共感革命 社交する人類の進化と未来 (山極壽一)の書評

gray concrete tomb stone with no people

共感革命 社交する人類の進化と未来
山極壽一
河出書房新社

共感革命 社交する人類の進化と未来 (山極壽一)の要約

共感力は、主に小さなコミュニティ内で最も効果的に働きます。この事実を深く理解した上で、私たちは共感力をより賢く使う方法を見つける必要があります。 私たちには移動の自由、集まる自由、対話する自由があります。これらの自由を利用して、小さなグループをつなぎ合わせることが重要です。

共感革命が人類に及ぼした影響とは?

人類は「共感」によって仲間とつながり、大きな集団を形成し、強大な力を手にした。「共感革命」こそが、人類史上最大の革命だったのではないか。 (山極壽一)

著者の山極壽一氏は、京都大学総長で霊長類学者として長年活躍しています。よく知られる「認知革命」に先立つ出来事として、山極氏は「共感革命」に焦点を当てています。

著者は本書で、人類の歴史において共感がどのように重要な役割を果たしてきたかを、読者に分かりやすく解説しています。この革命により、人間の社会的な結びつきや文化の発展がどのように進化してきたかについて、深く掘り下げることで、私たちがやるべきことを明らかにしています。

人間が二足歩行を選んだのは、仲間の存在を理解し、遠くから食物を運ぶためであり、これは人間特有の生存戦略の始まりでした。長い間、私たちは共感を通じて他者と共存してきました。

言葉を持つ前の人類において、共感の力は非常に重要でした。言葉が存在しなかった時代でも、人々は共感を通じて情報や感情を伝え合い、共同生活を営んでいたのです。共感は、言葉を超えたコミュニケーション手段として機能し、相互理解のための重要な役割を果たしていました。最初は「身体のリズム」によって、私たちは他者と気持ちを共有していたのです。

確かに「認知革命」によって、言葉を介した情報伝達や知識の蓄積が大きく進展したのは事実です。しかし、それ以前に起こった「共感革命」がなければ、人類が言葉を持つまでに至らなかった可能性もあります。この「共感革命」は、人類のコミュニケーション能力の発展において、根底にある重要な要素だったと言えるでしょう。

AIは過去のデータに依存し、ゼロから一を生み出す能力がないため、過去の出来事が未来を形作ることになります。その結果、人間がAIのスケジュールに従って行動すれば、自律的に未来を描くことが困難になる可能性があります。

かつて人類は歴史の中で誤った判断を何度も繰り返した。ChatGPTは、その誤りを再びやってしまう恐れがあるのだ。ChatGPTはこれまでやっていないことを生み出せない。私たちは堂々巡りの歴史に足を踏み入れてしまうだろう。人類は新しい経験を積み重ね、これまでにはなかった世界を切り拓いてきたのに、ChatGPTによってこれまでになかったことができなくなり、繰り返しの歴史になってしまう。

このため、私たちはAIに頼るだけでなく、過去を再評価し、異なる判断をしていた場合の現在を想像し、そこから新たな未来を創造する必要があるとされています。このようなアプローチは、私たちが未来を自らの手で形作る上で重要な役割を果たすでしょう。

AI技術の発展により、人間が情報に支配され、機械のようになるリスクがあるという懸念があります。感情を持たない機械のような存在になると、感情を生み出す源である五感も徐々に無視されるようになる可能性があるのです。このような変化は、人間本来の感性や感情の豊かさを失うことに繋がり、私たちの生活や社会に重大な影響を与えるかもしれません。AIの進歩は多くの利点をもたらしますが、それに伴う人間性の喪失のリスクに対する警戒も必要です。

AIに頼るだけでなく、自分の頭で思考しなければ、過去と同じことを繰り返すことになり、未来を切り開けないのです。想像力を鍛えることが人間にとって、とても重要なことを再認識しました。

コンパッションが重要な理由

私たちが二足歩行を選択したのは、仲間の存在、気持ちを想像し、仲間のために離れた場所から食物を運ぶためだ。それは弱みを強みに変える人類特有の生存戦略の出発点だった。それ以来私たちは、長い間、「共感」によって他者とともに暮らしてきたのだ。

コンパッションは、相手を思いやり、共感する能力であり、新しい物語を紡ぐために欠かせない要素です。共感(エンパシー)は、他者の気持ちに入り込む能力で、これはサルや類人猿にも見られます。しかし、同情(シンパシー)やコンパッション(思いやり)は、人間にしかできない知的作業であり、意図的なものなのです。

これは、他者の立場に立ち、その考えや感情を想像する能力を指し、サルや類人猿には見られない特徴です。 コンパッションは、「みんなで助けよう」という気持ちを表し、人間の「視線共有」能力に基づいています。人間は、他人が何かを指差すと、その方向を見て状況を瞬時に共有することができます。

この視線共有能力は、コミュニケーションや協力をスムーズに行うために重要であり、コンパッションの基盤を形成します。人間は他者の視点や感情を理解し共有することで、相互支援が可能になります。共感やコンパッションは、人間の進化の一部であり、言葉を得る前から存在していました。

共感能力と認知能力は違う。共感能力とは、相手の気持ちを感じること、認知能力は相手の考えや意図を知ることだ。本来はそれぞれ違う能力であって、人間はこの二つをそれぞれ発達させて合体し、コンパッションという相手を思いやる気持ちと行為を生み出した。相手のシチュエーションが自分とは違うことを認識し、自分がどう振る舞ったら相手の役に立つかを想像できるようになったのだ。

共感を通じて人類は進化し、今もお互いを支え合う社会を形成しています。共感は私たちの社会の基盤であり、人間の進化において重要な役割を果たしてきたのです。このコンパッションの力によって、私たちは異なるコミュニティや文化と関わりを持ち、共に成長することができます。 コンパッションは、相手を思いやる気持ちや共感する能力です。これは、共感能力と認知能力を合体させたものであり、人間の特徴的な能力です。

相手を思いやり、共感する気持ちがあれば、異なるコミュニティや文化とも関わりを持ち、共に成長することができるのです。 言葉だけではなく、身体の共鳴を通じたコミュニケーションとコンパッションの力は、私たち人類が新たな物語を紡ぐために欠かせない要素です。

元々、共感力は小規模な社会の中で、人々が助け合って生きるために大きな力を発揮した。しかしその能力は別の集団に対する敵意という形で利用されてしまった。敵意を共有できれば、自分たちの集団は結束できる。そうやって暴発した共感力は、戦争や他の集団との争いにつながった。そんな歴史の苦い教訓が常に私の脳裏にある。 共感力は小規模な社会でしか通用しない。それが集団の外や大規模な社会では違う目的で使われてしまうことを肝に銘じないと、うまく使いこなせないのだ。

共感力は、小規模社会においては、集団の内外を問わず、互いに助け合い、協力し合うために役立っていました。しかし、農耕や牧畜の導入により領土概念が生まれると、その領土内で暮らす人々間でのみ共感が通じるようになりました。人口が増加し、領土を拡大する必要が生じた際には、武力行使が必要だとの考えが生まれました。 このような状況で重要な役割を果たしたのが言葉です。

言葉は、共通の敵を作り出し、集団内の結束を強めるために利用されました。言葉によって、集団間の相互理解を超えた新たなコミュニケーションが生まれ、領土拡大や対立の為の道具として機能したのです。この過程で、共感力と認知力は異なる形で影響を与えるようになったのです。

共感力は、主に小さなコミュニティ内で最も効果的に働きます。この事実を深く理解した上で、私たちは共感力をより賢く使う方法を見つける必要があります。 私たちには移動の自由、集まる自由、対話する自由があります。これらの自由を利用して、小さなグループをつなぎ合わせることが重要です。

個々の人が様々なグループを行き来し、その人が橋渡し役となって、異なるグループ間を結びつけることで、人々の交流が促され、文化的なつながりが生まれます。 共感力を高めることは、人間関係をスムーズにし、社会全体の結びつきを強化するために欠かせない要素です。

小規模なグループから始め、個人が中間者として機能し、グループ間の交流を促進することで、文化的なつながりを築くことが可能です。私たちは自由を生かし、共感力を育みながら、より豊かな社会を構築する責任があります。コンパッションは、私たちが持つべき大切な力であり、新しい物語を紡ぐための鍵となります。


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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