何もしない (ジェニー・オデル)の書評

man standing on boulder

何もしない
ジェニー・オデル
早川書房

何もしない (ジェニー・オデル)の要約

「何もしない」という選択を通じて、他者の話を傾聴できるようになり、社会的不公正を認識し、それを改善するための行動を取る力を育てることができます。また日々の忙しさや情報過多から距離を置き、自分にとって真に重要なものを見極めるための静かな思索の機会を提供し、これが精神的健康の維持に不可欠です。

何もしないことが現代人にとって重要な理由

フェイスブックやインスタグラムのようなプラットフォームは、私たちが自然に抱く他人への興味や、年齢に関係なくコミュニティを求める気持ちにつけこむダムのような存在で、人間のもっとも根源的な欲求を乗っ取って欲求不満にさせ、そこから利益を得ている。(ジェニー・オデル)

現代社会において、多くの人がSNSに多大な時間を費やし、その過程で収益化の道具とされていることに、ジェニー・オデルは警鐘を鳴らします。彼女は、時間という貴重な資源を守るために、「何もしない」という選択肢の価値を強調しています。

私たち現代人は、起きている時間の大部分をデジタルデバイスを通じての常時接続の仕事に割り当て、さらには余暇時間もフェイスブックやインスタグラムでの「いいね!」数によって測られるパーソナルブランドの強化のために費やしています。

このような生活では、何もしない時間を確保することが難しく、時間は経済資源と同一視されてしまいます。投資に対するリターンを常に求めるこの態度は、もはや手に負えないほど高価なものとなり、これが現代における時間と空間の厳しい現実です。

オデルは「何もしない」という時間が、新たな視点や深い思考を促し、現代の生産性と効率性を優先する資本主義的価値観に疑問を投げかけることができると主張しています。これは、私たちが自分自身や社会の中で果たしている役割について深く考え、精神的な豊かさを追求する機会を提供するものです。

オデルの提案する「何もしない」という行動は、現代社会における時間と空間の使用方法に対する有益な挑戦となり、私たちがより意味のある、充実した生活を送るための鍵となり得ます。

私が定義する「何もしない」の重要なポイントは、リフレッシュして仕事に戻ったり、生産性を高めるために備えたりすることではなく、私たちが現在「生産的」だと認識しているものを疑ってかかるということだ。

オデルの「何もしない」という提案は、社会の構造に対する挑戦として、また自己の存在や幸福を深く考え直す契機として機能します。 したがって、オデルが提唱する「何もしない」という行為は、怠惰や無為を超えた意味を持ち、自己成長や社会的な変革を促すための重要なステップとなりえます。

著者は、自分の時間と行動をSNSやインターネットの商業化の波から取り戻すために、「何もしない」選択をすることの重要性を強調しています。自分が人間であることを思い出すためには、適度の休息が必要です。

自分の精神的安定のために、何もしない時間を増やそう!

注意経済への批判と生命地域主義的な認識が持つ可能性をリンクさせることは、私にとって重要な意味を持つ。というのも、資本主義、植民地主義的思想、孤立、環境を破壊する姿勢は、相互に生み出されていると考えるからだ。さらに、経済が生態系におよぼす影響と注意経済が私たちにおよぼす影響とのあいだに類似性が認められるという点も見逃せない。どちらの場合も攻撃的な単一文化に向かう傾向があり、そのような文化においては「役立たず」で、占有不可能(伐採人やフェイスブックによって)とみなされるものが真っ先に切り捨てられる。

人生は時に、部分的な最適化や細分化に囚われ、全体性を見失いがちです。例えば、成功や成果だけを追求し、個々の行動や決定において全体のバランスや持続可能性を見落としてしまうことがあります。このような考え方は、自然の生態系とも通じる部分があります。

生態系は、全ての生物や要素が連携し合い、バランスを保ちながら機能しています。一部分だけを重視しすぎると、生態系全体が崩れてしまうように、人生でも全体を見据えない考え方は、長期的には持続不可能な結果を招く可能性があります。 個人や社会が持つ共同体思想や環境への配慮は、成果や生産性だけでなく、持続可能な未来を築くために重要です。

短期的な利益や成功に囚われることなく、全体を見渡し、持続可能なバランスを保つことが、豊かな人生や社会を築くための重要なステップであると言えます。 SNSやネットの情報に時間を支配されることで、思考の種を次々に絶やすことは、注意力や洞察力の劣化を招く可能性があります。

注意経済が破壊的な要素を前面に押し出すことにより、社会にネガティブな影響を及ぼす可能性があることが懸念されています。この経済は、衝撃的な広告や情報によって人々の注意を引きつけるため、健康や安全に関するネガティブな情報が増加し、恐怖や不安を煽ることで個人や社会のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があります。

何もしないこととは、自分との対話の時間を持つことにつながります。自分の注意をどこに向け続けるかを深く理解すると、最終的には重要な気づきへとつながることがわかります。これは、自分自身が生きていることの幸運さを再認識するだけでなく、自分の周りで起こっている文化や生態系の破壊に目を向けることも含まれます。さらに、意識的か否かに関わらず、自分がその破壊パターンの中で担っている役割に気づくことにもつながります。

生産性ばかりに固執する環境に反抗して「何もしない」人が、ほかの人が自ら修復するのを助け、そして次はその人たちが人間やそれを超えたコミュニティの修復を助けるようになることを望んでいる。そして、なによりも、人どうしがつながり合う方法を見つける一助になってくれればと願っている。そのようなつながりとは、持続する本質的な関係であり、企業には絶対に何の利益ももたらさない。

何もしなこといことで、世の中に注意を向け、気づくという行為自体が、私たちに対する責任を生じさせることになります。この気づきは、自己認識を深め、周囲の世界との関わり方を見直すきっかけとなります。

iPhoneやSNSから距離を置き、余白の時間を持つことが私たち現代人には求められています。私も自然の中を歩いたり、瞑想をすること、茶室でデジタルギアを外す時間によって、注意力を鍛えています。

このような行動は、日常生活でのストレスや疲れをリフレッシュさせ、心身のバランスを整える効果があります。スマートフォンやソーシャルメディアは便利でありながら、過剰な使用は精神的な疲労や注意散漫を引き起こす可能性があります。そのため、定期的にデバイスを離れて自分自身と向き合う時間を持つことは重要です。

スマートフォンやソーシャルメディアに過剰に時間を使うことは、精神的な疲労や注意散漫を招くため、定期的にデジタルデバイスから離れるようにしましょう。自分自身と向き合うことが、心の健康やクリエイティビティの向上につながります。このように、余白の時間を設けることで、より充実した生活を送ることが可能になります。

著者によれば、生産性への執着を手放し、意識的に「何もしない」時間を持つことには、積極的な聞き手となることが含まれます。

「何もしない」とは、そこに存在するものを知覚するために、動かずにじっとしているということ。

フェイスブックやインスタグラムのようなプラットフォームは、ユーザーが深く聞き入れることを求めません。代わりに、表面的な理解や「いいね!」が報酬をもたらす傾向があります。

しかし、コミュニケーションには双方向性が不可欠であり、情報を受け取るだけでなく、相手の意見や感情に対しても開かれた耳を持つことが大切です。このような意識的なコミュニケーションを通じて、相互理解と信頼関係を深めることができます。

他者の意見を傾聴することで、政治、人種、環境、経済的な課題を深く理解し、それを解決しようという意識が生まれます。「何もしない」という選択をすることで、社会的な不公正を認識し、その改善に向けた具体的なアクションに繋げる力が養われます。このプロセスは、個人や組織が社会の変革に積極的に貢献するための力を引き出すことに役立ちます。

さらに、「何もしない」ことは、日常の忙しなさや情報過多から一時的に距離を置き、自身にとって本当に価値のあることを見極めるための時間を確保することでもあります。このような静寂の中での思索は、自己の内面を見つめ直し、精神的な健康を維持する上で極めて重要です。

フェイスブックやインターネットとの接続時間をコントロールし、自らのための余白を意識的に作り出すことの重要性に、私たちはもっと目を向けるべきだと感じています。注意力を取り戻すことで、開かれる新しい世界の可能性についての著者のアドバイスに共感を覚えました。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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