ニコラス・クリスタキスの疫病と人類知 新型コロナウイルスが私たちにもたらした深遠かつ永続的な影響の書評

Vaccine vial mockup with a needle syringe background

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疫病と人類知 新型コロナウイルスが私たちにもたらした深遠かつ永続的な影響
著者:ニコラス・クリスタキス
出版社:講談社

本書の要約

人類は知識と体験を共有することで、過去、何度ものパンデミックを乗り越えてきました。人間には文化を育み、知識を教え合い、後世に伝える能力が備わっています。この累積文化とイノベーションの力によって、私たちは今後もウイルスとの戦いに勝利していくはずです。

今回の新型コロナパンデミックとは何だったのか?

疫病は、わたしたちの慣れ親しんだ社会秩序を作り直し、分散し離れて暮らすことを求め、経済を破壊し、信頼を恐怖と疑念に置き換え、自分たちの苦境を他人のせいにするように仕向け、嘘を助長し、悲しみを引き起こす。しかし、疫病は優しさや協力、犠牲、創意工夫も引き出す。現代世界は、かつて疫病が発生した時代とはまったく異なる。今日、わたしたちには、過密 した都市、電子技術、近代的な医療、より良い物質的環境、そしてリアルタイムで何が起こっているのか知る能力がある。(ニコラス・クリスタキス)

著者のニコラス・クリスタキスは、イェール大学ヒューマンネイチャー・ラボの所長と、同大学ネットワーク科学研究所の共同所長を務めています。社会的ネットワークによる人間の健康と行動への影響について研究している著者が、今回の新型コロナウイルス感染症が社会や経済、技術、人間の心理に与える影響などを幅広く検証しました。過去の疫病やその歴史、社会的影響についても取り上げ、現在と比較しながら、近未来を予測する良書になっています。

今回の新型コロナウイルスは、人間が免疫を獲得するかワクチンを開発するまで、人間に感染し続けると著者は指摘します。本書はワクチンの開発前に書かれていますが、実際、ワクチンが普及したアメリカやイスラエルは普通の生活を取り戻しています。

しかし、テクノロジーがこれだけ進化し、医学もさまざまな進歩を遂げたにもかかわらず、ウイルスが流行り始めた頃、私たちは多くの失敗を犯しました。物理的な距離を保つなどの対策が、アメリカでほんの1週間早く実施されていれば、2020年5月3日までに国内で報告された感染者数は61.6%減り、死亡者数が55.0%減らせたという分析もあるほどです。

ウイルスの初期兆候を軽視せずに、適切な時期に適切な行動していれば、私たちはこれほど苦しまずにすんだはずです。リーダーが科学を信じ、正しい選択をしていれば、被害をもっと小さくできたのです。

パンデミック発生初期のアメリカでは、多くの人々がウイルスを、中国系の人または中国人のせいにし、アジア系住民を差別し、攻撃しました。こ れは、9.11後に多くのアラブ系アメリカ人やアメリカのムスリムが排斥され攻撃された出来事と似ていました。 病原菌を憎むのではなく、社会的弱者を攻撃することで、彼らは自分たちのバランスを保っていたのです。

私たちはなぜ、病原体ではなく、弱者を差別するのでしょうか?疫病は既存の社会的亀裂を押し広げ、病人と健康な人、あるいは清潔な人と不潔だとみなされた人など、新たに分裂を生み出します。疫病の時代には、非難するところがないとされる人と、非難に値するとされる人との間に溝ができてしまうのです。被害が大きくなる中、単純な二元論の考え方が高まり、人は弱者を差別しようとします。

新型コロナウイルス感染症が与える損害の人種間の相違は、病死や病気感染におけるその他危険要素と関係があります。たとえば、高血圧、糖尿病、肥満、心血管疾患は、どれもSARS-2感染者の死亡リスクを高めることが知られています。こうした疾患はほとんどのマイノリティ集団で多く見られます。

アメリカでは、アフリカ系アメリカ人の26%とヒスパニック系アメリカ人の27%が、祖父母と同居する多世代世帯となるのに対して、白人でそのような世帯は16%しかありません。人が「自分の」集団の構成員と優先的に過ごす傾向があるとすれば、あるコミュニティに根づいた感染症は、そのコミュニティのなかで広まり、それだけの理由で、その集団の感染率は高くなります。

アフリカ系アメリカ人やヒスパニックは感染の問題をほかの誰かのものだとみなし、自分たちの苦境をアジア人のせいにすることで、自分たちの立場を守ろうとしたのです。

その一方で、今回のパンデミックは人間の利他主義や協調性を引き出しました。医療従事者への支援、寄付、飲食業への応援購入、生活困窮者へのボランティア、ワクチンの治験への協力など様々な利他的な行動が見られました。

2024年に今回のパンデミックは終焉する?

文化は時間の経過とともに進化すると言える。人間の遺伝子の突然変異が病気に対する抵抗力の向上につながることがあるように、偶然の出来事が優れたアイデアや道具につながることがある。

人類は、人類の所有物である蓄積された豊かな知識に際限なく貢献しており、各世代は大概、そのような豊かな知識のあるところに生まれています。過去の体験や知識が累積し、私たちの生活はより豊かになっています。

パンデミックが最初に発生したときに、どのように対処したらいいか互いに教え合うことができたのは、この累積文化のおかげだったのです。多くの人がウイルスの特性や制御方法や犠牲者のケアなどについての情報を共有することで、多くの命を助けることができたのです。知識を共有し、テクノロジーを活用することで、通常よりはるかに早く新しい治療法やワクチンを開発することができました。

利他主義、協力、教育といった人間にとっていたって基本的な能力は、ウイルスは破壊することができませんでした。そして、こうした人間の能力のおかげで、わたしたちはウイルスに立ち向かうことができたのです

2022年までは、わたしたちはこれまでと比べて大きく変化した世界で生活することになるたとえば、マスクを着けるようになり、人ごみを避けるようになるだろう。わたしはこれを「パンデミック期」と呼ぶことにする。わたしたちが集団免疫に達してから、あるいはワクチンが広く普及してからの数年間、おそらく2024年までは、パンデミックの臨床的、心理的、社会的、経済的衝撃とそれに必要な調整から、まだ回復の途上にあるだろう。わたしはこれを「パンデミック余波期」と呼ぶことにする。その後徐々に、いくらか永続的に変化したところのある世界ではあるが、物事は”正 常”に戻るだろう。2024年頃には、おそらく「ポストパンデミック期」が始まるはずだ。

著者は2024年にはこのパンデミックは終焉し、消費はすさまじい勢いで戻ってくると指摘します。これまでの歴史を振り返ると、疫病により耐乏を余儀なくされた期間のあとに、気前よく消費する期間が続く傾向が見られました。

また、深刻な感染症が流行したあと、人々は新たな目的意識だけでなく、新たな可能性を感じることが多く、様々な分野でイノベーションが起こると言います。1918年のインフルエンザのパンデミックは第一次世界大戦に続いて起こり、今回の新型コロナウイルスよりも、致死性が高かったのですが、1920年代には、ラジオの普及、ジャズの流行、ハーレム・ルネサンスの出現、女性参政権の獲得などの動きが起こったのです。

現在のパンデミックのあとにも、たとえば、在宅で働く人が激増したことによる波及効果を受けて、このときのように技術的、芸術的、さらには社会的なイノベーションが起こることが期待できます。

パンデミックは数十年ごとに発生しており、決して今回が最後ではない。疫病は人類の物語の一部。しかし、疫病は必ず終わるものであり、これまでも人間は希望を失わず疫病を克服し、生活を平常に戻してきた。

人類は知識と体験を共有することで、過去、何度ものパンデミックを乗り越えてきました。人間には文化を育み、知識を教え合い、後世に伝える能力が備わっています。この累積文化とイノベーションの力によって、私たちは今後もウイルスとの戦いに勝利していくはずです。

アメリカやイスラエルの復活を見ていると2024年になる前に日本もこのトラブルから脱出できそうです。政策の失敗によるワクチン敗戦がなければ、犠牲者をこれほど出さずにすんだはずです。間違ったリーダーを選んでしまったことが、日本人を不幸にしています。

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