習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか(ラッセル・A・ポルドラック)の書評

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習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか
ラッセル・A・ポルドラック
みすず書房

本書の要約

習慣は自動的に行動や思考を引き起こすものですが、その確立や維持には意識的な努力が必要です。より良い人生を実現するためには、良い習慣を努力して確立し、自己制御が難しいときでもそれを維持することが大切です。その際、意志力に頼るのではなく、環境を変える方が効果があることがわかっています。

行動は環境の影響を受けている!

私たちの行動はすべて、環境の影響を受けている。環境は、ある種の選択を許可または禁止し、人間の欲求や習慣の引き金となる刺激を与える。(ラッセル・A・ポルドラック)

本書の著者のラッセル・A・ポルドラックはスタンフォード大学心理学部教授で、彼の研究は脳の働きと行動の関係に焦点を当てています。彼の考え方は、私たちの行動の学習、習慣形成、そして変容に関する理解を深める上で重要な貢献をしています。

ポルドラックの研究によると、私たちの行動は大きく二つの異なる脳システムによって制御されています。一つは「行動制御系」と呼ばれるもので、目標指向的な行動を計画し、意図を持って行動を指導します。もう一つは「習慣システム」と呼ばれるもので、過去の報酬に基づいて自動的に行動を生成します。 これらのシステムは同時に働き、さまざまな状況や条件に応じて私たちの行動を制御します。

しかし、習慣システムが一度形成されると、その力は非常に強力であり、特にストレスや疲労などの状況下では、行動制御系よりも優位になりやすいのです。その結果、悪い習慣を断ち切ることが困難になるのです。

著者は環境の重要性を本書で指摘します。環境は、私たちがどのような行動をとるか、どの選択肢を許可し、または制限するかを決定する重要な役割を果たします。さらに、環境は人間の欲求や習慣を引き起こす刺激を提供し、結果として私たちの行動パターンを形成します。

私たちが自身の行動を変化させようとするとき、環境を変えることは非常に有効な戦略となります。この理由は単純で、環境が変われば、それに影響を受ける我々の行動も必然的に変わるからです。例えば、健康的な食生活を維持しようとする場合、キッチンに健康的な食品を常備するという環境の変化は、望ましい行動を引き出す大きな一歩となります。

日々の習慣の積み重ねが私たちの人生を形成します。そのため、より良い人生を実現するためには、より良い習慣を確立し、その習慣を維持することが重要です。また、悪い習慣も自分の環境を変えることで、断ち切れます。

習慣とは何か?

では習慣とは具体的に何なのでしょうか?まず、習慣は特定の刺激や状況によって自動的に起こる行動や思考を指します。つまり、私たちは意識的な意志や努力なしに、特定の刺激が現れると自動的にその行動や思考を行うようになります。

例えば、朝起きたときにすぐにコーヒーを飲むといった行動は、起床という特定の状況に反応して自動的に行われるものです。 また、習慣は明確な目標に結びついているわけではありません。特定の刺激が存在するだけで習慣は発生するのです。

このため、習慣は非常に強力であり、最初の報酬がなくなってもなかなか続けられるのです。習慣は引き金がある限り、自動的に引き起こされます。 しかし、確立された習慣は非常に強固であり、習慣を変えるためには困難が伴います。

一度習慣が定着すると、それを抑制しようと努力しても、特にストレスを感じたり疲れているときなど、自己制御が困難な状況では古い習慣が再発することがあります。 習慣は自動的に行動や思考を引き起こすものですが、その確立や維持には意識的な努力が必要です。より良い人生を実現するためには、良い習慣を努力して確立し、自己制御が難しいときでもそれを維持することが大切です。

ドーパミンは、良い習慣も悪い習慣も含めて、私たちが習慣を獲得するうえで基本となる役割を果たしているのである。

習慣化は、当初は認知回路で処理していた情報が、ドーパミン放出によってニューロン結合が促され、運動回路で処理されるようになることで生じます。そうすると認知システムの検閲を受けずに習慣行動を開始するようになります。

例えば、朝、コーヒーを飲むという習慣を考えてみましょう。コーヒーを飲むという習慣を身につける前は、コーヒーを飲むという行動をとる際に、認知システムが働きます。認知システムは、朝コーヒーを飲むという行動のメリットとデメリットを検討し、コーヒーを飲むかどうかを判断します。 しかし、コーヒーを飲むという習慣を身につけた後になると、コーヒーを飲むという行動をとる際に、認知システムは働かなくなります。

これは、コーヒーを飲むという行動が運動回路で処理されるようになるためです。運動回路は、意識に関係なく、無意識に行動を実行する回路です。 そのため、コーヒーを飲むという習慣を身につけた後になると、コーヒーを飲みたいと思ったときに、意識的にコーヒーを飲むかどうかを判断する必要はなくなり、朝コーヒーを飲むことが当たり前になります。

習慣の正体とは?良い人生を送るために必要なこと

禁煙や禁酒を一年間続けることができる人は全体の約3分の1だけであり、減量も同様に難しいです。短期間で体重を落とすことは可能かもしれませんが(どんなダイエット法を用いても)、それを2年以上維持できる人は少なく、逆に体重が増えてしまうリバウンド現象もしばしば見られます。しかし、一方で確かに、継続的に行動変容を維持できる人たちも存在します。

ある大規模な研究によれば、禁煙に挑戦した喫煙者の中で成功を収める確率は、自分以外の家族が喫煙者でない場合には10倍に増え、職場が禁煙環境である場合には2倍になると報告されています。これらのデータは、我々の行動と習慣が私たちの周囲の環境に大きく影響を受けていることを示しています。自己制御力を高めることも大切ですが、環境を工夫して自身を支えることが行動変容の成功への重要な鍵となります。

「自己制御力が強い人」は、衝動を制御するのが上手だからというよりは、そもそも自己制御を必要とする状況をうまく避けることができる、というのが現実のようです。ペンシルバニア大学のブライアン・ガラとアンジェラ・ダックワースの研究は、自己制御力が高い人ほど自己制御を必要とする状況に出くわすことが少ない理由を示唆しています。それは、このような人たちは良い習慣を作り出すのが得意だからです。

ガラとダックワースはこの説を確かめるために、大勢の人々の日常の習慣(間食や運動など)と自己制御力の関連を調査しました。その結果、自己制御力が高い人ほど、運動をよくし、健康的な食事を摂っていることが分かりました。しかし、興味深いことに、自己制御力が高い人たちは運動や健康的な食事を「習慣的に」行っていると報告しました。

つまり、彼らは意識的な努力を必要とせず、無意識的に健康的な行動を取っていたのです。 ガラとダックワースの研究はまた、自己制御力が高いと良い習慣を作りやすいことを示しています。つまり、自己制御力が高い人は良い習慣を身につけやすく、その結果、自己制御を必要とする状況に遭遇することが減ります。これは重要な発見で、自己制御力を高めるためには、新しい習慣を作ることが有効な手段であることを示しています。

アンジェラ・ダックワースなどの研究者による一連の研究から、意志力に依存するよりも誘惑を排除する方が、習慣的行動を止めるために有効であることが実証されています。この研究では、高校生と大学生が対象となり、彼らの学習目標達成能力が調査されました。学習目標を達成するためには、他のことに気が散らないように集中力を保つ必要があります。

研究では、一部の学生グループに対しては誘惑を排除する手法を用いるよう指導しました。例えば、勉強中にフェイスブックを利用しないようにするアプリを使うなどの方法です。一方、別の学生グループには誘惑に直面した場合、自己制御を行って抵抗するよう指示しました。

一週間後、学生たちが目標をどの程度達成できたかが評価されました。その結果、環境から誘惑を取り除いた方法を用いた学生の方が、自己制御によって誘惑に抵抗する方法を用いた学生よりも学習目標の達成度が高かったのです。この結果は、我々の行動や習慣は環境から大きな影響を受けており、その環境を操作することで行動改善の成功率を高められることを示しています。

トッド・ヘザートンとバトリシア・ニコルズによる研究では、人々が人生を成功または失敗させる体験を書くよう求められました。その結果、成功した人々と失敗した人々の間には、転居の有無という大きな違いが見られることがわかりました。成功した人々は、失敗した人々に比べて約3倍も多く引っ越しを経験していました。

この結果は、成功した人々が環境を変える傾向があることを示しています。変化にのためには、環境を変える積極性が必要で、転居は新たな自分になれることを後押しします。

行動変容を起こす4つの要素は、以下の通りです。
①環境をよく観察し、望まない行動の引き金となる状況を理解する。
例えば、夜遅くにテレビを見ていると、ついついお菓子を食べてしまうという場合、テレビを見ている環境を変更することで、お菓子を食べることを防ぐことができます。

②選択構造を変えて、習慣の引き金を最小限に抑え、望ましい行動を促す。
例えば、運動を習慣化したい場合は、運動しやすい環境を整えることで、運動を継続しやすくなります。断酒をしたければ、飲み友達との関係を断ち、夜過ごす時間は飲まない人との時間に充てることは効果があります。実際、私は友人関係を見直すことで、アルコールとに関係を断ち切りました。

③行動変容の詳細な実行計画を立てる。
例えば、1日10分間運動する、週に3回ジョギングをする、など、具体的な目標と実行計画を立てることで、行動変容を成功させやすくなります。

④目標に向けた進捗状況を注意深く監視し、うまくいかない場合には計画を修正する。
行動変容は、時間と努力が必要です。目標に向けて進捗状況を注意深く監視し、うまくいかない場合には計画を修正することで、行動変容を成功させることができます。
行動変容は、簡単なことではありませんが、上記の4つの要素を意識することで、成功させることができます。

習慣を変えるためには、その習慣を引き起こす外部刺激から距離を置くことが効果的です。これは物理的な距離を置くことを意味することもあり、引越しを行うという選択肢も含まれます。このアプローチは、良い習慣を作り出すこと、悪い習慣を改善することのどちらにも有効です。

習慣は私たちの生活に深く根差し、日常の行動を効率的に進行させる役割を果たしています。習慣は無意識的に行動を指導し、認知的な労力を節約するため、私たちが一日の多くを迅速で無意識的に過ごすことを可能にします。

しかし、この効率性が逆に作用し、有害な習慣を形成したとき、それらを解消することは極めて難しい課題となります。 悪い習慣を変えるために一般的に提唱される「意志力に依存する」方法は、しばしば成功しません。悪い習慣を改善するためには、意志力に頼るよりも環境を変えるというアプローチがはるかに効果的であることを忘れないようにしましょう。

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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