ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う(坂本貴志) の書評

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ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う
坂本貴志
講談社

本書の要約

人生100年時代、老後も働くことが当たり前になっています。老後の働き方には様々な選択肢があります。定年後の就業者の中には、稼ぐことよりも自分の時間を大切にしたり、地域への貢献を意識し、新たな仕事を選ぶ人が増えています。月10万から15万円を稼ぎながら、自分の時間を幸せに過ごす人が増えています。

定年後に人はいくら稼ぐ必要があるのか?

近年、高年齢者の労働参加が急速に進んでいる。総務省「国勢調査」によれば、2020年における70歳男性の就業率は45.7%とすでに半数近くの70歳男性は働き続けるという選択を行っている。(坂本貴志)

人生100年時代を迎え、老後の働き方やお金の使い方が以前とは変わってきています。少子高齢化で生産年齢人口が減少するなかで、高年齢者の労働参加が当たり前になっています。私の周りでも70歳ぐらいまで、元気に働いている人が増えています。今後、数年で定年後も働き続けるこが、当たり前になっていくはずです。

定年後の働き方は多様になっています。経営者や士業、コンサルなど老後もプロフェッショナルとして活躍する人もいれば、一人起業家になり、自分のやりたいことを仕事にする人もいます。地域の人に貢献する「小さな仕事」に就く人もいます。

著者は、定年後の「小さな仕事」に注目します。老後の働き方には様々な選択肢があります。定年後の就業者の中には、稼ぐことよりも自分の時間を大切にしたり、地域への貢献を意識し、新たな仕事を選ぶ人が増えています。

40代、50代のビジネスパーソンは、家族を養うために稼ぐ必要があり、責任の重い「大きな仕事」にチャレンジします。一方の高齢者は仕事をする際に、過度なストレスを感じたくないと考えているのえす。それほど大きな収入が必要がない彼らは、負荷が少ない「小さな仕事」を選択し、幸せな時間を増やしています。

当然、定年後の支出額は定年前と比較して大きく減少します。60代の半ばからは年金が給付されます。引退して労働収入がない世帯の家計収支の差に着目することで、定年後に必要な収入の額がわかります。

仕事から引退した世帯の65歳から69歳までの収入額は、合計でおよそ月25万円になります。
・社会保障給付(主に公的年金給)・・・月19.9万円
・民間の保険や確定拠出年金などを含む保険金が月2.7万円
・そのほかの収入が月2.2万円。

一方で支出額は32.1万円のため、収支の差額はマイナス7.6万円になります。定年後は年金に加えて月10万円ほどの労働収入があれば家計は十分に回るのです。実際、定年後の収入額の中央値は100万円台半ばであることが明らかになっています。

次に高齢者の純貯蓄額を見てみます。
・60代の上位20%世帯・・・3000万円台半ば
・上位40%世帯・・・2000万円程度
・下位40%世帯・・・1000万円程度
・下位20%世帯・・・300万円程度

ここ数十年で、退職金の減少や中高年の賃金水準の低迷、年金の支給開始年齢の引き上げなど家計にとっては厳しい状況が続いています。しかし、多くの人の高齢期の資産水準はそれほど変わっていません。高齢者は経済状況が厳しくなれば、資産を維持するために、老後も働くということを厭わないのです。

70歳を超える程度まで無理なく働いて残りの20年程度を働かずに過ごすと想定したときには、平均的な年金給付額に概ね1000万円程度の貯蓄があれば、統計上は現在の高齢世帯が送る平均的な暮らしが実現できると考えられる。

70代以上世帯の貯蓄額は60代世帯の貯蓄額とあまり変わらないことがわかっています。ここから、多くの世帯がそれなりの資産を残して人生を終えられると推測されます。高齢者はそれぞれの生活レベルに応じて、老後の働き方を選択しています。人生後半戦に必要なお金を考え、貯蓄を行い、足りないお金(月10万から15万円)を老後も働くことで賄っています。

高齢者が無理なく働ける職場づくりが重要な理由

高齢期の就業率は近年大幅に上昇しているが、これは寿命の延伸や賃金、退職金、年金など個々人の経済環境が厳しくなっていくなかで、高齢期の資産形成のために定年後も長く働き続ける人が増加したのだと解釈することができるのである。

人生を後半戦を楽しむためには、月10万から15万円の収入が必要で、定年後も多くの高齢者が無理のない範囲で仕事を続けています。

定年後の豊かな仕事は、以下の3つに整理されます。
・健康的な生活リズムに資する仕事
・無理のない仕事
・利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事

日本の労働市場は、少子高齢化が進む中で、純粋消費者が増え、働き手が足りなくなっています。純粋消費者が増えて働き手が足りなくなる現代の日本社会においては、今後、生産者と消費者の関係は大きく変わっていきます。消費者が優先される時代から、労働者が大切にされる時代にシフトしていきます。

企業は働き手に気持ちよく仕事をしてもらえる環境を整えなければなりません。特に地域の労働力に頼る教育、医療、介護、配達などの仕事では深刻な労働力不足が予測されます。女性や高齢者の力を活用しなければ、こういう業界は立ち行かなくなるはずです。

より多くの人に無理なく労働参加をしてもらうためには、労働市場にあるあらゆる仕事を、働き手にとって良質な仕事に変えていかなければならない。長時間労働が必要とされる仕事や、身体的な負荷が高い仕事、働いても働いても稼げない低賃金の仕事など「質が低い仕事」を日本社会から一掃していく必要がある。そして、短時間で 無理なく働ける仕事、賃金水準が高い仕事など「質が高い仕事」を増やしていかなければいけない。

働き手にやさしい労働環境を整えて初めて、歳を取ってまで働きたくないと考えている人たちを労働市場に呼び戻すことができます。

各地域で適切な質のサービスを提供するためには、高齢者や女性が働きたいと思う職場をつくる必要があります。高齢者が自分のペースで、無理なく働ける職場が増えることで、高齢者は健康を維持できる可能性があり、医療費も削減できます。高齢者が無理のない仕事と豊かな生活を両立することで、日本経済にもよい影響を及ぼします。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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