは関係がないことだ。慢性の痛みや身体障害、心や体の深刻な病気を抱えている人びとや、ホスピスケアの患者たちにも、同じような効果が表れている。希望、やりがい、仲間同士の親睦などの深い喜びは、健康状態や 体力ではなく、なによりも体を動かすことと関連しているからだ。
哲学者のダグ・アンダーソンは、「運動には、私たちのもっとも人間らしい部分を引き出す効力があるのだ」と述べています。
私たちが体を動かす主な目的は、病気を防ぐことではありませんでした。私たちが体を動かすことは、生きることそのものだったのです。 私たちの体は、動くことによってさまざまな報酬が得られるようにできています、
私たちが積極的に動き出すと、筋肉は人に希望をもたらし、脳は喜びを生み出します。体のあらゆる生理機能の働きによって、人が生きるために必要なエネルギーや、目的意識や、勇気がもたらされます。人間は生きるために役立つ活動や、経験や、精神状態に喜びを感じるようにできているのです。
私たちは助け合うことに喜びを感じ、チームワークにやりがいを覚えます。人は他者に貢献することに喜びを感じ、人が集まる場所やコミュニティに愛着を感じ、大事にすることで、心の温もりを感じます。 運動や競技であれ、冒険やお祭りであれ、体を動かすと幸福感が増すのは、人の本能が刺激されるからです。人は体を動かしているときに本能的な喜びを味わうことができるのです。
運動によって心理的にも大きな充足感が得られるのは、それに参加することで、自分のよい部分が引き出されると同時に、ほかの人びとのよい部分も目にするからです。運動がもたらす苦しい状況、辛い体験をお互いに励まし合い、乗り越えることで、人は信頼関係を構築しています。そう、人間の幸福感はコミュニティで深まるのです。
社会的な生き物として進化してきた人間は、生きていくために互いを必要とする。人類の誕生以来、体を動かすことは労働であれ、儀式であれ、遊びであれ人間同士がつながり、協力し、ともに祝うために役立ってきた。こんにちでも、体を動かすことは私たちを結びつけ、人間はどれほど互いを必要とするかを思い出させてくれる。運動がもたらす心理的効果は、いずれも人間の社会的な性質によるところが大きいそれはじつに、驚くべき発見だった。体を動かす喜びの大部分は、人とのつながりがもたらす喜びだったのだ。
20〜30分程度の「ややきつい運動」によって脳内に分泌される「内因性カンナビノイド」には、不安が和らぎ、明るい気分になるだけでなく、人とのつながりを感じやすくなる効果があります。この内因性力ンナビノイドの血中濃度が高くなると、人と一緒にいることが楽しくなるだけでなく、交流の妨げとなる社交不安が緩和されます。そして、内因性力ンナビノイドの作用が阻害されると、人と交流する意欲や能力が削がれてしまうことがわかっています。
体をよく動かす人ほど、感じる喜びは大きくなり、人は幸福を感じます。私たちの脳の構造は定期的な運動によって変化しますが、そのひとつとして内因性力ンナビノイドの結合部位が増大するからです。内因性力ンナビノイド系を活性化する快感に対して、脳がさらに敏感になるため、私たちは喜びを感じやすくなるのです。 しかもその喜びには、分かち合い、協力、遊び、絆の形成など、社会的な喜びも含まれています。このように定期的な運動には、人とのつながりを感じやすくする効果があるのです。相手が家族や友人であれ、知らない人であれ、自分から積極的に交流を図り、仲よくなって、親睦を深めたいと思うようになります。
原始人たちの餓死を防ぐのに役立った脳の仕組みが、現代社会の飢餓すなわち孤独という窮地から、私たちを救ってくれるのだ。運動と社会的なつながりが結びついていることは、私たちが積極的に体を動かす理由であるとともに、人間が生きていくためには互いを必要とすることを、私たちに思い出させてくれる。
運動により、体の健康を取り戻せるだけでなく、人との関係を改善できるのです。グループで走ったり、サッカーのチームに参加し、定期的に体を動かすことで、私たちは人とのつながりを強化し、幸せを感じられるようになります。薬に頼らずとも、運動を習慣化することで、うつを改善できるのです。もし、あなたが外出できずに孤独を感じているなら、運動を生活に取り入れましょう。軽いランニングやZoomを使ったグループでのエクササイズも効果がありそうですね!
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