茂木健一郎氏、黛まどか氏の俳句脳――発想、ひらめき、美意識の書評


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俳句脳 ――発想、ひらめき、美意識
著者: 茂木健一郎、黛まどか
出版社:KADOKAWA

本書の要約

自然の移ろいから生まれた美しい日本語、詩的な言葉を知ることで発見が増え、感性が磨かれます。感性と語彙を日々養うことで、五七五という短い言葉で世界を表現できるようになります。苦しみながら創造ことで、自分の世界を広げるだけでなく、快感物質のドーパミンを得られ、幸福度を高められます。

俳句脳とは何か?

脳内のドーパミンという「快感」を生み出す物質は、自分ができるとわかっていることや、他人から強制されたことをやっても放出されない。越えるべき障壁が高かったり、仮想や空想が許容される場合ほど、それらの課題を成し遂げた暁には大量に分泌され、大きな喜びが得られるのである。 だからこそ、俳句を大いに活用すればよいのである。(茂木健一郎)

脳科学者の茂木健一郎氏は、俳句とは「クオリアの言語化」だと言います。「今ここ」で感じられて、あっと言う間に過ぎ去ってしまう質感(クオリア)を松尾芭蕉や小林一茶は、五七五で表現することに成功したのです。俳句を生み出すことで、私たちは脳の可能性を引き出せるようになります。五七五の言葉に隠された世界を解き明かすことによって、脳は喜びを感じ、活性化するのです。

クオリアを留める=脳を俳句脳にすることで、自分の対する気づきがもたらされます。日常生活のさまざまな「具体」に埋没してしまうと、私たちはその「汽水域」をすっかり忘れてしまいます。俳句という一七字は日常の「具体」から生まれながらも、汽水域での発生により近いがために、私たちの感情から「普遍」を引き出す「抽象」にもなり得ると茂木氏は指摘します。具体的な言葉の中に普遍性を見出すことが、俳句における抽象的思考につながるのです。

俳句という伝統世界に身をおきながら、多くの俳人が常にそれを内側から批判し、破壊し、創造し続けることで、俳句脳をバージョンアップしてきました。この創造的な欲求がバトンパスされてきたことが、日本人にひらめきを与えてきたのです。そして、現代というソフトパワーが力を持つ時代に、この俳句脳を身につけること、精神的価値観を高めることが重要になってきました。言葉のセンスを磨くために心をくだくことは、内なる感性を磨くことと同じで、俳句脳によって、日本人のソフトパワーが強化されていくと茂木氏は指摘します。

俳句脳の特徴である「小さなものへの慈しみ」や「ふとした瞬間の気持ちを的確に捉えること」は、論理的思考を優先する西洋近代には見られない、日本独自の文化であることは間違いありません。効率化の対極にある俳句が、実は日本人の新たな強みとなるのです。

俳句脳を育む方法

「虎が涙雨」や「卯の花腐し」という雨は、人間にしかわかりません。雨のむこうにある物語や景色は、時空を超えて、日本人が受容し、伝え続けてきた美意識なのです。ポエティックな言葉を知ることで発見が増え、感性が磨かれます。磨かれた感性が言葉を探せば、必ずそれに応えるに足る多様な言葉が日本語にはあります。そして感性と言葉が出会い俳句が紡がれます。感性と語彙、これはまさに車の両輪。どちらかが回れば、片方もついてくる。俳句を詠むことは、この両輪を回し続けることです。(黛まどか)

「日本人のひらめきの原点は俳句にあり」というのが、本書のコンセプトですが、日本は季節の移ろいを様々な言葉で表現してきました。この変化を「日常の目」で見るのではなく、「表現する目」で切り取ることで、俳句脳が養えるようになると俳人の黛氏は言います。普段から俳句を詠む人は、この表現する目が冴えていて、この目を活用することで、自分の世界を広げています。

「日常の目」の他に「詠む目」(表現しようとする目)を持つことで、実体の背後にあるもの、奥底に隠されている真理、普遍的な原理、つまり実際には目に見えないものが見えてきます。目の前の自然との対話を「詠む目」を通じて行うだけでは、良い俳句は生まれません。表現する目を使い、日本語の美しい表現や季語を感じながら暮らすことが新たな発見につながります。感性と語彙という両輪を回すこと(俳句を生きる)で、脳内で化学反応が起こるのです。

日々「俳句を生きる」ことで、ふとした瞬間にユーレカが起こり、俳句というひらめきが生まれます。良い俳句には「弛緩と緊張」が必要で、「締め切りが迫った状態で髪やお皿を洗っているとき」などに、黛氏はひらめきが生まれると言います。締め切りという緊張と髪を洗うという弛緩が、ひらめきの源泉なのです。

イマジネーションが記憶をおとなう時、俳句のひらめきはやってきます。ひとつのモチーフを前にして俳句を作ろうとした時、これまでそのモチーフをめぐって積み重ねられた体験の一つ一つを、想像が訪ねていきます。そして想像とある過去が出会いを果たしこれまでにない響きを奏で合った時、ひとつの新しい世界が創造されるのです。これが俳句のひらめきです。

視点を多く持ち、様々な体験を重ねることで、自分の人生をより豊かにできます。目の前の事象から生まれたイメージと過去の体験が脳内で出会い、五七五としての表現が生まれることが俳句のひらめきなのです。多様な視点を持ち、多くの体験を重ね、豊かな人生を送ることで、俳句脳が鍛えられます。

一句を詠むことはとても苦しく、難しいものですが、それを乗り越え、良い句を生み出せた時に、脳はとてつもない喜びを感じます。「詠む目」を通じて、自己との対話を繰り返しながら、俳句と共に生きることで、人生を豊かにできるだけでなく、脳にも良い影響を与えられます。苦しみながら俳句を生み出すことで、良質なドーパミンを得られ、日常の苦しみを「幸せ」に変えられるようになるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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