静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す (シモーヌ・ストルゾフ)の書評

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静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す
シモーヌ・ストルゾフ
日本経済新聞出版社

静かな働き方 (シモーヌ・ストルゾフ)の要約

仕事は重要ですが、それが全てではありません。生活の中で仕事が占める位置を見直し、家族、趣味、休息、健康など、他の重要な要素にも注意を払うことが大切です。このように、仕事と生活のバランスを整えることで、より充実した日々を送ることができるのです。

なぜ、高所得者はワーキズムに陥るのか?

ホワイトカラーの労働者にとって仕事は宗教的なアイデンティティに近いものとなっている。仕事は給料だけでなく、人生の意味や目的、コミュニティへの帰属意識をもたらすものとなっているのだ。(シモーヌ・ストルゾフ)

ジャーナリストで有名デザインコンサル会社IDEOのデザインリードを務めたシモーヌ・ストルゾフが、自身の退職を契機に、アメリカのホワイトカラー労働者たちの働き方に焦点を当てました。著者は、現代人の働きづめの傾向と、それを支える労働に関する「神話」に疑問を投げかけています。

本書では、仕事とは何か、そして「適度な仕事」とはどのようなものかについて考察し、現代社会における新しい働き方を提案しています。ストルゾフの視点は、働くことの意味とそのバランスについて、読者に新たな洞察を与えてくれます。

本書のテーマは以下の3つになります。
・ワーキズムは米国的なものではあるが、他の国でも起きている
・ワーキズムは特に特権階級の間で広まっているが、他のコミュニティにも見られる
・ワーキズムは比較的新しい現象で、祖父母の世代よりも僕たちの世代で一般的になっている  

ワーキズムは、仕事に対する特別な考え方を指し、そこでは経済的な報酬と精神的な満足の両方を求めるという特徴があります。金銭的な利益と精神的な充実という二つの目標は、必ずしも同時に達成されるわけではありません。しかし、多くの人々は仕事を通じてこれら両方の満足を得られることを期待しています。

このように、仕事に対する期待が高まる中、実際にはこれらの目標が相反する場合もあり、それが現代社会における労働の複雑さを増しているのです。ワーキズムは、現代の労働観におけるこのような矛盾を反映しています。

過去を振り返ると、富と労働時間は反比例するものだった。裕福であればあるほど働く時間は短くなった。当然、お金があれば働かなくて済むからだ。ところが、過去50年における労働時間の増加の大部分を担っているのは高所得層である。つまり、さほど働く必要がない人たちがそれまで以上に働いているのだ。

多くの人々が仕事においてやりがいやアイデンティティを求める傾向があります。この現象はアメリカに限らず、世界中の高所得層に見られる特徴です。スウェーデンから韓国に至るまで、低所得者や非大学卒業者よりも、より裕福で教育を受けた人々の方が、仕事をやりがいのある活動として捉える割合が約2倍高いという事実があります。

これは、教育と所得レベルが高い人々が、仕事を単なる収入源としてではなく、個人の成長やアイデンティティ形成の場として重視する傾向を示しています。このように仕事に対する価値観は、社会的、経済的背景によって異なることが明らかになっています。

複数のアイディンティが重要な理由

さまざまなアイデンティティを育むと誰しも人生の困難を乗り越えやすくなると、心理学の研究は示している。逆を言えば、ひとつしかアイデンティティがないと変化に対応するのが難しいということだ。

アイデンティティは人生の中で非常に重要な要素であり、例えば仕事や総資産、親としての評価など、さまざまな側面に関連しています。しかし、これらの側面のうちの一つでも上手くいかない場合、自己評価は一気に下がってしまうことがあります。自己評価の低下は、その分野での困難に直面しても対処しにくくする要因となります。

しかし、自己複雑性が高く、複数のアイデンティティを持っている場合、人生の困難に対処することが容易になります。自己複雑性とは、自分自身が多くの異なる側面や関心事を持っていることを指します。これにより、一つの側面での失敗や困難に直面しても、他の側面での成功や充実感を得ることができます。仕事にのみ時間を費やすのは、とてもリスクの高いことなのです。

アイデンティティは、植物のようなものだと言えます。育てるためには時間と手間が必要です。意識的に水やりをしなければ、すぐに枯れてしまいます。アイデンティティを多方面に育むことは、仕事の失敗や批判に対する耐性を高めるだけでなく、人生全体の充実感や満足感をもたらすことができます。

また、複数のアイデンティティを持つことには、人間関係や自己成長にも良い影響を与えます。異なるアイデンティティを持つことで、自分自身を多角的に見ることができ、他人との関わり方や世界とのつながり方も変わってきます。さらに、仕事以外の趣味や興味、情熱を持つことは、仕事においても生産性を高めることが研究によって示されています。

アイデンティティややりがいを感じる活動(家族、友人、旅行)を多様に広げることで、より豊かな人生を享受できます。 人生の意味は、自分で作り出すものです。そして、創造的で満足のいく活動には、時間とエネルギーが必要です。仕事以外の活動に没頭するための時間と、それらの活動を実現するエネルギーが必要になるのです。

自分自身の多面性を理解し、それぞれの側面を大切にすることで、人生はより豊かで意味のあるものになります。 このように、仕事だけではなく、生活の他の側面にも注意を向けることが重要です。バランスを取りながら、さまざまなアイデンティティを育み、多様な活動を楽しむことで、人生に深みと充実感をもたらすことができるのです。

本書は、仕事に意味を見出し、仕事とプライベートのバランスをどう取るかについての洞察を提供します。仕事がアイデンティティの一部となりすぎることで失われる人間性や幸福を考えるきっかけとなります。

ほどよい仕事とは何かを考えよう!

高い地位にありながら、仕事の意味を見失い、自身の人間性や幸福感を犠牲にしている人が増えています。 著者は、例ミシュラン星獲得シェフ、投資会社ブラックロック、グーグル、キックスターターなどの一流企業や組織を退職した人々の事例を挙げています。

シモーヌ・ストルゾフは、この問題に注目し、仕事との健全なバランスを取り戻す方法を提案しています。彼は「適度な仕事」というコンセプトを紹介し、仕事とプライベートの時間をバランス良く過ごすことの大切さを説いています。

仕事に常に満足感を期待することは、しばしば失望を招くことがあります。実際、仕事への過度な傾倒は、燃え尽き症候群や職業関連のストレスにつながることが研究で明らかにされています。

仕事に生活を乗っ取られると、人生の他の要素が隅に追いやられてしまう。

日本のように仕事中心の生活スタイルが根付いている国では、それが低い出生率の要因になっていることも指摘されています。同様に、アメリカでは職業的な成功への過度な期待が、若者のうつ病や不安障害の増加に影響しています。 過剰な仕事への期待は、人々にとって重大な負担となることがあります。

例えば、過労による死者数がマラリアによる死者数を上回っている事実は、仕事への過剰な期待が健康への悪影響をもたらしていることを示唆しています。 しかし、仕事からの満足感は重要で、それはモチベーションの向上や自己実現に繋がります。適切な仕事への期待は、人々の成長を促し、やりがいを感じさせることができます。

仕事が私たちの生活の一部である以上、それによる満足感は幸福にも繋がるでしょう。 そのため、仕事への期待にはバランスが必要です。過剰な期待は失望や健康問題を引き起こす可能性がありますが、適切な期待はポジティブな結果をもたらすことができます。

仕事に対する期待を適切に管理することは、自分の幸福を追求する上で欠かせない要素です。 仕事からの満足感は個々人によって異なりますが、過剰な期待は失望やストレスの原因となることもあります。自身の仕事への期待を見直し、バランスの取れた生活を送ることが、より充実した日々への鍵となります。

「ほどよい」は、あなたなりの「足るを知る」ことを勧めている。あなたの価値は仕事で決まるのではなく、人生における仕事の役割はあなた自身で決められるということを示しているのだ。

仕事を通じて成長し、自己実現することは大切ですが、仕事にのみ意味を求めるのは健康的ではありません。バランスの取れた働き方を目指し、自分や大切な人との関係を大切にしながら、充実した人生を送ることが重要です。

本書の原題である「The Good Enough Job(適度な仕事)」を追求することで、より豊かな人間性と幸福を実現できるはずです。生活を中心に据え、仕事をその一部として位置づけることができるはずです。このような考え方の変化は、「あなたの価値は仕事で決まるわけではない」という認識から始まります。

仕事は重要ですが、それが全てではありません。生活の中で仕事が占める位置を見直し、家族、趣味、休息、健康など、他の重要な要素にも注意を払うことが大切です。このように、仕事と生活のバランスを整えることで、より充実した日々を送ることができるのです。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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