テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想
橘玲
文藝春秋
テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想 (橘玲)の書評
「テクノ・リバタリアン」は数学的に世界を把握し、イノベーションを生み出す天才たちであり、自由主義の価値を重んじています。彼らの存在は新たな希望やアイデアを提供する一方で、社会全体に影響を与え、新たな解決策を提示しています。しかし、その影響力が社会に様々な影響をもたらすため、その課題も見逃せません。
テクノ・リバタリアンが変える未来とは?
いまや世界を変える思想はリバタリアニズムだけになっている。このように言い切れるのは、Google、Amazon、Meta(Facebook)などプラットフォーマーの創業者、チャットGPTなどのAI(人工知能)や、ビットコインなどで使われるブロックチェーンの開発者がみなテクノ・リバタリアンだからだ。 (橘玲)
「テクノ・リバタリアン」は、世界を数学的に把握する天才たちであり、イノベーションを起こすだけでなく、巨大な富と権力を握っています。彼らは自由主義の価値を重んじ、主にシリコンバレーでテクノロジーを進化させ、巨大な経済圏を築いています。
彼らの行動や考え方は、時には社会とのアイデンティティ融合が困難であると感じる人々にとって、新たな希望やアイデアの源となっています。 一方で、彼らの行動が社会全体に与える影響や課題も見過ごすことはできません。彼らが持つ巨大な富や権力が、社会の不平等や価値観の変化にどのような影響を与えるのか、議論が求められています。
テクノ・リバタリアンの存在は、現代社会の諸問題に対する新たな視点や解決策を提供している一方で、その影響力の大きさによって、社会全体のあり方にも影響を与えていると言えるでしょう。 その代表格が、イーロン・マスクやペイパルマフィアで有名なピーター・ティールです。そして本書ではテクノ・リバタリアの第2世代であるサム・アルトマンやヴィタリック・ブテリンの動きも紹介しています。(ピーター・ティールの関連記事)
シリコンバレーの天才=富豪たちを見ればわかるように、高度化する知識社会では、並外れた論理・数学的知能とイノベーションの能力には巨大な価値があります。
しかし、ハイパー・システム化した脳タイプを持つ者は、「自閉症の子どもを生み出す可能性が極めて高い」のです。アメリカの調査によれば、自閉症の発症率は一般人口の1~2%ですが、もっとも裕福な330家庭のうち27家庭(約8%)に自閉症の子どもがいたと言います。
また、MIT(マサチューセッツ工科大学)の同窓生の間では、自閉症の発症割合は10%にも上ると囁かれています。この事実は、知識社会において優れた論理的思考や数学的能力が求められる一方で、その傾向が自閉症のリスクを高める可能性を示唆しています。
イーロン・マスクやピーター・ティールがつくったペイパルからは多くのイノベーターが生まれ、世の中をよりよくしていることは間違いありません。
主なペイパルマフィアをあげれば、その凄さがわかります。
イーロン・マスク(スペースX創業、テスラ、ツイッターCEO)
ピーター・ティール(投資家)
マックス・レヴチン(スライド、アファーム創業)
リード・ホフマン(リンクトイン創業)
チャド・ハーリー(ユーチューブ創業)
ジェレミー・ストップルマン(イェルプ創業)
デイヴィッド・サックス(ヤマ─創業)
プレマル・シャー(キヴァ創業)
イーロン・マスクやピーター・ティールを含むペイパルマフィアの存在は、現代のテクノロジー界において著しく重要です。彼らの創造性と影響力は、世界中で数多くのイノベーションを生み出し、経済や社会に革新をもたらしています。しかし、彼らの活動には欠点や懸念点も存在します。
まず、イーロン・マスクはその強烈なビジョンと挑戦的な姿勢で知られています。彼は常にリスクを冒し、大胆なプロジェクトに取り組むことで、宇宙開発から電気自動車、人工知能まで、多岐にわたる分野で革新を牽引しています。
しかし、その一方で、共感力が乏しいとの指摘もあります。彼は自らの目標に執着するあまり、他者の意見や感情を度外視することがあります。
一方、ピーター・ティールはその投資家としての才能で知られています。彼はペイパルの創業者の一人として成功を収め、その後も多くのスタートアップに投資し、彼らを成功に導いてきました。しかし、ティールの自由主義的な思想や行動には批判もあります。彼は自らの自由を守るためには他者を攻撃することを厭わず、競争の中で冷徹な決断を下すことも辞さないとされています。
彼らの活動や思想は、テクノロジーと経済の分野に留まらず、社会全体に大きな影響を与えています。彼らの挑戦的な姿勢や革新的なアイデアは、多くの人々に希望や刺激を与える一方で、議論の的ともなっています。その存在は、現代社会のあり方や価値観に対する新たな問いかけをもたらしており、彼らの未来像がどのような世界をもたらすかについて、様々な意見が交わされています。
テクノ・リバタリアンの実態を日本人が知っておいた方が良い理由
テクノ・リバタリアンは、既存の中央政府や権威主義的な体制に対して批判的な立場を取ります。彼らが提唱する「クリプト・アナキズム」と「総督府功利主義」は、それぞれ異なるアプローチで中央政府に代わる社会システムを提案しています。
まず、「クリプト・アナキズム」は、国家管理の通貨や中央政府の支配を拒否し、暗号技術を活用してオンライン上に自己主権を持つ市民の利益共同体を構築しようとする考え方です。このアプローチでは、個々の市民が自らの情報や資産を暗号化し、中央政府や第三者の監視から自己を保護することが重視されます。
一方、「総督府功利主義」は、自由と安全を重視しつつ、IT技術を活用して中央政府を改革し、全ての人々の利益を最大限にかなえることを目指す構想です。このアプローチでは、中央政府が技術を活用して効率的かつ公正なサービスを提供し、市民の生活や権利を保護することが重視されます。
これらのアプローチは、一見すると対立するように見えますが、実際には裏表の関係にあります。自由と監視は、一方が強ければ他方が弱くなる傾向がありますが、同時に相互に関連し合っています。クリプト・アナキズムの「究極の自由」と総督府功利主義の「管理された自由」は、自己の保護と社会の秩序の間にバランスを取ろうとする試みであり、このバランスが社会の安定や発展にとって重要であると考えられています。
こういった議論が日本のメディアではスルーされることに対して、著者は危機感を持っています。日本の会社で合理化・効率化が嫌われる理由は、リストラの道具になることだけでなく、これまでのウェットで差別的な年功序列とそれに伴う人間関係が破壊されるからです。
日本の共同体主義では、個人よりも集団を重視し、安定した雇用が重要視されてきました。そのため、グローバル資本主義の影響とは異なる道を選んでいます。
メディアがリバタリアニズムや功利主義にあまり焦点を当てないため、日本社会ではこれらの考え方に馴染みが薄く、受け入れられにくい傾向があります。しかし、現在のリバタリアニズムは急速に進化し、テクノロジーと結びついて世界を変える「テクノ・リバタリアニズム」へと発展しています。巨大な富を持つ彼らの行動を理解せずにはいられません。
日本の言論空間にとらわれず、イーロン・マスクやピーター・ティール、オープンAIのサム・アルトマン、イーサリアムのヴィタリック・ブテリンなどのリバタリアンの実態を理解し、未来を予測し、適切な行動をとることが重要です。
これらのテクノ・リバタリアンは、巨大な富とテクノロジーの力、数学的な賢さを持ちながら、テクノ・リバタリアンという複雑な利害関係の中で、人類の未来を築いています。本書がその理解に役立つはずです。
コメント