未完の資本主義 テクノロジーが変える経済の形と未来(ポール・グルーグマン)の書評

未完の資本主義 テクノロジーが変える経済の形と未来
ポール・グルーグマン
PHP研究所

本書の要約

ポール・グルーグマンは日本企業の低賃金政策とモノの価格を上げたがらないことを問題視しています。インフレ目標を達成できなければ、日本は低成長から抜け出せません。また、急激に減少する人口問題も日本の成長を妨げます。移民政策などを実施しない限り、日本は長期的に没落する可能性が高まっています。

日本が2%のインフレ目標を達成すべき理由

日本は失業率が非常に低く、他のいくつかの尺度を見ても、アメリカをはじめ他のG7のどの国よりも好調といえます。それだけに、現在の低インフレ率は不可解です。(ポール・グルーグマン)

長い間、日本ではデフレが続き、物価が上がらない状態が続いています。最近はコロナ禍の中の資源高で、インフレの足音が聞こえてきますが、欧米に比べ、物価の上昇は緩やかです。

ポール・グルーグマンは、日本では誰も賃金や物価を上げたがらないと指摘します。日本が「完全雇用」の状態を維持しているのは、日銀が歴史的な低金利を維持しているおかげです。低金利が続くと、何か悪いことが起きた際に対応する余地がまったくありません。

2%のインフレ目標を達成するまで、景気拡大策を続けなければなりません。2014年と2019年の消費増税は失策で、現在はいわばpedal to the medal(思い切りアクセルを踏んで速度を上げ、全力で進むこと)の政策以外、選択肢はないというのが、グルーグマンの主張ですが、コロナ禍の中、日本政府の経済対策は中途半端のままです。

景気が回復していない状態で、消費を冷やす消費増税や緊縮政策を積極的に行なってはいけなかったのです。その後、新型コロナウイルスが世界中を襲い、日本の成長は止まったままです。

日本は完全雇用の状態ですが、問題は企業が賃金を十分に上げないこと、そしてモノの価格を上げたがらないことにあるでしょう。議論の余地はあるかもしれませんが、日本はこれまで目標とされてきた2%のインフレ率よりも高いインフレ率を必要としている国です。

世界的な資源高、アメリカでの利上げやウクライナ問題によりグローバル経済は軟調になってきています。このままデフレ状態が続く、原油や食品輸入品の物価が上り、生活者の暮らしは苦しくなっています。実際、日本円の実力は50年ぶりの低水準になり、さまざまな問題を引き起こしています。

2021年、欧米は潜在成長率の倍速以上で成長しましたが、日本はコロナ対策により、「経済より命」を優先したために低成長が続いています。他国が物価上昇に比例した形で賃金が伸びているにも関わらず、日本では物価や賃金上昇は緩やかです。今後、物価が上がらない中で、円安が続けば、食品などの買い負けが続く可能性があります。

日本は移民政策を受け入れられるか?

日本は人口動態的に大きな問題を抱えています。出生率が低く、高齢化が先進国でもっとも早く進んでいる。生産年齢人口は年に1%以上縮小している。これは経済成長の低迷に直結します。これに加えて、移民に対する不寛容性があります。

労働人口の減少はどの国も抱えている問題ですが、日本はそのスピードが急で、対策を行う必要があります。実際、今回のコロナ禍で外国人労働者が入国できない中で、多くの業界で人手不足が深刻さを増しています。

先進国の経済システムには、退職した人を支えるべく、生産年齢の人たちに依存する大規模な社会保障プログラムである「年金」があります。出生率が急激に低下すると、このプログラムに問題が生じます。コロナ禍の中、出生率が低下することで、ますます解決が難しくなっています。日本は移民問題に消極的でしたが、移民の受け入れを積極的に行わないとやがて成長が止まってしまいます。

(血統主義である)日本では、民族性と文化が重視されています。民族的に日本人であり、外国の文化に染まりすぎていないこと、この二つの条件がそろわないと日本人とは認められないとグルーグマンは言います。社会が高齢化している日本では、税金を払ってくれる若い労働年齢の移民を受け入れることが重要になります。

日本の経済成長を期待レベルにもっていくには、膨大な数の移民が必要です。年に1%以上生産年齢人口が減少している状態で、年1%の割合で移民を受け入れる準備ができているかということです。

これまで日本はあまり移民を受け入れたことがない国なので、日本人は移民に対して大きな恐怖を感じています。しかし、このまま移民を受け入れずにいれば、経済や年金にダメージを与えてしまいます。

アメリカでもエリアによっては移民の受け入れに温度差があります。アメリカでも成長するエリアでは、積極的に移民を受け入れています。ニューヨークでは人口の3分の1が移民だと言われています。

今回のコロナが落ち着いた後で、移民を受け入れるかどうかの議論を今から行うことが、日本政府には求められています。人口が急激に減少する中で、日本の選択肢は限られています。

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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