社会を変える学校 学校を変える社会(工藤勇一、植松努)の書評

man and woman sitting on chairs

社会を変える学校 学校を変える社会
工藤勇一、植松努
時事通信社

社会を変える学校 学校を変える社会(工藤勇一、植松努)の要約

教育現場では社会の変化に合わせて教育内容をアップデートし、生徒が自ら考え行動する力を養うことが求められています。教育の目的は子供を自律させることであり、時代遅れの教育システムを改革し、学校だけでなく社会がその支援を積極的に行うべきです。当然、激しい変化に適応するためには大人のリスキリングも欠かせません。

日本人の起業家マインドを養うために必要なこと

外国の子たちは卒業したら入りたい会社がないから「自分で会社を興す」と言っているんです。日本人は卒業したら「どこに入ろうか」ということばかり考えてる。この発想の違いがすごく大きい。(植松勉)

本書では、多くの学校改革の実績を持つ工藤勇一氏と植松電機代表の植松努氏が対談形式で、人口減少が進む社会における教育と社会のあり方について深く議論しています。

この対談からは、未来の学校と社会がどうあるべきかについての示唆が得られ、読者に考えるきっかけを提供します。 教育現場だけでなく社会全体に向けた提言も含まれており、未来を担う若者たちが自らの可能性を信じて社会に積極的に貢献できるように、教育機関や企業経営における役割の重要性が強調されています。この本は、教育と社会の両方に関わる人々にとって有益な洞察を与える一冊に仕上がっています。

外国人は働きたい会社がない場合に起業する選択をしますが、日本人は同じ状況でも就職先を探すことが一般的です。これは日本の教育システムが影響しているとされています。 日本の教育では、産業革命時代に始まった一斉授業方式、いわゆる「ギャラリー方式」が長らく採用されています。

これは同一年齢の生徒に同じ内容を教える方法で、短期間で即戦力となる人材を効率的に育成する目的で用いられました。 最近ではインタラクティブな授業が増え、生徒が積極的に参加するスタイルが導入されつつありますが、多くの学校でギャラリー型の授業が依然として主流です。

この教育方式から完全に脱却するには、まだ時間が必要とされています。この教育の特性が、日本人の就職観、キャリアの選択、起業に影響を与えていると考えられます。

私はiU 情報経営イノベーション専門職大学でビジネスフレームワークの授業をインタラクティブに教えています。具体的には、最新のベンチャー企業のケーススタディを取り入れ、ゲストの経営者を招いて、リアルな企業課題の解決策を学生と一緒に考えます。

授業が進むにつれて、グループでの思考やディスカッションが活発になり、起業家を驚かせるような提案ができるようになります。授業では、社会課題を解決する起業家と協力し、問題解決を目指すことがゴールとして設定されているため、お互いがコミュニケーションがとることで、学生のモチベーションを高めています。

起業家が学生の取り組みを認め、提案された解決策を褒めたり、実際に採用することで、学生たちは短期間で顕著な成長を遂げます。このアプローチにより、学生たちは自ら動けるようになり、将来的に起業家として活躍するための強固な基盤を築いています。

子どもたちが変わることができれば、時代とともに社会はおのずと変わります。(工藤勇一)

子供の頃から、自ら考え、判断し、行動を起こす体験を積み重ねることが、問題を定義し解決する能力を養うことにつながります。思考、行動、失敗のプロセスを経験することで、問題解決能力や主体性が育ち、様々な状況で即座に適切な判断ができるようになります。

教育が変化し、子供たちの意識が変わることで、日本の起業家を増やすことは可能です。できるだけ小さな時から、個性を大事にし、やりたいことにフォーカスする教育をすべきだと思います。子どもたちが変わることで、日本の未来は確実によくなるはずです。

ブルシットジョブが社会をダメにする?

やらなくてもいい無駄な仕事を作ってる人はいますよね。(植松勉)

習慣化は、同じ状況下で繰り返される行動が定着し、意識せずに自動的に行われるようになることを指します。これが身につくと、行動をしないと不快感を覚えるほどになりますが、無意識に行われる仕事が本当に必要か、また効果的かどうかは常に見直す必要があります。

長年続けられている無意味で無駄な仕事、いわゆるブルシットジョブが存在することが、多くの企業で問題になっています。これらは無意識の習慣として根付いており、不要な仕事を続けることで、企業の時間やリソースの浪費を招き、結果的に効率や生産性の低下を引き起こします。

習慣化された行動やルールは、状況に応じて適切かどうかを定期的に見直し、最適な業務遂行を目指すことが企業成長のために必要です。無意識の習慣が企業にとって効果的かつ適切であるかを常に意識し、必要に応じて変更を加えることで企業の生産性が高められます。業務を再定義し、「この仕事本当に必要か?」という質問を繰り返すことで、ブルシットジョブを減らせます。

教育現場にもこのブルシットジョブがあると工藤氏は指摘します。

作ったルールに縛られるんですよね。先に話した通り、決まり事を守ることと、決まり事を現実に合わせて変えていくことは別ですよね。日本はそこをやっぱり議論しません。「決まり事は守れ」で止まってしまう。そういうことを考えないのも、日本の教育の問題点だと思いますね。(工藤勇一)

教育の本質は、与えられたルールや常識を単純に受け入れるのではなく、その正しさを問い直し、批判的に考える力を育てることです。教師は、生徒たちと共に問題を提起し、探求するプロセスを重視することが求められています。

ロジカルシンキングやクリティカルシンキングを身につけることで、問題を正確に特定し、効果的な解決策を見つけられるようになります。

植松氏は、会話が弾む人や優れた文章を書く人は思考力が高いと指摘しています。言語能力が豊かな人ほど、その思考力も高まるため、社会の課題解決に貢献することができる言います。

教育現場では、社会の変化に応じて教育内容をアップデートし、生徒たちに思考力を養う教育を提供することが求められています。現代の複雑で変化の激しい環境に適応し、問題解決能力を高めるため、生徒が自ら考え、積極的に行動する力を育成することが重要です。

このプロセスは、起業家精神を養うことにもつながり、社会の課題を解決するための新たなアプローチを生み出す機会を提供します。失敗を恐れずに挑戦する姿勢は、生徒たちが社会のペインを減らす力となるでしょう。工藤氏が指摘するように、教育は子どもを自律させるためにあるのですから、旧来型の仕組みから一刻も早く脱却すべきですし、大人がそれをサポートすべきなのです。

テクノロジーの進化に伴い、過去の常識が通用しなくなる中で、大人のリスキリングも必要とされています。日々進化するマインドを養うことが、大人にも子どもにも求められるようになり、教育の役割はこれまで以上に重要性を増しています。

大人が新しいスキルを学び直すことは、自身のキャリアを再形成し、変化する市場に適応するために不可欠です。同時に、子どもたちに対しても、柔軟で適応力の高い思考を教えることが求められています。このように、あらゆる年齢層で学び続ける文化を育てることが求められています。

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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