意思決定の質を高める「フレーミング」の力――3つの認知モデルで新しい現実を作り出す
ケネス・クキエ , ビクター・マイヤー=ショーンベルガー , フランシス・ド=ベリクール
英治出版
意思決定の質を高める「フレーミング」の力の要約
フレーミングは、私たちが直面する問題や課題を解釈し、理解する方法を変える力を持っています。これは人間に固有の能力であり、異なる文脈や視点を適用することで、新たな洞察や解決策が生まれる可能性があります。異なるフレーミングが、私たちの思考と行動の幅を広げる重要な要素となるのです。
フレームングによってイノベーションが起こる理由
重要な課題の解決へと立ち上がり、適切な形で課題を認識したうえで、従来とは別の切り口から解決への新しい道を切り開く能力の勝利である。賞賛されるべきは新しいテクノロジーではなく、人間の能力なのだ。(ケネス・クキエ)
人間はメンタルモデルに基づいて思考し、正しく現実を理解することができます。メンタルモデルは、パターンを認識し、物事がどのように進展するかを予測し、目の前の状況に説明を与えることで、現実を形作るのに役立ちます。
このプロセスがなければ、現実は単に情報の流れとして存在し、経験や感覚は形を成さずに連なるだけになります。メンタルモデルは秩序をもたらし、重要な点に集中し、それ以外の部分を無視する能力を提供します。
この独自の認知能力を活用することで、人間はイノベーションを起こすことができます。 この考え方は、私たちがどのように情報を処理し、意味を見出し、新しいアイデアを創出するかを理解する上で非常に重要です。
メンタルモデルは、単に個々の思考や行動を超えて、集団や組織における意思決定や問題解決にも影響を与えます。そのため、メンタルモデルを意識的に拡張し、更新することは、より良い決定を下し、創造性を促進するための鍵となるのです。
フレームは思考の土台を形成し、私たちの見方や解釈を大きく左右します。これは政治、ビジネス、宗教、倫理など、あらゆる分野に存在しています。たとえば、政治においては民主主義と君主制が異なるフレームです。ビジネス分野では、リーン生産方式やOKRがそれぞれ独自のフレームを提供します。
宗教的な視点と世俗的ヒューマニズムも、それぞれが異なる価値観と解釈の枠組みを形成しています。さらに、「法の支配」と「力は正義」という考え方も、異なるフレームを提示します。また、人種的平等と人種差別も、それぞれ異なる視点から世界を見るフレームです。
フレームは、私たちがどのように世界を認識し、それに応じて行動するかを決定する基本的な枠組みです。このように多様なフレームが存在するため、異なる視点を理解し、適切なフレームを選択することが重要です。フレームは多様であり、それぞれが独自の視点と解釈を提供するものなのです。
みずからが選び、適用しているメンタルモデルは「フレーム」と呼べるものだ。
状況を適切にフレーミングすることは、新しい解決策を発見するための重要なステップです。私たちが自ら選択し、適用するメンタルモデルは、実際には「フレーム」と呼べるものです。このフレームは、特定の状況や問題をどのように解釈し、理解するかを形作るフィルターのようなものです。
フレーミングの過程では、私たちは情報を特定の視点や文脈に置き換え、それに基づいて問題を分析し、解決策を考え出します。異なるフレームを適用することで、同じ状況に対してまったく異なるアプローチや見解が生まれることがあります。
例えば、ビジネスの課題を「機会」としてフレーミングすると、その課題に対する創造的で革新的なアプローチが促されるかもしれません。逆に誤ったフレームを使うと恐ろしいことが起こる可能性を高めます。
フレーミングは、私たちが直面する問題や課題を解釈し、理解する方法を変える力を持っています。これは人間に固有の能力であり、異なる文脈や視点を適用することで、新たな洞察や解決策が生まれる可能性があります。例えば、経済的な困難を単なる障害ではなく成長の機会として捉えることで、より創造的かつ革新的なアプローチが可能になります。
このように、フレーミングは私たちの認識や行動に深い影響を与えるため、様々な問題に対して多様な視点からのアプローチを可能にします。それは、個々の挑戦だけでなく、より広い社会的、文化的な課題に対しても応用可能であり、私たちの思考と行動の幅を広げる重要な要素となるのです。
フレーミングの3つの要素とリフレーミング
基本的に、フレーミングは無意識下でおこなわれる。しかし常に質の高い意思決定をおこなつ人物や、影響の大きな意思決定をおこなつ必要のある地位にいる人物は、自分の現在のフレーミングや、「リフレーミング(フレームの再設定)」の力について自覚的だ。そうした自覚があるかどうかで、見えてくる選択肢や取りうる行動は変わってくる。
フレーミングは、単に人間の認知の特徴にとどまらず、効果的な意思決定のための実践的ツールとして活用できます。私たちの意識は、世界の目立った特徴を捉え、それ以外をブロックするフレームを利用しています。完全な世界を把握することは不可能ですが、重要な部分に焦点を当て、それをモデル化することで、世界を扱いやすくし、行動へと繋げることができます。
フレームは現実を簡略化する役割を果たしますが、それは単純化することとは異なり、重要な要素に思考を集中させることを意味します。
フレームはまた、経験を基にして未来の状況や未知の事態に適用可能な一般則を導き出す手助けをします。これにより、私たちは未知の事態やデータが存在しない事柄に対しても想像力を働かせることができます。
フレームは「もし〜だったら」という仮定を立て、異なる選択肢を想像することを可能にし、それは新たな可能性を生み出す力となります。この能力は、個人の成長や社会の進歩を促進する重要な要素です。フレーミングは、私たちが世界をどのように見るか、そしてその中でどのように行動するかを形作る、強力なツールなのです。
フレーミングは、主に2つの状況で私たちの行動を効果的に支援します。まず、新しい状況や環境の変化に直面したとき、フレームを自由に選択する能力が新しい選択肢を提供します。これにより、未知の状況や変化に柔軟に対応することができるのです。
もう一つは、慣れ親しんだ状況に直面した際です。この場合、フレームは私たちの意識を特定の部分に集中させる力を持ちます。これにより、認識にかかる負荷を減らし、効率的に情報を処理することが可能になります。慣れ親しんだ状況においては、フレームが自動的に作動し、情報の過剰な流入を適切に管理し、意思決定を容易にします。
適切な意思決定には3つの要素が不可欠です。
①因果的思考
②反実仮想
③制約
①因果的思考
これは現象の原因と結果を理解する能力です。人間は、原因と結果というレンズを通して世界を見ています。この因果的思考が、世界を理解しやすくしています。私たちは、ある行動がどのような影響を及ぼすかを予測し、これを繰り返すことで学習しています。因果的思考は、人間の認知の基盤であり、子供たちはこれを学ぶことで成長します。
②反実仮想
頭のなかで、よく私たちは何歩か先の未来に思いを馳せ、ありうるかもしれない世界の別の姿を無数に想像している。反実仮想とは、現実を超えた世界に目を向ける方法の一つだ。この「ありえたかもしれないこと」「これまでそうだったこと」「これからありうること」に思いを馳せる力がなければ、私たちは永遠に目の前の「今、ここ」にとらわれてしまう。
反実仮想は、現実とは異なる可能性を想像することを意味し、一つまたは複数の点で異なる世界を想定します。私たちは日常的に、この思考を行っています。
反実仮想によって、現在の状況から離れ、異なる現実を心の中で創り出すことができます。これは進歩に不可欠であり、現実を理解し、どのように変えることができるかを考える方法として機能します。
私たちは、「もし〜だったらどうする?」という問いを通じて、反実仮想を行います。この想像力は単なる夢想にとどまらず、意思決定に向けた重要な行為です。子供のごっこ遊びや科学者の実験でも、この反実仮想は活用されています。
しかし、反実仮想に没頭しすぎることも問題です。そこでフレーミングの3つ目の要素である「制約」の役割が重要になります。
③制約
適切な制約を設けることで、反実仮想がただの夢想ではなく、実現可能な行動へと導かれます。フレーミングとは、無制限の空想ではなく、制約の中での想像力です。
制約を設けないと、
想像の幅が広すぎて因果関係のメンタルモデルとはまったく関係の ない反実仮想をおこない、 行動に必要な情報を引き出せない可能性がある。 行動可能な選択肢を考え出すためには、 想像を適切な範囲に限定する必要がある。制約とは、 反実仮想的な思考を一定の形に留めるためのルールや縛りのことだ 。そうした制約は自由に変更を加えることができる。 制約を緩めたり厳しくしたり、別の制約を加えたり、過去の制約を取り除いたり。 制約を設けることで、 フレーミングは認知の範囲を意味するだけでなく、 実のある行動の基盤となる。
制約はメンタルモデルを整える接着剤のようなもので、これにより「もしも」の問いを明確な範囲内で考えることができます。 例えば、タイヤがパンクした場合、反重力技術ではなく、手元にあるツール(ジャッキやレンチなど)を使う方法を想像するでしょう。
制約を調整する際には、大きな変更を避け、最小限の修正を目指すことが重要です。仮想の現実に思いを馳せる場合でも、その想像は現実から大きく離れることなく、現実に近いものでなければなりません。これにより、実用的でない選択肢を考えるリスクが減少します。
私たちが描く想像には、現実の要素が透けて見えるべきです。これは、実現可能で実用的なアイデアを生み出すための重要な原則です。
フレームの適用は、因果関係、反実仮想、制約条件を基にした構造化されたプロセスです。その次のステップは、異なるフレームへの切り替えであり、これはリスクが高いものの、新たな視点や異なる選択肢を提供し、課題への新しい対処方法をもたらす可能性があります。
状況が安定していて変化がない場合は、フレームの切り替えは必要ありませんが、環境が変化した場合はリフレーミングが効果的です。
適切なフレームを選択することは難しいため、多様なフレームのレパートリーを持つことが重要です。個人はレパートリーを増やし、認知的な探求を行い、未知の領域に挑戦することでフレーム選択の能力を向上させることができます。
また、組織も多様なフレームの育成において重要な役割を果たし、チームが適切な原則を導入するよう支援することができます。フレーミングとリフレーミングは、個人と組織の双方にとって重要なプロセスです。
因果関係、反実仮想、制約条件の3つの要素は、フレームを効果的に活用することで強化され、私たちがより良い意思決定を行うのを支援します。フレーミングは単なる認知のプロセスを超え、実践的な意思決定ツールとしての価値を持っています。
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