篠原信氏のひらめかない人のためのイノベーションの技法の書評


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ひらめかない人のためのイノベーションの技法
著者:篠原信
出版社:実務教育出版

本書の要約

凡人でもイノベーションを起こせると著者の篠原信氏は言います。著者が見つけた5つのイノベーションの技法を活用し、優れたアイデアを見出し、結果を出せるようにしましょう。全ての人を師と見做し、自分の視点を変えることで、新しいアイデアが生み出せるようになります。

凡人でもイノベーションを起こせるのか?

なんとか独創性を発揮できるようになりたい!私みたいな不器用者でも、どうにか創造的な仕事をする方法はないものか。それを必死に探し求め、ああではないか、こうではないか、と気づいたことを言語化する作業を続けてきた。(篠原信)

農学博士の篠原氏は子供の頃、弟たちに比べ、自分に創造力が足りないことに気づきます。必死に創造力を高めるための努力を続けてきた著者が、ひらめかない人のために、イノベーションの技法を解き明かしたのが、本書の魅力になっています。

AIやロボティクスによって、人間が駆逐されることが予測される中で、人間に求められるのは創造性ですが、全ての人にクリエイティブ思考ができるわけではありません。では、どうすればよいのでしょうか?著者はセンスがなくとも、コツさえあれば、才能豊かな人と似た結果を出すことは可能だと言います。凡人はこの言葉を信じて、本書のメソッドを真似するべきです。

時間がかかっても、努力を続ければ、凡人でも結果を出せると篠原氏は指摘します。

天才が一気にゴールに跳躍できるところ、不器用者は橋をかけなければならないかもしれない。けれど結局は、ゴールできればいいのだ。やり方、道のりは人それぞれで構わない。

著者は5つのイノベーションの手法を紹介しています。

1、「価値基準」によるイノベーション 
思考の枠組みを変えることで、イノベーションを起こす。成功体験がイノベーションを邪魔することがあるので、変わることをよしとする。価値体系を思い切って入れ替えることも時には必要です。
2、「衆知」によるイノベーション
万人を師と仰ぎ、謙虚に学ぶ。
3、「科学的手法」によるイノベーション
未知を認知に変えるためには、観察、推論、仮説、検証、考察の5つのステップをしつこく繰り返す。
4、「ズレ」によるイノベーション
広い分野の知識、ギャップを活用する。常識を疑う。
5、「マネジメント」によるイノベーション
自分の構想を最後まで、やり抜く力が重要。あきらめたらイノベーションは起こせない!結果を出せるチーム作りがポイント。

ナインチンゲールが起こしたイノベーションの技法(どうせを活用せよ!)

「どうせ」と思われているものこそ、イノベーションの宝庫のように思う。「どうせ」を「どうせなら」に変えるだけで、産業自体が生まれ変わった事例が数多く存在するからだ。

ナイチンゲールが看護師の仕事を劇的に変えることで、看護師のなり手が増えたと言いいます。実は、ナイチンゲール以前の看護師は、病人やケガ人の血や膿、吐いたもので「どうせ」汚れるから、汚い格好のまま患者の世話をしていたのです。看護師の見た目の不潔さが、蔑まれる原因にもなっていたのです。

ナイチンゲールは血や膿で汚れたら、すぐに清潔な服に着替えるという発想でイノベーションを起こしたのです。患者用ベッドのシーツを清潔なものに取り替え、病室を常に衛生的に保ち、患者にとって快適な環境を提供するように努めました。

それまでの看護師が、「どうせ血や膿で病室も服も汚れるのだから」と諦めていたのを、「どうせなら清潔な服に着替えて看護しよう」という発想に切り替え、衛生的な環境を整えることで結果を出しました。 病室の衛生環境を改善することで、患者の死亡率が劇的に減少したのです。実は、患者の死亡原因はケガや病気よりも、病室の不潔さによる二次感染が影響していました。ナイチンゲールの「どうせなら」という発想が、イノベーションを起こしたのです。テクノロジーを使わなくとも、発想の転換によって、世の中をよくできることをこの事例が示しています。

第二次世界大戦の時に、アメリカ軍が当時最強の戦闘機であったゼロ戦に対抗できたのかも、開発思想の違いによって説明可能です。ゼロ戦は非常に優れた飛行性能を誇っていましたが、操縦には高い技能が求められていました。このため、ベテラン操縦士が次々に戦死していくと、ゼロ戦の性能を生かしきれる人材がいなくなって戦闘力が低下していきました。特攻隊という悲劇が生まれたのも、「性能を生かせるのは熟練者だけ」という発想を日本が切り替えられなかったからです。

他方アメリカは、熟練操縦士の生命は、そのまま戦闘力であるとみなしました。また、高い技術を持った飛行士だけではうまくいかないと考え、技能が低くてもゼロ戦に対抗できる戦闘機を編み出す、という開発思想を持ったのです。「操縦士はなんとしても生還させる」「技能の低い操縦士でもゼロ戦に対抗できる性能を飛行機に持たせる」「技能が低くてもゼロ戦に勝てる戦術を取る」という条件を満たすことを開発思想にしたのです。

日本軍がゼロ戦と優秀な操縦士を失う中で、アメリア軍の操縦士は生き残り、どんどん腕をあげていきました。アメリカの飛行機の性能も日増しに改善されたことで、戦闘力の逆転が起こったのです。できる人の視点で考えるのではなく、できない人の視点を取り入れ、どうしたらよいかを考えることで、イノベーションの芽が生まれます。

ソクラテスの産婆術を活用せよ!

年を取れば知識と経験が増え、他人を見下す気分が強くなりがちだ(特に男性は)。しかしソクラテスは、かなり高齢になってもなお、若い人に敬意を払い続けた。

ソクラテスは若物を馬鹿にせず、彼らとの交流を楽しみながら、新しいアイデアを生み出していたと言います。若者に対しても謙虚になることで意外な着想を引き出していたのです。

ソクラテスは様々な人との問答を通じて、相手の知識のあいまいさや矛盾を指摘し、思考を深掘りしながら、正しい認識を生み出していました(ソクラテスの産婆術)。ソクラテスは今でいうコーチングを行うことで、若者たちの力を引き出していたのです。結果、若者たちはソクラテスに敬意を払い、年齢の壁を超えながら、哲学を極めていったのです。

自分の意見を声高に主張し、他者をこき下ろす手法が日本で見受けられますが、ここからはイノベーションは生まれません。どんな人から学ぼうという謙虚な気持ちがなければ、アイデアを生み出せません。自分をエライと思ったとたん、知能以上の知恵は出なくなります。万人を師と仰ぎ、森羅万象から学ぶ勢があってこそ、万物をイノベーションの芽にする力が生まれるのです。 

新しい知を生み出すためには、以下の3つのステップを繰り返すことです。
1、否定しない
2、新たな視点提供を歓迎する
3、提供された新視点から連想を展開する

他者とのコミュニケーションの中で、「問い」を有効活用しましょう。「問い」により、「情報を加味する」ことができ、アイデアが生まれやすくなります。質問する前に自分の考えを述べる形で新視点(連想)を提供し、さらに新たな思考を促すことで、「ソクラテスの産婆術」を再現できます。ソクラテスは知識のない若者たちに質問を重ねることで、新たな視点を得ていたのです。

質問を重ねることで、自分の視点を変えることができるようになり、ここからイノベーションが生まれてきます。ブレストをする時には自分の意見を押し付けるのをやめ、相手の意見から新視点を得られるように、謙虚な姿勢でのぞむべきです。若い世代のアイデアを活用することで、おじさんでもイノベーションを起こせるようになります。アイデアを交換するという気持ちを持って、様々な人を師に迎えることで、自分の可能性を広げられます。

会議で黙っている人から意外なアイデアがもらえることもあります。声の大きな人主導の会議をやめ、全員が意見を言える環境を整えることで、イノベーションが生まれます。リーダーはたくさんの意見を引き出せるよう、上手にファシリテーションを行うべきです。

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