スキー場は夏に儲けろ!―誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則(和田寛)の書評

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スキー場は夏に儲けろ!―誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則
和田寛
東洋経済新報社

本書の要約

持続的なビジネスモデルを確立するためには、顧客体験の向上に取り組むことが不可欠です。具体的には、隠れた資産を活用し、魅力的なコンテンツを作成し、適正な価格設定を行って収益を得ることが大切です。その収益を再投資することで、好循環を生み出し、顧客体験を向上させ、ファンの獲得に繋げることができます。

隠れた資産を見つければ、ビジネスの成功確率が上がる理由

隠れた資産を見つけ出し、磨き上げること。(和田寛)

著者たちのチームは、赤字を出していた白馬岩岳スキー場を夏でも利益を上げるビジネスにわずか2年で転換しました。そのために、まず自社のビジネスの定義を変えることから始めたと言います。

それまでの「スキー場」という枠組みから、「半日以上の時間を使い、商品や製品を提供することはなく、お客さんに満足感や爽快感を与え、リフレッシュしてもらうことを目的としたビジネス」と定義し直しました。この意識の転換がスタートとなり、彼らはスキー場を夏にも成功するビジネスに変えることができたのです。

自社をレジャー産業と定義することで、競合は県内のスキー場だけではなく、ニセコや蔵王だけでなく、海外のスキー場にも広がりました。遊園地やキャンプ場、ゴルフ場、映画館や動物園、水族館も競合になったのです。社員全員が顧客体験のアップを目指すことで、「隠れた資産」を見つけやすくなったのです。

本当にポテンシャルのある隠れた資産を見つけることができれば、成功する可能性は確実に高まります。隠れた資産とは、会社や地域にとって大切なものでありながら、何らかの理由で埋もれてしまい、活用されていないもののことを指します。

「隠れた資産」とは、このように「多くの人が気づいていなかったが、手を加えたり、経営上のアテンションを当てたりすることで、急に輝きを増す資産」のことです。こういう資産は、実はどこの会社にも、どの地域にも眠っているものです。

既に存在するものを活用するため、ゼロから何かを作り出すよりも、コストや時間を節約できます。また、顧客にとっても、なぜその地域でそのビジネスを行うのかがわかりやすくなります。

隠れた資産の3つのカテゴリー
1,モノ
2,ノウハウ
3, ヒト(お客さん、ファン)
これらの資産を複合的に組み合わせることで、ビジネスを成功に導けるようになります。

白馬マウンテンパークで活用した「隠れた資産」は以下の3つになります。
【モノ】
白馬岩岳の山頂から見た白馬三山を望む西側の景色とそこに面した崖状の地形
【ノウハウ】
山頂という厳しい条件でも飲食店を運営できる能力
【ヒト】
白馬のヘビーリピーターだった経営者の方にご紹介いただく縁でつながったTHE CITY BAKERY

都会でも大人気のTHE CITY BAKERYのパンとコーヒーとおしゃれな空間、絶景を掛け合わせたことが、白馬を唯一無二なレジャー施設に変えたのです。当然、SNSで話題になるよう「映え」を意識し、施設をデザインしていったのです。結果、Instagramの投稿では景色でなく、美味しいい料理や飲み物もコメントされており、うまく差別化がはかれています。

都会で素晴らしいものを展開している「外の人=THE CITY BAKERY」と積極的に組ませてもらうことで、白馬の資産がより引き立ったのです。外部のパートナーと組み、彼らの目を使うことでより効果的に「隠れた資産」を活用できるようになります。

「モノマネ」カルチャーからの脱却が鍵

「モノマネ」カルチャーから脱却し、そこにある、そこにしかない、本当にポテンシャルのある「隠れた資産」を見つめ、それをどう活用するか。心の底から悩み、チーム一丸となって知恵を絞ることがないかぎり、本当に魅力的な観光施設、地方をつくることはできません。

モノマネからの脱却には外部の力と地元のメンバーの力の掛け合わせが欠かせません。地元の人々が持つ深い知識と経験を尊重しつつ、外部からの新しいアイデアや視点を取り入れることで、プロジェクトがよりクリエイティブかつ斬新なものになります。そして、それが地元の人々や観光客など、関係者全員にとって満足のいくものになる可能性が高くなります。

外部スタッフの役割は、マーケティングやプロジェクトマネジメントのであり、現場の仲間のアイデアを引き出し、周りの人を刺激しながらアイデアを引き出し、外部の視点から改善し、最終的に進捗管理をしてプロジェクトを完成させることです。

好奇心を持って、よく遊び、様々な体験をすることが新しいアイデアにつながります。

いろいろなところに出かけ、自分の施設と比較し、いい点があればその要素を因数分解して考える。そんな積み重ねの果てに、本当にいいものができるのです。

スキー場という一つの施設だけに注目しても、その施設だけが魅力的になるわけではありません。なぜなら、その施設が存在するエリア全体が魅力的でなければ、スキー場自体も魅力的にならないからです。つまり、スキー場を深掘りするだけでなく、その周辺に点在する様々な資産を同時に掘り起こすことが大切です。

このように広くエリアにわたって魅力的な資産を発掘することで、エリア全体の魅力を高め、スキー場だけでなく周辺地域全体をアピールすることができます。つまり、「点」だけではなく「面」を活性化することで、より効果的に魅力を発信することができるのです。

産業を構造的に見ると、自分の事業領域の外にあるボトルネックが存在することは珍しくありません。白馬岩岳スキー場の場合には、周辺のベースタウンが活性化していないことが課題となります。事業を「点」だけで見ていては、この課題を解決することはできません。周辺産業や領域といった「面」に着目し、隠れた資産を活用することが必要です。

具体的には、お客さんが「同じエリア」と認識するエリア内にある「隠れた資産」を同時多発的に活用することで、より強力な訴求力を持つことができます。また、エリア内に点在する資産を活用することで、他とは異なる魅力を創造することができます。これによって、「モノマネ」からの脱却も可能になります。

その際、外部パートナーとの連携により、質の高いオリジナリティのある資産を築けます。白馬ではSNOWPEAKやCHAVATYと連携することで、顧客体験を高めています。パートナーシップを築く際には、遠慮は禁物で、自社の資産を相手に体験してもらい積極的に口説くことが重要になります。

著者はパートバーシップ構築のための6ステップを明らかにしています。
【ステップ1】活用したいと思う「隠れた資産」をきちんと見つけ、言語化する
【ステップ2】「隠れた資産」を活用するのに適したパートナー候補をリストアップする
【ステップ3】 最初に断られる確率を下げるため、丁寧にアポイントを入れる(可能なかぎり、頼りになる人を探して紹介をお願いする)
【ステップ4】自社と相手方の強みのバランスに応じた最適なパートナーシップの形を見つける
【ステップ5】パートナー候補に、組むメリットを明確に伝える
【ステップ6】うまくいかなくても諦めない。最後は情熱と気合い

レジャー施設に何度も来場していただくためには、顧客体験を高めることが重要です。顧客体験を向上させるためには、経営者が投資をすることが必要です。利益をしっかりと積み上げ、それを再投資することで、サービスを改善し、新しいサービスを提供することができます。これにより、お客様の満足度を高め、結果的には価格を上げることができます。

持続的なビジネスモデルを確立するには、顧客体験の改善に加えて、常に改善を続けることが欠かせません。魅力的なコンテンツを作り出し、自信を持って「適切な価格」を設定します。そして、その収益を使って、常に新しい魅力的なコンテンツを開発していくことを継続していくのです。

外部パートナーと協力して隠れた資産を活用し、新しい体験を提供することで、リピーターを増やすことができます。新しいコンテンツを中心に、単価を上げて利益を上げ、次の魅力やコンテンツを開発することで、ポジティブなスパイラルが生まれます。



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