MEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威
ヌリエル・ルービニ
日経BP、日本経済新聞出版
本書の要約
積み上がる債務、人口の高齢化、気候変動、脱グローバル化、米中の競争激化、エネルギーや食糧不足、気候変動などの巨大な脅威(メガスレット)が、私たちの未来を暗くしています。生き延びたいなら、メガスレットの実態を理解し、備えを怠らないようにすべきです。
ヌリエル・ルービニが指摘する10の巨大な脅威(メガスレット)
リスクも脅威もどこにでも潜んでいる。それぞれに性質は異なり、進行速度もちがえば危険の度合いもちがう。最も危険なのは、非常に速度が遅くじわじわと作用してくるタイプだ。このようなリスクに社会として立ち向かうのはとりわけむずかしい。(ヌリエル・ルービニ)
ニューヨーク大学スターン経営大学院名誉教授のヌリエル・ルービニは、リーマンショックを事前に予測した人物として有名ですが、現在には以下の10の「巨大な脅威(メガスレット)」があると指摘します。
■10の巨大な脅威(MEGATHREATS)
・積み上がる債務
・誤った政策
・人口の時限爆弾
・過剰債務の罠とバブル
・大スタグフレーション
・通貨暴落と金融の不安定化
・脱グローバル化
・人工知能
・米中新冷戦
・気候変動
人類が直面するこれらの巨大な脅威は、世界を大きく変えてしまうと著者は言います。生き延びたいなら、これらの脅威に目を背けないようにし、備えを怠らないことです。
戦後、長く続いた平和と繁栄の時代はこれ以上続かないというのが著者の立場です。現在起きているのは、安定の時代から不安定と紛争と混乱の時代への大転換なのです。未来は過去の延長だと考えるのではなく、今後、さまざまな巨大なリスクが、私たちに襲いかかってくると捉えた方がよさそうです。
人間は経験から学ばないということだ。人はばかげた過ちを繰り返す。熱狂と緩和政策は何度となくバブルを膨張させ、そして崩壊させてきた。
新型コロナ以降の大規模な金融緩和で、債務が膨張しています。債務が返済不能になって債務危機が発生したら、国、地域、さらには世界全体が打撃を受け、経済は数年分の成長を失うことになりかねません。世界はこの数年で未知の領域に入ってしまい、金利が上がるなか、多くの借り手と貸し手の生活が一変していきます。
世界中の債務が増加するというリスクに、地政学や、気候、人口問題、将来のパンデミックなどのリスクが加わることで、ますます問題の解決が難しくなります。
歴史が教える教訓はすべて、人口が増え続け、したがって労働力人口が増え続けて、経済を泥沼から引き上げてくれることが前提になっている。では人口増加がピークアウトし、労働力人口が減り続けたら、少なくなる労働者で高齢化する人口を支えられるのだろうか。そうなったとき、未引当債務(年金、高齢者医療費など)は深刻な危機につながりかねない巨大な脅威となる。
先進国では人口がピークアウトし、成長余地が乏しいなかで、社会保障費と医療費のツケの重圧に直面しています。今日の債務負担はかつてなく大きく、先延ばしが難しくなっています。日本やアメリカの先進国では、現役労働者への年金と医療費の保障が問題になっています。支払う資金はないにも関わらず、退職年齢に達する労働者の数は増え続けています。
この社会保障費問題を増税や貨幣の増発でまかなうことは不可能です。貨幣を増やせば、インフレさらにはハイパーインフレが起こります。現時点および近い将来の退職者への約束を取り消すとか、退職年齢を大幅に引き上げるといった政策は、政治に対する信頼を失わせます。今の日本の政治や官僚への信頼の失墜も社会保障費がきっかけの一つになっています。
再びスタグフレーションが起こるのか?
帳尻を合わせるために残された選択肢は一つしかない。さらに借金をすることだ。しかしこれは返せない借金である。用心せよ──悪い結末が待っている。
人口高齢化は、成長余地の乏しくなった経済にさまざまな悪循環を引き起こしています。労働者の供給が減り、設備投資が先細りになって、生産性の伸びの鈍化が避けられません。
年金と医療費がかさみ、高齢者に回される支出が増え、GDPでの社会保障費の割合が増加します。先進国ではオフショアリングやロボットの増加により雇用が減っており、少ない労働者で今後増加する退職者を支えなければならないのです。ロボットやAIは人の仕事を奪いますが、労働者のように消費はしてくれません。
次世代のために資産を蓄えておくことが難しくなり、現役世代の給与から高齢者のセーフティネットの維持にお金回される割合が次第に増えています。そのため、若い世代の支出と貯蓄率は下がり、お金のない若年層が、経済成長にも悪影響を及ぼしています。この問題が今後、経済の大混乱を引き起こし、世代間闘争を激しくします。
特に、日本は世界で高齢化が最も進んだ国の一つで、この問題は見過ごせません。新型コロナ禍前の時点で、現行の賦課方式では退職年金は退職前給与の61.7%にとどまると日本政府は見積もっています。この年金対給与比は、2040年代後半には51%に、2050年代には最悪のシナリオでは40%以下に落ち込むと予測されています。
日欧の高齢化の進行はアメリカより早く、年金給付はアメリカより総じて多いため、今後のメガスレットになっています。一世代前には労働者の羨望の的だったセーフティネットは、現役世代と将来世代に巨額の債務負担を強いる結果となってしまったのです。
高齢化により、労働人口が減れば、それに呼応して潜在成長率は下がります。高齢化とともに生産性の伸びも鈍化する可能性があるのです。生産性の伸びの多くは生産資本への新たな投資に左右されますが、労働者の数が減れば投資のペースも鈍化します。先進国の中で最も高齢化が進んだ日本で今世紀の大半にわたって生産性が伸び悩び、投資が減っているのも、人口減少と高齢化で説明がつくのです。
巨大な債務の累積と人口の高齢化に加え、低金利による借入コストの低下がバブルとその崩壊を誘発することが、先進国のメガスレットになりつつあるのです。
欧米では2桁台のインフレにより高金利政策が取られています。IT企業などでも大規模なリストラが行われ、景気後退が起こっています。経済の停滞(スタグネーション)とインフレが同時に起きるスタグフレーションのリスクが高まっています。
景気後退と高インフレが同時に起こるスタグフレーションに耐えられる国は少なく、健全な国家、金融機関、多国籍企業以外は大打撃を受けるはずです。世界の消費者と投資家はこの40年間、低インフレ環境で成長する市場に慣れ切っていました。
スタグフレーションによって、企業の利益、労働者の所得、資産が減少し、経済の成長は止まります。 スタグフレーションの前兆であるインフレは、新型コロナ危機で急上昇しました。この危機は供給ショックであると同時に需要ショックなのです。
今回の景気後退を受けて、前例のない規模の金融緩和と財政出動が2020~21年に実行され、債務が増加しています。そこにグローバル・サプライチェーンの混乱、資源相場の高騰、労働供給の縮小が重なり、インフレ率は1980年代以来の高水準に達しています。ロシアのウクライナ侵略が、経済危機に拍車をかけたのです。
いまから10年以内に経済がスタグフレーションで被るダメージは、1970年代のそれよりも酷いものになりそうです。当時はインフレはありましたが、債務の問題はなかったことがその理由です。GDP比で見た当時の債務は政府部門も民間も今日の数分の一に過ぎなかったのです。
人口の高齢化、気候変動、脱グローバル化、米中の競争激化、エネルギーや食糧不足などが深刻な供給ショックを起こします。この供給ショックは時間とともにスタグフレーションと大規模な債務危機のリスクを高めます。
脱グローバリゼーションによって、米中という二大経済大国が正面切って対立するような状況では、地政学的な要因が重みを増してきます。新たな冷戦やパンデミックによって、国境が閉じられることで、需要と供給のバランスが崩れ、経済成長の足枷になります。
AIやロボッティクスの導入が加速し、労働者の仕事を奪うことも大きなリスクになります。自分の仕事が、AIやロボットに奪われる時代を私たちが生きていることを忘れてはなりません。
次回は気候変動にフォーカスし、ヌリエル・ルービニの意見を紹介します。
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